027. あつまれ不思議生物の森
「築城するんなら、数子の魔法でちょちょいじゃねえか?」
アマテラスから、そんな提案があった。
魔法で無から有を生み出す事は不可能である。もちろん、一夜にして城を出現させるなど無理な話。
しかし、転移魔法の物質変換バグを使えば?
資源さえ用意すれば、魔法でちょちょいっと城が建ってしまうのでは?
「んー。私、城とか興味ないからなー。クラブチッタ川崎で良ければ、建てられるかも知れないけどー」
そうそう都合良くは行かないものだ。数子には、城をデザインするセンスが無かった。術者が想像出来ぬものは、創造出来ぬ。
戦国時代の世に忽然と現れるライブハウスというのも、魅力的ではある。この辺り一帯を、ラ チッタデッラにしてしまうのも悪くは無いだろう。
しかし、もっと単純で簡単な方法をアズキが提案してくれた。
「転移魔法を普通に使えば、いいんじゃないかしら? その辺の武将から城を強奪して、ここに転送すればいいのよ」
「ソレだ! ソレで行こう」
「ほんじゃー、良さそうな城を探すのじゃー」
「のじゃー!」
我々は、露天風呂を囲うのに丁度良さそうな城を探す事にした。
「アレは、戦艦だな? それも、21世紀では幻となった弩級戦艦ってやつ」
丘の上に潜んだ我々が見つめるのは、沿岸に係留された1隻の弩級戦艦。
46センチはありそうな3連装主砲が9門に、副砲が6門と機銃が150門以上といったところだろうか。どう見ても、大和級だ。しかもー。
「宇宙戦艦ね。天体の外から侵略に来たんじゃないかしら?」
なんとアレは、インベーダーが持ち込んだ宇宙戦艦らしい。
アズキとニャアが侵入して調査して来てくれた。何しろ、我々以外には不可視なのだから、潜入調査が余裕である。なお、おしっこのついでに蔵に火を付けちゃうアンは、勢いで破壊しかねないので待機させた。
その結果分かったのは、戦艦の乗組員が全員アンドロイドだという事。作業機械ではない、自律行動する機械だ。推進機関も、ディーゼルや原子力などではなく、魔導粒子圧縮装置に見えたらしい。外装は放射線や電磁波を遮断する構造であり、気密性が高く、出入り口は多重になっている。
洋上航海を目的とした艦としては過剰、天体間の航行を前提として設計されているならば納得の仕様である。
「アレの甲板に露天風呂を移設出来れば完璧じゃないの?」
「お風呂の移設なら私に任せて。スーパー銭湯に2年も暮らしていたのだから」
さすがは、スーパーオフロスキーのアズキだ。風呂の方を移設出来るなら、アレを強奪しないという選択などあり得ない。
「可能な限り無傷で鹵獲したい。乗組員のアンドロイドも含めてね」
強奪して利用する事が目的なので、破壊するわけにはいかない。破壊するのも簡単ではないだろうけど。
「あの艦のメインサーバをハッキングして乗っ取るのがええじゃろ」
おお? ついにシステムエンジニアのスキルを活かすイベントが起きたぞ。
「だったら、アンとニャアをメインにして侵入だな」
アンとニャアなら敵に察知されずに侵入可能だし、システムエンジニアとしてのスキルも、圧倒的に上だからなー。タマヨンなんて、もう老兵ですよ。出番なんてありませんね。
「いいえ、タマヨンも行くべきよ。ハッキングは技術力だけじゃ無理でしょ?」
それはそう。むしろ技術的には単純な手法が使われると言っていい。映画なんかのスーパーハカーは高速でタイピングしてエンターキーをターン! とかやっちゃってるけど、実際のハッキングはもっと地味。バグや設計不良の隙を付く、姑息なモノだ。技術力よりは、観察力や発想が重要と言っていい。
いやまじで、ブラックボックスの障害対応だとか、新旧入れ替えとかさー、ハッキング行為無くして無理なんよ。ルートのパスワードを顧客すら知らないサーバって何なん? 歴戦の派遣ITソルジャーは、各種システムを実戦で乗っ取って来たスーパーハカーなのである。
「タマヨンの認識齟齬は、俺もサポートしよう。戦艦も屋敷の一種だ、座敷童の俺に任せろ」
こうして、宇宙戦艦vsタマヨンエンジニアリングの戦いが始まったのだった。
