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不可視属性の魔法少女と夢見る使い魔  作者: へるきち
不可視の国のアズキ

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37/52

037. 世界の終わりを告げる炎

 靴下を貸して、病気をうつされる。


 すっぽこ界の慣用句だ。

 キャッツ・イン・ブーツとも言う。

 どういう意味かと言えば、目の前にある状況がそうなのだろうー。


「誰や? 寝ぼけてドラゴンブレス吐いたん」

「何を言っているの? 火を吹くキテレツな生物と私達を一緒にしないで」

「空飛んどるし、異世界から転移してきとるし、誰からも見えてへんし、おおいにキテレツな生物やと思うんやけど…?」

 すっぽこ娘達は、ドラゴンに分類される生物ではあるが、派手な魔法は不得意だったりする。

 アンが川崎市バスと神奈川県警のパトカーを爆破炎上させた事があったけど、ガソリンタンクにチョロっと穴を開けただけ。ずどん、と吹き飛ばす爆破魔法では無かった。

 音速を越えて飛べるけども、コントロールができないので、空を自由に飛べるワケではない。

 今も、手のひらサイズのアズキが空中を飛び回っているけど、ばっさばっさと羽根を動かしている。浮かぶだけなら魔法でいけるけど、移動するのは気合と根性の航空力学的物理作用だ。


 疲れたのか、タマヨンの肩に座るアズキ。

 ニャアはとっくに疲れ果ててタマヨンの頭に乗っているし、アンは背負われて寝ている。

 3人娘の体重がタマヨンの体に、ぐっとのしかかる。

 どういうワケか、手のひらサイズになっても体重は変わらないのだ。

 最近ちょっと育ったので、総重量120キログラム。

 タマヨンがストラト・ドラゴンという最強生物でなければ、脊椎を痛めていることだろう。


「ほな、なんでワイらのアパートが焼け落ちてんねん?」

「仮に私達が原因だとしても、立件は不可能よ。だって不可視の存在なんだから」

「それ、自白してへん?」


 タマヨンと梅ちゃんが半年間暮らしたボロクシャアパートが焼け落ちていた。

 前世妹の住んでいたアパートが、地上げ屋の陰謀で燃やされたことがあったけど。

 このアパートも地上げのターゲットにされていたから、警察は事故ではなく事件として捜査するらしい。

 タマヨンも事情聴取を受けた。

「え!? 君、55歳なの!?」

 と、驚かれたけど、認識齟齬の魔法で切り抜けた。

 梅ちゃんは、ギョニソ邸に居たので何も知らず。

 すっぽこ娘達は、アズキが言う通り不可視の存在なので捜査対象外。


「上の階で闇アルバイター達が、室内で炭火起こしてバーベキューしたのが原因だよ。警察で、そんなこと言ってたよ」

「ふーん? なんでそないなアホなことを…。タマヨンはんが、燃やすゴミにしてもうたから、知能までゴミになったんやろか? ゴミに住まいを燃やされてしまうとは…、まさしく燃やすゴミ」

