041. いい日でもないけど旅立つ
リスクを背負って立ち向かわねばならぬ分岐点が、人生には3度ある。
なんかもう3度どころじゃない気もしてきたけど…。
異世界間を繋ぐ鉄道があると言う。
それに乗るためには、クロスロードと呼ばれる異世界でチケットを購入せねばならぬのだけど。
クロスロードの場所は、梅ちゃんしか知らず。
絶対迷子感を備えた彼女のナビ次第というハイリスク、いやギャンブル。
「クロスロードってどんな世界なんよ?」
「異世界が交差する場所ゆうかー、異世界鉄道の窓口以外にも、異世界インターバンクやら女神会議のオフィスやらー、まあいろいろあるわ」
「銀河鉄道でいうと、トレーダー分岐点みたいなもん?」
「せやな。銀河鉄道に乗れるんなら、トレーダー分岐点からはスグやで」
その銀河鉄道に乗るのが難関だと思うんだけど。
開通すんのっていつよ? 200年は先かな?
「インターバンクって何かな? 日本円を神聖カワサキ帝国円に両替出来たりすんの? 証拠金取引出来たりすんの?」
それは、とても気になる。
異世界で稼いだ外貨を日本円にする手段があれば、川崎で暮らしていくのが今よりずっと楽になる。
桜子姉さんは、投機目的で気になるみたいだけど。もう悪魔の預言は無いんだから、手を出さないで欲しいなあ。
「日本円やとー、基軸通貨の女神ドルをかませばいけるんちゃうかな。投機目的で売り買いするんは禁止されとるで。通貨の価値は、市場原理に任せるのが大原則や。中央銀行の実弾介入なんかも、世界を滅ぼされる大罪やな」
「世界を滅ぼせるって事は、軍事大国があるんじゃろか?」
「女神会議の議長が常駐しとるからなぁ。軍事力は当然女神級やで。勝てるのタマヨンくらいちゃう?」
うーん、タマヨンが凄過ぎるのか、女神級ってのがそれほどでも無いのか…。
だいたい、異世界って言った時の世界ってどういう単位なんだろう?
惑星? 銀河? 宇宙? もっと多次元的な分類? どうなんだろうか。
梅ちゃん曰く、マンガやゲームの世界も実在するらしいし、クロスロードには銀河鉄道でも行ける様な事言ってるけど。
「ちなみに、今の女神議長は、ワイの弟子やで。弟子のマヌケ波動を追って行けばいつか着くやろ」
「それを聞いて、尚更不安になって来たんだけど」
梅ちゃんの弟子って事は、間違いなく絶対迷子感を備えているもんなあ。
「まずさー、クロスロードに行くかどうかを決めない? みんなが行きたいとこは、どこかなー? 私はー、仙台でずんだもんに会いたいんだけど」
前世妹の提案で、行先を募る事にした。
「ワシはー、17歳になったけえ、魔女として旅立たねばならんのじゃ。じゃからー、ツブアンを迎えにヨミランドに行きたいのう」
魔女の宅急便の4KデジタルリマスターがIMAX上映される予定だからか、ニャアは最近急にキキに憧れだした。ツブアンと一緒にホウキに乗って旅に出たいらしい。
自称年齢でも旅立ちの年を4年も過ぎちゃってるし、ほんとは異世界ゲートを何度も通った事で歳を重ねて10万3歳くらいらしいんだけど。(10万なん歳って言いたいだけちゃうんかと)
「私は、カグヤ帝国の面倒を見ないとね。だから、カグヤ帝国直行かしら?」
アズキはカグヤ帝国を希望か。そっちに行く方が、きっと迷うリスクは低いだろうね。全員が、行った事あるんだし。
「アンはー、伝説の博多号に乗りたい! タマヨンのケツが割れるのか気になる」
博多号かー…。いったん新宿に帰らないとなあ。さすがにケツ割れちゃうかな。
「アタシはー、インターバンクが気になるから、クロスロードだね」
桜子は、さっきもそれ言ってたしね。
「ワイは、岐阜に行って本場のモーニングセット食いたい」
なんで梅ちゃんは言い出しっぺのクセに、違うとこ言うワケ?