「ふはっ、ははは……、うまく行き過ぎて笑いそうになるなコレ」
「だろ? 俺も前回そうだったぜ」
蔵に火を付けた時に、そんな事言ってたな。確かに、笑いを堪えるのがいちばん大変だった。セーラー服を着た上級士官のフリをして、堂々と乗り込んでみたところ、あっさりと乗艦出来た。機械まで騙せるなんて、この世界の魔導粒子の濃度がいい感じだからだろうか。
「ポンコツ共は、俺が電磁波と磁力で狂わせておいた。機械に認識齟齬の魔法は無効だからな」
魔法だけど魔法じゃなかった。アマテラスの行使した科学の力だった。
「ほいでー? どうやってメインサーバを乗っ取るんじゃろうか?」
「それだけど、もっとも単純な方法を試してみようか。メインサーバの物理コンソールを操作してくれる奴が居ればなんだけど」
「それなら、早速マヌケが釣れたぜ?」
この艦の乗組員達は、機械だ。物理的なコンソールを操作する必要は無い気がする。ケーブルを接続して、それで操作出来そうだからね。有線接続すら不要で無線で遠隔操作だって出来そうだ。
しかし、電磁波と磁力の影響で遠隔操作が出来なくなったのか、乗組員の一体がサーバルームにやって来た。こちらの目論見通り、メインサーバのKVMをラックから引き出している。
「よし! あいつが入力するユーザー名とパスワードを、後ろからコッソリ覗いて来てよ」
「えぇ……? ハッキングってそんな……?」
「そんなだよ」
ソーシャルハッキングという手法だ。ユーザーが入力するパスワードを盗み見るだけ。これがあるから、頻繁にパスワード入力を求めるシステムは危険だ。特にスマホアプリでコレをやってんのは設計者か発注元が無能。スマホなんて電車の中なんか使う物なんだからさあ、人前でパスワード入力させんなよ。パスキーが現在の最適解だろうけど、スマホの生体認証は寝てる本人から容易に抜けちゃうからなあ。
「まじか? あいつら4桁のPINコードでアクセスしよったぞ」
乗組員の操作を覗き見たニャアが戻って来た。
おそらくは、乗組員全員がトークンの役割を持っているのだろうけど、アマテラスの妨害でPINコードに頼るしか無かったらしい。
「しかも、1234だったぜ? ほんとにアイツら宇宙の海を越えて来た、高度な知能持ってんのか? ロックンロール過ぎだろ、やれやれ」
アンの中でロックンロールの定義は、ポンコツとかマヌケなのだろうか? 使い魔のタマヨンが、ロックばかり聴いてるから、そう思っちゃったの? ならば、仕方無いね。
この先は地味な行動なので描写は省略するけど。
宇宙戦艦のメインサーバは、あっさりと私の管理下となった。
「最上位管理者の登録を抹消し、タマヨン様を最上位管理者として再登録しました。本艦及び搭載のお掃除ロボ、オプションの人工衛星の利用権限は、全てタマヨン様に移譲されました」
オマケがでかいなあ。お掃除ロボは、侵入者もゴミとして排除してくれる仕様。人工衛星は侵入者を監視し、レーザー砲による攻撃まで可能な軍事衛星だ。監視および攻撃対象は、地上に限らず外宇宙からの侵略者まで含む。鉄壁過ぎじゃない? 露天風呂を守るだけなのに。お風呂の番犬が強過ぎ。
あと、なんで日本語しゃべってんだってのは、もう今更だよね。
きっと、1万2千年の時を越えて帰還した勇者達の艦なんだろう。時間を越えるついでに、次元の壁も越えちゃったんだよきっと。現実の事象は、理論通りにはいかぬものなのだ。
本来の乗組員である有機生命体達は、この地に充満する魔導粒子が原因で病死したらしい。
お掃除ロボ達は、艦内を掃除しながら、乗組員達の帰還をずっと待っていたのだ。
まさか、こんなすっぽこな連中が乗り込んでくるとはね。
宇宙戦艦には、「強欲」と名付けた。お風呂の防衛には過剰な戦力だからね。我々の欲が深過ぎるっていう。
他の拠点にも名前を付けるとするなら、梅ちゃん喫茶は「暴食」、ギョニソ喫茶が「傲慢」、探偵事務所が「怠惰」といったところだろうか。
チュウニ大好きな七つの大罪に由来するワケだけど、残りの「憤怒」と「嫉妬」はともかく、「色欲」だけは無いかなあ。代わりに「希望」を追加しておこうか?
