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不可視属性の魔法少女と夢見る使い魔  作者: へるきち
不可視の国のアズキ

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40/52

040. 太陽の遥か彼方まで越えて

 深夜バスという過酷な手段で名古屋までやって来て、一体何を得たのだろうか。

 桜子という姉の存在だろうか?

 言葉にするには難しい何かを得た様に思う。

 いや、そんなに難しいものではない。

 きっと、もっと単純で、でも得難い何かなのだろう。


 こうやって、費用と労力の対価を査定しようとするのは、良くない習慣なのかも知れない。

 そんな事を考えながら、風呂から出て行こうとするとー。


 どっぽん!


 と、何か重いモノが湯舟に飛び込む音がした。

 ガキがふざけてんならしばいたろか? と思いながら、音がした方を見ると。


 キラキラと光るリラックマの黄金像が、湯舟の底に沈んでいる。


 いくら黄金好きの名古屋だからといって、コレはどうだろうか?

 全高50センチくらいの大きさは、前世妹がリラックマの生きたぬいぐるみになった時と同じくらい。

 もし素材がゴールドであれば、前世妹のニンゲン形態と同じ50キログラム程度の重量だろうか。ゴールドの比重は重いのだ。

 なるほど。

 質量は変化させず、単一素材の物体になってしまうのは、異世界転移の事故発生リスクを最小化する手段かも知れれないな。

 無機物になると頭がユルユルになるはずだけど、まあ元からだし、そんな事で損なわれるようなチャチな前世妹ではない。

 知能を魔法でバックアップしているのかも知れない。どこにバックアップイメージが保存してあるのか分かんないけど。クラウドかな? どういうプロトコルで通信するんだろうか。


「これ、数子にゃんじゃない? 沈んだままで溺死しちゃわないかな?」

「どうだろうか。呼吸してんのかな」


 ざっぱぁ!


 ニンゲン形態になったすっとんつるりんな前世妹が、湯舟の底から現れた。

 近くのおばはんが迷惑そうに見たけど、ええ? いい年した大人がナニしてんの? って顔して、そっと向こうを見た。関わらない方がいいと判断したのだろう。

 こんなのでも前世とはいえ妹なので、乳首を指で弾いて教育的指導をしておく。


「いったぁ! 何すんの、兄者ー」

「うるせぇ。風呂で騒ぐな。逆さ吊りにして外気浴させるぞ」

「タマにゃんの躾けは暴力的だなー。うちの母に似てるわー」

「……言われてみれば、母親と同じ事しちゃってんな」


 子供の頃に受けた躾けを未だに根に持っているクセに、自分が大人になると同じ事をしてしまうものらしい。昭和の職場で育った中間管理職が、息をする様にパラハラやセクハラをしてしまう様に。

 これアカンやつかも、と自覚していたとしても、他の手本を知らないのだから、どうしてもそうなってしまう。もちろん、そんな事は言い訳にはならないけど。


「といっても、タマヨンを育てたのは母親じゃないけどね」

「タマヨンの過去はどないでもええんや。もう孫がおってもええ年やろ。ちったあ自己を省みて成長しいや。妹ちゃんにはやさしくしたれ」

「ワシら、ほんまに逆さ吊りにされた事あるっちゃ。遊びかと思うちょうったんじゃけど」

「アンも、ベランダに一晩放置された事ある。スグに梅ちゃんちに避難したけど」

「あれは、躾けだったのね。アトラクション的なものかと思っていたわ」

「……すっぽこドラゴンには、体罰は応えへんようやが。あかんでー」

「え? 今のは特殊プレイの一環なのではー?」

「妹ちゃんまで、どうかしてんな。もうええわ」

 梅ちゃんは案外と良識派だった。そういえば元女神だったか。人類を滅ぼしちゃったらしいけど。


 ところで。

 桜子は、うーんと考え込んだ様子だけど、どうしたのだろうか?


「もしかしてー、タマヨンの母っていうか、育てた人ってプリンみたいな頭したドイツとロシアと日本のハーフ?」

「三種混合はクォーターだと思うけど、やつの出自までは知らない」

「お腹に、星型のでっかい痣なかった?」

「あったね。痣なのか入れ墨なのか分かんないけど」

「なんやそのドロンパ状態。アメリカまで混ざってもうてるやん」

「イタリア系マフィアのアメリカ人も祖父に居たんだっけな? ロッテンマイヤーさん並に厳格なクセに、自由奔放なとこもあってね。アタシがまだ小さい時に、ローマに行ったきり帰って来なかった。ウクライナだったっけな?」

 なんて事だ。

 どうやら、そのドロンパ女は、タマヨンの知っているドロンパ女と同一人物らしい。親父は、イタリアで騙されて結婚したとか言っていた気がするし、腹に星のあるドロンパ女が何人も居るとは思えない。

 どういう事だ? 両親が同じなのに別々の家族として育ったの?

