042. その列車に飛び乗れ
「なんじゃ、おしっしょさん。生きちょったん? 何年ぶりかいのう?」
あれだけ前振りしたというのに、梅ちゃんが砕け散って空の星になったりはせず、前世妹だけはぐれたりもせず、迷子にもならず、タマヨンの乳首が増えたりもせず。
何事も無く、無事にクロスロード世界の女神会館に辿り着いて、女神議長のリーザとやらにもすんなりと面会出来た。
通常の物語であれば苦労するところで、何の苦労も無い。
タマヨンが苦労するのは、老害故の偏見と、コミュニケーション不全なのだけど、今回はそれすらも無い。
この世界は、女神会議の統治下。
女神が直接統治する珍しい国家、ダメガミシティが中心なので、元女神の梅ちゃんは国賓待遇。国賓どころか神扱い。実際、引退したとはいえ神なんだし。
女神議長のリーザは、梅ちゃんの弟子だから、面会も顔パス状態で、何ひとつ苦労する要素が無かった。
もちろん、タマヨンはマゾではなく、むしろ逆なので、苦労したいとは微塵も思っていないから、何の不満もないよ。
人生、たまにはイージーモードでいいじゃん。
苦労なら、社会人になってからの40年近くに渡って、充分過ぎる程したよ。
でも今のイージーモードは、自分で努力して得た環境では無いから、自慢は出来ないし、きっと恒久的なものでも無い。油断は出来ぬ。俺にはナニガシさんがバックに~、みたいな行動をタマヨンは取らない。
「さあ、どやろ? ワイらの時間の観念は捻じ曲がっとるからな? ワイの主観では、3年程度ちゃうか」
「ワシの主観じゃと1万年は軽く経っちょるのう。最後におしっしょさんに会った時、ワシまだ幼体じゃったし」
女神というのは、コッテコテのインチキ方言を喋る規定でもあるのだろうか?
リーザとやらは、インチキな山口弁もしくは広島弁。
ニャアと一緒だ。
「ん-? 怪人ミツバチ幼女がおるんじゃがー。こいつ、ワシの異世界同位体じゃろか?」
「同位体かどうかは知らんけど、女神シリーズの素体使っとるな。シリアナナンバーがあるわ。2号機やで」
異世界同位体? 女神シリーズの素体? シリアナナンバー? また未知のワードが出て来たなあ。
「女神をキッティングするための素体があんねん。誰が造ったんか知らんけど。しりの穴にナンバリングがあんのよ。全部で10体らしいねんけど、たまに流出すんねんな。ニャアちゃんは、その一体って事やろ。知らんけど」
「ワシのシリアナに刻印? いつの間に見たんじゃ?」
「動物病院の先生がゆうとったで」
「あの先生、守秘義務無いんか!?」
「ワイも雇い主やったし、保護者やからな」
「あ、そうか。じゃあ、シリアナくらい仕方ないのう」
なんか最近、ケツに星とか、ケツが割れるとか、シリネタ多いなあ。
「なるほどー? ニャっすはガングロ金髪でバカっぽいけど、顔立ちだけならモブっぽいもんなあ。梅ちゃんとリーザにゃんに通ずるものがある。育ったら、こんなんになりそう。女神共って、すっげえモブヅラしてんなあ。全てのアニメの背景に、ひとりかふたり居そう」
桜子は女神を相手にしても、無礼な態度がブレない。これが、ワシの姉さんかー。
なお、タマヨンの一人称は、俺とわたしとワシとタマヨンの間で、ゆらゆらとロック・アンド・ロールしています。ロックンローラーなので。
「女神は目立ったらダメなんじゃろ。知らんけど」
逆な様な気もするけど、女神って、副業で忍者か探偵でもしてんの?
タマヨンは昔、そういうなろう小説を書いたことあるけど。
「んー? もしかしてリーザの神話って、なろうにあったりしない?」
「神話がラノベなの? それも異世界で素人に公開されてんの? バカじゃないの?」
アズキにストレートに罵倒されたけど、うん、タマヨンもそう思うよ。
でもなあ、リーザって名前とか、いろいろ一致しちゃってんだよなあ。
「いや、タマヨンの言う通りやで。地球の巫女が、ゆんゆん女神電波を受信して書いたはずやで。その巫女ゆうのは、他ならぬタマヨンの事やけど」
あー、マジかー。アレってそういう?
なんか急に使命感に駆られて、書いたんだよね。
コンテストの1次審査すら通過しないし、PVも評価も伸びない神話、ウケる。
途中で突然終わらせちゃったけど、あれは電波が切れちゃったのかな。
混信してたのか、複数バージョンが存在するし。
今でも、なろうに残ってるよ。
「ほんでー、何の用なん? 女神会議なら、次は千年後じゃったかな? 知らんけど」
知らんけどを多用するのも、女神の仕様なのだろうか?
そういえば人類に試練を与えるために、ほんとの事は3割しか言わないんだっけ?
