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「僕らはこの争いの繰り返しを止めないといけないのだけれど、かつての犠牲者や被害者であることがその人やその集団の権利になってしまうと、一部の人たちが誰かや何かを犠牲にすることで埋め合せる事にも権利があると心の奥底で信じ込んでしまうようになることがある。それはよくあることだけれど、大きな民族単位や集団でそれが信じ込まれてしまうと、パワーゲームのシーソーゲームが戦争のような大きなことになってしまうんだ」


 レネ君はパジャマ代わりに借りたぶかぶかの海の洋服に着られるようにしてベッドの上で胡坐(あぐら)をかいて座りながらそう言った。私が使わせてもらっている部屋で、海と私とレネ君の三人は深夜に起きて一緒にいた。

 海と私がこちらの部屋で、海の部屋でレネ君が就寝する、と海が決めた部屋割りだったのだが、レネ君が夜中にこちらにやって来たのだった。

 海はレネ君の隣で寝転んで片ひじをつき、彼を見上げながら淡々と言った。


「そもそも止められるものなのか? 人類の歴史は戦争に次ぐ戦争の歴史だぞ」

「ちょっと、海。もう少し言い方考えて」

 

 ラグマットの上に座って飲もうとしていたホットミルクの入ったマグカップから顔を上げ、私は眉をしかめ海を咎(とが)めた。

 

「なんでだよ、本当の事じゃんか。それにこいつに、そもそも子供だましの綺麗ごとなんて通用しないよ。言葉や表現を遠回しにしたって内容が同じなら同じことだろう」


 レネ君は私を見て肩をすくめた。


「気にしないで。それにカイの言う通りだから。気を使って分かりづらい言葉や表現を使われると、僕もこの国の言葉は母国語じゃないから、余計にわかりづらくなるかもしれないし」

「ほらみろ」

「なんかえらそうなんだよね」


 むう、と私がそう言うと、海はふふん、と鼻で笑った。

 それから、特に感情を交えずに淡々と言った。


「確かに、侵略側の国も、長い歴史の中から見ればジェノサイドや戦争の被害に遭った犠牲の民で、その酷い歴史的惨劇の悲劇の民でもあるのにもかかわらず、それ以上に酷いことを侵略側に立った今ではしている。しかもかつて自分たちが被害に遭った時に行き場のない彼らを受けれてくれた国や民族に対して、だ。そしてそれが問題をややこしいものにしていて、かつて自分たちの祖先が酷い被害や犠牲に遭った事による未だ癒えない傷や記憶が侵略側の国の人々を結束させる絆にもなり、頑(かたく)なにもさせているように見える。レネの言う通り、それがどんなに極悪非道な事であったとしても、それがまるで彼らの揺るぎない権利だから、という信念が強固にあるかのように」


 そうして、海は私を見た。


「それが繰り返されるのはよくあることで争いやその手法が更にエスカレーションしていくのもそうだ。どこかで圧倒的に強い力が生まれてそれを一定期間留める事になる事はあっても、水面下では覇権争いは続く。基本的にはパワーゲームの、シーソーゲームの終わりのない連鎖だろう」


 私は黙り込んでしまう。


「そしてそこに、軍需産業の莫大な利権が絡んでくる。戦争は儲かるからな。死の商人からすれば、酷い犠牲や被害に遭わされた被害者は次の顧客だ。戦争を続け、生み出す、儲けを生み出す顧客創造のサイクルだ」


 レネ君は「そうだね」言ってから「でも、それは永久に続けることはできない」と静かに言った。


「問題はそこってこと」

「そう」


 私が彼等を見つめると、二人は顔を見合わせて目配せをしていた。海があごでレネ君に話を促すと、レネ君は淡々と続けた。


「必然的な犠牲を伴いながら莫大な利益を生み出す利権構造に依存するものは、それが永久に続けることはできないことを誰よりもよくわかっている。血で血を洗うような犠牲の吸血システムは、当然ながらいつか終わる時が必ずくる。この世のものは全て有限で、無限ではない限り資源の枯渇がいずれあるからね。しかもその枯渇の速度を速めているのは彼ら自身だから。そして、これだけ情報が世界の遠く離れた場所に速くに届いたり繋がる事もそれを後押ししている」


