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 写真や動画を拡散させた子たちに対して一応それなりの慰謝料を請求して、謝罪を要求することや海や陸や私に対して誹謗中傷したりしない事を約束させて公正証書にしてもらったと二人から聞いた。それでみんなの前で謝罪をさせることもできるみたいだけれど、みんなっていっても不特定多数のいわば直接関係のない人たちが周囲で勝手に騒いでいただけなので、とりあえず、自分たちが写真や動画を送った人たちに、海や陸が撮った六人の罵詈雑言の映像の部分(かなりすごい顔をして罵っている)を添付して、自分たちが勝手に誤解して誹謗中傷をしたと明記させて送ってもらうことにしたらしい。


 元の写真や動画は、自分たちの仲間や味方がそこから先ドンドン勝手に拡散していっただけなので、自分たちにとっては大したことがないと思ったのか、あっさりそれはみんなOKしたらしく、これではあまり贖罪にはならないし罰することにもならないと二人は不満だったみたい。


 私としては、もうなんかどうでもよかった。


 たまに思い出して腹が立つこともあったけれど、それも怒りにまかせて好きなだけ怒っていたし、それで八つ当たりしたりしないように気をつけるくらいで、彼女たちのしたことやなんかを理解したり許そうとしないで、罵りたいだけ罵ったり悪態をついた。心の中でだけど。面白かったのは、それはたいていお風呂に入っている時だったり、眠る前とか、一人で内省している時だったりしたので、それであまり誰かや何かに迷惑をかけることなく静かに(?)怒り狂ったり罵ったり呪ったり(?)好きなだけしたのだ。


 罰当たりなことに朝の礼拝堂で聖像なんかを前にみんなで祈っているときに、たまにむかついてどうしようもなくなったりして、Go to hell!! Go to hell!!! Go to he~ll!!!! などと怒りのままに呪いを心で唱えている(?)ときもあったけれど。


 そんなふうに怒りたいだけすきに怒り狂う自分の感情のアップダウンを見ている方が、なんか面白かったのもある。ちゃんと傷ついてはいたし、毒には毒で対抗するくらいのものを自分でもちゃんともっているんだなあ、と、自分で自分に感心した。


 それでそんなことを一通り済ませた後だったので(?)、もうどうでもよくなっていたのだ。


 聖一さんのところでバイトするようになって、彼とはちょこちょこと仕事の合間に喋るようになったのだけれど、彼の話はなんかちょっと面白かった。たまに何も言ってなくてもタイムリーなことをぽんと言ってきたりする。そんな会話の中のひとつにこんな話があった。

 彼はたまにプロの相談業をしている人からの特別な依頼を受けていて、そうして内々に紹介されてきた相談者に占いやカウンセリング(その種の知識に対しても彼は博識だった)みたいなことをしているらしく、その時の話だったと思う。


 自然のプロセスに自分を解放するなら、人はもう無理しなくてよくなるのだそうだ。

 許せないものを許そうとしなくていい。

 許せない気持ちもそのままその感情ごと自然のプロセスの中に開放してしまえばいい。

 誰かや何かを無理に理解したり許そうとするよりも、自分が許せないでいること自体を理解して、そのまま在るものは在るものとして自分に許すこと、認めてあげることの方がずっと大事だってこと。

 大切なことは、何かに無理をしてなろうとしないこと。


 私たちは本当にあらゆるものとつながっていて、目に見えない思念や感情までもそれは自然の一部だから、思う事や考えることをそのまま認めてあげて自分の思いや感情を解放することでそれらはいくべきところへいき、還るべきところに還っていくのだそうだ。


 自分がどうにかしようとしなくてもよくて、むしろ何も思いつかないなら何もしない方がよいことも多いのだとか。ときがきて自然に熟れた実が落ちるように自然のプロセスに還してまかせていけばよいのであって、機が熟す、とはそういことなのだと。つい無理をしたり強引な事をするので人は過ぎたことや誤ったことをしてしまい、それをまた誤魔化そうとして更に誤ったことや過ぎたことを積み重ねてしまうので、自然や時間にゆだねる能力やネガティブなものであっても必要に応じて保留にしたり、悩みや問題がきちんと熟すまで待てる能力は意外に知られていないけれど、人間にとって実はとても大切な能力なのだそうだ。


 執着しないこと。そうしてどんどん手放していくこと。手放せないことは保留にしておく必要があるからでもあるので、機が熟して建設的な力にできるようになったら、また解放して手放していくこと。その方がずっと大切なことだし、そこに至るには、先ず自分のくだらないような思いや感情も自然のうちに在るものと認めて、それらを解放し、それを自らに許すことが必要で、基礎的な力になるのだそうだ。


 ちなみに解放するとは感情や欲望のままにそれを口にしたり行動に移したりすることではない(そんな事をしていたらその人は簡単に犯罪に巻き込まれてしまうか犯罪者になってしまうだろう)。あるものをあるままに認めたり、存在そのものゆるすことをいうのだそうだ。本当はとっても簡単な事なのに、何故かそれを難しい事にしてしまっているからこそ色々な問題が起きてしまうのだとか。特に人は社会的な動物なので、関係性の中でそうした歪みに巻き込んだり巻き込まれたりしているうちにわけがわらないことになってしまって、混乱が混乱を呼ぶようにして、どんどん問題が複雑怪奇になってしまうのだそうな。


 何の話からそうなったのかはもう覚えていないけれど、内容的にその時の自分にタイムリーで、心の奥のどこで深くこだましていく感じがあったのでこの部分はよく覚えていた。


 なんか不思議な人だなあ、でも面白い。彼の話はたまらなく私を惹きつける。飄々(ひょうひょう)としていて捉えどころがない不思議な人。私のどこか深いところにまでこだまするような何かをいつもふいに投げかけてくる人──


