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「せーちゃんはお昼寝中?」


「はい、相談業務後の仮眠に入っています」


 ふらっと遊びに来たらしい涼子さんにお茶を出しながら私がそう言うと、レネ君が横から「しばらく起きて来ないと思うよ」。涼子さんは「一応連絡しておいたんだけれど、タイミング悪かったかな?」。レネ君は特に気にすることなく、


「夜までには起きて来るから大丈夫だよ。夕ご飯一緒に作ろうよ」


「そうだね」


「夜にはカイも来るし、今日は賑やかだね」


 にこにこしてそう言うレネ君に、私は「もう、いつもご馳走になってしまっているよね」とため息をつく。涼子さんは楽しそうに「あ。噂の海君? せーちゃんが気に入っている子でしょう? 会えるの楽しみだな」と私に言った。


「海が懐(なつ)いているというか、聖一さんには善くして頂いています」


 ぷっとレネ君が噴き出して、「まるでカンナの弟みたいだね!」


「ここに来ると、気分的にはそんな感じなんだもの」


 私がため息をつきながらそう言うと、涼子さんが笑った。


「なんだかせーちゃんが隠者みたいな生活に入ったと思っていたけれど、結構楽しそうにやっているみたいで、なんだか嬉しい」


 私とレネ君は何となく黙って彼女を見つめた。


「あれ? 何か変な事言った?」


「ふつうに人の幸せを喜べるって、いい事だなあって思って」


 私がほう、っと感嘆の息をついて言うと、涼子さんは「何それ」と笑った。レネ君が端的に説明する。


「ここに来る相談者の話を聞いていると人間不信になりそうになるからだと思うよ」


 涼子さんは「あー」と言って察したかの様に少し黙った。それから、「世の中には色んな人がいるからねえ」としみじみしながら言う。そうして続けて、


「私は結婚に失敗して、実は妹と元夫が私を自殺に追い込もうとずっとガスライティングを始めとした隠れた攻撃や精神的な虐待をしていた事や、それを隠して妹を支援していた家族の本性も知って、長年に亘った嫌がらせや人権侵害なんかの虐待も受けてきてしまって、そこに加担していた人間も数が多くて──散々な目にも遭ったから、人間って本当に裏で何やってんのかわからなくて、とんでもない事を平気でしている人もいるんだってものすごく驚いた。


 特に、私の家族は宗教を熱心にやっていて、そうした信仰を持ちながら、一般の人々よりも善人の様に上手に振る舞いながら、高い倫理観を口ではそれらしく語り、それらしいパフォーマンスを行ない、社会的にも信頼されるようにうまくやりながら、私に対しての嫌がらせや虐待を長年に亘って隠蔽しながらやり続けていたし、私が何を言っても信用されない様に裏から手を回してもいたし、しかも重大な人権侵害をはじめとして殺人未遂なんかの犯罪にまで手を出していたから、今でも驚いているよ」


 なかなかハードな内容をけろっとした様子で彼女は言った。私はまだそこまで胆力が錬れてもいないので葛藤中で、悩み多き年頃でもあり、未熟者らしく苦い思いで答える。


「そうですよね。私も今でも驚いています。いじめや虐待や嫌がらせ、犯罪やテロ行為も正義だと本気で信じ込んでいるだけではなく、本当にそれを実行してしまう、それも安易に。そんな人が沢山いる事の不気味さや気持ち悪さには、一向に慣れません。被害者の方のお話を聞かせて頂くと、加害者や加担者のことを毎回気持ち悪いって思ってしまいます。生理的に受け付けないんだと思います」


「そうした異常者としか言えないような人が普通に何食わぬ顔で身近にいるのかと思うと、気持ち悪くなるのは仕方ないよね。だって実際に一見まともな表の顔の裏ではやることなすこと本当に気持ち悪い人達だし。同じ人間としてちょっとあり得ないというか……無理って思ってしまうのは仕方ない。仮に理解して受け容れろって言われても無理です、としか言いようがないし。本当にくだらない様な身勝手な理由から人殺しにまで手を染めようとする人と共存するのは、どう考えても無理でしょう。負担があまりにも大きすぎるもの」


「……人としての個人の在り方や振る舞いについて──今までは社会や環境のせいにしたり集団に紛れることで誤魔化されたり、うやむやにして蔑ろにされてきた問題が、ここに来て、輪郭がはっきりしてきたというか。そうならざるを得ないというか。個人の資質や器的な問題も切り離せない、むしろそこ重要だよね、って改めて切実な問題や課題として今はもう気づかざるを得ないところでまで来ている様な気がするんです」


