3
「過去にしてきた事や今も隠してしている事なんかが表に出て来て、その当時は犠牲者や被害者の声を抑圧もしくは封殺できたかもしれない事でも、今はそれがどんどんしにくくなってきているから、長い時を経ていても遡ってその責任を厳しく追究されていく事がこれからどんどん起きて来そうだね」
涼子さんがみんなにデザートを配りながらそう言うと、レネ君が「ありがとう」とデザートを受け取ってから言った。
「本来なら当時でも許されないはずの事だったのに、大したことじゃないかのように矮小化したり、それを指摘する人や犠牲者自身に問題があるかのように責任転嫁したり、誹謗中傷をしたり──そうした詐術を使って誤魔化す事自体が、今はバレてしまう事もあるから、だんだん通用しなくなってきている。これは人間の意識の進化でもあるから、この方向性はこのまま変わらないだろうね」
私は聖一さんとお茶の準備をしていたので、涼子さんの後からみんなにコーヒーや紅茶を配っていく。
「やましい事がある奴らはさぞかし戦々恐々としているんだろうなあ」
海が呑気にそう言って、涼子さんが笑う。
「ちょっとそれも面白いよね」
「むしろ性懲りもなく未だに責任転嫁や矮小化、嫌がらせや誹謗中傷キャンペーンなんかで乗り切ろうとして、往生際悪く足掻いているんじゃない?」
レネ君が言うと、涼子さんも海も、ついでに黙って聴いていただけの私も一緒に笑った。
「確かに。あり得るな」(海)
「ものすごく、やっていそう! 目に浮かぶ!!」(涼子さん)
「さすが安定のドクズ感だね」(私)
最後の私の一言に、海がちょっと止まって、私を見た。
「何かおまえ、今日はやたらきつくない? 何かあった? 機嫌悪いの?」
「特に機嫌が悪いわけではないよ、通常運転。ごく素直な感想を率直に言っているだけ」
澄まして言う私に海が「素直過ぎない?」
「私が遭ったトラブルについて具体的な話を日中に色々してしまったからだと思う。神奈ちゃん、大人しそうに見えても、かなり潔癖で好き嫌いがはっきりしているみたいだし」
涼子さんが眉尻を下げてすまなそうに言うと、海がすかさず言った。
「あ、大人しそうに見えるだけで、本当に全然大人しくないんで、通常運転なのは間違いないですよ。ただ聖一さんの前ではいつも、もう少し猫を被っていたから、どうしたのかと思っただけで!」
「猫かぶってなんかないよ」
むっとする私に、海が当然のように言った。
「いや、被っているだろう」
「それは、聖一さんがいつも紳士だから、私も自然に大人しくお行儀よくなるだけ。海の前で私が大人しくないとしたら、あんたが私を怒らせるからでしょうよ」
「責任転嫁するなよな~」
「そっちこそ」
小競り合いを始めた私達に、レネ君が冷静に言った。
「カンナが今もこうした姿を平気で見せているから、猫かぶりは違うだろうね」
「ほら見なさいよ」
ふふん、と勝ち誇る私を、海が心底気の毒そうに見た。
「そこを威張るとか……」
「何よ、その残念な奴みたいな言い方」
「素直な感想だから」
デザートも飲み物も配り終わってみんなが着席したところで、聖一さんがにこにこして言った。
「海がいる時がたまたまそうだっただけで、神奈ちゃんは元々、僕の前でも、いつもとても元気がいいよ」
海が思わずぶっと噴出して、私は何だか面白くない。
「まあ、カンナの率直な感想は、妥当だと思うよ。言葉遣いがあまりいいとは言えないけれど」
レネ君にまでやんわりとだめ出しされて、あまり口汚く罵るのも良くないか、と私は少し反省する。
「そうだね、でも何て言えばいいの?」
「安定した期待を裏切らない徹底的な人間の屑っぷりですね、とか?」
涼子さんが大真面目に言って、私も思わず噴き出してしまった。
「ドクズのニュアンスが大事だよね」
レネ君が大真面目に言って、聖一さんも大真面目に言った。
「極度の屑とか、非常に、とかでもいいのかな? 要は、『わかりやすく徹底的に人間の屑で最低』だって意味が伝わればいいんだよね?」
「涼子さんの表現でいいと思います」
海が笑って言って、私も笑いながら言った。
「レネ君が昼間に教えてくれた、マニピュレーターの特徴(※第六章 1参照)がそのまま、『安定した期待を裏切らない徹底的な人間の屑っぷり』を具体的に、よく表しているよね」
私がそう言うと、海が「何それ?」と訊いたので、レネ君がざっと説明してくれる。
