043. 天空の村
「えらいこっちゃで! なんやねん、あの列車。惑星メーテル行きやんけ。データセンターに監禁されて、ひたすらPing打ち続ける刑に処されるとこやったで。しかも、手順書の6割以上が間違うてんのに、こっちが怒られんねん」
ああ、やっぱり梅ちゃんの初期データベースはタマヨンだわー、日吉のデータセンターでそんな刑務作業みたいなんやったわー。
タマヨンのシステムエンジニア人生の中で、印象深いイベントのひとつだね。
「下流で手順書通りの作業なんかやってたらダメだわ、もっと上流工程に上がんないと。そこで腹をポリポリ掻きながら踏ん反り返ってる、食えないブタさんのポジションまで上がらないと!」
って、強く思って、必死でスキルアップを図ったからね。
10年後に、そのデータセンターを閉鎖するプロジェクトに参画した時は、運命みたいなもん感じたなあ。
「数子と桜子は乗って行っちゃったな。大丈夫かなあ」
「……まあ、あのふたりなら平気やろ。惑星破壊して帰って来るんちゃう?」
梅ちゃんの弟子が乗れと言っていた6番線ホーム発の列車は、危険な世界行きだった。
あの弟子、師匠にどんな恨みがあるんだろうか? 梅ちゃんは、弟子に対して一体何をやったの?
ホームに来た時には発車ベルが鳴り響いていて、前世妹と姉さんが飛び乗ってしまった。
梅ちゃんとタマヨンは、運動不足でのっそりしていたのが幸いして乗り遅れた。
タマヨンと一心同体のすっぽこ娘達も、もちろん乗り遅れた。
「にゃあ」
「ありゃ? ドラヤキがおるっちゃ」
ホームには、もう一頭残されていた。
猫のドラヤキだ。
どうやら、今の列車に乗って来たらしい。
タマヨンシスターズのふたりとは、入れ替わりになった形だ。
「異世界鉄道には猫も乗れるワケ?」
「無期限パスさえ持っとったら、猫でもリラックマでも乗れるで。ちなみに、猫の無期限パスは無料で発行される。無条件に、とはいかへんけどな。ゆうても女神議長に会うだけや」
「この世界にやって来てアレに会うだけで、並の猫じゃない証明になるもんねえ」
「そうゆうこっちゃ」
ドラヤキは魔法が使えるし、自力でここまでやって来たのかな?
すりすりとタマヨンの足に擦り寄って来るドラヤキ。
ドラヤキは、タマヨンをよく出来た自動給餌機として認定しているので、お腹が空くとこういう行動をとる。タマヨンの足はタッチセンサー扱い。
「次の列車まで、だいぶあるみたいやし。ご飯にしよか」
「そうしたいのはやまやまだけど、お金が1ドルも無いよ?」
ここではVISAタッチもQRコード決済も使えないし、女神ドルの現金も持っていない。
「そうやったわ。お財布と、ついでに観光案内を調達して来るわ。どっかで食べとって」
「え? 連絡はどうやってとるの?」
「ここはドコモの圏内やねん。日本郵便が配達に来よるからな。いや? 民営化後は来えへんのやったっけ?」
マジか!? さすが元国営同士ダナ!?
まあ、どっちも最近はどうかって感じだけども……。(※個人の感想です)
「アレにしよ! ソバだって!」
駅前からちょっと外れた裏通りに、いくつか屋台が並んでいて、その中に「そば」と書かれた暖簾を下げた屋台がある。
ソバ屋なら、鴨肉とか猫が食べられるモノもあるかな。
ここは、あの作法に従っておくべきだろう。
もっともここの街並みは、ブレードランナーの冒頭シーンとは真逆で、昭和のひなびた地方都市のソレなんだけどね。
ちなみに、タマヨンは「ブレードランナー」と「2001年宇宙の旅」を何度観ても途中で寝てしまう。子供は寝てしまうっていう統計をどっかで見たけど、タマヨンは子供なのかな? 永遠のチュウニから更に年齢が下がってしまうな。
暖簾をくぐり席に着いて、屋台のオヤジに注文をする。
「よっつくれ」
「ふたつで充分デスよ」
こいつ、分かってるな。さては地球人か?