 私はごくん、と息をのんだ。


「つまり、私達が終わりのない紛争や戦争の繰り返しに心や身体を奪われている間に、それを隠れ蓑に水面下では惑星規模の生き残りを賭けた資源争奪戦がもう既に始まっているということ?」


 レネ君は頷いた。


「そう。そして、僕らがその繰り返しに心や身体を奪われれば奪われるほどにタイムリミットまでどんどん時計の針が加速していくけれど、彼らはその間に自分たちの生き残りを賭けた資源争奪戦へ回すエネルギーを僕らから搾り取れるだけ搾り取れる」


 海は冷静な声で言った。


「つまり、これが終わりの始まり、ってやつだよ」

「なんであんたはそんなに冷静でいられるの」 

「このくらいの事は解っているやつはみんな知っている事だからだよ。情報を整理して見れば一目瞭然な事実だし、別に隠されてもいない。むしろこれが解らない、知らないでいるのは、知ろうとしていないだけだからだよ」


 レネ君は私と海の顔を交互に見つめ、


「一部の識者がこれを加速させていく事を善しとしているのだけれど、問題を更に複雑にさせているのは、その裏にはカルト等のテロリストの集団が深く関わっているという事実があるからなんだ」


 海は、ふーん、と興味深そうに聴いていた。

 

「侵略側の国もカルトテロリズム国家みたいなものだからな。だからよけいにややこしい。だたでさえ犠牲や被害の癒えない傷や記憶を共有して強固に結束しているのに、そこに政治的に操作されたカルトの妄執じみた信念や信条が加わって自分たちの主張したい権利に裏付けまで得られてしまったら、もう誰が何を何と言おうとも、一切話が通じない。強奪でも、侵略でも、テロリズムでも、戦争犯罪でも大虐殺でも何でもありだよ。彼らは自分の信じたいように信じるし、それをしたいようにする。カルト集団っていうのは、それくらい危険で歯止めのきかないものだからな」

 

 レネ君は視線を伏せるようにして言った。


「うん、そう。そして、その妄執的な集団は世界中に散らばっているし、一枚岩ではないにもかかわらず、根底では同じような信念や妄執を持っていて、破滅や破壊を加速させていくことに対してはみんなほぼ同じような信念や妄執を持っているんだ」


 海はちょっと瞬きをした。


「まじか」

「うん」

「ただでさえ厄介なのに」


 考え込んで腕組みをする海と足元に視線を落としているレネ君を見比べ、私はレネ君に尋ねる。


「ねえ、それってもしかして、私達のこの国も無関係ではないのではないの?」

「うん、そう。そうしたカルトの種類はたくさんあるけれど、似たような妄執を根底で共有している人々や集団は本当にたくさんいる。表に出ていないだけで、裏ではそれらを背後で束ねている強固なネットワークがあるし、彼らは時代を超えてあらゆる戦争や紛争の陰で暗躍して来たから」

「彼らは、何故そんなことをするの?」

「それは、勿論、死の商人と同じでそこから利益を得られるからでもあるけれど、何よりも、彼らは信じているんだよ。破壊が再生を生み出すことを。その為に自ら破壊を生み出す事やそれを加速させることを善しとしているんだよ」


 私は瞬きをした。


「でも、死と再生って、わりとよく知られているメタファーだし、破壊と再生も同じような概念ではないの?」


 レネ君は頷いた。


「うん、それ自体は特に問題はない。問題なのはそれを彼らが、人工的に、意図的に、作為的に【他の犠牲の力を使って】惹き起こそうとしているってことなんだ」

  

 私と海は目を見合わせた。

 解るような、解らないような?


