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聖一さんのところでのバイトで黙々と手を動かすことや休憩の時のほっと一息つくようなお喋りにはだいぶ救われた。相変わらず飄々としていてタイムリーなことをぽんと投げかけてきてくれるので、それでだいぶ助けられた気がする。しかもそれだけでなく、彼はその飄々とした様子でたまにしれっとものすごく面白いことを言って去って行ったりもする。本当に、彼には助けられた。
一度、大笑いしていたらそのまま涙がぽろっと出てしまった時があった。
そうしたら何故かぽろぽろと涙が止まらなくなって、困ったように泣いていたら、
「ちょっと待ってて」
と言って、彼は私に大きなタオルを渡して自分の仕事場に戻って行った。
何でバスタオルなんだろう、と思いながらそれにしがみついて泣いて、少しすっきりしてきてたところに彼が車のキイを持って戻ってきてそのままドライブに連れてってくれた。
高速に乗ってみんなで行った海まで連れて行ってくれて、満月が映る海を砂浜に座って眺めた。少し体が冷えてきたところで車に移動して、窓を全開にして車の中からも夜空を照らす満月と月の映る海を眺めた。まるで月の光の道が波に揺れてにじみながら招待するようにこちらへとさしかけられているようだった。隣にいる彼は「ちょっと疲れたから休むね」と言ってシートを倒して運転席で仮眠をとっていたので、私は助手席のシートにもたれてひとり波のリズムをただ聞いていた。
自然の声に比べたら、人間の声はうるさすぎる──
いざとなったら、ちっぽけな人間ごと簡単に吹き飛ばすほど自然の力は強いけれど、普段の声はとても優しいくらいに微かだと思う。微かにいつもそこで響いている世界の優しい音楽。でも人間の声は、ああしてほしいこうしてほしいの大合唱みたい。とてもうるさい。もう、うんざりだ。
もうほうっておいて──
自分がどれほど疲れているのか、思い知らされるような気がした。
波の音があまりに心地よくて、そのまま眠ってしまいそうだった。
いつの間にか私はうとうとと波音を子守歌に眠っていた。
夢うつつに、隣で眠っていた聖一さんが起きて、煙草に火をつけ吸っているのを気配とにおいで感じていた。煙草とコロンのにおい──ふと気づいたら、彼が私にそっと近づいて静かに唇を重ねていた。そうしてまた静かに離れた。私は眠ったふりをしていた。
あーあ、これで本当にもう何も信じてもらえないよ、と思ったけれど、もうどうでもいいや、という気持ちだった。不思議なほど罪悪感も何も感じなかった。
しばらく狸寝入りを続けていたらそのまま本当に眠ってしまったようだ。次に気づいたら車は高速道路を走っていて、
「起きた? 眠かったらまだ寝てていいよ」
と運転席から彼がいつもと変わらない様子で言った。
それで私はまた眼を閉じた。
とにかく眠くて、何も考えずにただ眠りたかった。
11時少し前に私は彼に起こされた。家に着いていたので彼にお礼を言ってから、おやすみなさい、と言って別れた。そしてお風呂に入ってから、海と陸に明日は二人のマンションには行かない、とだけメール送信してそのまま眠った。とにかく眠りたかった。




