030. 電気魔王ツブアン
「あなたのパンツは何色ですか?」
このバイトの求人は、タウン情報誌で見つけた。
軍事機密を、街角で無料配布してたよ。
ごく控えめに言っても、低能なのかな?
いやいや、安易に他人を低能呼ばわりしてはならぬ。
人を罵倒するなら穴が3つに増える、とすっぽこ界の格言にもある。
しかし、これはー。
その求人広告を以下に引用するので参照願いたい。
次世代兵器を開発する簡単なお仕事です!
魔導粒子発生装置やヒト型汎用決戦兵器の開発にあなたも参加しませんか。
アットホームな職場です。
ビュッフェ形式のカフェでおしゃれにランチ!
休日にはみんなでバーベキュー!
ブラックな職場であろう事は明らか。
圧迫面接なのは当然で、セクハラもあるだろう。
そう覚悟して、採用面接に臨んだワケだがー。
ぱんつなにいろ、だと?
おいおい、魔法の呪文でも唱えてんのかと思ったぜ?
「こらこら、そんな事を聞くもんじゃない」
上司らしい野郎が、怪人パンツ男をたしなめる。
どうやら少しはマシな眼窩前頭皮質を持ったブタさんも居るみたいじゃないの。
「色を聞くなら、乳首だろ? そんな事だから、お前は課長代理どまりなんだ」
だめだこりゃ。
こういう奴をどうすればいい?
潜入調査から強襲偵察に、今すぐにでも切り替えたい衝動を抑えつつ、俺は面接会場をあとにした。
「どうだった? 採用されそう?」
近くの喫茶店で待機していたすっぽこ娘達と合流するなり、アズキが問うてくる。老害じじいタマヨンの性格は面接向きじゃないからね。心配なのだろう。
「あー……、その場で採用が決まったよ。ツラが良くて若いからって理由でね」
「ほげな理由で人事を決めるもんじゃろか?」
ニャアの疑問はもっともだけど、そういうもんらしいよ。
令和日本でも、あってはならぬ事とされながらも、実態としては容姿や年齢で採用を決める事なんて、いくらでもあるだろう。俺は、おっさんだったからよくは知らんが。
ここは異世界なんだから、そういうのがより顕著でも不思議ではない。
ワンガン連邦とやらは、昭和日本でも無いだろって位に、品位というものが欠如している。
採用面接の会場に居た小一時間の間だけでも、派遣スタッフが罵倒され、女子社員がセクハラを受けている光景を何度も目にした。俺自身、犯人を即射殺していいレベルのセクハラ面接を受けた。
「採用はされたけど、働きたくない職場だよ」
「だったら、潜入調査は無理ね」
「うん。他の方法を考えないと」
あんなとこでバイトなんか出来るワケないじゃん。
時給だって、通貨単位を間違ってんじゃない? ってくらい安いんだよ。
この国は、ダメだな……。ほんとに帝国の脅威なの?
調査対象である新型兵器を開発している通信機器メーカーがバイトの募集をしてたから、潜入調査のチャンスじゃん! と捉えて採用面接を受けて来たってワケよ。
まさか、ここまでヒドイとは思ってなかった。
他の方法を実行しよう。
想定外事象に遭遇した時は、速やかにリカバリーだ。
「始めまして、センゴク金属の多恵子と申します。本日は、お時間を頂きありがとうございます」
いっそ強襲して、連邦の新型兵器を強奪してやってもいいんだけど。
架空の肩書を使い、新型兵器の開発メーカーにヒヒイロカネを売り込んでやる事にする。
何しろこっちは鉱山を含む世界を丸ごと抑えているのだ。
ヒヒイロカネの納入先が足りないくらいなのだから、潜入調査のついでに営業をかけてしまおう。
まさに、一棒二穴、だ。
これもすっぽこ界の格言らしいんだけど、さすがにふざけ過ぎじゃない?
こういうの教えてくれるのはアズキなんだけど、タマヨンの色欲を奪っているのはアズキなのでは?
「弊社のヒヒイロカネは高純度、御社の新型兵器開発のお役に立てるかと存じます」
転移魔法で不純物を極限まで取り除けるからね。純度は、フォーナインに抑えてあるけどね。それ以上だと未知の物質扱いになっちゃうから。
「ふーん? で?」
んん? なにこの反応。
ヒヒイロカネは希少金属で、あらゆる業界で奪い合いだから、飛びついて来ると思ったんだけどなー?
早くも、こいつを殴りたい。
「あー、開発中の新型はモナカというコードネームなんだがぁ……」
工場の購買担当者は、何かを要求する様な目でこっちを見てくる。
モナカ? 黄金色のモナカか? 賄賂を要求してんのかな?
そういう営業はした事無いんだけど。
まさか、枕って事は無いだろうな?