しかし、岐阜の喫茶店かぁ。信長の黄金像も見たいかなあ。名古屋からなら近いし。カーシェアの車で行けるんじゃん。
「ん-、タマヨンは、うちに帰って寝たいんだけど。うちが無いんだよなあ……」
意見が分かれたので、サイコロを振って決める事になった。
ちょうど6か所出たしね。(タマヨンの意見は無視されたよ)
1.新幹線で仙台
2.博多号で博多(深夜バスで新宿経由)
3.カーシェアで岐阜
4.転移魔法でカグヤ帝国
5.転移魔法で喫茶ヨミランド
6.銀河鉄道でクロスロード
サイコロはもちろんサイコロキャラメルで、と思ったら、いつの間にか北海道限定のお土産になってるし。
ヨミランドに預けた荷物の中に、ヒヒイロカネを削り出して作ったサイコロがあった気がするけど、それを取りに行けないから困っているワケで。といって、お金無い状況で普通のサイコロ買うのもなあ。
「どうする? 北海道物産展にでも行く? 行って無かったら面倒なんだけど」
「サイコロが面倒だし、クロスロードにするわ。異世界鉄道に乗れるなら、アズキ帝国にも行けるんでしょ?」
「言われてみれば、クロスロード無敵じゃの。ワシもアズキに賛成じゃ」
「タマヨンも、クロスロードにするよ。確かに異世界鉄道が利用出来れば便利だ」
「マイブラザーがそこまで言うなら、クロスロードでいいぜ?」
「兄者が行くんなら、わたしもクロスロードでいいよ」
「ほな、ワイもクロスロードでええよ。言い出しっぺやしな」
結局、タマヨン次第なのでは?
多数決が本当に民意を代表するのかというと、子供の頃から疑問なんだよなあ。
人気者や声のでかい奴に左右される傾向が強過ぎる。
そいつらが有能とは限らないし。
独裁の方が効率良くない?
これって、ドラゴン的な考え方なのかなあ?
だとすると、タマヨンは幼少時から潜在的にドラゴンだったって事になるなあ。
「うぉ! この死んだ鳥の羽根生きちょる! 逃げよったっちゃ!」
「あちー! 何すんだコラ! 俺を、チキンにするな!」
揚げたてアツアツの手羽先をニャアが取り落としてしまい、アンの太ももをじゅっと焦がして大騒ぎだ。
食べ物をうまく箸で掴めなかった時に、言い訳として使われる慣用句が「これ生きちょる」だ。
主に、関西圏で使われるらしいけど、タマヨンの生家でも使ってた。
「ほらほら死んだ鳥が生き返ったでー。これフェニックスちゃうかー」
梅ちゃんの手の中で手羽先が、ばっさばっさと羽ばたいた。
何その魔法? マジック? どっちも英語だとmagicだけど。
「私達でも、手羽先は蘇生出来ないわよ?」
「死者の蘇生だけは無理だって、悪魔も言ってたなあ」
うん。だから死んだ毛根も復活しないって言ってた。
「精霊は五色龍を生贄にすれば出来るって豪語してたけどー」
「それは、五色龍の暗殺が目的な気がするね」
岐阜くらいなら寄ってもいんじゃない? って事で、名鉄に乗って純喫茶モーニングの本場にやって来たのだ。
茶碗蒸しや手羽先までついてて、メインがコーヒーってどういう事?
前夜は名古屋のラブホテルに泊まった。
タマヨンは昭和の老害だから、アミューズメントホテルとかカップルズホテルとか言ったりはしない。連れ込み宿とは言わないけれど。
お風呂は広いし、温水プールとかマッサージチェアがあって、設備の割には料金が安めだし、予約不要だし、駐車場も付いてるしね。全国どこでも便利な宿として使えるよ。
温水プールまであるのは、名古屋くらいらしいけど。他は、山口に一軒あったのくらいしか知らない。
「ほんじゃあ、クロスロードへ行こうか。えー、まずは……、大井川鐵道で蒸気機関車に乗るんや」
「まさか、銀河鉄道に接続してんの? 岩手県じゃなくて?」
「岩手県は遠いやろ? ここから一番近いのは、大井川鐵道の秘境駅奥大井湖上駅やな。川崎駅の0番ホームでもええけど」
「時間的には川崎駅のが近いでしょ」
「それもそやな? 新幹線で帰ろか。品川で降りて、幻の新橋駅に行ってもええな」
きっと蒸気機関車に乗りたかっただけなんだね?