 私がそう言うと、涼子さんも頷いた。


「ここから先へ進むためには、それをもう無視することはできない」


「そうです。こうした問題を誤魔化したりうやむやにしていくことはもう許されない状況にまで来ていると思います。何故なら、そのせいで犠牲にされてきてしまった方の損害や被害があまりに酷い状態で、そうした加害侵害行為をしている方は全く反省する能力がなく、改善もされず、むしろどんどんエスカレートして周囲や全体を否応なしに大きく巻き込んでしまっているからです。単に個人間の問題で済む問題ではなく、集団、社会、国家、世界──本当に全体的な大きな問題になってしまっているからです」」


 私がきっぱり肯定すると、涼子さんは少し考えてから言った。


「個人がつくるのが集団であり、社会だからね。その構成単位にある個人の問題がそこに関わっていくのは当たり前の話だし……今までは大きなものになると焦点がぼやけてしまうから、誤魔化したりうやむやにしていくこともしやすかったのかもしれないけれど、今は個々別の情報としてその個人としての資質や器としての問題、在り方の問題、関わり方の問題もきちんと識別したり整理しやすいから──それだけの技術もあるから──ここに来て、その問題や課題に向き合うべき時期が来ているという事なんだろうけれど」


 そう言ってから、涼子さんは「でも、こんなことになる前に、どうにかして止められなかったのかな、とも思う。ここまで本当に正真正銘の異常者や変質者になってしまう前に、もう少し前の段階で、止められなかったのかなって」そう、少し残念そうに淋しそうに言った。


「意外です。止められたかもしれないと思っているという事ですか?」


 私が素直に少し驚きながらそう言うと、涼子さんは少し考えるようにしてから言った。


「今から思えば──当時から私の元夫と隠れて肉体関係を持っていて、その上で、妹は、私を巧く騙して裏切っている事と、私の身近に居る人間(元夫)を傀儡(かいらい)にして密かに協力して私を貶めて攻撃していることで、自身の優越的立場をわからせようとして、私に対して隠れた攻撃を仕掛け続けていたのだろうとわかるのだけれど、私は妹が何故そこまで攻撃的なのかがよくわからなくて、私自身に問題があるのか、何か失礼な事でもしてしまったのかと考えてしまっていたの。


 そんなある日、妹は私に、自分の見た夢に私が出て来て、私の歯が全部抜け落ちて、こんなになっちゃった、と私が言っていた、とさも可笑しそうに笑って話してきた事があって──その前から何度も、思わせぶりな調子でお気に入りのアーティストの話をするという体で、〇〇のお姉さんって自殺したんだって~とニヤニヤしながら話してくるとかがしょっちゅうあったので──またか、という感じだったのだけれど、でも、私は個人的に夢分析や心理学に興味があったから、妹のその夢に出て来る姉の姿というのは、妹自身の倫理や道徳的な態度を表していて、歯が抜け落ちるのは死を意味する事が多いから、多分、彼女自身の倫理観や道徳的なものが死にかけている事を意味しているのだろうな、と、何となく思ったの。彼女には言わなかったけれど」


 何と答えていいのか分からず、私は黙って頷いた。涼子さんはそのまま淡々と話を続ける。


「昔、せーちゃんに言われたことがあったの。元夫や妹に関して、分不相応なプライドを私を貶めることで持ってしまっているから、その旨味や快楽が忘れられずそうした行為に中毒している──本当はそれを叩き潰してあげるのが親切なんだって。自分の身の丈に合わない分不相応な自尊心を他者を貶める事で持っている人は、それに中毒してしまう。等身大の自分自身では絶対に得られない優越感や選民思想なんかを刺激されて──犠牲にしている存在を見下したり、貶めたり、人権を侵害したり、収奪したりする事で──不当に得ている肥大化した自尊心を維持している状態だから、その性質上、彼等彼女等はそれを失う事を避けなければならない。等身大の自分自身を認めるわけにいかない。そうして他を害し、貶めて、犠牲にすることに更に中毒していくから、どんどんエスカレートしてしまうんだって」


