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それは全世界を巻き込んだ惑星規模の大きな戦争だった。 人工的な知能を搭載した極小精密機器が標的をピンポイントで狙うのは日常茶飯事で、少数派でしかなかった三つのグループの支配層同士でそれを巧く使い、お互いにも、そして、抵抗運動を行なう残りの人々をまとめる人や指導する人々、そのグループにも攻撃を加え、次々と自分達に邪魔な人々を殲滅していった。
戦争への抵抗運動を行なっていたのは世界各地で平和的に自然と共生するような生活を選択していた小規模のコミュニティを作る人々や先住民族、昔ながらの街での生活を続けていた人々で、少数の支配層の人々は周囲から隔絶された場所に自分たちの独立国家をそれぞれに築き、そこから全世界に向けて容赦のない様々な攻撃を仕掛けていた。これでは全世界が破滅してしまう、人々が生きていく為に必要な自然環境を全て破壊してしまう、そんな壊滅的な被害を与える兵器を遠慮なく使って破壊に破壊を重ねていた。
彼ら自身も生き残ることが出来なくなるかもしれないのに、お構いなしだった。
星の地図を持った私達は、抵抗運動を行なっている人達を護るために自分たちの能力を使った。神殿で一緒に学んだみんなや教師はその為に生きた。そして死んでいった。
(夢の中で私が彼だと認識している存在の)聖一さんは、その中で私達に的確な助言をしながらも自分自身の研究を続けていて、私は彼の研究に協力していた。
彼はもう支配層は止まらないと考えていて、彼等は全世界を巻き込んで破滅をする道を選択したのだと考えていた。止まらないというより、彼ら自身の恐怖から自分でも止められないのだ、と言っていた。そして、遅かれ早かれ、いずれ私達は全員死ぬと考えていた。(夢の中で私が彼等だと認識している存在の)レネ君や陸などの他の人々はそこまで悲観的ではなかったが、状況は悪くなる一方だった。
聖一さんは既に私達はもう全滅するものと予想していて、別の道を切り拓く為に自分自身の研究を続けていた。それはどんな過酷な超高温下でも超低温下でも一旦仮死状態になったりしながらも、どれほどの長期間(それこそ億単位でも)が過ぎても自身に適切な環境さえ整えばまた再活性する能力を持った古代のウィルスや粘菌の様なものを使った研究で、それを媒体にして私達の意識や何らかの情報を遷すことができないかという実験をしていた。私達の体は捨てても、意識だけでも、または何がしかの情報だけでも、この生きた媒体に遷せないか、それが彼の研究だった。
それは一概に荒唐無稽とも言えなかった。何故なら星の地図を持つ私達は鉱物などの無機物に自分の意識の欠片を埋め込んで、それを情報伝達の為の媒体に使うことが出来たからだった。それは一回限りの手紙のような役割を果たしてくれる。情報の保持可能な期間はもって数年。私達はそれを宝石の様な希少鉱物に祈りを籠める、という方法で神殿で使っていた。それは能力を持たない人の為の守護物になるからだった。それらは購入できる人々は限られるものの神殿での主力の収入源でもあった。そんなわけで、媒体が鉱物などの無機物から生きた極小の媒体に変わっただけで、可能性としてはなくもない、そんな研究だった。
私が彼に協力していたのは、星の地図の対を持つ双子はいわゆるテレパシーのようなものを使えたからだ。彼は私と同じ対の星の地図を持っていた。対の子ではなかったけれど試してみれば、海と私がテレパシーで会話ができる様に、聖一さんと私もそれが可能だったのだ。それで、私の何らかの情報や意識のようなものを遷せないかと、彼は実験を繰り返していた。私の意識や情報なら彼ともやり取りができて彼自身で確認できる可能性があるから。
あるとき、私は思い付きで彼に言ってみた。