それもいいけどね。
しかし、幻の新橋駅から銀河鉄道に乗れるなんて。
同じ妄想をしたチュウニやなろう系作家が、全世界に何万人も居そう。
「いいけど。幻の新橋駅って地下の閉鎖空間じゃないの? 入れないでしょ」
「そうやけど、転移魔法でちょちょいって行けへんの?」
「いや、ちょちょいじゃないよ」
転移魔法の難易度は、目的地までの距離に比例しない。
同一のブロードキャストセグメント内であっても、宛先がARP応答しなければ、通信が出来ないのと同じ。不明な宛先へ辿り着くのが何よりも困難なのだ。
幻の新橋駅なんて、フィクションかドキュメンタリー映像でしか見た事無いもん。だから、難しいね。
「川崎駅の0番線ホームは、どこにあんの? どうやってそこに行くわけ?」
「さあ? 柱に向かってダッシュしたらええんちゃうん?」
「そんな危険な事出来るか。すっぽこドラゴンが川崎駅崩壊させちゃうよ。奥大井湖上駅なら行った事あるけど……」
「ちょっとズレたら、落ちて死んでまうな?」
「たぶんね」
どうせリスクを背負うしか無いのならば、クロスロードを直接目指そうって事になった。
次元の隙間に挟まるリスクを最小化するために、まずは前世妹の変身魔法で、姿を変える。構造が単純な物質であれば、圧倒的に送り易くなるのだ。
「ワイ、ガラスのクレアはんの役かいな? バラバラにせんといてや?」
「うーん、全身スケスケでグッズ化の需要があるような……無いな」
梅ちゃんは、ガラス製のフィギュアになった。人体よりも比重が重いので、アンくらいのサイズになっている。変身に際しては、質量を保つ事も変異や迷子回避に有効らしい。
なお、裸体が透けて見えてはいるけども、臓器や血管までくっきり透けてるから、エロじゃなくてグロ、もしくは医学的な教材だわ。
この物語は、つくづくグッズ展開の要素が無い。
前世妹は、転移に成功した実績のある黄金のリラックマ像。
アズキとニャアも実績重視で、手のひらサイズ妖精。
アンは、ニンニン。衣装しか変わってないけど、実績はある。
桜子とタマヨンは転生体なので、どうやら変身が難しいらしく、そのまま。
どういう理屈なのかは分からないけど、仕様に逆らっても仕方ない。
RFCやIEEEの仕様に逆らった実装をする機器は、割と実在するけどね。実に迷惑な話である。
「ほんじゃあ、クロスロードやけどもー、ぐーっと進んだら、びゃっとターンする感じやで」
「分かった」
梅ちゃんとは半年もふたりきりで、狭いワンルームで身を寄せ合って暮らしたのだ。ぐーのびゃっでも分かるよ。
「このふたり、半年間同棲していたのよね? やけに親密だけども、子供とか作ってないでしょうね? ストラト・ドラゴンが子供産んだりしたら、銀河のひとつやふたつ砕けるわよ」
何ソレ。タマヨンってどんな存在なの? 生きたギャラクティカ・マグナムなの?
「ニンゲンは、いや、どっちもニンゲンじゃないのか? 染色体XX同士では懐妊しないから。処女懐胎とかファンタジーだし。いや、我々はファンタジー動物だから、あるいは?」
子供相手に何を説明してんだかなー?
肉体年齢が10万いくつだか17歳だとしても、主観時間では3歳児と0歳児。
早く教えた方がいいんだっけ?
相手はニンゲンじゃないし、どうでもいいか。
「この中だと危険なのは黄金のリラックマかしらね? ひとりだけはぐれたら、拾われて換金されちゃうんじゃない?」
「換金ならまだええんちゃうん? 鋳潰されて偽造コインにでもされたら、元に戻れへんやろ?」
「いや、術者本人なんだから、すぐに元に戻ればいいよ。数子がはぐれたら危険なのは梅ちゃんだね。元に戻れないから。そんな割れ物なのに」
「お? おう……そやな。頼むでー、ほんまー」
半年間ファンタジー要素薄めで暮らして来たけども。
こうなるのが運命だったのか。
カドカワが減益ぶっこいて、なろう系異世界物の偏りからは脱却するとか言い出してんのにね?
まあ、この物語がカドカワから出版される事はあり得ないので、そんなのはどうでもいい。
タマヨンは、久しぶりに転移魔法のコマンドを実行した。