「対人操作や関係操作を行なうマニピュレーターの特徴的な手法の事。潜在的攻撃性パーソナリティの手法として具体的に紹介されていて、〈矮小化〉〈虚言〉〈否認〉 〈選択的不注意(あるいは選択的注意)〉〈合理化〉〈話題転換〉〈はぐらかし〉〈暗黙の威嚇〉〈罪悪感を抱かせる〉〈羞恥心を刺激する〉〈被害者を演じる〉〈犠牲者を中傷する〉〈忠実なるしもべを演じる〉〈人をそそのかす〉〈責任を転嫁する(他人のせいにする)〉〈無実を装う〉〈無知を装う・混乱を装う〉〈これ見よがしに威嚇する〉が代表的」
「なるほど、人間性の汚さや卑劣さが、その行動にそのまま、実によくにじみ出ているなあ」
感心しつつ海がそう言って、私は端的に言った。
「“安定した期待を裏切らない徹底的な人間の屑っぷり”、そのままでしょ?」
「確かに」
納得する海に、私は言った。
「私、いつも不思議だったんだ。本当にくだらない事やどうでもいい事、時と場合や状況による様な事や本来別に責められるような事でもないような事、不可抗力な過失や落ち度なんかに対して、まるで鬼の首を獲ったかのように正義を装って嬉々として攻撃をする人達って沢山いるけれど、その人達自身の在り方や、やっている事自体が、こうした本当の人間の屑の手法そのものである事も少なくないのに、何でそれをきちんと誰もはっきり指摘しないんだろうって。
こっちの方が明らかに有害で最低で、人間としてあり得ない、極度の屑らしい屑。屑の中の屑。まさにキングオブ屑。厳しい責めや攻撃を受けてしかるべき品性下劣で、共同体や社会や世界にとって有害な危険人物の特徴なのに。どちらかというとこっちの方が徹底的に叩き潰されて当然の人間の特徴なのに、それはスルーするの? 何で? って。
人が持っている攻撃性を否定せずに、どうせ使うなら、もっときちんと健全にしっかり使おうよ、って思っていたの」
涼子さんが私に頷いてから、海に向かって言った。
「確かに、大人しくないね」
「そうでしょう」
何故か得意げに海が言う。
「要は社会的な免疫機能を健全に働かせるって事だよね。攻撃性そのものが悪ではないし、怒りであったり、憎しみであったり、復讐心であったり、そうした悪に布置されている様な感情であっても、それ自体が悪いのではない──本来は善も悪もないエネルギーでしかないから──むしろ正当な怒りだってある。正当な憎しみや復讐心だってある。不当なものもあるだろうけれど。結局はそれをどう使うか扱うかで、本来の自然なもの、健全なものであれば、それは抑圧すべきではなくて、きちんと建設的に水路づけて使う必要があるものなんだよ。それにはそれの役割がきちんとあるんだから」
レネ君が言って、私も頷く。
「いじめや虐待、嫌がらせ加害者や加担者、恣意的で野放図な私刑の正当化をするカルトテロリズム実践者やスパイ工作の為に集団や共同体、国内や世界の内部崩壊を仕掛ける人間に踊らされて、低劣な不健全な使い方に煽動されていくのではなくて、そうした不健全な使い方、内部崩壊や混乱へと人々を誘導している、いじめや虐待、嫌がらせ加害者や加担者、カルトテロリズム実践者やスパイ工作を実際に行っている当人や集団に向けるべきエネルギーなんだから、それをぶつける相手や標的を意図的に逸らされない事だよね。本来の的にぶつけるべきものを、違う方向に誘導されているから問題がいつまでも解決しないのだし。それを単に抑圧するのではなくて、使うべきところに建設的に水路づけて使う事や、それを健全に扱う事の方が大切だよね。
恣意的な野放図な私刑の正当化が必要なのではなくて、現実に見合った現状の見直しが必要なのであって、適切な法を制定してきちんと機能するように整理していくなり、法があるのに機能しないのであればその問題を炙り出して一掃していくなり、やり方は色々あるはずなんだから。誰かの幸せのために犯罪を犯しました、なんていんちき臭い言い訳をすれば不正行為でも人権侵害でも虐待でも傷害でも殺人でも何でも正当化して通用する屑社会になる方が問題だよ。それこそカルトやマフィアの常套手段だし、目指している世界なんだから。
それに、学校や地域社会、組織なんかで実際に、恣意的で野放図な私刑を正当化していじめや虐待、嫌がらせ行為をしている様な人達の身辺や過去を徹底的に洗い出す事で、カルトテロリストやスパイや国内だけでなく海外のマフィアとの繋がりが出て来る可能性がとても高いから、それもきちんとするべきだよね。
