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「全く信用できない人間だという事はよくわかったけれど、更生を望む者がいる場合はどうしたらいいの?」


 私が疑問に思って尋ねると、海と聖一さんとレネ君の全員が黙った。


「え、何?」


 私が三人を見回してそう言うと、海がため息をついて言った。


「それがさっきから議論の的で」(海)

「互いに意見が分かれているんだよ」(聖一さん) 

「そう」(レネ君)


 私はそれで逆に好奇心をいたく刺激され、「聴きたい。教えて」とかなり食い気味になった。海はそんな私を少し呆れたように見ていた。思い切り、不謹慎な奴だとか思っていそう。三人三様の意見が聴けるという事は、後学の為に必要な事なんだから、好奇心を刺激されるのは当然じゃないの。心で文句をたれる私だった。


「僕は基本的には、それを望む者には一度は機会を与える必要があると思う」

 

 レネ君がそう言って、続けて言った。


「ただし、独りでそれをさせることが条件。何故なら、この種の人々は関係性を持つことで人心操作や関係操作をするから。人間的接触や関係性は一切なしの環境でやらせる」


「吸血ゾンビウィルスが餓死するまで独房に閉じ込めておくようなものだね」

「なにそれ?」

「人の善意や思いやりなんかを食い物にする上に関係感染性があるタイプの人の比喩(ひゆ)」

「うまいね」

「友達がそう言っていたの」


 私とレネ君がそう話していたら、海が口をはさんできた。


「でも、それだと健全な関係性を学ぶ機会が得られないから、更生自体が難しいんじゃないかと思う。特に子供なんかはそうだろう」


「関係操作や人心操作を覚えてしまったら、子供の方が逆に厄介だよ。それこそ善意や罪悪感や親心のようなものに上手につけいるからね」


 レネ君が冷静にそう返すと、海は「でも、それじゃあ、更生するって言っても、偏った人間にしかならないだろう」と食い下がる。


「レネ君、海が言う事は私もそう思うよ。健全な関係性を学ぶことが出来なければ、その人は生き直すことが難しいと私も思う。大人の場合は置いておいて、子供に限っては、健全な関係性や人間的な接触がないと、発達上にもかなり問題があるんじゃない?」


 聖一さんがそこで口を開いた。


「それも承知の上でレネは言っているんだよ」


 私は一瞬、戸惑った。海も困惑しているみたい。これについては今、初めて聞いたようだ。


「どういうこと?」


 私がレネ君に尋ねると、彼は淡々とした口調で言った。


「さっきも言った通り。関係操作や人心操作を覚えてしまった子供の方が逆に厄介だからだよ。同情は禁物で、これくらいの徹底した対処が必要なんだよ。他の人達と同じような健康的な発達をはじめから期待していないんだ。これは大人にも言えるけれど、ある程度のところで手を打つしかないと僕は思う。つまり、こちらで規定したレベルまで更生したとしても一生監視下に置くべきだと考えている」


 閉口した私と海に、聖一さんが言った。


「僕はレネとは違って、人間的接触や健全な関係性に触れさせて育て直す機会は必要だと考えているけれど、ただ、レネの様に更生を望む者に一律に機会を与えることについては反対の立場」


 海が私に言った。


「俺も聖一さんの立場に近いけれど、もう少し幅をもたせてもいいんじゃないかと思う」


 私が聖一さんを見ると、彼は特に優しくもなく冷たくもない、殆ど感情を籠めない静かな口調で言った。


「更生を望む者の厳格な選別が必要だと僕は考えていて、ただ単に助かりたいだけの更生を望む者に機会を与える事はある意味無駄だと思う。本当に真摯に更生を望む者のみに手厚いサポートを集中する為にも、信用に欠ける者に対しては時間も力も割かない。具体的には、全てを失っても、自分にとって不利な事でも進んで受け入れていけるだけの覚悟や実質的な選択や行動があるかどうかを見る。それでも欺くことはいくらでも可能だから、本当に信用できない相手だという前提は据え置きのままで、それも当然の結果だと、厳しい審判の目に常に曝され続ける事を真摯に受け入れて更生の道を選択する者に、更生の機会の扉を開くのがいいと思う。更生を望む者の動機や姿勢にある程度高い倫理的基準を設けて厳しく選別するべきだと考える立場」


「海は、聖一さんの選別の基準が厳しすぎるので間口をもっと広げた方がいい、と考えているということだよね?」

「そう。どちらかというと、全員に機会を与える事はあってもいいんじゃないかと思うけれど」


 海が一番甘いと言えば甘い。厳しさで言うと、レネ君も聖一さんもその種類が違うだけで似たようなものなのかな。何となくそう考えていたら、いい考えが。というか、いいとこどり?