 私の彼に対する印象は、そんな感じだった。





 蒔いた種が芽を出し、花や実をつけ、その実が熟れて自然に落ち、中に詰まった種がまたばらまかれる──要はそんなものだったのかもしれないが、意外なところから意外な絨毯爆撃が始まったので、さすがに私たちも驚いた。


 海や陸が撮った罵詈雑言の(私に対してはあんたとかおまえだったし、海と陸の名前の部分は念のためカットして編集した)証拠映像を添付した謝罪メールは、約束通り彼女たちが自分たちが元の誹謗中傷メールを送信した先に一斉送信されていた。


 ただ、何というか、折悪しくその送信先の端末が何らかの悪意あるウィルスに感染していたようで、その端末内に保存されていたアドレスに一斉に端末内の送受信メールが送られると同時にそのウィルスも拡散したので、ドミノ倒しのような悲劇の連鎖になった。感染端末と送受信した端末でも同様にそれが繰り返され、そのメールの中には、深刻ないじめや嫌がらせや犯罪行為に関わるものがけっこうあって、別のところで自爆を繰り返すことになったようだった。

 

 中には特に悪質なものもあって、面白がって集団で人を自死に追い込んだりして、ゲームの様に何人も自死に追い込んでは、追い込むまでの手法だとか、期間だとか、どれくらい相手やその家族にまでダメージを与えることが出来たか、仕事や住む場所、家庭や家族、財産や社会的信用等を失わせたか、どれくらい酷く破滅させたか等々を競い合い、賭けをしたりして、繰り返し愉しんているのがはっきりわかるようなものがあったらしく、裁判沙汰になったりしたのだとか。

 どうやらそれに関与していた殆どの人が親子ともども学校や地域社会、企業などで集団でいじめをしたり、つきまといをしたり、色々な嫌がらせをするようなカルト集団にも関わっていて、組織的な犯罪行為も日常的に行われていたのが発覚した。


 関与していた人数が多かったので、一度秘密が漏れると、次々にとんでもない事実が暴露され、SNSなどのネット経由で個人情報も含めてあっという間に拡散してしまい、社会的信用も失い経済的にも大打撃を被ることになったケースもあったらしい。結果としてかなりシャレにならないものになってしまったのだ。


 そして、それと同時に拡散されてしまった謝罪メールに添付された罵詈雑言の証拠映像は、何というか、奇妙な経緯を経て一種の笑撃アート作品のようなものになって違う意味でまた拡散されてしまった。それはある投稿動画サイトに加工されて投稿され、SNSを経由し、そこからまた一気に拡散されたのだ。


 加工された動画元のタイトルは desperate (必死な、死に物狂い、絶望的な、やけくそな、みたいな意味)で、動画には怪獣映画や悪の帝王のテーマ曲などをBGMに、怪獣や猛獣の咆哮や爆撃の効果音なんかが面白おかしく加味されて彼女たちの罵詈雑言と共に流れ、しかもひとりひとりにテロップで名前と学校名や学年が出る(ローマ字だったけど)意地の悪いものだったので、かなりきついブラックジョークみたいなものだった。もちろん私も海も陸も何もしてないけれど、まあ、意趣返しにはなって、酷いなぁと思いながらも笑ってしまったのだが、しばらくして、意外なところからまた意外な話をきかされることになった。


 それは授業をさぼって礼拝堂で咲良とお喋りしている時に発覚した。


「タワーの天辺で羽根枕を切り裂いてなかの羽根をばらまいたあとに、それを全部回収しろと言われてもそれを全て回収するのはもう不可能でしょう。結局自分たちがしたことが1000倍くらいになって返って来ちゃっただけじゃないの」


 咲良は笑ってそう言ってから、ちょっとまじめになって


「実は、神奈の話をちょっとした話題のつもりで友人たちに話してしまったのよね、私」


 咲良の追っかけというか取り巻きみたいな趣味仲間に、ギークな人たちもいて、どうやらその人たちが何らかの方法で関わっているらしいということを言われたときは、ちょっと冷や汗が出そうになった。


「どこかのクレージーな天才が作ったウィルスにまた別のクレージーな天才が作ったウィルスを掛け合わせてできたウィルスで仕掛けを作ったみたいだけど、詳しいことはわからない。投稿動画の方は、ちょっとした冗談のつもりだったみたいだよ。まさか私もそんなことになるとは思わなかったけど、まあ、因果は巡るってことでいいんじゃないかな。結局は明るみになってよかったことがそれ以上にあったみたいだし」


 けろっとしてそう言われて、私はとりあえずこの話はここだけのことにしとこうね、と咲良と言い合った。




 結局私は海と陸の二人と恋愛関係になった。

 つきあおうとか特に言ったり決めたりしたわけではないけれど、自然にそうなった。


 でも海や陸が私を好きになったのは、先ず何よりも彼らの基からある関係を壊さないから、だったんじゃないかな。彼らは自分たちの基盤にある関係をまず大切にしたかった。壊したくなかった。それで彼らの関係を壊そうとするでもなく、より関係を安定したものに、盤石(ばんじゃく)なものにする触媒として私を必要としたんじゃないかなって気がする。二人の間に入ってその仲をかき回そうとするわけでもなく、そのまま安定した形で一緒にいられたから、居心地が良かったんだろうし、二人もそれで満足していたんじゃないかって気がする。

  





夜明けの扉 “Gates Of Dawn” 一章 終り



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