彼等彼女等は、実際に重大な凶悪犯罪を隠れて集団で組織的に行っているし、身勝手な妄想や欲望・衝動から恣意的な私刑を野放図に実行していて、それを正義だと自分勝手に妄信している危険なテロリストで、法の網目をくぐり巧妙に組織的にそれをしているし、たとえ法を犯してることがばれても責任を取らずにもみ消すし、税金や公的資金の不正流用や横領や詐欺も日常的に普通にしているし、何よりも、快楽殺人者のカルトテロ集団でもあるんだから、野放しに絶対してはいけない種類の人達でもあるんだよ。こうした問題にきちんと真摯に向き合う必要があるし、今も現在進行形で犠牲になっている人や存在が現実にいる事を忘れない事だと思う。
特に、カルトテロリストや加担者、その利用者や依頼者は、徹底的に叩き潰しておく必要があるしね。やっている事があまりに悪質過ぎて、もはや同情の余地は全くないし、しつこいし、反省しないし、しかも長期に亘って隠れて極悪非道な事を行ないながら、身勝手な理由からそれを正義だと妄信している。快楽や利益目的で殺人も喜んでしている。被害者や犠牲者を自死に追い込んだり病に追い込んでそれを称え合い、祝賀会もしている。そうして自分達は選ばれた人間だと、超法規的な存在だと本気で思い上がっている。税金や公的資金も湯水のように盗み出し不正流用している。もう、完全に救いようがないよ、どこからどう見ても有害な危険人物だし、異常者だし、正真正銘の快楽殺人者の集団だしね」
「なるほど、人間性の汚さや卑劣さが、その行動にそのまま、実によくにじみ出ている。“安定した期待を裏切らない徹底的な人間の屑っぷり”、そのまま、まさにそれだ」
感心した様に海が言って、私が「でしょう」と答える。
「なのに、この徹底的な人間の屑が、本来なら有用な健全な人や存在を、厚かましくも屑呼ばわりしたり、そう扱ってテロ行為を正当化しているんだよ。自己紹介の論理で、犠牲者や被害者に対して、自分自身のドクズ性を責任転嫁しているから。それで被害者や犠牲者を自死や病に追い込んだり、虐待したり殺したり、おもちゃにして弄んで喜んでいる。自分達は正義だって妄信しているから。本当に胸糞悪すぎでしょう、もう、気持ち悪すぎる。最低最悪。むちゃくちゃ気味悪いし、胸糞悪すぎだよ」
「カンナ、言葉遣いが戻っている」
「あ、ごめん、つい」
地が出てしまったわ。
「でも、誰かがきちんと鏡の様に真実や事実を映し出してその本当の姿や行いを突き返さないと、その人達は、自分自身の醜い汚い姿を本当に知らないままある意味幸せに死んでいきそうで、とってもむかつくんだよね」
「だからあえて言葉にしてあげているとでも言いたいのか?」
「まさにその通りです」
海の問いかけに私がそう言うと、聖一さんが困った子供を見るかのように私を見た。
「神奈ちゃんがそこまでする必要はないと思うよ」
むう。私はちょっと面白くないので、口答えをする。
「では、私自身の為に。ストレスを発散しないと体によくないから!」
隣で見ていた海が、「うわあ、まじで、聖一さんにも通常運転だったんだ」と、少し引いている。
「神奈ちゃんは昔からこうだよ」
聖一さんが海に言って、海は納得した、と頷いている。
「聖一さんがいくら紳士でも、言いたい事は言わないと気持ち悪いでしょ。私が」
私がそう言うと、海が呆れながら言った。
「そういう所、ちょっと尊敬する」
「もっと褒めていいよ」
「……褒めてない」
「大体、海だって怒ると悪魔みたいに口が悪いじゃん。人のこと言えないでしょう」
「それとこれとは違う」
小競り合いを続ける私達に、涼子さんがデザートをつつきながらのんびりした口調で言った。
「でも、神奈ちゃんにそう言ってもらえて、ちょっと胸がすくような気持になる人もいると思うよ。私もそうだから」
ほら見なさいよ、と私が眉を上げると、海は呆れたように私を見た。アイコンタクトで小競り合いを静かに続けていたら、
「そうだね。特に性格がいいわけでもないけれど、健康的な精神の持ち主だから、カンナはそのままでいいんだよ。でもあまり汚い言葉は使わない方がいいとは思うけれど」
レネ君がそう言って、私はちょっと微妙な気持ちで返事をした。
「ありがとう、でも、何故かしら。あまり嬉しくないの」
「人間は自分自身について本当のことを言われると、あまり気分がいいものではないからね」
「何故かしら、さっきよりも不愉快ですわ」
レネ君はにっこりして「そこがカンナのいいところだよ。性格が特にいいわけでもないけれど健康的なところ」。
何だかうまく誤魔化されたような? しかし、性格が特にいいわけでもない(どちらかというと悪いかもしれないです)のは本当だし、まあいいか。
「健康的な精神であることの方が大切だからね」
聖一さんが優しいかおでそう言って、私は真顔で答えた。
「全くフォローになっていないだけでなく、そこはかとなく追い討ちをかけられたかの様な気持ち」