「ねえ、祈りを籠めるというやり方ではなくて、もっと生きものらしく、食べたり食べられたり、という直接的な方法が手っ取り早くて有効だったりしない?」
彼は少し考えてから「そうかもしれない」と言ったけれど、「でもそれは、したくない」と言った(この世界ではある程度高度な構造体を持った生命体への侵襲的な実験研究は禁忌とされていた)。倫理的にどうとか色々言っていたけれど、そんなの構ってられないでしょ、と私は言って、私がこのウィルスや粘菌を体内に摂取してみるのは試してみる価値があるのではないか(私はある程度の病や不調を治癒できるヒーリング能力を持っていたので特に自分自身の心配はしていなかった。しかもそれによって影響を受ける身体感覚を自分で追って、それをそのまま彼にテレパシーで伝えることもできる)、と彼に力説した。どんな影響を与えるかもわからないからそれはできない、壊滅的な伝染病を生み出す事だってあり得る、とまた断られたので、それならばと、思い付きで私は自分の腕に刃物を当てて皮膚を少し切り取った。そうして、これ(私の生きた細胞)をこの子たちの餌にして見るのはどう? と彼に言ったら、彼は私を叱ったけれど、結局は研究者としてそれを無駄にするわけがなく試していた。
培地に新鮮な私の細胞や体液を加えて様子を観察していると、粘菌は私の細胞も体液も自らに取り込んでいった。そうしてそのまま動かなくなった。「もしかして死んだ?(この強靭な粘菌を殺すほどの力が私の細胞や体液にあるのか?)」と心配していたら、聖一さんは「大丈夫だよ。ちょっと様子を見ていよう」と落ち着いていた。数日したら、粘菌は何やら固体化してきて元の姿とは異なった姿になっていた。 「子実体を作ったんだ」そう言って「この後は胞子を飛ばす」と教えてくれた。要は粘菌の子供の元が沢山生まれるとのことで、とりあえず私の細胞や体液を養分に摂り込んだことで繁殖したわけだ。
それを繰り返し私の細胞や体液を養分にした粘菌が数代を重ねる頃になると、彼等の組成が微妙に変わって来て調べると私の細胞核の情報のいくつかが彼等に受け継がれていた。超高温下や超低温下における強靭な耐性能力はそのままだった。
ある日海が研究所に遊びに来て面白がって粘菌に話しかけていたら、「こいつ言葉がわかるみたいだ」と言って私たちの目の前で粘菌に対して呼び掛けて培地上で海の言う通りに彼等を移動させて見せた。試しに聖一さんが同じようにして見たら、同じように粘菌は反応した。でも私が呼び掛けても反応はしなかった。他の人にも試させたが、粘菌が呼びかけに反応するのは海と聖一さんのみ。これは私の細胞核の情報を粘菌が摂り込んだ事と何か関係があるのかわからないが、私の対の星の地図を持つ二人は、この粘菌と何らかの意思疎通ができるらしいことが判明した。
それにより色々な事も解って来た。この粘菌が超高温下や超低温下であっても自身の構造体がバラバラに粉砕されていたとしても仮死状態で生き延び、それからどれだけ長期間が経過しようとも、後に環境さえ整えば再活性化可能なのは、体内に摂りこんでいる水分子の設計図やその地図のようなもの、その情報をそのままコピーして自身の核に保持できる能力があったからでもあった。つまり水の原料と光の揃った環境であれば、いつでもどこでも彼らは再活性化できるのだ。しかも以前に保持していた自身の情報(学習内容等も含む)を水の設計図の再生で全て取り戻し、環境から必要な要素を摂り込み再生できる。バラバラになった自身の微粒子から環境さえ整えば以前の自分のコピーを大量に創り出せるのだ。文字通りの再生だった。
そんな聖一さんの研究に光が射し始めた矢先、私は味方に紛れ込んでいたスパイでもあるテロリストに残虐な方法で殺された。自分の治癒能力でも修復不可能なほどに身体をめちゃくちゃに破壊され殺害されたのだ。というか、より 精確に言えば、最終的に私自身を本当に殺したのは、私自身であって粘菌だったのだが。




