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お隣の海の家にしばらく泊まりに行ってもいいか両親にお伺いを立てたら、両親共に是非ともよろしくと海に頭を下げんばかりで、私が驚いた。結局海が自分で話すと言って、私の家に来て二人の前で、陸もしばらく実家に戻って生活する事になったので二人で交代でしばらく送り迎えもするし、何かあれば弁護士さんや警察にすぐに連絡する体制を整えているという事を話したら、二人は一も二もなく大賛成だった。嫁入り前の娘をそんな風に簡単に送り出していいんだろうか、そう私が心配するくらいだった。
そんなこんなで、自分の家の隣で海と陸との共同生活が始まった。 始めの数日間は沙羅も泊りに来てくれて、みんなでとても楽しく過ごした。アルバイトはしばらくお休みをもらった。レネ君もいるし、私が彼等のところへ不審者を引き連れて行ってしまっても困るので念のために。海と陸は自室の窓から私の家の方を常に防犯カメラで撮影していた。父の不在時に母が買い物に行くときには海か陸が車を出してくれたので、私も一緒について出た。若くて見目麗しい騎士(海 or 陸)と小間使い(私)を手に入れた母はめちゃくちゃご機嫌だった。傍から見てもとっても幸せオーラ全開で、父と一緒の時には商店街のくじ引きで高級肉1kg を夫婦それぞれで当ててしまう強運ぶりも発揮し、本当に笑いが止まらないみたいだった。もちろんみんなで私の自宅で(沙羅も呼んで:モデルのような美女の訪問に父は大喜び)美味しく頂きました。そんなふうにしばらく平穏な毎日が過ぎた。
その日は休日で、私の自宅のリビングルームで両親と海と私でテレビの大きな画面に防犯カメラの映像を倍速で映し出し、ここのところの家の前の様子をみんなで鑑賞していた。今迄特に不審な人は見かけなかったが、何か見落としがあるかもしれない、という事で、みんなで確認してみることにしたのだった。
「こうして見ると、けっこう犬の散歩の人が多いね」
「あのワンちゃんはいる?」
「今のところいないみたい」
お煎餅やお茶を用意して、みんなでおやつを食べながらのほほんとしながら見ていたら、母が突然言った。
「あ、止めて!」
画面には高校生くらいの若い女の子が犬を連れて歩いている映像が出ていた。父が母に尋ねる。
「この子?」
「うん、そう。ワンちゃんも同じ。間違いない」
海はじっと画面を見て、「そう言えば、最近は見かけなくなったけれど、小母様と買い物に出たときに、この子をよく見かけていたかもしれません。車道側に犬を連れて歩いているから危ないなあ、といつも思っていたので、すれ違うときにかなりスピードを落としていたから覚えています」
「え、そうだったの? じゃあ、車で今まで何度もすれ違っているって事じゃない! 何で気付かなかったのかしら!!」
「車に乗ったらずっと(マシンガントークで)おしゃべりしてるからでしょう」
「あら、そうだったかしら」
こんなこともあろうかと小型プリンターを準備していた用意のいい海が、早速画面をプリントアウトしてくれた。カラーで20枚程印刷して「これを持って行って人に尋ねれば、すぐに見つかるんじゃないでしょうか」と言って。母は意気込んで、「やるわ!!」と答えた。完全に面白がっている。それで海に念押しされていた。
「でも危険があるといけないですから、必ず僕らか、小父様と一緒に行動してください」
母のご近所買い物エリアは狭いので、みんなで聞き込みを開始してすぐに彼女の住所氏名までわかった。逆にこんなんでいいのか心配になる。私達が悪い人だったらどうするのだ、相手は若い女の子だぞ? と言いたくなる。
「あら、神奈も海君も陸君も、私達も、みんなご近所さんで顔見知りだし、知らない人に教えているわけじゃないんだから」