めんどうな生き物だなあ、まったく。
システムエンジニアには絶対しちゃいけないタイプだわ。
クライアントを怒らせてでも、過酷で無慈悲な事実しか言わないのがシステムエンジニアだ。駄法螺ぶっこいて、後で泣かすよりは、普段からちょっとづつ怒らせておいた方が、ずっといいからね。
「会議に用は無いわ。会報だけは送っといてや。アレは、世界の真理がさらっと暴露されとっておもろい。事実は3割しか書いてへんけど。んでー、本題はやなあ、異世界鉄道のチケットが欲しいねん。7人分で、無期限パスが理想やな。無理なら回数券でもええけど」
異世界鉄道を利用するのは、この7人にした。
ギョニソはまた失踪したし、ミヨちゃんは神聖カワサキ帝国で生涯を終えるそうなので。
ギョニソは、悪魔の湯の効能で若返ったのか、突然ソバと陶芸の夢から醒めて、どこかへ旅立ったらしい。老人はソバを打ち陶芸を始める生き物だけど、若者は旅に出る生き物だからね。あいつは、人生の3周目に突入してしまったのだ。
少しだけ羨ましいと思うタマヨンである。
でも、戦国異世界で旅立っちゃったから、もう死んでるかもね。
あの世界では、ヒトの命なんてチェスや将棋の駒みたいなもんだから。
少し話が逸れたから、戻そうー。
「ワシの枠で無限パスを融通出来るから用意せちゃろう。他に、なんかあるん? さっさと用済ませて帰ってくれる? おしっしょさんには騙されてばっかじゃけえ、ワシの方は何も用が無いんじゃけど」
案外、弟子に大事にされていない梅ちゃん師匠だった。
「なんぼか女神ドルが欲しいんやけどな」
「ん-? 日本円は最近雑魚じゃけえ、両替出来んよ」
「え? そうなの? 米ドルならどうだろうか? 160億ドルあんだけど」
日本円は、異世界では雑魚通過に成り下がったかー。地球では、まだまだメジャー通貨なんだけどな。国債だって、金利は上昇してるけど格付けは落ちてない。
「まあ…、米ドルなら。地球の通貨自体が雑魚扱いになったからしてー、使うなら今のうちじゃぞ。160億ドルなら、7人分の無限パスにちょーっと足りんのじゃがー、今なら特別に160億ドルでええっちゃ」
さすがに、異世界間を移動出来る鉄道だけあって、高いなあ。
「ひとりあたり30億ドルくらいかしら? 日本円なら4500億円。子供料金と大人料金が違って、団体割引もあると仮定すれば、それくらいになるわよね。地球だと、社員40人連れて宇宙ステーションまで研修に行ける程度の金額だから、異世界間移動の無限パスとしては格安でしょうよ」
アズキの脳は浮動小数点演算ユニットでも内蔵してんの?
それとも、タマヨンがアホ過ぎるのかしら?
「ん? ワシのどんぐり勘定じゃよ。通常なら100倍でも買えんよ。黒帽子の魔女に魂を売っても、少年一人が限界。しかも片道切符」
どんぐり勘定ってなんだ? すっぽこ達も、どんぐり好きだけど、女神もなのかな?
いちいち突っ込んでると話が進まないから、放っておこう。
「ともかくお買い得って事だな! この支払は、姉ちゃんに任せな、タマにゃん。あ、VISAかアメックス使える?」
そういって、ちいかわのお買い物検定1級VISAを財布から出す。
そいつの限度額は、最大でも100万円程度じゃないかな? ゴールドカードですら無いし。エポスカードはゴールドで最大300万円だ。
ちなみに、タマヨンのクレジットカードは3枚で合計800万円が上限。
昔は派遣の信用って低かった気がするんだけど、10年前くらいからニンゲン扱いされる様になった気がするよ。
年会費1万円のカードなのに、枠が10万円しか無かった時は、ウケたね。
単純に、タマヨンの信用が上がっただけなのかも知れないけど。世の中に派遣社員が増えたから変わったのかも知れない。住宅ローンも組めるらしい。
「VISAは規約がうるさいから提携しておらんし、そもそも限度額が足りんじゃろ。口座引き落としならいけるんじゃけども、何処の銀行に口座あんの?」
「三井住友とイオン銀行」
「そのふたつなら、いけるんよ。ちなみに、みずほじゃったらアウトじゃったな」
なんだろう、タマヨン並みの偏見を感じるんだけど。
ああ、そうか。女神の初期データベースはタマヨンの脳からとったスナップショットなんだっけ? 是非も無し。
ちなみに、イオン銀行はタマヨンもメインで使ってる。
ネット銀行を消去法で選んだらそうなった。
もちろん、他の銀行は偏見に依って外された。ポンコツIT系企業に買収されたっていう偏見。
証券会社はマネックス。ここもポンコツが買収しちゃったけど、イオン銀行と業務提携してるから仕方ないね。もちろん、これも偏見だ。
タマヨンの魂は、今でも老害のじじいだからね。偏見の塊だよ。
「ほい。もう処理出来たけえ、パスあげるね」
「仕事が早いなあ」
「ほらもう、女神じゃけ。時空を捻じ曲げたんよ。じゃから、おしっしょさん連れて、さっさと帰って。今なら、6番ホームに特急がおるけえ、はよう行け」
「行先どこ? 川崎に帰れるかな?」
「は? 地球なんかに寄らんよ。もうあの世界は終わりじゃけ。6年前にコロナカで欠便になったきりじゃ」
なんと、生まれ故郷に帰れない!
6月の大黒ミサにも参拝出来ないし、7月からの新作アニメを観るのも無理だよ。
捨てるつもりだったのに、帰れないとなるとなあ、気分違っちゃうなあ。




