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「人間だけが実現可能な高次の利他性や奉仕性、無私性や贈与性は、その上昇(智慧)の発達段階よりも下位に在るすべての生命や存在に適用(包摂)することが出来る(下降:慈悲・アガペー)、ということなんだよ。それはその生命や存在そのものの在り方や時間、自然を尊重できるということでもあるし、人間が人間としてもてる高尚な能力、その唯一性というものが在るのならば、全ての生命や存在を愛する事や護ることが出来るという能力であって、それらを使い物にしたり自らが頂点に立ち支配する事なんかでは決してない。それは単に病的なパターンであって、高尚な力でも唯一無二の優位性でもない。それらは単に病んだ上昇や下降のパターンの顕現(けんげん)に過ぎないのだから」


 聖一さんがそう言って、海がちょっと考えていた。そうして、彼に言った。


「星の地図で言う上昇と下降もそうだけれど、水平的な指標で見る病的なパターンもあるんじゃないのかな。その方が、わかりやすいかも」


「それ、僕も知りたいな」


 レネ君が言って、聖一さんは少し思案してからこんなことを話してくれた。


「水平方向の達成課題の指標は、以前説明したように、女性性と男性性の指標で見るのが一番わかりやすいかと思う。これらの概念化は単なる便宜上のものでしかないけれど、一般的に分かりやすいと思うから。


 健全な指標でみると、


男性性は、エイジェンシー:自律性や独立性、自由、力、強さ、

女性性は、コミュニオン:共同性、交流性、感応性、思いやりや憐れみ、


 等が代表的なものかと思う。


 不健全なパターンでみると、これらが不足するか過剰になるんだよ。


男性性は、疎外、支配、関係性への恐怖、破壊、

女性性は、融合(フュージョン)、パニック、溶融(メルトダウン)、


 等が代表的なものかな。

 

 不健全な男性性(エイジェンシー)は基本的に、自由によっての超越ではなくて、恐怖による支配になる。

 不健全な女性性(コミュニオン)は基本的に、関係性や繋がりの豊かさではなく、カオス(混沌)になる。


 これらは、便宜上の指標でしかなく、男性の中にも女性性はあるし、女性の中にも男性性はある。これらの健全な達成課題を個人の中でそれぞれが真摯に目指して双方向に包摂してバランスを達成していく必要があることには変わりがない。これが僕らが使っていた星の地図の代表的な水平的な指標をこの世界のものに相当したものだね」

 

 私は聖一さんに尋ねた。


「もし自分や大切な人が不健全なパターンにはまり込んでしまったら、どうしたらいいの?」


 海も頷いている。そうだよね、ここが聴きたい。過ぎた事や間違いは誰にでもありうるのだし、不健全なパターンにはまり込む事だってありうるだろうし。これだけ宗教にも思想哲学にも不自然なものや虚偽やマニピュレーションが浸透していて、蔓延していたらなおさらだろう。知らずにそれに影響されたり信じ込んでしまうこともあるだろうし。


「色々な原因があると思うけれど、基本的には、不健全なパターンの対称する側の問題が元にある可能性が高いかな。つまり、その個人に、行き過ぎたエイジェンシーの問題があるなら、不健全なコミュニオンの問題が元にある。その逆も同じ。双方に影響し合うから。元に在る対称性の不健全なパターンに対処することが、それへの単なる反発や反応として出ている不健全なパターンの緩和に繋げやすい。改善への突破口が開きやすい。


 カオスや溶解に対して対処するなら、まずは不健全な独立性や自律性:支配や破壊、疎外の力を抑制する事で、その単なる反発や反応である不健全なパターンそのものが消失するか緩和する可能性がある、ということ。同じように、支配や破壊、疎外なんかに対処するなら、まずは不健全な関係性や共同性:カオスや溶解、パニック、溶融(メルトダウン)の力を抑制する事で、それらへの反発のエネルギーや勢いとして顕れている不健全なパターンの力を削ぐことが出来る可能性が高い。


 でも、これはあくまでも、その個人や集団にある程度の健全な土台があってこそのものでしかない。


 その土台自体がないとなると、かなり困難だと思う。そして、僕たちの世界で起きているあらゆる解決困難な問題の多くはそこから発生している歪みの連鎖による問題が殆どだから」


 レネ君が、後を継いで言った。


「つまり、個人や集団の、不健全な発達上の問題に戻って来るって事だね」


「そう。その不健全なパターンの中でも、最も深刻な問題なのが、その個人や集団の精神内界構造に在る外化構造で、これは自身の問題を常に外化する構造だからに他ならない。責任転嫁し、犠牲を必要とし、自分自身で切実に真摯に責任を取らない。引き受けない。だから根本的な問題が悪化する事はあっても改善しない。次々に問題や歪みの連鎖を生み出し続け、大きく広げ、周囲をどんどん巻き込んでいくんだよ。


 自分自身の問題、危険性や破壊性を制御できないから、それを外化して責任転嫁した他の存在(被害者・犠牲者等)を制御したり支配したがる。彼等彼女等の根底にあるのは、自分自身への不信と絶望と恐怖で、それらを外界へ投影し、外界の問題、他者の問題にすり替えてしまうから、その攻撃性や破壊性も制御ができない。こうして彼等彼女等は他者や存在や世界の破壊を牽引していく事になる。


 彼等彼女等は他の存在を変えたがるけれど、変わるべきなのは彼等彼女等自身なんだ。同じように、他者に(天・神・仏等の超越性を冠した)罰を与えたがるのにも全く同様のメカニズムが働いている。本来はその罰を受け、その重大な責任を引き受けなければならないのは他でもない彼等彼女等自身だから」


