↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/113

12



 名実共に? bitch になってしまったらしい私は、海と陸と二股をかけて付き合っている下品な女ということで、相変わらずひそひそされていたが、だから何だってんだよ、としか思わなかった。海と陸も開き直ったみたいで、何言われてもいいやって感じになった。今までの天使キャンペーンは終わり、口の悪さや地がほんのちょっと出ただけなのだけれど、悪魔にとり憑かれたご乱心の王子様扱いになったようだ。


 噂はデタラメだったけれど、仮にそれが本当だとしても、それが何だと言うのだ。だから何?! or かまうもんか!! が私たちの合言葉みたいなものになった。

 優しかったみんなのアイドルを返せと直接言われたりすることもあったけれど、


「知るか」


 と1秒でぶった切っていたら、言ってこなくなった。

 悪魔上等で対応したのがよかったようだ。


 噂の拡散はすごくてクラスや同じ学校内でもヒソヒソされることもあれば、やるじゃん、と何故か応援してくれる子もいたりして、人それぞれなんだなあと思った。ちょっと面白かったのは、今まで接点があまりなかったような一匹狼タイプの子たちとも仲良くなったことかな。彼女たちはその独立不羈(どくりつふき)な存在感から敬遠されたりしていたけれど、なんていうか肝が座っているというか、大人で、話していてすごく気持ちが良い子たちだった。私もめでたく彼女たちが認めるような独立宣言を確立しつつあったらしい。


 キイナや聡子たちと一緒にグループでいるのも楽しいし、ソロで一匹オオカミ風に自由にやるのも楽しい、別にどっちでも楽しめるなら好きな時にそうすればいい、何となくそんな風に思うようになったのも、ちょうどそういうタイミングだったのだろうと思う。キイナと克己くんは、ほぼつきあっているみたいな感じだし、聡子は輝幸さんとの恋に一直線だし、私は私で新しい扉を開こうとしていたのかもしれない。


 海と陸はそれぞれ陸上とサッカーという個人競技と団体競技のスポーツをしているけれど、たまに双子の特権? を活かして、入れ替わったりすることがあるのだそうだ。二人が互いに相手に似せようとしたらほぼ見抜ける人はいないので、今までばれたことはないらしい。海はどっちかというと個人競技の方が好みだけれど、それだけだと視野が狭くなるので、団体競技のチームプレーで多視点のバランスをとりたくなる。陸はどっちかというとチームプレーが好みだけれど、そればかりだと仲間に知らずに頼りがちになったり、同調圧力に無自覚になるので、個人競技でストイックに没頭することで自分の感覚にバランスをとりたい、のだそうだ。


 彼らが意識してとっていたバランスのようなものを、私も自分で意識するようになったということなのかもしれない。




 葉月(はづき)とはクラスが違ったけれど、前から目立っていたので知っていた。人目を引く美人で賢くてちょっと凄味がある。群れから距離を置いた彼女の鮮やかな存在感は良くも悪くも目立つので、人目を引く容姿と相まってまことしやかな様々な噂が彼女を取り巻いていたけれど、仲良くなってみたらすごく気持ちのいい子だった。たまに休みの日に彼女と一緒に買い物に行ったり、彼女のバイト先に遊びに行ったりした。


 彼女は学校に内緒で知り合いのライブハウスでバイトしていた。カウンターでバーテンみたいな仕事をしていて、お客さんや出演者のひとたちとも仲良く喋っているので、私もそこに混じって色んな人と話すようになった。殆どが年上の人たちなので、なんからくだった。へんにベタッとする関係になることもなく、さらっと明るく冗談を交わして、それぞれが自由に出入りしている感じが良かったのだと思う。忙しいときは私も手伝ったりした。


 ある日、ものすごく忙しいのに人手が足りないので手伝ってくれないかと葉月から連絡があり、OKして夕方に彼女のバイト先に顔を出した。その日は土曜日だった。次の日が休みだから、遅くまで手伝っても大丈夫だったので九時過ぎまでいたと思う。両親には友達の家に泊りに行くと言っていたので、門限もフリーだったのだ。バイトが終わったら葉月の家に泊りに行く予定だった。


