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 「──と言うわけで、聖一さんとしては私達の潜在能力については蓋(ふた)をしておきたかったのだそうです」


  迎えに来てくれたついでに(また)お夕飯をごちそうになる事になった海に、私が要約して説明していると、トレイに載せたお料理のお皿をリビングルームに運んできた聖一さんが、「詳しく聞きたければ、また説明するけど?」と言ってくれた。海は、彼に「聖一さんからも直接話を聴いてみたい」と言っている。頷いた聖一さんからトレイを受け取って、お皿をテーブルに並べてから、


「お料理を運ぶのは私がやるよ」


 そう言って、彼に席を譲った。二人で話した方がいいだろうし。そのまま台所に入って行って、てきぱきと働いていたら、レネ君が入って来て「手伝おうか?」と言ってくれた。


「ありがとう。でも、海が今、聖一さんから説明を受けているから、レネ君も一緒にいてあげてくれると嬉しい」

「わかった」


 彼の後ろ姿を見送って、お料理を盛り付けた食器をトレイにのせてリビングルームと台所を何回か往復した。その間、三人は色々と話し込んでいるみたいだった。運ぶものは全て運んだけれど、もう少し三人だけにしとこうかな。私は何となくそう思って、ダイニングでお茶を飲んでいた。しばらくしてレネ君が「もう話も殆(ほとん)ど終わったし、ごはんにしようよ」と呼びに来たので、私も合流した。




 

「選民思想?」


 私が訊き返すと、聖一さんが言った。


「そう。変性意識状態に入った人間の発達段階や世界観が古層的なレベルに近いところにあるか、もしくは不健全な自我だけでなく、不健全な自尊心や自己愛の問題を抱えていた場合(そしてこれら3つの問題は大抵(たいてい)がセットだ)、それが特に深刻な現象となって顕(あらわ)れるのだけれど、その代表的な指標が【選民思想】なんだよ」


 ──選ばれた民、文字通りの。


「自分には特別な選ばれた権利や資格がある──俗世間的に翻訳するとこうなるけれど、とにかくこの思い込みや信念をこの強烈な体験によって一度本人が抱いてしまうと、もう誰にも何にも崩す事はできない強固なものになるから、その個人の不健全性や倫理的なレベルの低さは、そのまま大きな問題を惹き起こす危険性を孕(はら)んだ指標にもなる」

 

「確かに、そうだね」


 私がそう納得すると、隣で海が私に言った。


「こうした思い込みや信念を持った個人やその集団は、かなり危険性が高い。これらはカルトテロリズムにも関わっているんだよ」


 私が聖一さんを見ると、彼は海の後を引き取るようにして説明してくれた。


「ある程度の技術があれば、人間を変性意識状態にする事が人工的に可能だからね。カルトはそうした手法も持っている。そうして意図的に設計された秘術的な儀式なんかを経て、カルトの信者は、カルトテロリズムを崇高な使命だと妄信してしまうんだよ」


「洗脳みたいなもの?」


「ちょっと線引きが難しいけれど、それは洗脳というよりは、本人にそうした妄執を受け入れる土壌が在るからこそのもので、その後のテロリズム実践についても一般人に紛れた隠蔽工作をきちんとできるわけだし、本人の責任能力については在ると判断するのが妥当だと思う。単なる傀儡(かいらい)(操り人形)ではない。自らの意思、思想や信念と合致して、それ(妄執)が生じているから。いわゆる心神耗弱(しんしんこうじゃく)等の免責や免罪対象ではない。同情や思いやりの対象にするにも危険すぎる。それが仇(あだ)となる様な個人的資質を持っている相手であると心しておくべきだという事だよ」


 夕食の話題にしてはかなり物騒な話題である。しかし、外見上はみな穏やかに話しているので、それはとても平和で穏やかな雰囲気の中で普通に交わされていた(この家の食事風景とそこで交わされている話題とのギャップレベル高すぎじゃない?)。


「自己愛憤怒(じこあいふんぬ)みたいなものも関わっている?」


 私がそう尋ねると、聖一さんは頷いた。


「かなり関わっていると思う。元々そうした復讐心や憎悪なんかを抱いている、そういう本人の個人的土壌がある可能性はかなり高い。だから、カルトテロリズムによる暴力やテロ、破壊の正当化に惹き付けられてしまうのだろうし」