「カンナが言うように、それは魂の哲学や錬金術、古今東西の神秘主義や先住民族の思想哲学や通過儀礼なんかに伝統的に受け継がれているメタファーで、それ自体は特に問題はないんだよ。それを自分自身の魂の生まれ変わりやより深い精神性の顕現の為の手段として用いるぶんにはね。それが師から促されるものであっても、それを本人が自ら受け入れていくのであれば問題はない。何故なら、それがうまくいくかどうかにかかわらず、自分を犠牲にする事には自ずと限界があるから。

 言い換えれば、自分でそれにバランスをとる責任から逃げられない。


 問題なのは、さっきも言ったように、他の犠牲の上にそれを成り立たせることなんだよ。

 他を犠牲にしている場合は、その利益だけ得て、それにまつわる不利益を自分では引き受けない。つまりそれで限界を知る事やバランスをとる事に対して責任をとらない、きちんと学ばないことになる。だから際限なく自分自身の欲望を満たそうとする事に歯止めもきかせられない。

 超えてはいけない線を超えても自分自身で切実にその責任を取る事がないから、やり過ぎてしまうんだ。間違った事でも他の犠牲を得られる限り続けられてしまう分、気付いたときにはもう、自分ではどうにもならないくらいの被害や損害を惹き起こしていて、取り返しのつかない事態に周囲も巻き込んでしまっていることになる。


 大昔から犠牲の供儀は宗教的、民族的な祭祀に用いられてきて、それは強大な力を生み出す元だと考えられてきた。そして確かにそれによって、人間は自分達に得られる以上のものを得て来た。それが支配や搾取の歴史であって、終わらない紛争や戦争の歴史の裏側にあるものでもある。


 奴隷や植民地支配、差別や搾取の正当化の歴史がそれを物語っている。それは戦いに勝った人間の集団やその恩恵にあずかれる人間集団に非常にうまく機能した。時代や場所、やり方が変わっても。そうして今でもそれは続いてきている。でも、それらには、重大な欠陥がある」


 海が後を継いで言った。


「犠牲のシステムには必然的に限界があるって事か」


 レネ君は頷いた。


「そう。さっきも言ったように、多大な犠牲の上に莫大な利益を得る構造に依存しているものはその限界に誰よりも早くに、切実に気付いているんだよ。永久に続けることはできないと知っている。いずれ物理的にも資源の枯渇というタイムリミットがくる事もある程度正確に予想している。そうしてそれを自ら加速させながら、自分達の生き残りの算段を綿密に随分と前から立てている。その為にも、僕たちには互いに争い合い、殺し合っていてほしいんだよ。そうして彼らにとってやがては実質的に邪魔になるすべての人々の抵抗する力を削ぎたいからね」


 私は彼に尋ねた。


「踊らされている場合ではないにもかかわらず、今日死ぬか生きるかの人々には、それもあまり意味のない話になってしまうよね」

「その通り。だから彼らは、全世界で次から次へとそうした状況を創り出していくことになる。遅かれ早かれね。戦争だけではなく、生き残った人々に対しての人工的な飢餓はもう既に僕のおじい様やおばあ様の国で惹き起こされている。赤ん坊が飢え、子供が飢え、大人も子供もみんなゆっくりと殺されていっている。それだけではなくて、人々を人工的に病気にさせたりする技術も世界中で使われている。意図的に、作為的に、病や問題を状況設定していく実行部隊がカルトなんかのテロ組織として各国で暗躍しているし、その国の内側から崩壊させるためのテロ工作なんかもしている」


 レネ君はポケットから何かのケースを取り出して、中からカードの束を取り出した。


「トランプ?」

「ううん、これ」


 私に絵柄を見せる。運命の輪のカードだった。


「タロットカード?」

「うん」


 彼はカードの絵柄を上にして広げ、中から一枚のカードを選んで私たちに見せた。


「悪魔のカード?」


 ⅹⅴ The Devil 角の生えた獣の姿の悪魔の足元に、鎖でつながれた男女が描かれている絵柄のカードを私達に見せる。


「人々の全ての罪や穢(けが)れを背負わされて追放された犠牲の子ヤギ(スケープゴート)が悪魔となって戻って来た」 


 悪魔の姿はよく見ると山羊の姿をしている。

 

「僕はこの繰り返しを止めたいんだよ。それにはまず犠牲の構造自体を終わらせることが必要になってくる。コインの裏表のように被害者と加害者が入れ替わってもその本質の構造が受け継がれてしまうのでは意味がない。堂々巡りを終わらせて、誰かや何かに犠牲を押し付けて問題解決をするような全ての在り方そのものを変えていきたいんだよ。犠牲のシステムで犠牲になってしまった多くの命を本当に弔う為にも、同じことを繰り返してはいけないと思うから」


