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不可視属性の魔法少女と夢見る使い魔  作者: へるきち
不可視の国のアズキ

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047. 家族の証明

「ミスをしたら、すぐにエスカレーションする」


 それが、システムエンジニアになった時に最初に学んだ事。

 隠蔽や虚偽の報告をすると、事態を悪化させる。

 それがシステム障害に繋がるものであれば、二次障害へと発展していき、いずれ全国レベルのシステムダウンすら引き起こすのだから。

 これだけはずっと守って来たから、どんだけマヌケなミスをしても、20年に渡って現役で居られたのだと思う。

 だから、タマヨンは契約の指輪の紛失を、すぐにアズキに伝えた。

 アズキがタマヨンの上司なのかどうかはともかく。


「そんな事もあろうかと思って、ちゃんと代わりを用意しているわ」

 アズキは、そう言って髪飾りを差し出した。

 ドクロマークの、宇宙海賊かメタルバンドみたいなデザインだ。

 リンゴのデザインだったら捨てるところだったよ。

 あ、別に他意はないよ? リンゴより梨が好きなだけで。多摩川梨オイシイ。

 早速、鏡を見ながら左耳の上辺りに付けてみる。

「お? ええやん。タマっちのダルそうな雰囲気に合っとるでー」

 梅ちゃんの評価も上々だ。

 タマヨンは、鏡を眺めてムフーっとなる。

 我ながら、なんて美少女ヅラなんだろうか。ツラだけはいい、ツラだけは。

「なんや鏡見て悦にいっとるようやけど。タマっちは、自分で思うてる程、美少女ちゃうけどな。そこそこや、そこそこ」

 梅ちゃんが、急になんかヒドイ事言う。この堕女神め。

「え!? だって、髪はサラサラだし、睫毛はビシバシ、肌はつやつやじゃん」

「それは、乙女ならみんなそうよ。タマヨン」

 アズキまで、そんな事を言う。

 でも、そうか。そういえばそうだよ!

 ちょっと前まで、干からびた初老のおじいちゃんだったから、勘違いしちゃってた!?

 初老のおじいちゃんから、14歳女子に転生しちゃったからなあ、ギャップがなあ。

「でも、初対面のヒトが、タマヨンに優しいよ? ツラの力でしょ、コレ」

「余程のサイコパスでも無い限り、若い女子には優しくするでしょ。それに、じじいタマヨンが、強面の悪人ヅラ過ぎたのよ。それと比較してもね?」

 そうかー、そうだったかー。

 客観的に落ち着いて、よく見ればだ。

 目はだるそうに半分閉じてるし、うっすらクマがあるし、生活に疲れ切った感じが倫理規定違反で生成AIにイラスト化を拒否されそうな感じだ。10代の子供が、こんなに疲れきってちゃいけない。これは、残念美少女ってやつ?

 うーん、すっかりナルシストになってる事の方が問題なんじゃ?

 まあ、いいや。

 タマヨンは永遠に若い女子として、永遠にちやほやされよう。

 使える武器は惜しみなく使うのが、戦術の基本だよ。

 何と戦ってるのか知らないけど。

「ところで、指輪は何処行っちゃったんだろう?」

「お風呂で顔洗う時外してたでしょ。その時、そのままにしちゃったんじゃないの? もう流れちゃったかもね」

「髪飾りなら、周りの誰かが気付くやろ。知らんけど」

「でも、契約に影響するものじゃなくて良かったよ。指輪はあくまで記念品なんでしょ? 契約の刻印は背中のイラストなんだし」

 指輪は、記念品だから失くしても契約が無効になったりはしない。

 それは、最初にアンに確認した事だ。

「背中のイラストって何や? 前からそんなんゆうてるけど。タマっちの背中は、つるんとして何も描いてへんで」

「え!?」

「アンに騙されてるか、アンにしか見えないインクなんじゃないの?」

 どういうこと?

 確かに、スマホで写真撮って見たよ?

 でも、その写真撮ったのはアンだし、生成AIで加工したとかあり得るよね?