色欲の回収が、今回のフラグなのだろうか?
そういうの要らないんだけど……。
アンコの無い世界のモナカには、一体何が詰まってるんだろうね?
目の前のコイツの頭蓋骨の中には、ちゃんと現代人類の脳が詰まってんのかな?
「モナカですかぁ。私、モナカ嫌いなんですよね、マリトッツォの方が好きですねぇ」
「……それは、どういう事かね? マリトッツォとはアレかね? 帝国の……」
ふーん? 帝国にも似た様なプロジェクトがあるのかな?
「あっ、帝国行きの最終便の時間ですね。では、急ぎますのでコレで」
「あ、ちょ、ちょっと待ちたまえ! 工場長に相談してくるから!」
先に相談しとけよ。決裁権の無い奴だけで商談の場に出てくんなよ。
まるで、日本企業のダメな典型みたい。
しかし、適当に煽ってはみたけど、こんなに目論見通り行くとは思わなかった。
システムエンジニアの前職は営業職だった俺は、コミュ障のくせに口が良く回るのだ。システムエンジニアだって、口先だけで何とかする局面は多い。顧客や他部署と折衝や調整を行うPMやチームリーダーは特にそうだね。
さて、奴が席を外している間に、潜入調査を済ませておこうか。
この世界には、携帯電話もインターネットも普及していない。通信技術は、軍事用途で独占されているからだ。スマホなんて、板か文鎮にしか見えないはずだ。
通用門で荷物チェックを受けたけど、問題なく持ち込めた。
打合せ資料として購買担当者が持参していた新型兵器の資料を、スマホのカメラで撮影する。素材に求める純度や強度、加工精度などの数値が記載されたソレは、まさしく我々が求めていた物である。プロが見れば、これだけで新型兵器の設計が、ある程度割り出せるそうだよ。
潜入調査は無事完了したので、商談は適当に誤魔化して、さっさと帰った。
ついでに、ヒヒイロカネの商談も成功すれば文句無かったかな?
ワンガン連邦と神聖カワサキ帝国の両者にエサを与えて、競わせるのがいちばんオイシイ立場だろう。
なんて、神聖カワサキ帝国の純粋な国民だったら、地獄に堕ちちゃうな。
「連邦の体制はカスですよ。あれじゃ、新型兵器の開発なんて無理じゃないですかね?」
「どうやらその様ですね。そこまでヒドイとは」
防衛省がもっとも喜んだ情報は、連邦の体制についての情報だった。
あの国のGDPは、奴隷の血と汗で支えられている。
「向こうの技術者を引き抜いたらどうですか? 真っ当な条件を提示するだけで、来てくれると思いますよ」
正社員はふんぞり返ってるだけで何もせず、小突き回されてる派遣や下請けが、実務を必死にこなしていた。給与などの条件面でも劣悪な待遇である事は、求人情報を見たからはっきりしている。きっと、多重派遣で中抜きもされまくっている事だろう。
技術者に直でスカウトかけたら入れ食いじゃなかろうか?
「早速、実行してみます。ありがとうございます! 自宅までお送りさせて下さい」
お? これまでと待遇が変わったよ?
次回からは、我々を呼び出すのではなく、喫茶ヨミランドまで出向いてくれるそうだ。
神聖カワサキ帝国でのタマヨンは、ビッグサクセスを手にしつつある。掴むぜビッグマネー。
「回転焼きじゃろ?」
「おやきでしょ?」
「それは、長野のファーストフードであるぞ?」
「今川焼きでよくない?」
名前は重要ではあるけど、どれが正しいかで争うのは不毛だ。
「中身は、カスタードクリームなのね」
「これなら、ホットケーキのがいいなー」
「カスタードなら、シュークリームであろう?」
「やっぱ、ツブアンの方がええのう」
喫茶ヨミランドの新メニュー、今川焼きを試食中。
異世界モノだと、この世界に無い料理で無双するのが定番だけど。
神聖カワサキ帝国には、小豆のアンコ以外は、だいたいあるのだ。
アンコだって、ウグイスアンはある。
正確には、無いのは小豆だね。
故に、この世界の赤飯は謎の着色料で作られている。北海道のとも違う、アレは一体何……?
今川焼きだって、この世界独自の名前がある。しかも、いくつも。
喫茶ヨミランドでは、ヒヒイロカネで作った型で焼くのが売りなので、日緋色焼きだ。
型に価値があるわけだから、もちろん店内から良く見える場所で焼くよ。
温泉宿の黄金風呂みたいなものかな?