 バックステージパスのワッペンシールを洋服の袖に張り付けて、小間使いのように雑用をこなした。機材を扱うのに抵抗がなかったので配線をチェックしたり直したりできることもあり重宝がられたのだ。マイクチェックやスピーカーの音量やキイなどのバランスをみたり色々頼まれるままに忙しく働いた。終わってから、お疲れ様、打ち上げに一緒に行こうよ、と葉月に誘われてライブハウスのあるビルの上にあるなんだかおしゃれなお店にみんなと一緒に行った。そこは重厚な木製のカウンターがある、ちょっとレトロな雰囲気のショットバーだった。打ち上げは奥の席の一角でわりと賑やかにやった。ほぼ貸し切り状態だった。


 そこへ何人かの男女のグループが入ってきて


「今日は賑やかだね」


 とマスターに言っていたので、こっちの席から何人かが


「すみませーん、下のライブハウスの打ち上げでおじゃまさせてもらってまーす」


 と陽気に声をかけていて、なんだか気づいたら入ってきた人たちの中の何人かとマスターとで仲良くカウンターでしゃべり出していた。私と葉月は奥の隅っこにいたのでカウンターの方の人たちの様子はあまり見えなかったけれど、化粧室に立って帰ってくるときにカウンターにいた人から


「神奈ちゃん?」


 と声をかけられて、よく見たら聖一さんだった。


 彼はなんだかきれいな大人の女性二人とカウンターにいて、その女性たちはライブハウスに出演していた演者さんたちとマスターとで仲良く喋っていたのだが、彼が私に声をかけたので、みんなで一斉にこっちを見た。その瞬間、女性たちが上から下までサーチライトで照らすかのように私を品定めしたのがわかり、しんそこびびった。うわ。なんだかこわい。その視線からちょっとした軽い敵意のようなものをうっすら感じてしまったので、ああ、この人たち聖一さんが好きなんだ、とすぐにわかってしまった。はた迷惑な色恋沙汰にいやおうなく巻き込まれ続けたためにある種の感覚が発達したらしい。


「聖一、知り合い?」

「妹の友達」


 なんだがきか、と彼女たちの刺さるような視線が少し緩んだのもわかった。

 露骨だなあ、と思いながら


「こんばんは」


 と私が言うと演者さんの一人が


「ライブハウスでバイトしてくれている子なんだよ」


 と女性たちに言った。

 正確に言うとバイトの助っ人なんだけど、


「そうなんだ」


 と聖一さんが言うので、


「はい」


 と頷いた。

 彼はちょっと保護者っぽく


「お酒飲んでるの?」


 と訊いて来たので


「いえ、ジュースとお茶だけです」


 なんだかまじめに答えてしまった。実際「アルコールはダメ!」とライブハウスのみんなから止められていたので、私も葉月も飲んでいなかった。こんな場所に一緒についてきながらも至って真面目にそうしていたのだが、なんか意外だった。何がと言うと、目の前の彼がちょっと咎めるような訊き方をしたからだ。


 彼はまたじっと私の目を見つめていた。

 あ、なんか、嘘かどうか確かめられているみたいな感じ。

 何だかいたずらを見つけられた子供のような所在ない気分でいたら彼がにっこりして言った。


「あまり遅くならないように気をつけて帰るんだよ」

「はい、そうします」


 葉月の家に泊るのでそんなに遅くなるとか気にしなくてもいいのだけれど、ほっとした私はそう言って彼や他の人たちに会釈して席へ戻った。

 葉月と私は十時頃まで打ち上げに付き合って、それから一緒に彼女の家に帰った。途中コンビニでアイスやスナック菓子をたくさん買い込んで、仲良く腕を組んだりして近くで彼女が一人暮らしをしているマンションへ帰った。彼女の両親は海外出張中で、今は彼女一人なので遠慮なく朝までDVDをみたりお喋りをして、外が明るくなってから彼女の部屋のベッドで一緒に眠った。客室もあったのだけれど、めんどくさいのでそのまま一緒に眠ってしまった。なんか姉妹ができたみたいで楽しかったのだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。