「下手に人間としての情けをかけてしまったかもしれないことが、後押しになってしまったのではないか、と?」


「そんな感じ。だって、ここまでしつこくつきまとわれるとは思わなかったから。離婚もして、とっくに終わった事かと思っていたのは私だけで、相手からしたら全く違ったみたいだけれど、それを理解するのは私には無理だった。異常者や変質者の考えることは理解できないよ。そもそもがまともな論理が通じないのだから。せーちゃんにあれほどはっきりと教えてもらっていても、理解できていなかったもの、私。まさか本当にそれが癌細胞みたいに、どんどん周囲を巻き込んで同じような変質者や異常者が集団になって溶解しながら増殖してエスカレートしていくなんて、想像もできなかったし、気づいたらとんでもない事に発展していて、大きなことになってしまっていた」


「リョウコはそんなつもりがなくても、相手にもの凄く自分を好きなんだと思わせてしまうところがあるんだよ」


「──それ、せーちゃんにも言われたことがある。相手を勘違いさせるんだって」


「リョウコ自身は人間的な最低限度の礼儀とか倫理観とか、親切心とか慈悲とか──そうした自分自身の好き嫌いの感情を除けたところで忍耐強く慎重に動いているところがあるけれど、相手はそれを自分自身への個人的な好意や依存だと勘違いして、そうしてその親切心に付け込んでもいい、使い物にしてもいい、下に見てもいい、と勘違いさせてしまうところがあるんだよ。そんな風に思い込む相手にそもそも問題があるんだけれど、そうした人間を惹きつけやすいんだ」


 レネ君が淡々とした調子でそう言うと、涼子さんはしゅんとしている。


「良かれと思ってしていた事が悉(ことごと)く悪手だったみたいで、本当に情けないかぎり。疑わしきは罰せずで、きちんとはっきりしないままで見切り発車で裁くのは違うと思って、おかしなことが続いていても真実がはっきりするまでは保留にしておかないといけない、って思っていただけなのだけれど、それがどうやら、そこまでしてでも私に必要とされている、好意を持たれていると相手を勘違いさせていたみたいなの。


 しかも、元夫に関して言えば、妹と一緒になって隠れて私を精神的に追い詰めたり自殺に追い込もうとしたり、ガスライティングを繰り返して虐待していながらも、表面上はいい人の振り、私の味方の振りをし続けて、それでも私の為にそばに居てやっているんだと本気で思っていたみたいなところがあったから、そんな自分に対して感謝が足りない(私が彼に無償の愛で奉仕をするべきだとどうやら考えていたみたい)ことでまた身勝手な復讐心から陰湿な攻撃を隠れてするみたいな……。私としては、本当は真実をはっきりさせてぐだぐだした関係を一日でも早く精算したかったのだけれど、日常鵜的なガスライティングから私が疑心暗鬼になっているだけで私自身がおかしいと思い込まされていて、それをはっきり口に出せなかったところもあったし、身動きできない状態に留め置かれながら、隠れた攻撃をそれとはっきりとはわからない様にされながらずっと受け続けていたんだよね。


 そんな相手に対して愛情なんか持てるわけないのに──本当は生理的な嫌悪感しかないのに──自分が勝手に相手を悪く疑っているから悪いのだと思い込まされて、それを隠して我慢し続けていたから、真偽をきちんと見極められるまではこちらも最低限の人としての礼儀や倫理は守らないといけないって思っていたから、それがよくなかったんだと思う。自分でも自分が何を考えているのかよく解らなくなってしまったし。それをそこまで忍耐強くするほどの好意や愛があるからだと、必要とされている、依存されているのだと相手を勘違いさせてしまっていたみたい。


 妹に関しても同じで、結局、こうした人たちは、不自然な分不相応な自尊心を他者を貶めたり虐待する事で得ているから、何でも自分に都合よく解釈してしまうのだと思う。相手の人権や選択の権利があること等に、本当に、思いもよらないみたいで、考えもしないみたいだった。特に、こと、犠牲にしているものや相手に対しては。


 それを話し合おうとしても全く通じなかった。何度も何度も何度も話し合おうとしたのに、勝手に自分に都合よく脳内変換してしまうのか、本当に、全く言葉が通じなかった。彼等彼女等は分不相応な自尊心をそこから得ているからこそ、犠牲者や犠牲にしているものを徹底的に見下して、貶めて、使い物にしてもいいと考えているから」


「ふざけたどうしようもなく穢《きたな》い甘ったれた根性だと思います。確かにそうした甘ったれた歪んだ根性は、事を大きくする前に、本当に早い段階で叩き潰されてしかるべきですね。聖一さんの言っていた事は正しいと思います」


