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「あれ、神奈」


 その日、学校帰りに母に頼まれた買い物をして帰宅しようと駅まで歩いていたら、陸(りく)に声をかけられた。定期が使えるので途中下車してふだん降りない駅で降りたのが運のツキだった。後ろから海(かい)もやって来て


「久しぶりだね」


 はさみうちされた。


 時折青く見える艶やかで真っ直ぐな黒髪に、意志の強そうな眉。怜悧な瞳。すらりとした手足。整った容姿のそっくりな二人組は周囲の注目を集めていた。私は小声で言った。


「……何であんたたちがここにいるのよ」

「ひどい言い方だな」

「俺たちが勉強部屋に使っているマンションがこの近くにあるんだよ」


 引っ越して来てから既に二年が経っていてそれまでにも何度か顔を合わせる機会はあったものの挨拶程度の当たり障りない関わりで済んでいたというのに、何で今になってこんなところで偶然会わないとなんないんだよ。そう思いながら私は「ふーん、そうなんだ。じゃあね」するっと陸の脇を行こうとしたら、陸に腕を掴まれた。


「おまえさ~、感じ悪くない?」


 ちょっとむっとしている。

 私もちょっとむっとして言った。


「別にふつうでしょ」

「ぜんぜんふつうじゃねーよ」


 互いに険悪なムードを醸(かも)し出していたら、海が私に訊いてきた。


「神奈、甘いもの好きだったよね?」

「なんで?」


 エサで釣る気か、と警戒しながら質問に質問で答えたら海が苦笑しながら言った。


「ケーキバイキングをやっているお店があるんだけど、陸と二人だけだと入りづらいから、つきあってくれない? おごるからさ」


 え。

 ケーキバイキング。ケーキ食べ放題。おごり……。


「……いいよ」


 何故だろう。あっさり釣られてしまった。


 海はにっこりしてタクシーを拾うと私達を乗せてそのまま近くのベイエリアにある高級ホテルに連れて行った。ホテル内のレストランで期間限定のケーキバイキングをしているとのことで連れて行かれたのは、なんだかとっても素敵なレストランだった。中はとても明るく、パリッとした真っ白なテーブルクロスがまぶしいくらいで、ガラスばりの壁面の向こうに海(うみ)が見えた。まだ夕方の早い時間だったので、明るい夕日に照らされた空も海もとてもきれいだった。


「わあ、きれい」


 思わずみとれてしまった。


 海と陸はそれでちょっと機嫌をよくしていた。


 飲み物をオーダーしてから各自ケーキを2~3個お皿にとってきた。種類が豊富でしかも可愛い。フルーツのたくさんのったタルトとか、見ているだけで幸せになるくらいだった。もうそれで十分なくらい私のテンションも上がって機嫌よく世間話みたいな会話を軽くしながら、とにかく私はケーキを食べた。上品で小ぶりなケーキなので3~4個くらいで普通のショートケーキを1個食べた気がするくらいのものだったため、色んな種類をどんどん食べられそうだった。海も陸もけっこう本気で食べていた。


 そのうちできるだけ色々な種類が食べてみたいということで、各自持ってきたケーキを半分にしたり三等分にしたりして分け合って食べたりもしていた。一緒に食事して同じものを食べて、しかも甘いものは人を幸せにする、という魔力だった。うっかりすっかり仲良しみたいになってしまった。


 ガラス越しに夕日が沈んでいくのを眺め、すっかりその光の色彩の美しさに惹き付けられてつい時間を忘れてしまった。私達が帰宅の途についたのは暗くなってからだった。そのままタクシーで一緒に帰った。ちょっと遅くなってしまったのもあって、二人が一応母に挨拶していくと言うので、別にいいのに、と思いながら自宅に入ってただいま、と声をかけてから「遅かったじゃない」と出てきた母に二人を会わせた。一緒にケーキバイキングに行ってきたって言うのかと思ったら、海と陸は「遅くまで神奈を引き留めてしまってすみませんでした」と言ってから、学校帰りにたまたま会ったので近くにある勉強部屋で一緒に勉強していた、というまことしやかな、そして絶対怒られそうにない完璧な言い訳をして、逆に母に「まあ、ありがとう」とお礼まで言わせていた。


 おそるべし、悪魔の双子兄弟。


 私は黙ってそれを見ていたが、自分も関わっていることなので沈黙は金(きん)に徹した

 夕飯のデザートに好きなお店のケーキが出てきたときは心で泣いた。


「……明日の朝食べる」


 そう言った私に、母が驚いていた。


「朝に食べるの?!」

「食べる。とっておいて」


 私にはそれしか言えなかった……。 




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