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不可視属性の魔法少女と夢見る使い魔  作者: へるきち
不可視の国のアズキ

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036. 異世界への門だもん

 タマヨンの一人称は、タマヨンである。


 定年間際の老害おじいちゃんから、14歳女児に転生してしまったタマヨンは、自我を保つために揺らいでいるのだ。俺かわたしかで迷った挙句に、タマヨンに落ち着いた。そのせいで、この日記は第三者視点の三人称記述に見えてしまう。別に、女児が俺と言おうが、おっさんが私と言おうが、何も問題はない。タマヨンの素は、地元方言のワシだけど、もちろんそれでもいい。川崎市に住んで東京で働く生活になってから随分と経つから、普段は標準語で話しているし、ぼっちでコミュ障だから、自分のオリジナリティを失っているのは元からでもある。なお、タマヨンのコミュ障は、言わなくてもいい余計な事を言ったり、正論で相手を黙らせるという攻撃的な症状であるにもかかわらず、根はシャイで引っ込み思案という、まるっきり二重人格なので、情緒不安定なのは当然じゃないかな。心療内科で適応障害の診断をされた事もあるよ。この日記の中で、情緒不安定な言動をしてる奴が居たら、一人称が何であるかに関係なく、そいつがタマヨンだ。そもそも、話す相手や状況によって、一人称や口調が変わるのは、ヒトとして珍しくは無いんだよ。この日記は、ラノベの体裁をとっているから、キャラごとに一人称と口調を極力固定化するよう努めているけれども。


 そんな事は、どうだっていい。

 この小説で改行が少なめの時は、タマヨン脳内ひとり会議の開催中なので、適当に読み流しても構わない。


 さあ、本題に入ろうか。

 今日も、お仕事の時間だ。

 いや、今日こそはお仕事を始めないとね。

 実質永遠の寿命を支えるには、莫大な資産が必要なのだから。

 いつまでも夢見るニートでは居られない。


 川崎市に異世界ゲートを再構築する、プロジェクト・メンフィスに着手だ。

 いにしえのOSであるウインドウズ98の開発コードに由来するプロジェクト名称である。命名規則を、基本設計書に明記したっていい。異世界ゲートの再インストール作業みたいなものだからね。あいつには、何度再インストール作業をさせられた事か……、ゲイツちゃんめ。あ、これ縁起悪いじゃん! でも、メンフィスはブルース発祥の聖地。(※諸説あります) 川崎市における異世界ゲート「メタル喫茶クロスロード」の復旧プロジェクトとしては最適かも。


「また、どうでもいい事を考え込んでいる顔をしているわね」

「親分のいつもの病気じゃのう」

 アズキとニャアはいつもの所感を述べ、カグヤは具体的な話を進める。

「メタル喫茶クロスロードを再興するかどうかはともかく。異世界ゲートを設置するには拠点が必要になるが、お主らが所有する土地はあるのかや?」

 異世界ゲートは身内以外には秘匿せねばならぬので、自前の土地に構築する事が望ましい。

 秘匿は必須要件で、自前の土地は推奨要件、賃貸でも構わない。

 喫茶店のあった土地とビルは地上げ屋に売ってしまったので、他の物件を探す必要がある。

「タマヨンはん、地元に実家とか無いのん? ワイは、異世界からの不法移民やから、そんなもんないで」 

「ないよ。実家は賃貸だったはずだし。今は、それすらも無い」

 タマヨンが博多で一人暮らしをしている間に、実家は跡形も無く消え去った。

 今となっては、それが何処だったのかすら思い出せない。


「ふむ、ならば……、ねえ、この口調疲れたんだけど、素でしゃべっていい?」

 自己の存在が揺らいでいるのは、タマヨンだけではなくカグヤもそうだったらしい。

 齢4千年を超える座敷童の感覚は、現代幼女の文化にアップデートされていた。

「好きにしなよ。誰も、わらわキャラなんて求めてないし」

「座敷童って、そんなに威厳のある神でもないしね」

 タマヨンだけでなく、アズキまで余計な事を言うのは、これもタマヨンとの使い魔契約のせいだろうか? 