 うまいこと言ったったって顔をして、チラッとタマヨンを見る梅ちゃん。

「すごーくマクロな視点で見れば、タマヨンが犯人だと言えなくもないね?」

 自嘲気味にアホ毛を揺らし肩を竦めるタマヨン。

「それは自分を責め過ぎやろ。しかしー、これで、ワイら唯一の仕事がのうなってもうたなあ」

 タマヨンと梅ちゃんは、このアパートの管理と自治を請け負っていた。

 大家から見れば、庇を貸して母屋を焼かれた様なものだ。

 もちろん、表向きの犯人は、闇アルバイター達だけどね。


「ありゃまあ。取り壊しの費用が省けちゃったねえ」

 ボロクシャアパートの大家である女性が、やって来た。

 ぽやんとした顔で、ぷすぷすの焼け跡を眺めてそんな感想を漏らす。

 この程度のことでは取り乱さない、鷹揚で寛容な人物だ。

「あー、すんまへんなあ。ワイらがおりながら、こないになってもうて」

「気にすることはないさ。あんた達が無事で何よりだよ。怪我はないかい? 念のためうちで診とくかい?」

 大家は、タマヨン達の主治医でもある。

 猫のドラヤキを連れて行ってからの付き合いだ。

 彼女は、不思議生物も診察できる、不思議な獣医さんなのだ。


「リラックマの毛布と、ちいかわのTシャツが燃えちゃったけど、被害はそれくらいかな」

「それは大損害じゃないのかい? リラックマ毛布の大人サイズなんて、売ってるの見た事ないよ」

「タマヨンはん、乙女趣味やもんなあ。心まで乙女になってもうてるわ」

「違うわよ。タマヨンは悪人ヅラおじいちゃんだった時から、リラックマフルセットの寝具で寝ていたわよ。枕もシーツもタオルケットもリラックマだった」

「そうかい。形あるものはいつか失われるってね。いいから、うちに来な。体の方がずっと大事なんだよ。大事に使えば一生もつんだから、ってエライ商人も言ってたよ」

 タマヨン達は、おとなしく主治医に従って、彼女の動物病院へ行った。


「タマヨンは、ちょっと筋力が落ちてるんじゃないかい? おしりの穴が緩くなってるよ。散歩でもしときな」

「最近、お腹が痛いことがあるんだけど」

「あぁ、子宮が少し成長してるね。自律神経でコントロールできない筋肉が付いてるから、痛みを感じることもあるだろうよ。要するに、ツルんだよ。でも、まだ二次性徴前だね。身長の割に、全身ぺったんこだし」

 ストラト・ドラゴンが生殖機能を獲得するのは、寿命が尽きる直前だ。

 世界の滅びと共に卵を産む。

 ストラト・ドラゴンの産卵が世界を滅ぼす、とも言われている。

 観測した知的生命体が存在しないので、産卵と滅びの因果関係は定かではない。


「娘達は、ちょっと見ない間に、随分と成長したね? ニンゲンで言えば、17歳くらいじゃないかい? 親のタマヨンを追い越しちゃったね」

 主治医は、若い頃に悪魔と取引をした。

 そうやって得た長寿命を、医療の知識と技術の獲得に捧げた。

 だから、すっぽこ娘達も診察できる。

 実年齢は不詳、見た目は30歳くらいの女性。

 梅ちゃんと同じで、コロネから適当な年齢の戸籍を買っている。

「何で、そんな急に成長しちゃったのさ? 半年しか経ってないのに」

 手のひらサイズの妖精形態を解くと、アズキとニャアは、身長160センチ体重50キロに成長していた。

 ああ、なんてことか! 成長の過程を見ることができなかった。

 アンだけは、6歳児相当のままだけど。

「異世界ゲートを通ると時差の分だけ成長するワケよ」

「ああ、そういうこと。寿命を削られるだけかと思ってた」

「タマヨンは私達よりもずっと寿命が長いし、多分もう成体だからね。これ以上成長しないと思うけど」

 成体なのに14歳女児の体なのか。

 よく分からない仕様だなあ。

 私はタマヨン、永遠のリアルチュウニ女児。

「なんでアンだけ成長してないワケ?」

「アンは、まだ成長期ではないのよ」

「ん? アズキは3歳くらいお姉さんだから分かるけど、ニャアも成長期ってこと?」

 アンは、生まれてすぐにタマヨンに拾われた。

 アズキは、スーパー銭湯で3年間暮らした後で拾われた。

 ニャアは、山口県の小学校で半年暮らした後で、川崎にやって来て拾われた。

 自己申告ではそうだったから、ニャアはアンと同年齢のはずなんだけど?

「ワシ、小学校には3年おったんよ。よう思い出したら、運動会やら卒業式を3回見たし、最初に見た1年生は3年生になっちょった」

 どう勘違いしたらソレが半年になるのか分からないけど、ニャアはそんなことをしれっと語る。

 タマヨンも、20年前のことが半年前くらいに感じるけども、それは老化現象だ。


「システムエンジニアって、数字に弱くてもなれるものなのね?」

 アズキが、呆れ半分、感心半分でそう言う。

 ニャアは、高度AIが稼働するサーバを設計構築したシステムエンジニアである。

「四則演算さえできれば、システムエンジニアなんてなれるよ。特に、ネットワーク系なら二進数さえ数えられたら充分。整数演算ユニットだけで事足りるんだよ」

 タマヨンの理解では、システムエンジニアなんてそんなもんだ。

 実際タマヨンは、中学二年生以降で習った数学は1ビットも覚えていないけど、20年以上システムエンジニアをやっていた。それも、上流の工程でね。

 数学的な知識はあった方がきっといいだろうけど、技術力よりも鋼のメンタルが必要だし。

 ついでに言っておくと、真面目過ぎる性格は向いてないだろうね。適度にマヌケでいい加減な方が長持ちする。真面目過ぎると、心を病む。

「タマヨンは、システムエンジニア以外、どんな職業も向いてない気がするわ」

 アズキに余計なダメ出しをくらったけど、まったく意に介していないタマヨンである。

「医者には向いてないね、その性格。わずかなミスでも患者の命にかかわるからね。アタシはそれがつらくなって獣医に転向したんだけどね。もちろん、猫や犬なら気楽ってワケじゃないよ。自由診療で利益が太いからやる気が出るんだよ」