聖一さんは、あはは、と楽しそうに笑って、「ばれたか」と言っている。ころころと鈴が転がるような楽しそうな笑い声が、何となく昼間、涼子さんから被害の詳細について少し聞いた時からずっと私の中にわだかまっていた様なもやもやした感じを祓うみたいに、爽やかな風が空気を一新するような感じがした。それで、あれ、と思いながら、彼を見つめると、聖一さんはにこっとした。
「まさか、また、頭の上に黒い渦巻きが発生しかけていたとか?」
「そう、でも、今はもうないよ」
「か、かたじけない。そうであったか、不覚でござる」
私が照れ隠しで本当に感謝を込めて言ったら、聖一さんは「どういたしまして」とだけ言って笑った。
「でも何でいきなり侍になったの?」
「何となく」
あはは、とまた笑う聖一さんの明るい声に救われる様な気分でいたら、「黒い渦巻きって何?」と怪訝そうな海に私は、「どうやら、私はカルトテロリストの悪行を見たり聞いたりする事で煮詰まると、頭の上に黒い雲の渦巻きを発生させるらしくて、聖一さんにその手前でいつも止められるの」と簡単に説明した。
「ああ、何か分かるような……」
「何でよ」
涼子さんがすまなそうに言った。
「私が変な話を聞かせてしまったから。ごめんね」
「話を聞かせてもらった事が悪いのでなく、話の内容に出て来た本当に悪質で陰湿な事を身勝手な理由から正当化してやり続ける様な胸糞悪い人間が悪いのであって、それに対する自然な反応ですから、お気になさらず」
私がきっぱりと言うと涼子さんはにっこりして、それから聖一さんに尋ねた。
「その黒い渦巻きって何なの?」
「台風を呼ぶ雨雲みたいなものかな」
「私は実は最強の雨女ってこと?」
私がちょっとわくわくしながら尋ねると、聖一さんは「実際の雨雲ではなくて、比喩だよ」と笑った。
「強い思念の渦みたいなもの。台風の目になる元のようなものだよ」
レネ君が言って、何となくそれを私は理解した。
「ばれないと思って調子に乗って好き放題にとんでもない虐待や犯罪行為やテロ行為をしてきた人達や今もしている人達が、こうした事がどんどんこれから明るみに出されていくにつれてきれいさっぱりと一掃されて行ってほしい、と心から願っているからかな。それこそ、台風みたいなもので余計なものが一気に吹っ飛ばされて綺麗になってくれれば嬉しいし」
「それに関しては、私も全く同じ気持ち」
涼子さんが言って、私達は手を取り合って意気投合した。そうだよね。実際にとんでもない被害に遭ってきた被害者からしたら、本当に、心から一掃されてほしいよね。
「それ自体が悪いわけではないけれど、何にでも時期というものがあるからね」
聖一さんがそう言って、「あちこちで同じような台風の目の柱が同時多発的に立つ時期が来るから、それまで需つことだよね。それまでは力を漏らさずにためておく方がいい」。
「そうだったの?」
私が少し驚いていたら、聖一さんはじっと私を見つめると、
「簡単に発散させてしまわずに、それを漏らさず、しっかり錬り上げて錬成しておくことだね。特に君は肚に龍の力を籠めているから尚更だよね」
「闇墜ちするのを防いでくれているのかと思っていた」
聖一さんは笑った。
「違うよ。君自身は龍の力をその體に籠めているから、天と地をしっかり繋いでそれを使いこなせる。龍は天と地を繋いで調和を司るエネルギーだから。その為の力を安易に発散させたり漏らさない様にする為だよ。そこで感じる怒り、深い憤りの炎をしっかりと肚に納めて力を錬り上げて、より深くに潜む根源的な力へと接続して錬成していく為にだよ」
「カンナは特に性格がいいわけでもないけれど、健康的な精神の持ち主だって言ったでしょ。自分自身の自我や自尊心や自己愛を維持する為に他の犠牲を必要としない、これがいい人である事よりも何よりも、ずっと大切な事なんだよ。そうして外道に堕ちることなく自分自身の力を錬り上げて調和をとる龍の力を肚に籠めている。だからセイは君の力を漏らさないようにしているんだよ」」
レネ君に言われて私は、「褒められていると受け取っていいのかな?」
「最初から褒めているつもりだよ。僕らは別に善人でなきゃならないわけでもないから。それよりも、先ずはでこぼこしている等身大の自分自身に誠実に向き合う姿勢やそうした中から真摯に調和をとっていく事の方が大切だし、その為に他の存在を犠牲にする必要がない事の方がずっとずっと大事な事だし、それを基盤にして、自分の中に真・善・美を育てていけばいいだけ。僕らは誰もが未達の存在で修養中の身だからね」