「ギョニソじゃねーか」
「あぁ、タマヨンか。久しぶりだな。毎日悪魔の湯に浸かってたら若返ってなあ。嗜好がラーメンに戻ったんだ」
屋台の店主は、カグヤ帝国から失踪したはずのギョニソだった。
この世界って、そんな気軽に来れんの?
タマヨン達の決死の覚悟は、何だったんよ。
「ここには、銀河鉄道で来た」
「さすがに、チャリで来たんじゃないんだ。どこに駅があったの?」
「カグヤ帝国の国境から、歩いて5分」
「あら? そんな近所にあったのね? 領地拡大しなくっちゃ」
アズキの発言はギョニソには聞こえないらしく、まったく反応しない。
「ああ、もしかして、五色龍達が一緒なのか? だからよっつか」
そう言って、懐かしのケミカルラーメンを、どどんとよっつ差し出すギョニソ。
うちのすっぽこ達、ここでは見える人にしか見えないみたいだ。
ギョニソじゃなかったら、ほんとにふたつしか出してもらえないところだったよ。
すっぽこ達は、食べ物の事になるとこわいからなぁ。
「んん? この味は、前と違うね?」
「分かるか? ワイバーンの骨で出汁を取ってるんだ」
「ケミカル調合じゃないんだ」
「今の女神議長が食にうるさいからな。食べても気付かないくせに、天然素材以外は禁止されてんだ」
「神のクセに、そんな細かいことに口出ししてくんのか」
「細かい事じゃないんだ。食べ物と風呂と布団、これが三種の神器だってくらいだからな。お前も、気を付けろ。冷めたもの出すと、即射殺だ」
女神こわい。
気をつけなくっちゃ。
お弁当を出すと、たとえ豪華な松花堂弁当といえども、ご飯が冷めてる! これはブタのエサだ! って怒り出す文化圏もあるけど、即射殺まではいかないでしょ。
「ここってワイバーンが名物だったりすんの?」
「ああ。女神議長はワイバーン肉料理で成り上がったらしい。ダメガミシティにはワイバーン牧場があるんだ」
「へぇ。異世界って感じー」
「そうだな。俺はもう、その程度は驚かぬが」
タマヨンは、異世界来るの半年ぶりだからね。
ワイバーンで成り上がりかあ、いいなあ。タマヨンは、それで失敗したもんなあ……。
「お? ちょうどおった。評判のラーメン屋って、やっぱギョニソはんかいな」
「梅ちゃんか。ひさしいな。お前と、そっちの連れも食べてくのか?」
「よっつくれ」
「はいよ」
「あれ!? ごめん、よっつも食えへんわ」
「そっち連れは、女神会議の役員だな? 賄賂として、12時間かけて煮込んだフォンドボーベースのオニオングラタンスープを付けよう」
「いや、賄賂ってストレートに言われましても……12時間もかけてるなら摘発しませんし」
ギョニソは相変わらず、社会性が欠如しているなあ。
ケミカル調理が禁止された世界で、フォンドボーとか修行僧かよ。
若返ると、こんな感じかコイツ。
まさか、ハルキストじゃないだろうな?