熱伝導率が高いから、おいしく焼けて実用性もあるけど、コストには見合ってない。
ビッグサクセスに手が届きそうで届かない、そんなタマヨンである。
「ガンダム採りに行こ?」
カルピスをぴすぴす飲みながら、アンがそんな事を言い出した。
「トンボでも採りに行くノリじゃのう」
「私は、アッガイがいいわ」
「わらわも、アッガイがよい」
アッガイが幼女に大人気だ。
「戦争が始まっちゃうからダメだ」
男子の夢をくすぐる魅惑の提案だけども。
戦争やるのは戦国異世界だけにして、ここでは平和に暮らしたい。
そうだ、戦国異世界といえばギョニソは元気にやっているのだろうか。
ギョニソは、戦国異世界で悪魔の湯の保守をしながら、そば打ちの修業中だ。
陶芸にもハマっているらしい。
典型的な昭和親父の老後だな。
「うはははははっ」
あ、いかん。あまりにも上手く行き過ぎて、つい笑いが漏れてしまった。
「この機械人形動くぞ! 5倍の魔導ゲインだ」
ところで、ゲインって何? オーバードライブみたいなものかな?
よく分かんないけど、それが様式美なのでそう言っておく。
俺達は、連邦の新型兵器のコクピットに居る。
工場は人の出入りが激しく、認識の齟齬を使うまでもなく簡単に侵入出来た。
出社初日の入館証なんて持ってないアルバイトの群れに紛れただけ。
工場内でも、新入りなのか不審者なのか、誰にも分からない。
あっさりと、テスト中の新型兵器のもとまで辿り着いた。
大炎上プロジェクトの職場がこんなだから、こういうのは馴れているんだ。
起動するためのPINコードなんて、ここの社名のゴロ合わせだったしね。
ありがちです。
これもう奪っちゃうしかないでしょ?
だって、それが様式美だし。
「奪ったのはいいけど、これからどうするの?」
狭いコクピットの中には、5羽の妖精が飛び回っている。
前世妹の変身ガチャ魔法で姿を変えたすっぽこ達と座敷童、ついでに前世妹だ。
もはやガチャじゃなくて、完全に変身魔法として機能している。
前世妹が魔女過ぎるから、世界を背負う役を任せたい。
さすがに子供が工場に入ろうとしても止められそうだから、妖精にしてポケットに詰めて持って来たってワケだ。
前世妹は勝手について来ちゃっただけ。
「当然、人類初になる機械人形の格闘戦じゃろ」
「ついでだから、工場も制圧しちゃえば?」
「この機体にそこまでの性能があるとは思えぬが」
「まずは、自撮りしてSNSにアップでしょ。うぇーい」
この手の妖精は1羽で充分だな。5羽も居るとやかましいわ。
しかし、どうしようかな? 何も考えて無かったわ。
ついノリと勢いでやってしまった。
老害のタマヨンは、アジャイル開発なんてやった事無いんだけど。
連邦の新型兵器は、座敷童の指摘通りポンコツだった。
まず、二足歩行すら出来やしない。
自走して持ち帰るなんて到底無理だし、その価値すら無い。
転移魔法で送り込んでもいいけど、魔法の失われたこの世界では、怪奇現象になってしまうので自重しておこう。
「うちのお給仕アンドロイドの方が、ずっといいね?」
「関節はヒヒイロカネ製かのう? 軟骨部分は魔導粒子を詰める構造みたいじゃの?」
「それが巨人サイズの質量を支えるコツなのかしら? 肝心の魔導粒子発生装置が機能してないけどね」
「ふむ。ポンコツではあるが、惜しいところまで出来ているようだの」
すっぽこ娘達が小さい体であちこちに入り込んで、リバースエンジニアリングしてる。それなりに収穫があるらしい。きっと、お給仕アンドロイドの設計に反映してくれるだろう。戦うお給仕さんになりそうだけど。
「親分。ビーストモードやらいうスイッチがあるんじゃけど?」
ニャアが、押すなよ的装飾の押下型スイッチを発見した。
ヒト型汎用決戦兵器の様式美、ビーストモードか。
これ設計した技術者は、チュウニかな?
小惑星探査機のハヤブサは、幼少期に宇宙戦艦ヤマトを観て宇宙に憧れた世代が開発した。
ならば、エヴァンゲリオン世代が機械人形を開発するのも当然か。
この世界にも似た様な創作物はあるからね。
「押すしかあるまい。ポチっとな」
ズゴゴゴッ、ガッコンガコガコ、どてぽきぐしゃ、と機体が震えた。
どうやら四足歩行に移行したらしい。
二足歩行は無理でもこれなら自走出来る様だ。
ガッシャコガッシャンと、歩き回ってみる。
「五足歩行してるみたいだよ?」
5本目の足とは、一体? なんか下ネタ増えてない? やっぱり今回は色欲がテーマなの?