 私は冷静にそう言って、お茶をすすった。加害者や加担者の話は聞けば聞くほど胸糞悪い。本当に、何なんだよ、こいつらは──どうしたらそこまで傲慢で穢い甘えを垂れ流す有害な屑になれるのか。本当に謎だ。生理的な嫌悪感や不快感、気持ち悪さでむかむかする。


「そうよね……情け容赦なく、完膚なきまでに徹底的に叩き潰しておくべきだったのよね、少なくとも二度と日の目を見れないくらいには──私も甘かったわ」


 はあ、とため息をついて頬に片手を添え憂いを湛(たた)えてそう言う涼子さんに、私は冷静に突っ込んだ。


「いや、そこまでは聖一さんもさすがに仰っていないのでは」


 レネ君が笑いながら言った。


「まあ、そのくらい徹底的にしておく方がよかったのは間違いないんだけれど、なかなか難しいよね。そもそもリョウコ自身は、その当時はまだ相手の正体がわかっていなかったのだし」


 涼子さんはうんうん、と勢いよく頷く。


「そう、その通り。相手は、いい人の振り、被害者の振り、無害で罪のない一般人のふり、親切な人の振り──本当にそうした表面上のパフォーマンスは上手だし、生きてきた年数分以上の詐欺師のプロみたいなものだから──こちらの善意につけ込む事も、罪悪感を刺激する事も、被害者の振りをする事も本当に信じられないくらいにうまくて、巧妙で、とても長(た)けている。私の考えが単に甘かっただけではないのよ! 失敗したとは思っているけれど」


「なるほど」


 私はお茶を飲みながら頷いた。開け放したガラス戸の向こうは爽やかな秋晴れの空と風に揺れる緑つややかな樹木や愛らしい草花たち。とても気持ちいい午後のひととき。話題はなんかアレな感じだけれど。


「そもそもそういう人達は、犠牲にしている人や存在に対して、自分に立ち向かって来たりするべきではないと本当に心(・)か(・)ら(・)見(・)下(・)し(・)て(・)い(・)る(・)から、少しでも被害者たちが自律性や健全な自我の強さや自尊心を見せたりしたら、嫉妬や羨望も相まって徹底的に叩き潰してやらないと気が済まないし、その分不相応な自尊心から、ほんの些細な身勝手な理由でも更に陰湿で残虐な攻撃をするし、執拗につきまとい難癖をつけて絡み続けるし、それを正当化する。


 たとえば自分への敬意が足りないとか挨拶が気に入らないとか、自分よりも才能があるから生意気だとか些細な事で腹を立てて、犯罪や殺人まで正当化するとかね。大袈裟に言っているのではなくて、本当にそういう人達なんだよ。


 こんなような人達は、その分不相応な自尊心を早い段階で徹底的に叩き潰されていなければ、どんどんエスカレートするだけでなく、似たような因子を持つ人間を惹きつけてどんどん増長し、増殖するから、ちょっと特殊で、健全な人になら有効かもしれないような寛容さとか理解とか、人間的な情や善意をそもそも懸けるべきではない(それらが仇(あだ)となる)存在なんだよね」


 レネ君がそう言って、


「従来の人間観とか心理学とか精神分析学とかでは対処できない種類の人達だし」


 そう付け加えた。


「以前、沙羅の家族の事を話したときに、聖一さんも似たようなことを言っていた(※第3章 9参照)」 


 そう言って私は涼子さんに、海の双子の兄弟の陸の彼女が沙羅なのだと説明した。


「こうした種類の人達がよく使う人心操作や詐術の典型的な手法があるんだけれど、それを知っておくだけでも少し違うかもしれない」


 レネ君がそう言って、私達に簡単に説明してくれた。


「これはマニピュレーターの使う関係操作手法の特徴で、心理学者のジョージ・サイモンによって潜在的攻撃性パーソナリティの特徴として紹介されている※んだ。被害者自身や周囲の人に被害者自身の認識を疑わせる精神的虐待手法であるガスライティングの手法でもある。ガスライティングは、統合失調症や認知症などの精神的病の状態を状況設定して、作為的に被害者に対して病を捏造する手法として特にカルトテロリストや社会的・精神的な快楽殺人者がよく使う。



矮小(わいしょう)化:

 加害者が自分の攻撃行為を「大したことない」「ただの冗談」などと軽視し、被害者の反応を過剰に描く戦術。これは嘘の一形態で、問題の深刻さを否定し、被害者を「敏感すぎる」と感じさせることで、加害者の行動を正当化する。例えば、精神的虐待を「ちょっとした意見の違い」と矮小化し、被害者の苦痛を無視する。これにより、被害者は自分の感覚を疑い、加害者が優位に立つ。