 海は彼の手からカードを取って眺める。そうしてそれをベッドの上に広げられているカードの中にポイっと放った。


「この戦争に限らず、ってことか?」

「そう」

「レネ君はそれが問題解決の鍵だと思うんだね」


 散らばったカードを集めて一つにまとめてケースにしまいながら、彼は


「今の僕らが最も確実にできる事は、自分の身の回りにある沢山の犠牲に気づいて、それを終わらせていく道を選ぶことだよ。誰かや何かに犠牲を押し付けて問題の解決をするやり方ではなくて、別の道を見つけるんだよ。それぞれがそれぞれのやり方で。それは自然と調和するようなやり方で、自分や他の自然を支配したり制御したりするんじゃなくて尊重するようなやり方になる」


「人間がしている事だから、人間が変われば物事も変わる可能性はあるけれど、本当にそんなことが残りどれだけの時間が残っているのかも分からない中でも可能なのか?」


「僕は可能性はあるって思う。未来の予知はできないけれど、目の前に広げられている選択肢の中で、明るいものを感じるのがこれだったんだ。本当に気が遠くなるようなことかもしれなくても、一人一人が自分で犠牲の構造をその場その場で終わらせていく事が積み重なっていく事で大きなことも変わっていかざるをえないからだと思う。自分の中で犠牲のシステムを一人一人が終わらせていけば、支配の構造も維持できない」


 私はレネ君に尋ねた。


「ねえ、レネ君、生まれ変わりとか前世とかそういったものってあるの?」


 少し目を眇(すが)めるようにして私を見てから、レネ君は頷(うなづ)いた。


「あると思うよ」

「そういうの、わかったりする?」

「なんとなくだったらね」


 知りたいの? と私に目で尋ねる彼に、私は話した。


「私ね、戦争なんて生まれてから一度も経験した事はないんだけれど、でも、ものすごーく実感を伴った感覚や感情で、本当は戦いたくないのに、争いたくないのに、なのにそれに巻き込まれていく事へのどうしようもない悲しい気持ちがこう、体の奥のほうに深くにずっとあるの。それは子供の頃に何かの本で外国の戦争の物語を読んだときが最初で、在る場面を見たら、その瞬間にぶわっと、自分がそれを本当に経験したみたいに現実を圧倒するくらいの現実感と実感を伴った感情の大嵐が襲ってきて、涙が溢れて、というよりもう滝か噴水かってくらいに噴き出すようにして涙が出て止まらなくなった事があって、本当は戦いたくないのに、争いたくないのに、こんな事したって無駄なのに、もっと悪くなるだけなのに、それが解っているのになのに否応なく巻き込まれていく、それを自分では止められない事へのどうしようもない無力感とか悲しい気持ちでいっぱいになって苦しくて仕方なくって、自分では抑えきれなくなってしまったことがあるの。最近もそれがあった。私は戦争中にそこで傷ついた兵士たちの治療のお手伝いをしている女の人だったという夢を見たのだけれど。そのときに、同じような感情でいっぱいになってしまったの」


 思い出しても、泣きそうになる。

 うっとこみあげて来そうになる悲しい気持ちを押し込めるようにして、私は瞬きを繰り返し少し鼻をすすった。


「多分、僕もその人が見えていると思う。髪も目も黒い。肌は浅黒い感じ。すごく野性的な感じの賢そうな女性で、長い髪を一つに束ねて、薬草みたいなものを手に持っている。そして彼女には年の離れただんなさんもいて──それは今の君も知っている人」


 レネ君はちょっと私の目を見て、言葉を濁した。

 私は少し驚いて目を丸くしていた。


「うん、そう、私は先住民族の女性で、民間医療の治療師のようなシャーマンみたいな人だった。だんなさんもいて、彼は治療師でシャーマンの師匠みたいな人で、私は彼の教え子だった。彼は何かの手違いか何かで最前線の兵士と一緒に負傷して亡くなった。私はしばらくは治療しながら場所を転々として生き延びたけれど、結局戦争で死んだ」 