 白ドラゴンは元から毒を持っている気がするむから、影響を受けたのはタマヨンの方かも知れないね。

「地味に痛めつけて来るね? まあ、いいよ。タマヨンには新しい屋敷を貰ったしね」

 カグヤは、戦国異世界の温泉旅館と契約を結んだ。

 別に差し上げたワケじゃないけど、座敷童が棲む屋敷は繁栄するので、それでもいい。

 戦国異世界には固定資産税も確定申告も無いのだから、面倒な手続きも必要ない。


「ギョニソの屋敷があったでしょ? 勝手に使っちゃえば? どうせ、あいつ居ないんだし」

 アズキから、やや大胆な提案。

 でも、ギョニソは失踪前に所有する土地を高値で売り抜けたと聞いたけど?

「あれ? あいつの土地、売れたんじゃないの?」

「情報源は梅ちゃんでしょ? 物知りお姉さんの言うことは、7割以上デマよ」

「ああ、そういう事か」

 異世界の元女神である梅ちゃんは、事情通を気取っているけど、本当のことは3割しか言わない。人類を攪乱し試練を与えるのが女神のお仕事だから、とか適当な事を言ってるけども、おもしろがってるだけだと思う。


「ワイの初期データベースって、タマヨンはんのものちゃうかな?」

 梅ちゃんがデマをぶっこいた言い訳らしきものを始めた。

 梅ちゃんは元女神で、産まれた時から異世界日本の知識をデータベースに持っていたという。

 なんとそれが、タマヨンのものだって?

「急に何? デマの原因がタマヨンみたいに言わないでくれる?」

「2019年の末頃に、いっぺん死んでへん?」

「並のニンゲンは、いっぺん死んだらそれまでなんだけど。転生したりはするかも知れないけどね? ん-? コロナカ直前かー。確かに、新型コロナのアーリーアダプターだったらしく孤独死寸前だったけども」

 時間外労働の少ない派遣先へ行けて、過労死を回避したと思ったら、孤独死するところだったんだよ。

 今日も休みます、のメール一通送るだけで意識が飛びそうになる位だった。

 そうやって毎朝メールを送ったら、後はひたすら寝ていた。水分とカロリーはビールから摂取した。よく生きてたね?

「ほなら、活性状態でスナップショットをぶっこ抜いたんやろか」

「タマヨンは、仮想サーバのコンテナじゃないんだけど。タマヨンから生成したデータベースを持ってるにしては、梅ちゃんがタマヨンのプライベートに詳しい様子は無いじゃん」

「それがやな、守秘義務があるから、個人的な情報はマスキングされててん」

「女神をデプロイしたやつ、何考えてんだろ……」

「ほんまやで」

 などと梅ちゃんとタマヨンが、だからどうしたの? っていう会話をしている間に、ギョニソがかつて住んでいた屋敷に辿り着いた。

 ボロクシャアパートからここまで、ぽってぽてと1時間近くかけて歩いて来た。

 住居不法侵入という犯罪行為の証拠を、出来るだけ残したくなかったから。

 所有者が異世界に居る今、近所に通報されちゃったら、持ち主には許可を取ったんですと言い張っても、それを証明することが出来ぬ。

 我々は、立派な不審者だ。


 向ヶ丘遊園駅近くにある、40坪ほどの土地に建つ平屋の一戸建て。

 この辺りは再開発が進んでいて土地の価格が上昇している。

「ワイらの資金では、ここを買うには全然足りひんな」

「ギョニソはいくらで買ったんだろうか?」

「あのニンゲンが買ったのはバブル崩壊直後くらいでしょ? 今よりも高かったんじゃない?」

「それでも、座敷童がオマケに付いてたんだから、お買い得だねー」

「いや。わらわが前の住人をアレしたから、かなり安くなってた。座敷童とは相性の悪いニンゲンが居るんだよ」

 座敷童のクセに何やったの…?

 いたずら好きだって言う伝承もあるし、追い込んじゃったのかな?

「そもそも、あいつはもう帰って来れんのじゃから、日本円で払う必要ないじゃろ?」

「戦国異世界のお金で払えばいいって事か!」

 異世界ゲートは通る度に、異世界間の時差と同じだけ寿命を削る。 

 戦国異世界と川崎市は、千年の時差があるから、並のニンゲンなら即死だ。

 ギョニソには座敷童と精霊の加護があったから、異世界ゲートを通って戦国異世界に行けたけども、もうその加護も無いし、食べると不老不死になれる悪魔の実をもぎ採りに行く力も無い。

 だからもう、ギョニソは川崎市に帰って来る事はできない。

 つまり、この土地は完全に浮いている上に、戦国異世界の通貨で買うことができる!

 しかも、たぶん買い叩ける。


 異世界貿易で稼いだお金を、日本円に換金する手段を思い付いたぞ!