 苦労して獲得したスキルで、お金を稼ぐのは当然だ。

 現代社会において、医療従事者は聖女や司教などではない。

 金儲けが過ぎればクズだろうけど、主治医の動物病院は真摯にやっている。


「ところで、シーズン2の大黒ミサには参拝するのかい?」

 主治医とは悪魔教の信者同士の付き合いもある。

 分かり易く言うと、聖飢魔IIっていうメタルバンドを推してる仲間だよ。

「国際フォーラムだけ参拝券買ったよ」

「人数分買ったのかい? 結構するだろ」

「いや、タマヨンと梅ちゃんの分だけ。妖精の持ち込みは禁止されてないから、娘達は妖精になればいいかな」

「え? アンは妖精になれないんだけど!?」

「ほんなら、ワイのかわりに行ったらええわ。紙のチケットやからどないでもなるやろ」

「電子チケットだと、本人以外は使えないし、行けなくなったら捨てるしかないからね」

「ほんまや。アレどないかならんもんかなー」

「紙のチケットだって、他人に譲る正式な手順は無いんじゃないかなー」

「アンは誰にも見えないんだから、こっそり入っちゃえば?」

「まあ、その方がいいか」

 最近、すっぽこ達の不可視属性を悪用する行為に、罪悪感を感じなくなっているタマヨンです。無駄な騒動を起こす方が世間に迷惑だよ。

 そんな世間話をしてから、動物病院をあとにした。


 ふたつある穴は、みっつある。


 これも、すっぽこ界の慣用句である。

 期間限定再集結とも言う。

 どういう意味かと言えば、目の前にある状況がそうなのだろうー。


 ギョニソの家が、ごうごうと燃えている。


「取り壊す手間が省けたわね…」

 そうは言いながらも、暗い表情のアズキ。

 仮設置とはいえ、せっかく作った異世界ゲートが消失してしまったのだ。

「お? たまやー!」

「だから、それ違うって」

 騒動で目を覚ましたアンは、相変わらず間違っている。

 2件連続で出火した建物に関わっていては、被疑者扱いは免れないので、タマヨン達は遠目に火災を確認すると、すぐに現場を立ち去った。


「近所のヒトらは、誰もワシらの出入りを見ちゃおらん様子じゃった」

 手のひらサイズの怪人ミツバチ幼女に戻ったニャアが、偵察から戻って来た。

 火災を見物していた近所住民達の会話の中に、不審人物の出入りを見たというものは無かった。

 すっぽこ娘達は不可視だから、そもそも目撃されようが無いし、前世妹もリラックマに擬態していた。タマヨンと梅ちゃん、桜子の3人は、認識齟齬の魔法で身を隠していた。東京電力か東京ガス、あるいは川崎市水道局の調査員程度にしか思われていないはずだ。きっと、捜査対象にはならないだろう。