虚言:

 事実を意図的に歪曲したり、嘘をつくことで現実を操作する。潜在的攻撃者は微妙で隠れた嘘を好み、証拠を残さず被害者を混乱させる点を強調する。例えば「そんなこと言ってない」と否定し、被害者の記憶を疑問視させる。これにより、被害者は自分の判断力を失い、加害者の支配下に置かれる。



否認:

 自分の行動や意図を完全に否定し、被害者の主張を無効化する。これは被害者を後退させ、罪悪感を抱かせるためのもので、加害者が「何もしていない」と主張することで攻撃を継続する。例えば、侮辱したことを「そんなつもりじゃなかった」と否認し、被害者を「勘違いした人」に仕立てる。これにより、被害者は自己疑念に陥るし、周囲の人にも被害者に問題が在るかのように印象操作ができる。



選択的不注意(あるいは選択的注意):

 都合の悪い情報を無視し、注意を向けない戦術。「精神的な耳栓」と呼ばれる。加害者が被害者の懸念を聞き流すことで問題を回避する。例えば、批判された点を無視し、別の話題に焦点を当てる。これにより、被害者はフラストレーションを溜め、加害者がコントロールを維持する。



合理化:

 自分の行為を正当化するための言い訳を作成する。これは攻撃を「合理的」に見せかけ、被害者や周囲を欺き、納得させるためのもので、加害者の良心欠如やその加害侵害行為による責任問題を隠す。例えば、裏切りを「君のためだった」と合理化し、被害者を説得。これにより、加害者の行動が容認されやすい。



話題転換:

 会話を逸らし、核心を避ける。加害者の防御戦術。加害者が不都合な質問から逃れるために使う。例えば、責任を問われたら「それは過去のことだ」と転換し、被害者の焦点をぼかす。これにより、問題解決を妨げ、加害者が優位に立つ。 被害者や周囲の人々を意図的に混乱させ攪乱(かくらん)する為に使われる。



はぐらかし:

 曖昧な回答で質問を避ける。意図的な曖昧さを使い、被害者を混乱させるためのもので、直接対決を回避する。例えば、明確な約束を求められたら「まあ、考えておくよ」とはぐらかす。これにより、被害者は満足せず、加害者が時間を稼ぐ。 意図的、作為的な騙しや誤魔化しの詐術。



暗黙の威嚇:

 明示的でない脅しで被害者を不安にさせる。加害者が被害者を「一歩下がった位置」に置くためのもので、暗示的な脅迫を使う。例えば「そんなこと言うと、後悔するよ」と暗に威嚇。これにより、被害者は自主的に譲歩する。正当な権利や問題解決から被害者や周囲の人々を退かせたりする為に使われる詐術。



罪悪感を抱かせる:

 被害者に罪悪感を植え付け、譲歩を強いる。これは威嚇の一形態で、加害者が「君のせいで傷ついた」と主張するなど。例えば、拒否されたら「そんなに冷たいのか」と罪悪感を刺激。これにより、被害者は自己犠牲的に行動するように誘導される。被害者や周囲の人々が持つ健康的な善意や優しさ、寛容さ、社会的善や美点、倫理観等につけ込む為の詐術で、常套手段でもある。



羞恥心を刺激する:

 被害者の恥ずかしさを煽り、自信を失わせる。これは威嚇の武器で、加害者が微妙な侮辱で被害者を貶める。例えば、「そんなことで怒るなんて幼稚だ」と羞恥を刺激。これにより、被害者は沈黙し、加害者が支配する。被害者や周囲の人々が持つ健康的な善意や優しさ、寛容さ、社会的善や美点、倫理観等につけ込む為の詐術で、常套手段でもある。



被害者を演じる:

 自分を被害者に見せかけ、立場を逆転させる。加害者が「可哀想な自分」を強調し、被害者や周囲の同情を引く。例えば、批判されたら「いつも僕が悪者だ」と演じる。これにより被害者は罪悪感を抱く、あるいは周囲が同情する等で加害者の行動を許すように誘導される、又は、周囲に被害者を攻撃させる様に誘導するなど。被害者や周囲の人々が持つ健康的な善意や優しさ、寛容さ、社会的善や美点、倫理観等につけ込む為の詐術で、常套手段でもある。



犠牲者を中傷する:

