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ケーキバイキングに釣られてしまった私がいけないの。エサで釣ろうとしているってわかっていたのに。なぜか釣られてしまった。そして結果がこれだよ。
「何で私が海と陸と一緒に勉強しないといけないの?!!!」
日曜の朝九時。私は朝食の席で叫んでいた。間の悪いことに味方になってくれたかもしれない父はまだ寝ていたので朝食の席にはいなかった。
「だって先週は一緒に勉強してきたじゃない」
母に言われて私は、うっ、と言葉に詰まった。
「どうせ今日は何も予定ないでしょ。あの子たちを見習って一緒に勉強してきなさいよ。分からないところは教え合った方が互いに役立つからって言ってくれているのよ。有難いじゃないの。どうせ家でごろごろしてるだけでしょ」
そう言われ、お重に入った弁当を目の前にどかッと置かれた。
朝玄関の前を掃いていたら、海と陸がジョギングから帰って来て挨拶するついでに、もし神奈の予定がないならまた今日も一緒に勉強しないか誘ってもいいですかと尋ねたそうな。そんなこと言ったら母は大賛成に決まっている。お礼に三人分のお弁当を作るから是非ともうちの子をよろしくと勝手に返事してしまったらしい。なんてことしやがる。
十時半頃に迎えにきた悪魔の双子兄弟に私は引き渡され、なぜ、どうして、と頭がくらくらしながら二人と一緒に彼らの勉強部屋のあるマンションに向かうはめになった。
「なんでそんなに不機嫌そうなんだよ」
「あんたたちのせいでしょ」
「ひどいなあ、親切に誘ってみただけなのに」
「うそでしょ」
足をぴたっと止めて私が二人をにらみつけると、二人はにやっとした。
「そんなにピリピリすることないじゃん。楽しくやろうよ」
「そうだよ、こないだは久しぶりに三人で仲良くできて楽しかったじゃない」
「なに企んでるのよ」
「人聞き悪いこと言うな~」
心外そうな顔をわざわざする二人を疑いの目で見ていたら
「神奈ってこんなやつだったっけ?」
「そうだよな、昔は素直で可愛かったのに」
とか勝手なことぬかすから
「あんたたちが悪魔の双子兄弟だって知らなかったからだよ」
そう言ったら、二人はますます心外だという顔でのたまった。
「何だよそれ、ひどいなあ」
「悪魔ってなんだよそれ」
もう彼らのマンションの前まで来ていたので、とりあえずおとなしくそのまま入ってエレベーターに乗った。エレベーターの中では三人だけだったので私はきっと二人をにらみつけて怒りをぶちまけた。
「何も知らない無邪気な私のファーストキスを奪うだけじゃなくて舌まで入れてきたり、抱きついたりやりたい放題してたじゃないの!!! このエロがき悪魔!!! 何てことしてくれてたのよ!!!!」
二人はけろっとした顔で
「何だそんなことか」
「そんなの子供の無邪気なたわむれじゃん。意味も分からずしてたんだからさ」
そこで目的階に到着したので私たちはまた一旦休戦して黙った。
陸が開錠してドアを開け、海が「まあ、とにかくどうぞ。もうそんなに子供じゃないから、ちゃんとマナーくらい守るからさ。そんなに怒るなよ」と言って私を後ろから促したので陸の後に続いて中に入った。
「おじゃまします」
「どうぞー」
と言って、さっさと陸は中に入っていった。
飾りのないきれいな玄関だった。入ると廊下があり左手のドアを開けると広いダイニングキッチンで、陸はそこに入って行った。後から来た海に促されて私もそこに入ると
「何飲む?」
冷蔵庫を開けていた陸がオレンジジュースと炭酸飲料のペットボトルを手にしてこっちを見る。
「コーヒーや紅茶もあるけど? 俺はコーヒー飲むからいれるけど」
手を洗ってから海がそう言ってコーヒーメーカーに粉をセットしだしたので、私は「コーヒーがいい」
「俺の分もいれといて」