希望に縋る事こそが、人類最大の罪である。なんてねー、ははっ。
「宇宙戦艦エルドラド発進!」
鎧武者の桜子が、宇宙海賊的な船長を気取って勝手に宣言した。艦の名前勝手に変えんなよ。楽しそうだから、いいけどさ。
「よーそろー! よーそろってどういう意味?」
操縦を担当しているのは、10歳児となった前世妹だ。
ざっぱああん!! っと、大波を立ててエルドラドが空中に発進する。
真っ黒な海水、いやこれ海じゃなくて超巨大な天然の温泉じゃない? が、戦艦を中心にグルグルと渦を巻き、取り囲む。由緒正しい、宇宙戦艦発進の演出である。
「ところで数子にゃん。あんた船舶免許持ってんの? いや、この際必要なのは航空機の免許かな?」
「え? そんなの持ってるワケないじゃん。原付の免許すら持ってないよー」
地方都市なら苦労する事だろうけど、公共交通機関の発達した都会では、運転免許なんて無くても困らない。
タマヨンはカーシェアを多用しているけど、それとて生活に必須なワケでは無い。主な利用用途はスーパーへの買い出しだけど、徒歩圏内にコンビニはあるし、ネットスーパーだって利用可能だ。
最近の若い世代は、自動車の保有をステータスだとは認めていないし、運転免許の保有率が低下していると言う。少子高齢化の影響もあって、横暴の代名詞であった自動車学校もサービス業である自覚を持って、ホスピタリティを向上させているのだとか。
タマヨンが18歳になって運転免許を取得した頃、日本はバブル全盛期。潤沢な開発予算を背景に、日本車は急速に進化を遂げ、世界の高級車やスーパーカーに影響を与える程だった。
ユーノスロードスターやレガシィツーリングワゴン、R32にNSXといった当時の名車に憧れたものだ。アルシオーネやセラといったキワ物も良かった。軽自動車には必ずターボ装着車が設定されていた時代でもあったなあ。今は、見る影も無いが。元気なのは、トヨタくらい? 殿様商売だったトヨタが真面目な車作りをする様になるなんて、想像もしなかったよ。
などと、どうでもいい事に想いを馳せて理屈を捏ね回してしまうのが、システムエンジニアというかタマヨンという生物の習性なのだが。
「のんきに脳内トリップしている場合じゃないわよ」
「おかしな振動を感じるぜ。こいつは、ハードラックとダンスっちまう予感だぜ?」
「あるいは、サーバーラックとタンスにゴン。足の小指をぶつけると痛いってやつじゃな?」
「お前らこそ、座布団の獲り合いしてる場合か? 俺が、やっちまったのかもなあ?」
つまり? お掃除ロボを妨害するための電磁波や磁力が、艦内の重要機関を破壊しちゃってたって事?
何度でも繰り返し訴えるが。
この物語は、ハードボイルド純文学である。
荒唐無稽で素っ頓狂な、異世界ファンタジーなどでは無いのだ。
ひねくれたおっさんのエッセイでも無い。
努力も代償も無しに成果を得られる程、人生や世界は甘くは無いのだ。
甘いのは、アンコだけ。
しょぼくれたおっさんに未来など無い。
宇宙戦艦は、真っ二つにへし折れて轟沈した。
「私は、この艦と運命を共にする」
などと、アンと一緒に艦長ごっこをやったのは、ちょっとだけ楽しかった。
アンとは、ほんとに一心同体で一連托生なんだなあと実感もした。
沈みゆく艦の中で、タマヨンのスカートをぎゅっと握って離れなかったのだ。
豪運で偶然手に入れただけの兵器である。
我々は、何も失ってなどいない。
せいぜい、転移魔法による緊急脱出の過程で、前世妹が元の30歳女児に戻った程度の変化しかない。
なお、30歳女児になった前世妹は、魔法少女衣装がバリっと破れて全裸になっていた。余計な事をして、巻頭イラストを狙わないで欲しい。
タマヨンも転移魔法の変身バグを使えば、おっさんに戻れるかも知れない?