 被害者を悪者として描き、自分自身や自分がしている加害侵害行為を正当化する。加害者が攻撃を逆手に取る戦術でもある。例えば、「君が挑発したからだ」と中傷。これにより、周囲の支持を失わせ、被害者を孤立させるなど。これは本当によく使われる手法。加害者や加担者の精神内界構造上、こうした行為は頻繁に行われる。加害者や加担者自身の問題を被害者に責任転嫁し、意図的・作為的に周囲の人々や被害者を騙し、巻き込み、都合よく犠牲のシステムを作り上げる(いじめや虐待、嫌がらせ、人権侵害や犯罪行為の正当化をして標的に対しての攻撃を煽動する、正当化する)為の詐術で常套手段。



忠実なるしもべを演じる:

 善意の奉仕者や敬虔な信者を装い、野心を隠す。加害者が「君のため」と利他を演じつつ支配を狙う。例えば、過度に手伝い、恩を着せてコントロールする。これにより、被害者は感謝又は罪悪感をもつように誘導され加害者の意図を見抜きにくくさせられる。 善い人間の振り、親切な人間の振り、社会的・政治的奉仕者など、表の顔の裏で悪事を効率よく隠す為によく使われる。被害者や周囲の人々が持つ健康的な善意や優しさ、寛容さ、社会的善や美点、倫理観等につけ込む為の詐術で、常套手段でもある。



人をそそのかす:

 魅力や誘惑で信頼を獲得し、操作する。加害者が被害者や周囲を味方化するためのもので、甘い言葉や実際の利益供与、性的な誘惑、犯罪行為や背信行為の背徳感によるスリルや快楽、秘密の共有による親密性等を使う。例えば、褒めちぎって弱みを引き出す。これにより、被害者や周囲の人々は警戒を解き加害者が優位に。いじめや虐待、人権侵害、犯罪行為などに加担させ、そこで得らえる快楽や利益、秘密の共有による親密性などを演出し、更なる虐待や犯罪行為へと誘導し、それを正当化する為にもよく使われる。



責任を転嫁する(他人のせいにする):

 自分の過失を他者に押しつける。加害者が「君のせいだ」と主張し、被害者を防御的にし、守勢に立たせる。例えば、失敗を「君のミス」と責任を転嫁。これにより、加害者の責任が免除され被害者が負担を負う。 被害者や周囲の人々が持つ健康的な善意や優しさ、寛容さ、社会的善や美点、倫理観等につけ込む為の詐術で、常套手段でもある。



無実を装う:

 無実を演じ、攻撃を隠蔽。加害者が「何も知らない」と装う戦術。例えば、害意を「偶然だ」と主張。これにより、被害者は疑念を晴らせず、加害者が逃れる。被害者や周囲の人々が持つ健康的な善意や優しさ、寛容さ、社会的善や美点、倫理観等につけ込む為の詐術で、常套手段でもある。



無知を装う・混乱を装う:

 知らないふりや混乱を装い、責任を回避。これは被害者の説明を強要し疲弊させるための意図的な戦術。例えば、「わからないよ」と装い、議論を長引かせる。これにより、被害者は苛立ち、加害者が優位になる。被害者や周囲の人々が持つ健康的な善意や優しさ、寛容さ、社会的善や美点、倫理観等につけ込む為の詐術で、常套手段でもある。



これ見よがしに威嚇する:

 怒りを露わにし、威嚇。加害者が感情を武器に使う戦術。例えば、突然声を荒げて被害者を萎縮させる。これにより、被害者は譲歩し、加害者がコントロールを強化する。



 これらは、マニピュレーターが隠された攻撃として対人操作の中で意図的に使う典型的な手法で、様々な感情言語を使って隠れた関係操作を行ない、被害者を守勢に追い込み、自分の望む通りの事態を惹き起こす為の方法としてよく使われている。彼等彼女等が意図的に使うこうした対人操作について見破ることのできる人は殆どいないので、彼等彼女等は、人を搾取し、思いのままに操り、相手をいたぶり、虐待し、人権侵害や犯罪行為さえも受容させたり、正当な権利から退かせたり、譲歩を引き出したり、被害者こそが問題かのように被害者自身や周囲の人に印象付けたりしているんだよ」


 


※

IN SHEEP'S CLOTHING Understanding and Dealing with Manipulative People

George Simon, Jr., Ph.D.

他人を支配したがる人たち 身近にいる「マニピュレーター」の脅威  

ジョージ・サイモン  秋山勝[訳]  草思社文庫 (2014) 

*2013年同社刊行『あなたの心を操る隣人たち』を改題し文庫化されたものです。




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