 そういえば、アンはお尻にイラスト入れたって言ってたけど、そんなの見た事ない。

 あいつは、一体何がしたいんだ……この場に居ないから確認のしようもない。

 とりあえず課題管理表には載せておこう。優先度はー、ランクDかな。

「アンコにゃんは、まだ赤ちゃんなんやろ? 独占欲強めなんちゃう? 知らんけど」

 さっきから、知らんけどばっかりだな、この堕女神。

 別に、会議してんじゃないんだから、議事録にも残さないし、責任の追及もしないよ。

 と、言いつつ、こうやって日記にして小説投稿サイトにアップロードしちゃってるけどね。

「そうだ。髪飾りだと、サンドボックス環境に居るかどうかの確認がちょっと困る」

 仮想環境であるサンドボックスに魔法で入っていると、指輪がうっすらと黄色く光る仕様なのだ。魔法の倫理規定違反をしてる時は、赤く光る。これが見えるかどうかは、結構重要。髪飾りだと自分の視界に入らない。

 何をやっても現実社会には影響しないサンドボックス環境の中では、非道な行動もとるからね、事故が起きたら大変だ。

 テスト環境に繋いでるターミナル画面の背景は黄色、本番環境は赤、そのノリ。いやまあ、それやってても本番環境破壊しちゃう事あるんだけどね?


「そこも考えてあるわよ。髪飾りはアンが作ったけど、こっちは私が作っておいたわ」

 アズキに、首掛けストラップに付いた名札を渡された。

 社畜御用達アイテムじゃん。だいたいの会社では、ストラップの色で派遣かどうか分かる、奴隷の紋章みたいな機能を持っている。

「え、ヤダよコレ。外で付けたくないし、スグ失くしちゃうよ」

 エレベーターのドアに挟まれたりとか、何度も落としたよ。

 フリーアクセスの床下に封印しちゃった事もある。

 あれなあ、開ける申請が面倒で泣いたなあ。

「タマっちならそうやろな。ワイが代わりのもんを預かっとる。ニャっすの作ったスマートウォッチや。ソーラー発電で充電不要、ダメガミシティのタイムサーバと時刻同期する優れもんらしいで」

 今度は、梅ちゃんにスマートウォッチを渡された。

 早速、左腕に嵌めて、スマホとブルートゥースで接続しておく。

「でもなんで、梅ちゃんが預かってんの?」

「ニャっすはアンコにゃんに預けとってん。ほんで、アンコちゃんがフードデリバリーに行く前に、ワイに託したちゅうわけや。ワイも、アンコにゃんとは使い魔契約しとるからな」

「いつの間に、そんな契約を」

「アンなら、数子と桜子のところにたどり着いてる頃ね。きっと、あのふたりとも使い魔契約しちゃってるわよ。タマヨンと離れちゃったから」

 アンはまるで、誰とでもコラボするハローキティさんだな。

 その社交性を、タマヨンにも分けて欲しいくらいだ。

 ところで、バックアップアイテムを分散して預けてるのは、リスク分散して正しいのだけど、何故タマヨン本人に預けないのか?

 指輪を失くしちゃうマヌケだから仕方ないか。

「ほい。アズキ様のもあるで。このスマートウォッチは、みんなの分がある。お揃いのバンド付きやで。ワイのもあるんやで」

 アズキのは白、梅ちゃんのはピンク、タマヨンのはスカイブルーのバンド。

「いいわね。タマヨンファミリーって感じで。どんな生体データとられてるのか、ちょっと不安もあるけど」

 スマートウォッチを嵌めたアズキは、まんざらでも無さそうだ。

 ちょっとツンデレ気味なとこあるなあ、アズキは。

「誰かがピンチに陥れば生体データから判断して、グループチャットに発報されるらしいで」

 まるで、データセンターの監視システムだ。

 ニャアが作っただけの事はある。

 離れ離れになっても、繋がっている感じがあっていいね。

「タマヨンが指輪を失くさなくても、渡してくれたら良かったのにね?」

「失くしたら次は無いぞ、っていう躾けなんちゃう?」

「なるほど。それは必要なことね」

 タマヨンは躾けられて、生体データを監視されて介護されている気がするね?