 桜子姉さんが自立して家を出た後に、タマヨンが生まれたって線はあるかな?

「うーん、謎が深まっちゃったなあ。アタシの母とタマ母が双子の姉妹とか? さっきの母親じゃないってどういう意味? アタシには星型の痣が右のケツに遺伝してるけど。タマヨンには無いよね?」

「痣って遺伝すんの? ドロンパ女は、親父の配偶者だったけど、タマヨンを産んだ女は別に居るんだと思う。戸籍にはドロンパ女じゃない名が載ってるからね。タマヨンに海外の血は入ってないし。ドロンパ女は、8歳の時までうちに居たんだっけなあ。あいつの唯一の功績は、コロコロコミックを買ってくれた事くらい」

 8歳の時、風邪をひいて寝込んでいるタマヨンに、ドロンパ女はコロコロコミックを買って来てくれた。

 マンガなんて読んでいいの? って驚いた。

 ドロンパ女は、桜子の言った通りロッテンマイヤーの如く厳格な教育方針だったから、定期購読を許されていたのは、学研の科学だけだった。タマヨンは、子供向け百科事典を絵本がわりに読んで育った。

 あの一冊のコロコロコミックがタマヨンの人生を変えたと言っていい。

 それくらいにドラえもんは衝撃的だった。


「そういえば、ちびくろさんぼを読んでくれて、ホットケーキを一緒に焼いた事があったな」

 絵本というキーワードで、そんな事も思い出した。

 ドロンパ女も、24時間365日体制で鬼ばばあだったワケでは無いのだ。

「それ、アタシも同じ記憶があるよ。そうかー、タマにゃんとアタシは血の繋がりは無いけど、不思議な縁で結ばれてんなあ」

「ドロンパ女は、何処に居たの? 親父の訃報を知らせてきたって言ってたけど」

「ドバイに居たよ。地下組織のリーダーらしいよ。やべえとこで飲んじゃったわー、って焦って帰国したってワケ。父親の死の事を、タマにゃんに伝えなきゃってのもあったし」

「なんやその展開。マンガやラノベやったら、アホかいうて叩かれそうやで」

「アタシもそう思うよ。悪魔とネトゲのオフ会で出会うよりもあり得ないわー」

「タマヨンもそう思うけど、すっぽこドラゴンやら精霊と出会った後じゃ、さほど驚かんないなあ」

 そういえば、悪魔との契約が満了した桜子は、今どんな加護が付いているのだろうか?

 実はもう、並のニンゲンって事は……無いな。

 ワイバーンの生レバー食べてたし、悪魔の湯で半年も湯治して、タマヨンの姉だからストラト・ドラゴンの加護も自動発動してるし……、不老不死系の加護てんこ盛りダナ? 

 後何年生きるんだろう? 160億ドル程度じゃ、老後の資金が全然足りないぞ。

 そういえば、悪魔の実も食べてる前世妹はもっとじゃん。

 タマヨン3姉妹やばいな…。やばいなっていう単純な感想しか出て来ないくらいやばい。老後の資金が全然足りない状態なのに、全員無職で住所不定。


「あ! 突然思い出した。桜子は、一時期うちに居なかった?」

 タマヨンの家には、ドロンパ女よりも乱暴な女が一時期居た。いや、10年くらいは居たぞ? タマヨンが博多で一人暮らししてる間に、実家を守ってたのがそいつだ。

 右のケツに星の痣があったから、コイツは北斗神拳の伝承者か、生きたドラゴンボールなのかと思ってた。

 アレは、家政婦じゃなくて、姉さんだった!?

 いつもメイド服着てたのは、どういった趣味なんだろうか。

「だからさっきから言ってんじゃん。言って無かったっけ? 若い頃に金が無くて、父のすねを齧りに行ったワケよ。当時はフランスに居たドロンパババアから所在を聞き出してね。そしたら、行ってみれば父は居なくて、何故かショタが一人きりだったんだよ。フヒヒ! だから、お姉ちゃんがお世話してやったんじゃん。このケツに星のさだめを背負ってるのを教えてくれたのも、ショタマにゃんなんだよ」

 そう言って、右ケツを見せる桜子。

 ああ、間違いない。この星には見覚えがあるよ。

 この星なんなの? あと6人同じの居んの? って風呂で言ったら、うぇええ!? って驚いてたっけな?