ゴリゴリの偏見に満ちているタマヨンに、ギョニソの批判はできないのだけど、もちろん自覚はあまり無いよ。ガワは14歳女児だけど、魂は老害じじいだからね。
梅ちゃんが連れて来ているのは、巫女服を着た14歳くらいの少女だ。
どうせ、見た目通りの年齢じゃないんだろうけど。
タマヨンが、ゆんゆん神託電波に従って書記した神話だと、不死身の巫女のはず。
死ぬと神社の境内に全裸で復活する。死体は、現場に残してね。
女神議長リーザを狂信的に崇拝する異常者達だ。
ソバ屋風の暖簾なのにラーメンなんかーいとか、ラーメン屋なのにフォンドボーかーいとか、そういう突っ込みは一切無いまま、タマヨン達は食事を終えた。タマヨン達は多様性に寛容だからね。ボケっぱなしで、いけすかない感じの東京の芸人みたいだよ。
「わたしは、巫女のリバーブです。ミラ様にはお世話になったんで、ここのお代は持ちますね」
巫女のリバーブちゃんが奢ってくれた。そうか、財布ってこういうことか。
「いや、お代は結構だ。賄賂だと言っただろう?」
「賄賂も即射殺の重罪なんですよ?」
「うむ? そうだったのか。では、元女神の異世界使節の接待として国家予算から貰っておこう」
「めんどくさいなあ、この人。実際その通りで、これ経費なんですけど。インボイス対応してますよね?」
「もちろんだ。ダメガミカードで決済してくれれば、経費精算が自動でできるぞ」
「ほんじゃー、これで。ってゆうか、この国はダメガミカード決済しかできませんけどね」
ギョニソとリバーブちゃんの説明的なセリフのお陰で、この国のITレベルが分かるね。
なかなか進んでおる。脱税は無理だろうな。
統治者である女神議長が、初期データベースとしてタマヨンのスナップショットを持ってるからかも。システムエンジニアが統治してる様なもんだからね。
「この国は、ダメガミシティっていいます。ミラ様……今は、梅ちゃんでしたか? 梅ちゃんの統治してた頃はクロスロードって名前でした」
「クロスロードって、世界の名前じゃないんだ」
「はい。世界には固有の名称は付かないですねー。地球人類にも、ニンゲン界とか地上界っていう区分しかないでしょ? 他には天国と地獄くらいしか無いって思ってるから。ニンゲンは、だいたいどこでもそうなので。主要な国名とかで呼ぶことが多いですね。だから、クロスロードもしくはダメガミシティっていえば、この世界全体を表す場合もありますね」
あー、それ分かるわー。
タマヨンの生まれ故郷を、なんて言えばいいのかっていうと、困るもんね。
地球だと、スケールが天体になっちゃって、異世界をカバーしてない感じだもんね。
だから、川崎って呼んでるけど。
「通称みたいなものはあって、ダメガミシティのある世界は、女神の総本山世界とか言ったりもしますね。その世界の特徴をあてます」
戦国異世界とか、まさにそのパターンだ。
「ほんでー、このダメガミシティは天空の島です。惑星テラワロスのラグランジュポイントに浮かぶ人工の島なんですよ。ありがちな設定ですよねー、ウケますね?」
確かにその通りなんだけど。巫女がウケるとか言ってていいのかな。女神様の御業なんでしょ?
「ラグランジュポイントってことは、地上から30万キロくらいじゃろか?」
そんな質問をするニャアは、科学的な知識も豊富だな。ガンダムネタかも知れんけど。
「いえ、重力的なのじゃなくって、魔導粒子の対流的なやつなので、地上からは100キロ程度です。端っこや高いとこからだと、青い塊がよく見えますよ。ヒトがゴミの様どころか、常在細菌くらいに見えますね。ちなみに、テラワロスの大きさは地球とおんなじですよ」
「へえ、そいつはヘヴィだな。マイブラザー! 俺達も、川崎の上空に城を浮かべようぜ!」
「まあ、そのうちね。カーマンラインって、国境あんのかな?」
「グレーゾーンってところかしらね? 軍事的に問題になるから、もっと高いところじゃないとダメね。地球の魔導粒子的ラグランジュポイントがどこにあるのか次第ではあるけれど」
「はあ、さすが五色龍はアカデミックなこと言いますね。17歳くらいにしか見えませんが。そっちのニンニンは幼体の頃のリーザ様くらいなのに。実際は何歳なんですか?」
「私とニャアは4歳で、アンはもうすぐ1歳よ。満年齢でね」
「脱法ロリかと思ったら、ガチ幼児と赤ちゃんだった!」
そういえば、すっぽこ達を拾ってから、もう1年近く経つんだなあ。
まさか、異世界のカーマンラインに浮かぶ島に来るなんてなあ。
血尿出してた頃のタマヨンに聞かせたら「チュウニ乙」としか言わないだろうなあ……。