「なら、折衷(せっちゅう)案にすればちょうどいいんじゃない? 間口は広く、レネ君の案を最初に選別代わりに用いるの。そこで厳しい倫理的基準を満たした人が、聖一さん案の手厚いサポートの段階に進む。この方が取りこぼしが少ないんじゃない? 


 レネ君案の関係性遮断の独房対処は吸血ゾンビの人には有効だと思うし、何より、加害者自身が関係操作や人心操作をするのもそうだけれど、本人も、そうした人心・関係操作を受け続けてきているはずだから、そうした不健全な干渉自体を遮断して独りにさせるのは、案外侵犯され続けて自我境界が脆弱になってしまった人にとって治癒的効果があるかもしれないよ? 健康的な個や自我境界を強くする為に役立つかも。人間には本来の生命力が持つ自然治癒力やバランスを取ろうとする力があるはずだから、不健全な環境や干渉から遮断してあげるだけでそれが健康的に機能する人もいるかもしれない。


 そうして、真摯に更生に取り組む人、厳しい高い倫理的基準を満たす人も出て来るでしょうから、そこで第二段階の聖一さん案に進めばいい。更に手厚いサポートを受ける更生の道への扉を開いてあげればいい」


 ね? 解決!! と私がにこにこして言うと、三人ともちょっと黙った。


「能天気な神奈らしい案だけれど、意外にいいかも?」

 

 海が言って、レネ君が肩をすくめた。


「僕も高い更生潜在力のある人間の可能性まで潰す気はないよ。基本的に僕は、彼等や彼女等は信用できないから期待もできないと考えてはいるけれどね」


「僕は一旦保留するかな」


 聖一さんがそう言ったので、私も頷いた。別に私の案をこの場でどうしても採用してほしいと思っているわけでもなかったので。聖一さんには聖一さんの考えがあるんだろうし、彼がここまで厳しい態度や立場をとるなら、それなりの理由もあるのだろうし。それくらいは私にでもわかる。


「──厳しい倫理的基準を設けないといけない程、ただ助かりたいだけの信用が全くできない人が沢山いるから」


「そうだけれど、それだけではなくて、そうした人達を世話する人や時間や力に限界があるし、加害者の更生よりも被害者の救済やサポートを優先すべきだと思うから。それに、彼等彼女等へ更生の道を開くこと自体、本来は関係性への有害な危険性があまりに大きすぎるんだ。それを支える方の負担が大きすぎるんだよ」


「それは現実問題としてそうだよね」


 レネ君が言った。聖一さんは頷いて、それから淡々とした口調で言った。

 

「被害者の救済に関して言えば、これまでも、こうしている今も、本来なら機能するはずのセーフネットを担う公的機関や専門家、医療や福祉、教育、司法も、警察も、全てにカルトテロリズム実践者やスパイ工作をする人間が入り込んでいて、本来受けられるはずのサポートや救済や権利を阻害され続けているし、そうした場所で受ける二次被害や三次被害等の後続被害、人権侵害もとても酷い。


 被害者のこうした現状を改善する事もそうだけれど、その専門性や職権を使って、加害侵害行為に加担して来た人間の責任もとても重い。こうした職業倫理の欠片もない人間は信用できない上に、本当に有害で、被害者に二次被害や三次被害と重ねていく後続被害を陰湿な方法で効率よく負わせるから、被害者救済にとって本当に邪魔な存在なんだよ。


 知的な仕事に就いていた人間はその分うまく立ち回る事にも長けているし、善人の振りが本当に上手だし、いくらでも人を騙せるスキルがあるし、その職能を使ってテロ工作やスパイ工作、加害侵害行為を長期に亘りうまくやっていることを考えると、その人間の信頼性がどれほどのものか、その有害性や危険性についても推して知るべしでしょう。


 被害者は、今この瞬間にも、そうした加害侵害行為を受け続けているんだよ。そうして、本来は受けることが出来るはずのサポートも救済も受けられずに、絶望して命を絶ったり、病んでしまったり、出口のない見えにくい虐待や拷問やいじめや嫌がらせを受け続けて苦しみ続けているんだよ。加害者の彼等や彼女等はそれを愉(たの)しんで面白がってしている。いたぶって弄んでいる。


 それを考えると、これだけの非人道的な事を組織的に計画的に、効率よく協力して行っているカルトテロリストやスパイの為に時間や力を割くこと自体があまり有益とは言い難い。僕らが考える様な共同体に必要な倫理観や感性を彼等や彼女等が持つことは、そもそもあまり期待できないんだよ。何故なら、こうした非道な加害行為の虐待ネットワークで被害者を囲い込む事自体、彼等彼女等自身の意思や思想、信念による、自ら選択している行動だから。


 何度も言うけれど、その選択と行動に、その人間の本質や本性がもう既に顕(あらわ)れているからなんだよ」


 

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