 今に始まった事じゃないか。


「ほんでー、これからどないする? 図書館の本は、電子書籍版を読めるサブスクを永年無料にしてもろたし。あとは、データセンターの見学くらいやろか?」

「データセンター見てもなあ。ものすごくのどが渇いちゃうし、眠くなる呪いをかけられてるからなあ」

「それは、呪いちゃうわ。誰でも、そうなるわ」

「サーバラックが並んでるだけなんでしょ? そんなの見て何が楽しいの?」

「それはそうかも知れん。ワイとタマっちは見慣れとるしな。なんやけったいなAIがおるらしいけど、それもスマホ越しにチャットで会話出来るみたいやし」

 ダメガミシティは狭いから、早々にやる事が尽きてしまったかも。

 露天風呂は惑星を俯瞰できて絶景だけど、アレはたまに入る方が、ありがたみがある気がするし。

 初日の出とか、見てみたいよね。

 あ、これ来年正月のタスクにいれとこ、オッケーグーグルタスクに入れといて。


「そういう事なら、臨時で博多号を運行しましょうか」

 そろそろ、ダメガミシティから外に出たいかなと、巫女ちゃんに相談したところ、そんな提案が。

「博多号なあ。アンコにゃん抜きで乗ると拗ねてまうやろし、ケツが割れるのはかなわんな」

「ケツどころか、全身が割れるでしょうね。何しろ、長距離トラックの荷台に押し込むだけなので」

「まるで、密航じゃないの。いやよ、そんなの」

 そりゃそうだ。

 ニャアは、山口から川崎までそれで移動したらしいけど、よく耐えたなあ。

 ん-、こうなると、タマヨンの転移魔法で行くしかないのかなあ。

 ここまで来た本来の目的が、ちっとも達成されてないよ。桜子姉さんが160億ドル散財しただけなんじゃあ?

「だったら、転移魔法で行くとして。この3人だと、川崎には帰れるかな」

 他の場所に行くには、ナビ役が不足してるからね。

 タマヨンが20年も暮らした川崎なら帰巣本能で帰れるはず。

「そうね。そうしましょうか。まずは、サンドボックス環境でテストしましょうか」

「そうだね。切り戻せなくなったら大変だ」

 リカバリープランの無い手順だから、慎重にやらないとね。

「じゃあ、まずはサンドボックス環境にー…… アレ?」

 どうした事だろうか、サンドボックス環境に移行した感じがまったくしない。

 視覚や聴覚にコンプレッサーがかかった様な、あの独特の雰囲気がまったくないよ。

「どないしてん? サンドボックス環境に入ったらスマートウォッチが黄色くなるはずやし、現実世界との時差も表示される仕様らしいで」

「まったく、変化ないわね」

 現実世界との時差を表示する機能とは、なんて便利なんだ。

 しかし、サンドボックス環境に移行できない。

「全員のスマートウォッチが壊れてるとは考えづらいね?」

「設計不良かも知れへんけど、ニャっすなら最低限のテストくらいしとるやろ?」

「ということは……?」

「タマヨンが、魔法を使えなくなってるわね」


 なんて事だ。

 そんな事起っちゃうの?


「ワシは、動物のお医者さんじゃないんじゃけど」

「ドラゴンの国で、ドラゴンの主治医をされていたじゃないですか」

「ほうじゃけども。アレは、治癒魔法で無理やり治しておっただけじゃ。まあ、動物のお医者さんは何回も読んだけえ、ストラト・ドラゴンくらい診察出来るじゃろ」

「そういうものかなあ?」

 さすがに、突っ込まずにはいられない。

 何故か、こいつにはそうするべきだと、魂の奥底で訴えるものがある。

 とても元創造神には見えない幼女、ニャアが目の前に居る。

 魔法が使えなくなったから病院を紹介して、と巫女さんに相談したらこうなった。

 たまたま、ダメガミシティに居住地証明書だかの取得に来ていたらしい。

 すっぽこのニャアと同じ素体らしいけど、似てはいない。

 すっぽこのニャアは金髪巻き毛で褐色の肌、こっちのニャアは黒髪にうっすらベージュ色の肌、でも暗闇で瞳だけ見ればソックリかもね?