「これだけの深刻で厄介な問題を惹き起こしていながら、自分自身は正しい、悪いのも問題が在るのも相手だ、と本当に思い込んでいるから、また厄介だよね」


 私がそう言うと、聖一さんは頷いた。


「もし彼等彼女等自身に本当に正当性があって、自らのしている選択や行動に高い倫理的目的や動機があり、その覚悟を持って選択や行動をしているのなら、先ず、自らの過ちや罪を誤魔化したり、証拠や証人を消したり、その為に犯罪やいじめや嫌がらせ、人権侵害行為なんかに手を染めるなんてことはしないよ。その責任はきちんと自分自身で引き受けるだけの覚悟もあるはず。でも彼等彼女等にはそんなものはない。


 過ちや罪を犯してしまう事よりも、その後にどうするかで、その人間の本質が問われる。


 自らの罪や過ちを認めたり責任を取らないだけではなく、その責任を被害者や犠牲者に押し付け、証拠や証人を消す為に犯罪やいじめや嫌がらせや健康加害テロや諜報(スパイ)活動をしたり、傷害や殺人にまで手を出したり、それを正当化するような人間に、そんな高い倫理的レベルなんかそもそも存在しないよ。もっと低い次元にいる。いくら高い理想を語ることや演技が出来たとしても、その選択と行動がその本人の重心のあるレベル、その在り方に相応しい段階を現実に示しているんだから。


 大きな目的があってだとか、自分しかいないとか、言い訳はいくらでもできるだろうけれど、それは大昔から使われてきた古典的な騙しの手法でしかないし、詐欺や詐術の一つでしかない。そうした詐欺や詐術、騙しのプロ集団なんだから、まともに相手をするだけの価値もないよ。それよりも、彼等彼女等自身が陰で行っている選択と行動が全てを物語っているのだし」


 手厳しい識別力だなと思う。でも、彼の言う事は筋が通っているし、実際にその通りだから。現実にそれらはもう既に顕現(けんげん)されてしまっているので、今更それをなかったことにはできない。それが自分の選択に責任を持つ、という事でもあるのだし。自分で選択した行動に対して、社会や共同体の中でも責任を取らなければならないし、自分自身でもそれに向き合わないといけない。自ら蒔いた種を自ら刈り取る、それだけの事だ。


 レネ君は黙り込んでいる私や海を見つめて、淡々とした口調で続けた。


「カルトテロリズム実践者は、大抵(たいてい)同じような精神構造をしていて、テロリズムのサイコグラフにも示されている様に、高い倫理性や理想を語るし、またそれをパフォーマンスで示す事も可能だけれど、実際の選択や行動に関しては、それよりもずっと低い段階に重心がある。これは彼等彼女等が陰で行っていることに殆どすべてと言っていい程に顕(あらわ)れている。


 彼等彼女等の殆どは、不健全なパターンの発達を持ち、その精神内界構造は外化構造をしている。自分自身の問題に真摯に切実に向き合わず、責任を外部に転嫁し、それを攻撃する事で自らは正しい、もしくは被害者などの立場をとろうとする。そうした振る舞いから、彼等彼女等は必然的に犠牲を必要とし、根本にある自身の問題を解決することが出来ないので、外界に次々と自身の問題や葛藤を投影した歪みや問題を惹き起こし、巻き込み、更に複雑化・深刻化させ、大きな問題、解決困難な問題を創り出していってしまうが、その責任を被害者や犠牲者をはじめとした外部に押し付けるので、切実にその責任を取ることがない為に、その攻撃・破壊衝動に歯止めも利かせられない。


 こうした人々の根底にあるのは殆どが、自分自身の本性や問題に対しての不信、絶望、恐怖だけれど、それを外化するので、そうした問題の全ては外界(主に犠牲者、被害者など)に転嫁される。彼等彼女等は自分自身の恐怖や不信、絶望を制御できないので、それを投影した外界や他者、他の存在をコントロールしようとする強い衝動や欲望を持つ。そしてそれを制御できない。人権侵害や殺害も含めてなんとしてでも外界や他者、他の存在を支配しようとする。その支配欲や征服欲の衝動もまた、歯止めが利かない。表立っての支配や征服もそうだけれど、水面下では陰湿な干渉や諜報(スパイ)、監視、関係操作、健康加害などのテロ工作も行う。そして、味方同士で争わせたり、反目させ合ったりして、その力を削ごうとする。


 これらはすべて、彼等彼女等自身の根底にある自分自身の問題から発生しているものだが、彼等彼女等自身にはその根本的問題を解決することが出来ないので、外界に転写された問題や歪みはますます大きく複雑になるばかりである──これが、今僕らが直面している本当の問題、本質だよ。


 世界中のあちこちで、こうした問題が起きていて、そうしてこの惑星ごと巻き込んだ大きな悲劇へと牽引して行っている源にある原動力がこれだからね」


 そう言ってから、彼は少し息をついて、それからきっぱりと言い切った。


「こうした人々に同情したり、従来の価値観のままで助けよう、受け容れようとする行為は殆ど自殺行為と言ってもいい。実際に僕のおばあ様やおじい様の国ではそれが現実に起きている。遠い昔に悲劇の人々を受け容れたその国の人々の土地も資源も何かもを彼等彼女等は自分自身のカルトテロリズムによる権利の行使によって収奪し、そこに元々いた人々、彼等彼女等をかつて受け容れた人々を迫害し、殺害し、虐殺をし続けているけれど、彼等彼女等は本気で自分達自身は被害者であり、防衛の為に必要な事をしているのだと信じている。この現実の姿が、何よりもそれを雄弁に物語っているのだから」




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