 ずっと保留したままだった課題をクローズできる!

 異世界貿易でお金を稼ぐのは大変なのだ。

 ゴールドにして持って来ても、出所不明なものは買い取って貰えないし、といってヒヒイロカネとか持ち込んでも、この世界には存在しない物質だから、売ると歴史を変えちゃうし。

 

「20年住んどけば実効支配が成立するんだから、タダで手に入るよ。不法占拠しても、ギョニソが気付くことは無いんだから、チョロい」

 カグヤの見た目は6歳児くらいなので、発言内容とのギャップが激しい。

「どうやって入手するかはともかく。中に入ってみましょうよ」

「外から見る限り、かなり傷んどるで。座敷童が捨てた家は、崩壊すんのが早いんかいな」

 我々は、どやんどやんとギョニソ屋敷に乗り込んだ。

 カグヤが合鍵を持っていたので、白昼堂々と玄関から侵入だ。

 もちろん、認識齟齬の魔法で誤魔化している。

 ワシら、この家のもんの親戚なんでー、みたいなツラしとけば大丈夫。


 ギョニソはミニマリストという部族だったのか、屋内には何も残っていなかった。

 それはいいのだけど。

「こらあかん。水回りの床がべこべこやで」

「建て直した方がいいかもね」

「そういうのは後で検討ね。まずは、浴室を使って、暫定の異世界ゲートを仮設置しましょう」

「のじゃー!」

 ところで、アンがずっと静かなのは、タマヨンに背負われて寝ているからだ。

 0歳児ドラゴンは自由だね。

 相変わらず見た目は、ニンゲンの6歳児くらいだけど、少し重くなったかな?

 いや、半年間引き籠ったタマヨンが弱体化したのかも。


「アズキ帝国に帰るんなら、桜子に連絡しないとー」

 そう言ってスマホをなでなでする前世妹だけど、リラックマのままだから上手く操作できないでいる。

「ワイが連絡したるわ。何処に居るねん桜子はん」

「さあ? ネカフェかどっかじゃないかな。半年も証券口座にログインできなかったから、いろいろやる事があるらしいよー」

「ああ、そうか。異世界ゲートが潰れてたから、向こうは、インターネット回線が切れちゃってたか。ところで、アズキ帝国って何?」

「タマヨンが居ない間に、私が代理で治世を行ってたのよ」

 だからアズキ帝国か。

 どんな事になってんのかなあ。


「ふはっ! ふははは、フヒー! 今なら、ガンダムをホワイトベースごと買い取れる! セイラさんがセットでもいける!」

 人身売買すんなよ。

 買えたとしても、セイラさんはジオン公国の王女だから、きっととんでもなく高いぞ。

「桜子はん、上機嫌やなあ」

 桜子と合流した我々は、居酒屋で盛り上がっている。

 爆益でホクホクの桜子が、ウハウハで祝杯を挙げている。

「そりゃもう! いくらスイングとはいえ半年も放置してたからね。オモッチのやつもAWSに置いてるから、インターネットが切れてから動かなかったし。いやー、9月までに仕込んだ種がホクホクでしたわー。こっち来てスグに為替の実弾介入あったのはビビったけど。もうファイヤーしてもいいやあ」

 いくら稼いだのか知らないけど、不老不死の寿命を支える程あるんだろうか?


「ねえ。よく考えたら、持ち主が失踪中の土地って売買契約すんの無理じゃない? 異世界ゲートは諦めようよ」

 うっかり流れに乗って、プロジェクト・メンフィスなんて始めちゃったけど。

 川崎に異世界ゲートの常設なんて不要なんだよ。

 タマヨンは生まれ故郷の世界を捨てるつもりなんだし。

 たまに来る程度なら、転移魔法でいいんだから。

 もちろん、往復に必要な体制をちゃんと組めば、だけども。

「おいおい! 何を言ってるんだマイブラザー! 夏の新作アニメを観たいとは思わんのか! 貴様っ、歯を食いしばれ! 修正してやる!」

「えー、やめてよ。親父にもぶたれた事ないのに」


 アンに言われて気付いたけど、6月にはシーズン2の大黒ミサだってある。

 もう参拝券買っちゃったし。

 夏の新作アニメだって観たい。

 春アニメだって、まだ途中だよ。


 どうやら、生まれ故郷の世界を捨てる事は出来ぬらしい。

 だったら、ギョニソの土地を合法的に奪わないとなー。

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