陸は海にそう言って炭酸飲料をコップに注いでそのままごくごくと飲み干してから、私を奥に連れて行った。ダイニングキッチンからすりガラスの引き戸を挟んで奥にリビングがあった。横長に広いリビングにはソファとテーブルと大きなクッション、棚、オーディオボード、オーディオセットやテレビがあるだけで他に飾りなどは何もなく、ベランダに面してガラス戸が六枚並んでいるので開いたカーテンから日差しがたっぷり入って明るい部屋だった。陸がガラス戸を開けて風を通したのもあり、明るく開放的な雰囲気だった。
ふかふかのカーペットに直接座ってガラスのテーブルの上に勉強道具を出し、コーヒーを飲みながら三人で真面目に勉強をした。母が持たせてくれたお弁当は少し勉強してから休憩を挟むときにみんなで食べた。不覚にもまた何だか妙に和んでしまった。ずっと怒り続けているのは疲れるし、気心が知れている昔馴染みなので、結局は何となく居心地がよくなってしまうのだ。海と陸の学校の方がだいぶ進んでいたので私は彼らに教わりながらだいぶ先まで予習を進めることができ、意外にしっかり真面目に勉強をして主要科目の予習復習まできっちり仕上げた頃には六時を過ぎていたので自分でも驚いた。
「すごい。本当に真面目に勉強するんだね」
「当たり前だろ」
疑って悪かったかな。ちょっとそう思いながら二人を見ていたら、海が笑って言った。
「来てよかったでしょ?」
「う、まあね」
二人とも教えるのがうまく、確かに助かったことは助かったのだ。
「陸も海も教えるのじょうずだね」
私がそう言うと二人はふふん、とえらそうにした。
なんかしゃくに障るけど、まあいいか。
「神奈のところの夕飯は何時?」
「だいたい七時から八時頃かな」
「じゃあコーヒー飲んだら帰るか」
「ふたりはいつも何時ごろまでここで勉強しているの?」
「たいていは十時すぎくらいまでいるかなあ」
「通いの家政婦さんが掃除して食事も作って置いてくれているから、家には殆ど風呂と寝に帰るみたいなもんだな」
「今日はどうするの」
「帰るから家で適当にあるもの食べるよ」
何かそれでは申し訳ないような。
最近二人の両親は忙しいらしく、いつも帰宅するのが午前をすぎてからなのを知っていたので、
「私は一人でも帰れるから家政婦さんが作ってくれているものを食べて帰ったら?」
と言ったら陸が
「じゃあ、神奈も一緒に食べていってよ」
「それじゃあ、よけいになんか申し訳ないじゃない」
「何で? 一緒に食べて帰ろうよ、その方が楽しいし」
「そうだよ。作り置きのもあるけど、一緒に何か適当に作ってもいいしさ」
と言うので、勉強を教えてくれたお礼に何か作ることにした。食べたい物をきいたらオムライスが食べたいと言うので、冷蔵庫を見て足りないものを近くのスーパーへ一緒に買いに行った。母にはご飯を一緒に食べて帰ると連絡をして十時までに帰宅すればよいと言われていたので時間もそんなに気にしないで良かったのだ。三人で分担して夕食を準備するのは楽しかった。海は玉ねぎやニンジンのみじん切りなどをやってくれて私が使った調理道具も端から洗っていってくれたし、陸はサラダを作った。作り置きの野菜の煮物とかあえ物なんかも小鉢に入れて和洋ごちゃまぜの夕食だったけれど、なんだか楽しいごちそうだった。自分たちで作って自分たちで食べて片づける、その行程のすべてが何となくキャンプをしているみたいで楽しかったのだ。
「また来てよ」
「楽しかったね」
帰り際、それぞれの自宅へ別れるところで二人にそう言われたとき、私も「うん」と本当に思って頷いていた。双子は子供の頃に戻ったみたいに嬉しそうな表情をしていた。外灯に照らされ夜の中浮かび上がっている無邪気な笑顔はなんだかとても可愛らしく儚く見えた。そうして「おやすみ」と言って私たちはそれぞれの家に帰った。