「あ、居た居た」
さっき、俺を顎で使おうとしたクズを発見。
そこの白いの、ソレ片付けとけ! とか、言い腐った奴。
ソレが何なんのかも片付けってどういう状態にするのかも、一切具体的な説明も無くそう言い放つと、オシャレなカフェでオシャレなランチをオシャレに食べに行ったブスババア。
具体的に指示して欲しいんですけど、と言ったら、あんた誰に向かって者言ってんの? と返って来た。
人を罵倒するなら穴が3つに増えるとは言うけど、アレはまごう事無きブスババア。
タマヨンが、かわいいから嫉妬してんだね!
コレが、傲慢と嫉妬か!
そろそろ7つの大罪ネタ飽きて来たなあ。
プチっと踏みつぶしてもいいけど、汚い汁が出そうだしな。パンツ剥いで転がしておくか。おぉ、この機械人形、マニュピレーターは器用だぞ? 元は建設機械らしいけど電工作業にでも使う想定なんだろうか? 人がやった方が早いし確実だと思うんだけど。
剥がしたパンツはー、あ、ちょうどいいのが居た。採用面接でパンツの色聞いて来た異常者。ほら、お前の好きなパンツを頭に被せてやるぜ! うわー、周りの女子社員にドン引きされてる。おまえはすでに死んでいる。社内的にな。女子社員に嫌われたらおしまいよ。
廊下でタマヨンを突き飛ばしておいて、邪魔だ! バイトが廊下の真ん中歩くな、などと吠えてくれたおっさんは、廊下のど真ん中にめり込ませておいた。
ああそうだ、オシャレなカフェはオシャレに爆破しとかないと。
バイトと派遣は利用禁止だって入店お断りされちゃったからね。求人情報誌に虚偽の情報を書きやがって。タマヨンは、オシャレなランチには興味無いけどさ。
「なんともやりきった顔をしているけど、ひどい事するわね。下位のドラゴンでもこんな事しないわよ?」
「平然とやりおった。そこに憧れはせんけど、まあまあ痺れたのう。ワシの倫理回路が」
「アンのお姉ちゃんがこんなに鬼畜なワケが、あるなあ。憤怒返しちゃったからなあ」
「こやつの憤怒は化け物か?」
巨大な機械人形を手に入れたら、つまらぬ復讐に使うのもまた様式美である。
でも、やった直後はスッキリするけど、後になって虚しさが暗い闇となって押し寄せて来るんだよなあ。小学3年生の時、いじめっ子のパンツを掲示板に張り出してやった後にそれを学んだよ。
「兄者ー、もう飽きたんだけどー」
暴れ回る機体の中で、豪胆にもすこーっと寝ていた前世妹が、え? わたし寝てないよ? といった風情でふごっと目を覚ますなりそう言った。
うん、タマヨンも飽きたわ。
「よし、撤収するぞー。機体を捨てて、戦国異世界にでも転移しようか」
「のじゃー」
この顛末は、無人の機械人形が暴走!? っていう事件になってた。
それもまた様式美。
「ついに、魔導粒子の無い世界からの、完全な異世界転移まで可能になったぞ。ついでに並列処理で、お前らを元に戻したしな。タマヨン、上級魔導士過ぎだろ。もう、特訓はいいんじゃないの?」
悪魔の湯に浸かりながら、もう訓練は不要だとアピールする俺。
システムエンジニアは謙虚であってはならぬ。積極的に自己のスキルをアピールせねば、お時給のお高い仕事が回って来ない。
「そうね、そろそろ試験をしてもいいかしらね」
ぬう、この現場の上長アズキは厳しいな。
鬼かな? ドラゴンだったね。
「まずは、単体テストじゃのう」
ニャアまで、なんて無体な事を要求するのか。まずは、って何。たちまちビールみたいな事言っちゃって。その先に、どんだけテスト工程あんの?
「単体テストって何? 単体以外に結合テストとか運用テストがあんの? タマヨン、何と結合すんの? そもそも、ウォーターフォールなんてもう流行らんのよ」
ここは、抗議して調整だ。システムエンジニアの腕の見せ所だ。
ITの現場は、システムエンジニアの憤怒によって推進されている。
「ふむ。その試験とやら、わらわがやってやろう。それで最終試験とするがよい」
座敷童が、そんな落としどころを提示してきた。
「え? どんな試験やんの?」
「わらわと戦ってもらおう」
「はい?」
あ、すっかり忘れてたけど、俺も精霊の加護をくらってるんだった。
座敷童が忌み嫌う精霊の加護を。
それどころか、このタマヨン14歳プラットフォームが、まるごと精霊の召喚したものじゃん。
もしかして、座敷童は俺を倒すタイミングを虎視眈々と狙っていた?
タマヨン、滅されちゃうん。