母は呑気にそう言っていたけれど、それでも心配になるではないか。逆の立場で考えてみろ、と言いたくもなる。近所の顔見知りだから程度で自分の住所氏名を簡単に教えられてしまってはたまらない。私だったら怖いと思う。
「まあ、今回はそのおかげで助かってしまったからなあ」
微妙な表情の海と陸の方がまともだ。
父はさすがにこれはまずいと解っていて、
「今回は仕方ないとして、念のために何か別の理由をつけて個人情報の取扱いについての注意喚起を各地域の回覧板で回してもらうように市の方に頼んでおくよ」
「その方がいいですね」
「そうね、それはいい考えだと思うわ」
一転して賛成する母だった。私の時と随分違う反応じゃないの、と文句を言うと、母はきっぱりと言った。
「だってそうしておけば、前回のように防犯だからと言って、人を付け回したり、出先で見かけたら盗撮してくれとか、待ち伏せして、なんていうおかしな依頼がたとえ自治会の人からされたにしても、警戒するでしょう。まともな人なら」
「そうでしょうね。まともな人であれば、おかしいとすぐに気づくでしょうし」
私はこれくらいならいいかな、と思い、ついでという感じでさらっと補足しておいた。
「何でも警察を装ったりしてそういう違法な依頼を闇バイトやカルトがする場合もあるらしいよ。本物の警察官でも信用できない場合もあるらしい。変な依頼があったら、本当に法的に問題ないものなのか確認する為にも、こんな依頼があったけれど本当に警察の公式な依頼なのか110番で確認してほしいって追加しておいてもいいと思うよ」
海と陸は私を黙って見ていた。
「そうなのか、じゃあそれも付け加えておくよ」
「うん、そうして」
海は私にこそっと囁いた。
「何でそれをもっと早く俺達にも知らせておかないんだよ」
「今思い出したの」
私はさらりと適当な嘘をついた。
陸は黙って私と海を見ていた。
私達は徒歩で(聞き込みからそのまま直行したので)お目当てのワンちゃんを連れていた女の子の家に向かっていた。長年住んでいてもあまり来たことのない区画に入り、少し行くと、教えてもらった住所についた。そこは集合住宅で棟番号と部屋番号を確認して間違いないという事で、一番警戒されにくいだろう私が代表して先頭に立ち、チャイムを鳴らした。私の後ろには母。後の男三人は少し離れ、階段の少し下からこちらを見ていた。 ドアスコープ前に陣取るようにして私がいるので、後ろの母も見えにくいはずだ。
おかしい。中に人がいる気配がするのに(犬の鳴き声と人の居る気配がする)誰も出て来ない。私と母は顔を見合わせて、どうする? と。とりあえず、もう一回チャイムを鳴らしてみる。しばらく待っても誰も出て来ない。後ろを振り返ると、海と陸が行け行けと合図するので、私は軽くドアをノックをして、女の子の名前を言って呼び掛けてみた。
しばらくして、何か中で言い合いをしている様な声が外に漏れて来たと思ったら、目の前のドアが勢いよく開いて、防犯カメラに映っていたあの画像の女の子が飛び出して来たのだった。
「ごめんなさい。お話はどこか別の場所で」
手短にそう言って彼女は、私と母の後ろに控えていた父や海と陸に気づき、ちょっと息をのんでいた。それから目を伏せて、「どこか人に聞かれない場所で、お話します」と小さな声で私達に言った。ちょっと震えているみたいだった。
「なら、このまま私達の家に来てもらいましょう」
母が即座に言って彼女を気遣うように促した。それで私達は黙ったまま、気まずい感じで私の家まで全員で歩いて帰ることになった。何を尋ねても彼女は「ご自宅に着いてから……」と言葉を濁すので、話しかけるのはみんなあきらめたのだ。彼女の家から私の家までは徒歩で30分以上はかかりそうだったので、途中で海と陸がタクシーを捉まえて、私におおよその代金を預けて私達を乗せて先に行っていて、と送り出した。二人は後から軽くジョギングを兼ねて走って帰る、と言って。代金は結局父が支払ったので、後で二人に返したけれど。