 しかし、そうか。

 実家に置いてたマンガや小説なんかを処分したのはコイツか。


「ところで、あの家に何があったの? タマヨンが博多で一人暮らししている間に、跡形もなく消えてたんだけど」

「あー。さあねえ? アタシは、あの頃破産寸前で、家にあったもの全部処分して、夜逃げ同然に逃げたし。その後で、地上げでもあったんじゃないの?」

「連絡くらいしてくれよ……」

「は? 連絡先も教えなかったのは、タマにゃんじゃん。あの頃は携帯電話も無いし、固定電話も高かったしね、どうもならんかったのかもだけど」

「そうだった」

 大志を抱いて博多に行ったものの、仕事はうまくいかないし、時間外労働は月200時間越えるし、なのに給料は最低賃金レベルで時間外手当もなしで、精神的にも経済的にもまったく余裕が無かったのだ。

 しかし、考えてみれば、家政婦が家を守ってるはずもないよなぁ?

 実際には姉さんだったけど、当時のタマヨンは実家が残ってるって思い込んでた。

 まだ何か忘れてる気がするなぁ?。

「しかし、鬼ババア弐号機が桜子だったとはなあ……。でも、名前も見た目も、ケツの星以外違うし、年齢も一致しないような?」

「あー、悪魔に魂を売って転生したからね。で、鬼ババア弐号機って何かな? え? どういう事?」

 血の繋がりはなくとも、さすが姉さんと言うべきなのか。転生の先輩だったとは。

 しかし、どういう家族構成だったのか、よく分からないな。

 父は何度再婚したのか? 姉さんの母とタマヨン母は、同一人物なのか、あるいは姉妹なのか?

 ま、いいか。分からんものは分からん。

 桜子は姉さん、それでいいや。


「さっきから聞いてたら、うさぎドロップおねショタバージョンかいな。うさぎバックドロップやな。その話、マンガにせえへん?」

「おもしろがってるなー。でも、アタシも、おもしろいなーって思うわー」

「ついでやし、妹ちゃんの謎も解き明かさへん? きっとおもろい運命に翻弄されてるで」

「なあ、いつまで風呂に入ってんだ? アンコトースト食べに行くんじゃないの?」

 アンに言われて、はっと気づいた。

 一度上がったのに、前世妹が降って来たから、つい入り直して長湯してたわ。

 前世妹の話は、また今度にしよう。


 それから喫茶店でアンコトースト付きのモーニングセットを食べ、トヨタ博物館とリニアモーターカー博物館を巡り、お昼はどでかいエビフライを食べ、夜は居酒屋で手羽先を食べた。


「さて、どうしようか? 何も考えず遊んじゃったけど。泊まるのは贅沢かなあ」

「また深夜バス乗るんかいな? 新幹線にせえへん?」

「アタシ達は、働かないよいけないんだよ!」

「えー、長女が160億ドルも持ってるんだから、400年くらいは遊んで暮らせるんじゃないの?」

 なんだと!? 前世妹は、年間100万ドル使っても1万年以上かかるしー、っていう単純計算をせずに、物価上昇率と金利を考慮したというのか!? さすがは、事務派遣だぜ……。タマヨンが数字に弱過ぎるのかな?

「400年後の事は考えないワケ? 数子にゃんは自由だなあ」

「そんだけの期間ただ遊んでるワケないじゃん。途中で、なんかするでしょ。それにカグヤ帝国に帰れば、領民から巻き上げた税金で暮らせるじゃん」

「そりゃ帰れるならそうするけど。数子は、どうやって単体でカグヤ帝国から転移して来たの?」

 ちょっとの間に、もうアズキ帝国がカグヤ帝国にかわってんだけど。

 それは、どうでもいいとして。

 ナビ役のカグヤ抜きだと、何処へ行くか分からないし、最悪は次元の隙間に挟まってしまう。

 適切なルーティング設計が無いと、宛先を見失ってルーティングループするか、ヌルインターフェイスで破棄される通信の様に。

 そう考えるとなるほどってなる程度には、まだシステムエンジニアとしての知識が残ってんなあ。


「単純な構造のモノは転移させ易い。兄者が、そう言ってたじゃん。だから、黄金のリラックマ像になって、ノリと勢いだけで来たワケ」

「なるほどなー。そういう事かー。アタシは、コワくて真似出来ないんだけど」

「まあでも、カグヤ帝国に帰ったらええゆうのは、その通りやな。こうなったら、奥の手を使うか。異世界ゲートは、いろいろ課題があり過ぎるわ」

「奥の手って何?」

「一回だけ、リスクを背負ってやな、ある世界へ行けば、異世界鉄道の無限パスが手に入んねん」


 また、妙な事を言い出したなあ。

 しかし、鉄道で異世界間を移動出来ちゃうんだ?

 ちょっぴり乗り鉄なタマヨンには、とても興味のある話だよ。

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