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不可視属性の魔法少女と夢見る使い魔  作者: へるきち
不可視の国のアズキ

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50/52

050. 不思議の国のアズキ:破

「あ、やっぱりワシにアジャイルは無理じゃったか」

「おい? なんで今、そんな反省してんだ?」


 猫ミニバンに乗って大気圏に突入する直前に、ニャア先生が不穏な事を口走った。


「ワシ、エスカレーションは大事にする主義じゃけ正直に言う。ワシの作った自動運転AIに致命的なバグがあったんよ」

「おい、命にかかわるんだから、運用しながらデバッグすんなよ。アジャイルを勘違いしてるぞ。お前だって、元はIT派遣ソルジャーだろうに」

「ワシ、IT奴隷じゃし。ついでにゆうと、ネットワークエンジニアじゃし」

「だったら、何で自動運転AIになんて手を出したんだ!?」


 などと、この場でニャア先生を詰めても意味はない。

 今は、リカバリーが大事だからね。


「各自、転移魔法で脱出って事でいいか?」

「ワシ、魔法使えんのじゃけども」

「ええ!? お前のバックアップデータは無いんだぞ。生きたうさぎのヌイグルミになってもいいか?」

「気にするな。ワシは、このフネと運命を共にする」

「諦めるなよ、おい」

「タマヨン。実は、私も魔法は使えないのよ」

「お前もかよ!?」

 アズキまで、なんでこんなタイミングでカミングアウトするんだ。

「あ、マジでワシは平気じゃけ。無敵のドングリウム合金は伊達じゃない」

「ほんとだな? 防御魔法だけ掛けておくから、達者でな!」

「ほんじゃあのー、またのー」


 あ!

 魔法使えないの、俺もじゃん!


 確かに、ドングリウム合金は無敵だった。

 タマヨン達は、生きたまま地上に辿り着いた。

 でも、猫ミニバンが地上に激突した瞬間に、魔導核融合現象とやらが発生したらしい。

 激突の直前に、ニャア先生がそう言っていたのが、うっすらと聞こえたよ。

 その現象は、強大なエネルギーを発生させた。

 そのせいなのだろう、ラゾーナ宮殿に墜落したはずが、多摩区の公園に飛ばされていた。


「月がとてもキレイだね」

「だから、それは当然の事でしょ?」


 タマヨンとアズキは、公園のベンチに座って月を見上げている。

 偶然なのか、ここはアンと初めて会った公園だ。

 もっとも、川崎市ではなく、神聖カワサキ帝国なんだけど。

 まあいい、これで充分だ。

 不思議の国なんかに来てもいないし、アズキが生きた毒うさぎのヌイグルミになったりもしていない。

 していないはずなんだがー。


「うわー、遅刻遅刻ー! お茶会に遅れちゃうよー!」


 パンを咥えたうさ耳パーカーの少女が、曲がり角の向こうからやって来た。

 えーっと、アレは何だ……。

 タマヨンは、アリスが短剣で魔獣を殺して回るゲームでしか、あの名作を知らんのだが。

 パンを咥えてるし、ラブコメの仕様に従って、ぶつかりに行くべきなのだろうか?

 なんか、こっちをちらちらと見ながら、曲がり角手前でタイミングはかってるし。

 でも、相手ならちゃんと居るみたいだぞ?

 曲がり角のこっち側で、釘バットを構えたセーラー服の女が待ち構えてるよ。


「ニャア先生とは、はぐれちゃったわね」

「そうだなぁ。地下鉄に乗ってラゾーナ宮殿に行ってみようか」

「それはどうかしら? あの衝突だと大災害よ。私の計算だと、半径1キロメートル、深さ400メートルのクレーターが出来ているわね」

「だとすると、地下街のアゼリアも壊滅だな。カワサキ競馬場も危ないくらいかな」

「ええ、そうよ。だから行くのは危険。喫茶ヨミランドに行きましょう。きっと、梅ちゃんも、そこに居るわよ。あのポンコツカーが、そんなのもう無いって言ってたのも気になるし」


 バキぃ! うぎゃああああ!

 破壊音と悲鳴を背中に聞きながら、タマヨンとアズキは喫茶ヨミランドへ向かう。

 今の光景、どっかで見たな?

 アレは乙女ゲー世界に転生した夢の中だったっけ?

 と、少しだけ気にはなったけども、今はそれどころじゃない。

 タマヨン達は、梅ちゃんのお茶会へ行くんだ。

 まあ、ちょっとした不思議の国ではあるな。


「お? 無事に来れたんか。ここケータイ使えへんから心配したで」

「うん。もしかしたら一回死んだかも知れなけどね」


 タマヨン達が知っている場所に、ちゃんと喫茶店はあったし、梅ちゃんも居た。


「ミヨちゃんは?」

「それがなあ、よう分らへんけど、ここ空き店舗やってん」

「まさか、勝手に居着いてんの?」

「せやで。実効支配目指して、勝手に営業中や。メタル喫茶クロスロードの復活や」

「んん? 一体何年ここに居るつもりなの?」

「さあなあ? 20年くらいでええんちゃう? 知らんけど」

「のんきだねぇ」


 喫茶店はあるが、店名がヨミランドではなかった。

 ただそれだけの事か。

 なんて融通の利かないナビ機能なんだ、あのナンパ猫ミニバン。

 もしくは、もう無いんじゃなくて、まだ無いのかも?

 ダメガミシティ経由だから、時差の違いから過去に来たんでしょ。

 あるいは、未来にね。

 そういうのは、もう慣れたよ。

 だとすると、禁忌のはずのタイムリープをしちゃった事に!?

 これは! 大発見なのでは!

 きっとこれは、お金になるよ!


「何かを、閃いた! って顔してるけど、まず状況を確認しましょうよ。アンとニャアが帰って来る場所が無いままになるでしょ?」

 アズキの言う通り。

 アンとニャアが帰って来れない場所だったら問題だ。

 障害対応は、まず足元の確認からだ。

「3階も空いてるんだよね? 見て来るね」

「ええけど。何もないで」

 アズキと3階へ上がってみれば、確かに空っぽだ。

 ここに持ち込んだはずの、ソファやテレビは何も無い。

 物が無いから、随分と広く見える。

 不思議の国に迷い込んだ感じが強くなるよ。


「ねえ? ここ、テレビくらい無いの?」

 1階に戻って、梅ちゃんに確認する。

 店内には、テレビもラジオも、オーディオセットも無い。

 メタル喫茶とは? ってのは今どうでもいいとして。

 情報源になるものが、何も無い。

「それがやなー。テレビやら、めっちゃ高いねん。パソコンなんて売ってもないんやで」

「あー、そういえばそうだったわ」

 この世界には、インターネットなんて無いんだよなあ。

 うーん、アナログ全盛の世界って、こんなにも不便だったのか。

 でも、老害じじいは、この程度ではへこたれないよ。

 タマヨン人生の半分は、だいたいこんな世界だったもの。

 図書館にでも行こうかな。

 新聞も置いてあるでしょ。

「図書館にでも行ってみようか?」

「そうね。お散歩のついでに行きましょうか」


 もちろん、グーグルマップも使えない世界だ。

 絶対迷子感の保持者であるタマヨンが、道に迷わないワケが無かった。


 つづく


予告

「ここは、タマヨンの魂が還る場所なのね?」

 次回 不思議の国のアズキQ

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