「うん、爆撃か何かで巻き込まれて亡くなっているみたい」

「単なる夢ではなかったんだ」

「そうみたいだね」


 私は自分の喉から下へ、胸の中心からみぞおちにかけてを手で撫でるようにしながら、


「植民地支配や入植者からの酷い差別とか暴力、大切な仲間がどんどん死んでいく事とか、凄く私にとってはとても他人事とは思えなくて、見聞きするだけで、ぐっと胸が詰まって苦しい。すごくそれで嫌な思いや悲しい思いをたくさんした、っていうわだかまりの様なものが喉の奥や身体の奥にあって、しこりみたいに何故か残っているの。何とも言えない、悲しい、ほんとうにかなしい、どうしようもない気持ち。言うに言えないような、こういうものを本当はみんな持っていたりするのではないかって思うの。今の自分の人生や経験を超えて、立場とかも超えて、本当はこんな酷い事はしたくない、争ったりしたくない、加担したくない、もうあんな悲しい思いをするのもさせるのもいやだ、二度と繰り返したくない、誰かや何かに犠牲を押し付けてしまうようなこともしたくないしされたくない、あんな悲しい死に方をしていいひとたちではなかったのに、でもそうなった、それを止められなかった、助けることが出来なかった──後悔とか」

 

 言って、私は続けた。


「今の自分自身の経験や人生や立場を超えた切実な希求とか。たとえば、もっと違う道を選択したかった、とか──もしそれが、本当に99.9%無理でとっても難しいようなことであっても、でも今までの繰り返しとは全く異なった、本当にこんな酷い犠牲の歴史を終わらせていく事の出来る道があるなら、それが叶おうが叶うまいがもうそこにいくしかないし、いきたい、そうして願わくば、全ての命や魂がもう二度とこんな酷い犠牲の被害に遭わなくてもいいように、って」

 

 熱に浮かされるようにして言葉を紡ぎ、そして私は、はっとした。

 何言っているんだ、私は。


「うん、わかるよ」


 レネ君はちょっと微笑んだ。


「僕はそういう、本当は人が持っている深い所に在る希望や、深い悲しみに裏打ちされた他へと向ける深い思いやりや祈りのようなものは、人が考えている以上に強くて大きくて、深くこの世界に在るって思う。それは僕らが思うよりもずっと明るい未来への希望や力もあるものだって思うけれど、今は色んなものに覆い隠されてしまっていて、だからこそあきらめたくないって思うんだ。それこそ、君が言うように、叶おうが叶うまいがもうそうするんだって決めてしまっているんだ。そして、それが本当の意志の力なんだよ」


 ううっ……と、思わずこみあげてきたものに、私の目からぼろぼろと涙が出てくる出て来る……止まらなくなる。何でこんなに泣いているのか自分でもわからない、でも次から次から涙が出て止まらない。


「なんか、ごめん、止まらない。でも嬉しいみたい。悲しいような嬉しいような……ううっ、嬉しいような」


 だばーっと滝か噴水かというくらいの勢いで噴き出す涙に、泣きに泣いていたら、ためらいがちに海がそばにきて頭を抱き寄せるようにして「なんかわかんないけど、きっとカンナの後ろにいる女の人の涙なんだよ、たぶん」と言って、よしよしと背中をたたいてくれた。


「うん。でも、それだけじゃない。一人や二人じゃないもっとたくさんいる。僕らの祈りを受けてみんなが何か震えているのが僕にも伝わってくる──嬉しいんだと思うよ、こうして出て来れて、わかってもらえて」


 レネ君が冷静にそう言うと、海はおののくようにして言った。


「やばい、俺もなんか皮膚に電流が流れるみたいに肌が粟立ってきた」

「それ、カイも感応しているんだよ」

「うわ、そうなのか、うん、なんかでもわかる。鳥肌たつくらい感動している、なんでかよくわかんないけど」


 うわーまじかと言いながら、海は私の頭を自分の胸に押し付けるようにしながら自分で自分の腕をさすっている。

 

「こういうのを実際に自分自身で体験し感じると、理屈ではないってことがわかるでしょう? できるとかできないとかじゃあないんだよ。確率がどうとかでもない。叶おうが叶うまいが、ただただそうとしかいえない、純粋な希求。意志。時代や場所、個としての生命をも超えて、受け継がれ、感応し、伝播していく真摯な想いや願い。魂。そうしたエネルギーもあるんだってことが」




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