 ふんわり長めの肩にかかるくらいのボブカット、体型はニンゲンの6歳児くらい。容姿にはこれといった特徴がなく、だいたいの大人はかわいがる感じ。幼稚園に居たら、紛れて誰だか分からなくなりそうな、そんな感じ。成長すれば、梅ちゃんみたいになりそうだ。

 とても、世界を破壊して再構成した元創造神には見えないな。

 シリアナナンバーとやらは、6か9か分からないとか。シリアナの天地が不明だからだってさ。女神シリーズの素体に刻まれたシリアル番号、それがシリアナナンバー。どこに刻印されているのかは、その名称から察して欲しい。梅ちゃんは0で、すっぽこニャアは2らしい。

 素幼女のニャアと呼んでおくか。

 こいつも、魔法を使えなくなってるらしいから。

「うーん、こうゆう事はよくある事じゃろ。ワシも魔法を使えんこなっちょるけえ」

「そういうものなの? 自転車の乗り方みたいに、一度取得したスキルって、そうそう無くならないかと思ってた」

「うん。その認識で正しい。知識は忘れる事もある。でも、技術はそうそう消えん。これは、異世界転生をしても同じじゃ。そうでもないと、異世界なんてサバイバルできんけえ。派遣と一緒じゃ。よその会社に派遣されても、技術だけは残っちょるじゃろ? 前おった会社のシステムの事は、資料の持ち出しは出来んし、スグ忘れるけど」

「あー、その話はよく分かるよ。タマヨンも派遣ソルジャーだったから」

 やっぱり、こいつはタマヨンそのものではないけど、もうひとつの可能性としてのタマヨン、あるいはもうひとつの可能性としてのニャアがタマヨンなのだ。フォークした存在。それが、タマヨンとニャア。こうして相対すると、それを何となくだけど実感する。

「ふーん? あんたは、ワシの知っておるタマヨンとは違うようじゃのう? アレは、もっとバカっぽい。ツラだけが無駄にええ。スマイル0円で世の中を渡るモンスターじゃからして」

「あ、そうなんだ。それってあんたの妹なんだっけ? こないだ悪魔の森で、ミーナってのとスズメに会ったよ」

「ほうじゃよ。前は、タオルくんと呼んじゃった。本人曰く、タマヨンがもっとも馴染んだ名前らしいよ。乙女ゲームの世界でも、そうじゃったんじゃと」

 ふーん、いつだか夢に見た乙女ゲームの世界は、前世の記憶なのか、あるいは予知夢なのか?

 これも課題管理表に載せとくか。

 グーグルワークスペースのスプレッドシートで共有しておけば、誰かが解決して更新してくれるかもね!

「まあ、気にせん事じゃ。過剰な力は身を滅ぼすし、理解不能な力は現実感を失くして不安になる。ワシもそうじゃった。これは、タマヨンが自分で力を手放した結果じゃないかのう? いずれ、必要に迫られれば、覚醒するじゃろ。じゃって、お前も、チュウニなんじゃろ?」

 確かに、ピンチになれば覚醒するのは、チュウニ妄想の定番だ。

 自分から封印しといてでも、それをやろうというのが、またチュウニっぽい。

「魔法が必要な事態か……。それって、家族のピンチとか?」

「ほういう事じゃ。他に、大事なもんがあるか? それが、分っちょるんなら、ええじゃろ」

 人生の分岐点の様な決断を迫られた時に、基準になるのが「何が自分にとって一番大事なのか」って事だろう。それさえはっきりしていれば、どんな決断をしても、後悔する事は無い。

 それはどんなプロジェクトでも言える。最優先は納期なのか? 利益なのか? 品質なのか? ただ単にクライアントのご機嫌とりなのか? メンバーの健やかな生活か? そこを間違えなければ、どんな炎上プロジェクトだって消火してみせる。それは、20年間のシステムエンジニア生活で学んできたタマヨンだ。


 今回だって、きっと大丈夫。

 タマヨンは間違えない。


 だから、これからどうするのかはー。

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