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箱入り娘のキイナは家族(父+長次四男兄)からの大反対にあって聖一さんに泣きついたので、お目付け役の三男兄同伴の旅行として条件つきOKを勝ち取った。そんなわけで土曜日の早朝、聖一さんがキイナや克己くんを乗せて車で家の前まで迎えに来た。
ついでに近くにある聖一さんの知人の別荘を使わせてもらえることになったので、私たちは聡子たちとそこで落ち合った。会社の保養所としても使われているその別荘はとても広くて部屋数も多く、各客室に簡易バスルームがあった。きちんと管理されているのでとても綺麗だったし、広いリビングもあってみんなで集まれる。ただ食事は自分たちで用意しないといけないのでみんなで作ることにしたが、そのほうが楽しかった。
早めに現地に着いたので、お昼前から早速海に入ってがんがん泳いだ。思いっきり疲れるまで泳いでみんなと遊んで、お昼ご飯は近くのレストランで食事した。
聖一さんは克己くんとキイナに関して目をつぶってくれるというか元々彼らに好意的なのでお目付け役といっても単に一緒に仲良く遊んでいる保護者みたいな感じだったし、聡子や輝幸さんともみんなで仲良く楽しく過ごし、夕方にはみんなで浜辺でバーベキューをした。
夜は涼しい風が入ってくるのでリビングのガラス戸を開け放し網戸にして蚊取り線香を焚きながら、みんなでカードゲームをしたりして遊んだ。聡子と輝幸さんが先に部屋に戻り、キイナと克己くんはちょっといい感じになっていたので、聖一さんがちょっと散歩に行く? と言ったのをきっかけに、私たちはそこを出て浜辺を散歩することにした。
月が明るくて暗い海に月の光が道を作っていた。波音がここちよく、潮風が少し強かったけれど彼が上着を貸してくれたので、ちょっと足を伸ばして遠くの岩場まで散歩した。足元が悪いので彼が手を貸してくれて、そのまま帰り道も手をつないで帰った。別荘に入る前に手を離したときに、ちょっとほっとした。つないだままの手を自分から離すことが何となくそれまでしづらかったから。
彼の態度は終始いつもと変わらなかった。
私たちは翌日の午前中まで海で遊んで午後三時頃に帰宅の途についた。
夏休みに入ってからは、学校に通うようにバイトに通う日が多かった。聖一さんから頼まれる仕事が増えていたのでそれに応じる形で増えていったのだけれど、海から誘われていた旅行の返事から逃げるいい口実でもあったのでそうしていた。夏休みに入っても海と陸の二人はそれぞれの部活の練習に朝から通っていたので、彼らが少し早めの夕方に帰ってくる頃に合わせて私が彼らのマンションに寄る。そんなふうに日中はバイト、夕方からは海と陸のところに行くような毎日だった。
そんなある日、突然みなちゃんから連絡があって、私は彼女に頼まれて病院に一緒に行くことになった。少し遠いところにある産婦人科の病院で、彼女は人工中絶の手術について説明を聞いて手術の予約をとった。それから電車を沢山乗り継いで、彼女の家に一緒に帰った。その日私は彼女の家に泊り、夜遅くまでお喋りしてから一緒に手をつないで眠った。
小さい頃と変わらない健やかな寝息をたてる彼女の無邪気な寝顔を見ながら、私は何とも言えない気持ちでその一晩を過ごした。
翌朝、昨晩はお風呂にも入らず喋り疲れて眠ってしまったので私が先にシャワーを借りて、交替で彼女がシャワーを使いに部屋を出て行ったあと、私はしんとした彼女の部屋に一人取り残された。それで何となく耐えられず、そばにあったリモコンでステレオのラジオを勝手につけた。
最初に合わせた局からは見事に国民的金太郎飴型にはまったような万民受け風の真面目なアナウンサーの声が流れ出し、何となく変えた。次の局では音楽が流れていたので聴いていたらふいにCMに切り替わり、そのアナウンスの声が情感豊かになんかいいこと言うみたいな、こっちも型にはまったような声でむずむずしたのでまた変えた。
次の局ではまた音楽が流れていたのでしばらくそれを聴いていたら、ラジオパーソナリティ―のお喋りに変わった。今度は型にはまってないその人のお喋りという声だったけれど、なんとなく男性の声が気になった。その人がどんな人かもわからないのに、私はある話を思い出していた。男性は生まれつきある程度恵まれていることに慣れているので普通に鈍感で傲慢、という話。みんながみんなそうではないけれどそういう人が多い、という女性の意見をどこかで聞いたことがあったのを、ずっと忘れていたのに、その声を聞いた瞬間に思い出した。そのときそのラジオパーソナリティーの人が話していたことやなんかには全く関係なく、声のトーンとか色とか温度とか発声の感じとかただそんなものから直接連想しただけだった。
今までそんなこと考えもしなかったのでずっと忘れていたのに。もう一人女性の声もあったが、こっちの方はそこまで気に入ることも気になることもなかった。でもなんとなくこの男女のラジオパーソナリティーのコンビは彼女のほうが大人で相方を受け止めている感じな気がした。そのうちテーマに沿った葉書を紹介しだして、それを聴いていたら、なんとなくうるさいなーと感じ出したので私はラジオ自体を切った。
特に何か酷いことを言っていたわけでもないけれど、うるさい、と感じたのは、葉書の紹介を聞いている内に、何となく、自分が常識に沿っていることやそこから外れてはいないことに優越感をもっていて、それがまるで何かの特権かのように鼻をふくらませ、どうだ、と言わんばかりに、たいしたことないことやくだらないことで威張っているような、意地の悪い子供の姿を連想したから。
そこから少しでも外れた人のことを踏み台にして自分を誇るような、そんなこまっしゃくれた子供の姿を連想したから。
ただそんな風なイメージが、聞いている内に浮かんだとしか言いようがないのだけれど。
たぶんその時の私は少しぼうっとしていて、言っている内容の良し悪しや正否善悪とかではなくて、それに対して自分がどう感じているのか、ということに焦点を当てるようにただ聞き流していたので、そういう自分の感覚に敏感になっていたのだと思う。ちょうど明晰な白昼夢の中にいるように。
たったそれだけの刺激やきっかけで、自分の中から思いもよらない応答や反応が返ってくるのも面白いと思った。
みなちゃんの彼氏はお金だけは用意したけれど、それきり連絡が取れなくなったそうだ。
二人の責任なのに、どうして女の子の方が心も身体も傷つかないといけないんだろう、何となく私は理不尽なような不公平な気分でいた。