「状況を整理しよう。ちょっとばかりヘヴィな状況だよ」

 タマヨンがそう宣言して、家族会議の開始だ。

 参加しているのは、すっぽこ3人娘と梅ちゃん。

 競合店調査で何度か訪れた純喫茶に集まっている。

 店主が豆の選抜から拘り抜いて、儀式の様に淹れるコーヒーを提供してくれる純喫茶。

 梅ちゃんの風俗店まがいの喫茶店とは何もかも違う。

 タマヨンが、梅ちゃん喫茶ではなく、ここの常連になっていたら、もっと違う人生を送れたかも知れないがー。


「やはり、次のノーベル文学賞こそハルキでしょ」

「平和賞もあり得るよ」

「その時は、1973年のキャルフォルニアワインで祝杯だね」

「その前に、新人文学賞があるよ」

「この中の誰が受賞しても不思議じゃないからね」

「でも、愚かな出版社は、我々の文学を解さないからなあ」

 たむろしている常連が、自称クリエイターかつハルキスト。

 いつも自画自賛と傷の舐め合いをペロペロやっている。

 飲むのはコーヒーではなく、ワインかビール。

 それも、わざわざオランダから輸入したハイネケンなんかを好む。

 キリンビールが国内でライセンス生産しているにも関わらず、アホみたいな円安にも負けずにね。

 タマヨンは、村上と言えば龍じゃろ、と言われていた40年以上前に、村上龍と間違って買ったのが村上春樹作品との出会いだった。

 いろいろ拗らせてる捻くれたおっさんが、ハードボイルドを気取ってファンタジー世界の幻覚を見る。

 それが、タマヨンにとっての村上春樹作品だ。

 ボロクシャアパートの片隅で毛布にくるまり、働きもしないで何してんだっていう罪悪感に苛まれながらコッソリ読むものだ。

 もちろん、これはタマヨンの偏見だし、小説というものは読み手が勝手に解釈して楽しめばいい。

 ワイングラスを片手にチーズをつまみながらハルキを読む部族が居てもいい。

 チーズといえば6PかQBBが好きなタマヨンとは相容れないだけだ。

 やれやれ。


 ものすごく話が逸れたけど、頭のオカシイ会話をしていても不自然じゃないのが、この喫茶店のいいところだ。

 アズキ帝国がどうのと話していても、ゲームの話か、チュウニの妄想かな? としか思われないだろう。


「ちょっとかしら?」

 アズキが異議を唱えるけど、タマヨンは期待せぬ事態には馴れっこなのだ。

 72時間連続で府中のデータセンターに籠った時よりは、きっとマシ。

 しかもあの時は、高熱にうなされていたし、リリースされたばかりのスマートフォンは半日でバッテリーが切れて沈黙するという、不利な要因しか無い状況だった。


「ギョニソ屋敷が焼失、カグヤは先行してアズキ帝国に帰った、異世界ゲートの設置は無理だね?」

 座敷童のカグヤは、ヒトではなく屋敷に付く。

 アズキ帝国の温泉旅館と契約を交わしているので、異世界ゲートの仮設置が済んで早々に帰った。

「そうね。場所を確保したとしても、座敷童の防御結界抜きでは異世界ゲートを作れない」

 場所の確保も重要である。

 異世界ゲートの構造は、内部ゾーンと外部ゾーンに非武装地帯の3つの空間が必須。内部ゾーンが出発する世界、非武装地帯はどちらでも無い世界で、ここで検疫と防疫を行い、外部ゾーンは行先となる異世界だ。

 非武装地帯は露天風呂、内部と外部ゾーンは脱衣所であることが望ましい。

 脱衣所がふたつある銭湯でもあれば、ちょうどいい。ただし、内部と外部ゾーンは、非武装地帯を経由せずに、直接行き可能ではダメ。非武装地帯には、検疫装置として最低でもシャワーが必要。