 レネ君がそこで口を開いた。


「そもそもカルトやマフィアなんかの犯罪者集団や、ある種の政治的なグループは、そうした個人的資質や土壌を持つ者をうまく取り込んでいく手法に長(た)けているし、甘い言葉や親切で親身な対応、実際の利益供与なんかを使って、どんどん子飼いの手駒を増やしていくのが常套手段(じょうとうしゅだん)だからね。


 カルトテロリズム実践者も、スパイ工作をする者も、そうした手法にとても長けている。様々な感情言語を使って、他者の心に侵入する関係操作の手練手管はお手の物なんだよ。そうした手法が確立されているからね。それに、それだけではなくて、元々そうした資質がある人間も多い。不健全な自己愛を抱える人間は、関係操作を得意とする者も多いから」


「要は詐欺(さぎ)の手口に長けているのと同じだよ」


 海がそう言って、私は「なるほど」と頷いた。


「親切で親身な相談役として、とか、愛や思いやり、そうした心ある人間的な繋がりに溢れた共同体を演出する、とか、頼りがいのある実際問題の即時的解決や利益を与えてくれる救い手とか、そうした手法はカルトやマフィアの人心操作・勧誘や、ある種の政治的マニピュレーションであって、自分達にとって都合よく使う人を多く摂り込むためのごく古典的な常套手段なんだよ」


「うまい話には裏がある、の典型なんだね」

「そういうこと」


「そうした善人としての顔、人情家、実際家等の顔を持つから、その陰に隠れて色んなテロ工作やスパイ工作等の破壊工作(それには普通に殺人も含まれるし、健康加害テロなどの慢性的な加害侵害行為、いじめや嫌がらせ等の人権侵害、疑心や不信の種を撒き、互いに監視させたり反目させ合ったり争わせたりする共同体内の協力関係の低俗化も含まれる)もできるわけだからね。でも、どんなに表面的に善い行いをしていたとしても、実際に犯罪やテロ工作やスパイ工作に手を染めているのであれば、その人物もグループも危険で有害なのには変わりがない。偽りの表面上のパフォーマンスに騙されないことだよ。そして同情もしてはいけない。それだけのことを彼等や彼女等は、隠れて行っているし、実際にとても危険な人物であり、集団、組織であることには間違いがないのだから」


「彼等彼女等には、自分達が隠れてしてきている加害侵害行為や殺人や傷害、テロ工作やスパイ工作等の破壊工作に対して重大な責任があるという事だよ。それはどんなに彼等や彼女等の表面の顔が善人の様であっても、実際にそうしたパフォーマンスを長年していて信用を積んでいるように見えたとしても、彼等彼女等が裏で行っていることが本質であって、その為の隠れ蓑(みの)でしかない事をよくよく頭と心においておかないと、あっさり騙されるし、手玉に取られるんだよ。自分は騙されないと思っていても、向こうは、そうした人心操作や関係操作の詐術のプロ集団なんだから」


 私は少し息をついて言った。


「──絶対に信用してはいけない」

「そういうこと」

「同情も禁物だよ」

「感情的な人心・関係操作は詐欺の手口では最も初歩の手法だからね」

「なるほど」

「相手はただ単に信用できないだけではなくて、騙(だま)しのプロなんだって事だよ」


 私は何となく無言になって、もそもそと食事を続けた。うう、なんかあまり味がしない。夕食の話題としてどうなの、これ。目の前に並ぶ美しくも美味しそうで素敵なお料理の数々を前に、私はとてもせつない。せっかくの美味しいご馳走(ちそう)が……。か、かなしい……。


「表の顔やパフォーマンスの裏で自分で選択・行動している加害侵害行為やテロ工作やスパイ工作、殺人や傷害、いじめや嫌がらせ、人権侵害や家宅侵入、盗み、盗聴盗撮、飲食物への異物混入や、異臭や粉塵をはじめとした毒物散布、健康加害テロなんかの犯罪行為が、その人物の本質を顕(あらわ)している。端的に言えば、彼等彼女等の発達段階や倫理のレベルの重心がそこにあることを現実に示しているからね。その行動にその本質や本性が紛れもない事実として顕れているんだよ。そこに言い訳や正当化の余地は全くないって事」


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