 非武装地帯は検疫ゾーンと言い換えてもいい。あなたが、ネットワークエンジニアならば、ファイアウォールのゾーン構成をイメージして貰えばいいだろう。 

 この構造を構成するのは、案外と難しいのだ。一般的な家屋には脱衣所は一つしか無いし、浴室の出入り口も一つしか無い。

 ギョニソ屋敷では、浴室の窓の外に小屋を建てて外部ゾーンにした。

 仮の設置だから段ボールハウスを組んだけども、恒久的に使うためにはプロの建築屋の手が必要だし、最悪の場合には口封じまで必要になって来る。

 長々と説明しちゃったけど、要するに、めんどくせえなあ、ってこと。

 そして、最大の問題が、すっぽこ娘達だけでは作れないってことだ。異世界の元女神である梅ちゃんにとっても、それは同様。


「異世界ゲートを使わんで、安全確実に行ける異世界ってあるかいなぁ? ワイのナビやと、喫茶ヨミランドくらいやろか?」

「ワシも、ドラヤキの匂いを辿れば、ヨミランドには行けるかも?」

「おいおい、俺に破壊と戦い以外を期待するのは、ソースで刺身を食う様なもんだぜ?」

「私にはナビ機能自体が無いわよ」

「タマヨンは、半年間寝てたから、ヨミランドもアズキ帝国も道を忘れたよ」

「ちょっと? タマヨンは、半年間寝てただけなの?」

「ラノベを200冊くらい読んどったな。昼も夜も毛布にくるまっとった」

「電子書籍は便利だよねー。スマホさえあれば、本棚が無くても3千冊の本が溜め込めて、いつでも読めるんだから」

「遊んでただけじゃないの」

「いや、ちょっとだけお金も増やしたよ。土地を売ったお金の一部をインデックスファンドに突っ込んどいたら300万円程増えた」

「なかなかの節約生活やったから、お金は減ってへんよ」

「話を本題に戻すと、アズキ帝国に行く手段は無し、ヨミランドには転移魔法で行けるってところかな」

「そやけど、確実ではないで?」

「ワシもじゃ」

「どっちにも行けないと思った方が、いいわね。気楽にポンポコやってたけど、次元の隙間に挟まると出て来れなくなるわよ」

「じゃあ、解決策を思いつくまでは、この世界で暮らしていこうか」

「そうなるわな」


「問題は、その間に異世界の拠点を維持できるかなんだけど」

「アズキ帝国なら、優秀な家臣を育てておいたし、領地を多摩区程度の広さに狭めて、周辺国とは同盟を結んでおいたから、統治する負荷も低いわよ。カグヤが居るから、最低でも悪魔の湯を含む温泉旅館は維持してるでしょ」

「よくやったアズキ。えらいな。天下取ったままだと、維持できそうも無かったもんなあ。暴力で支配する以外に無かったし」

「暴力は、更に強い暴力を呼んでもうて、きり無いからなあ」

「俺も、ちょっとは武力外交で役に立ったんだぜ?」

「ああ、えらいえらい、よくやった」

「ワシは、体力を温存しちょった」

「ああ、それも重要だね」

 タマヨンは、昭和生まれ昭和育ちで、褒めたり褒められたりした経験が少ないせいか、褒め方が雑だ。というのは言い訳に過ぎないけれど。それでも、すっぽこ達は満足そうだ。


「喫茶ヨミランドも、まあまあ安泰やろ。店主のミヨちゃんは温泉旅館できっちり修行しとったし、妹ちゃんもバイトしに行っとるんやろ? ドラちゃんも、うーにゃんイーツやっとるみたいやし」

「数子は気まぐれだから、どうでもいいけど。ドラヤキはなんでヨミランドに? 使い魔のニャアをほったかしちゃってていいのかな?」

「ん-、沈みゆく船の危機を察して逃げたんじゃろか? まあ、猫じゃし」

 猫だからね。

 一番危うそうな子を見守るために、数子について行ったのだろう。

 でも、そういうことなら、タマヨンのところに居るべきなのでは?


「ところで、桜子はんは元気でやっとるんやろか? 金融トレードから足を洗って、北海道の大地で牧場経営するとかゆうとったけど」

「さあ? さっきドバイに着いたってチャットグループで言ってたけど」

「ほんまや。なんで、北海道がドバイになっとるん? あそこ今ヤバイやろ」

「悪魔オモッチの契約が満了したみたいだし、どうなんだろうねぇ…」

 桜子は悪魔オモッチとの契約が満了したし、莫大な資産を形成したので、トレードも事業も全て畳んで、ファイヤーを宣言した。どこで何をするつもりなのか知らないけど、彼女の協力を得るのは無理だね。今はただ、無事を祈るしかない。


「状況はそんなとこかあ…。異世界ゲートの復旧に必要な条件は何だろうか?」

「カグヤが自主的にこっちに来てくれるか…、それは無理でしょうね。彼女にはひとりで異世界転移する力が無いもの」

「そうなるとー、他の座敷童を探し出すかー。フェニックスを見つけるか。どっちも無理やろなあ」

「フェニックスって、防御結界が張れんの?」

「いや、異世界渡りのナビ能力が高いんよ。ワイも、一羽だけ心当たりあるんやけど、今どこにおるんかも分からん。少なくとも、この世界にはおらん」

「そりゃそうでしょ。フェニックスなんか居たら、SNSに目撃情報出て来るでしょ。座敷童も、絶滅危惧種みたいだしなあ、他に無いの?」

「今は思いつかないわ、まずは住処を確保しなくっちゃ」

「そやけど、ワイら無職やで? 賃貸契約すんの無理ちゃう? 審査通らへんで」

「そうなんだよねー」


 かるーく、詰んでますかね?

 いや、タマヨンは本来この世界の住人なんだから、この世界で生きていくのが当然だね?

 はてー、どうしようか? 

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