いや、よしておこう。変死バグになるのがオチだ。
ただし、事件は起こった。
異世界ゲートのドアノブが、ぬるっと濡れていたのだ。
居るんだよなー、こういう不衛生な事を平然とする輩。トイレで手を洗って、ちゃんと拭かないまま、居室のドアを開け閉めしやがるのだ。
派遣でいろんな企業を渡り歩いて来たけど、腐れブラック企業だろうが、一部上場の大企業だろうが、何処にでも居た。集合住宅で騒ぐ輩や、残クレカーで煽って来る輩と共に、滅べばいいのに。
「これ、ただ事じゃないわよ?」
「俺の防御結界を破って侵入するかー。相当に強力な魔物か怪獣だぜ?」
「クー魔獣ってやつじゃな、コレ」
身内の犯行では無かったのだ。
検疫までは突破出来なかったらしく、巨大な熊の死体が転がっていた。
熊かな? サイコパスが彩色したジャイアントパンダの塗り絵みたいな柄してんだけど。マロ眉にちょび髭、胸部にホタテ貝、パンツは履いてない、そんな白黒模様の熊。なんだコレ? クー魔獣だって?
「シチューかカレーにするとウマいんだぜ。ちょっとパサついてるから、丸焼きはイマイチ」
それも遺伝子に刻まれた情報なのか、アンがそんな事を言うので、温泉のお湯で防疫処理を施した上で、ギョニソ喫茶に持ち込んでみた。
川崎市だと食品衛生法違反だけど、神聖カワサキ帝国ならジビエ料理として提供可能だからね。少しは、喫茶店の利益の足しになるだろう。
「こいつを目玉メニューして、バズらせようぜ」
「ああ、そうだな。そんな一時的な話題では、飲食店はやっていけぬと思うが」
ギョニソの対応は素っ気ないものだったが、クー魔獣を捌いてカレーにしてくれた。どうしていいか分からない食材は、カレーの具にしておけば間違いない。
「これ食べたら、また妙な効能があるんじゃないだろうな?」
ワイバーン肉を摂取すると、筋力や骨格が強化された。クー魔獣肉にも、似た様な効能、あるいは呪いがあるんじゃないだろうか。
「うーん? 魔力袋を食べれば、多少は魔法が強化される程度じゃないかしら?」
魔力袋なる器官は、魔導粒子を圧縮して溜め込む機能がある。クー魔獣は魔法攻撃を行使する獣だから、この器官を持っている。古代の魔法使いにも、あったらしい。
今は、仮想器官となっているらしい。仮想器官って何だ? クラウド上にでもあんの? 魔法もIT化が進んでいるのだろうか。
まあアレだ。
おいしいご飯を食べて、温かい温泉に浸かれるのだから、我々は十分に満たされているのではないだろうか。
戦国異世界の異形の月、いやアレは惑星だったか? を見上げながら、真っ黒いお湯の露天風呂の中で、そんな事を思う。
しかし、現実はいつだって非情だ。のんびりしている場合では無かった。タマヨン安息の時は短い。
「しかし、この異世界ゲートは、破棄するべきじゃろうのう」
「そうね。今後は、ゲートを抜ける奴も出てくるかも知れないわね」
「怪獣出現って事になっちまうからなあ。川崎市にも神聖カワサキ帝国にも、ウルトラマン居ないからなあ」
「川崎市だと不可視属性かも知れねえ。神聖カワサキ帝国だと、魔導粒子が枯渇してっから、タマヨンでも戦えねえ。どっちにしても危険だな」
すっぽこ娘達から、そんな提案がなされた。
「ここの防御を高めて、保守するワケにはいかんかな?」
「ん-、誰かが常駐しないとダメじゃないか? アタシは嫌だぞ。ここ、酒持ち込めないし」
検疫のため、持ち込み制限が厳しいからね。飲んだくれの桜子が常駐するのは無理だろう。
「この露天風呂から持ち出さなければ、いいけど。酔っ払ったら何するか分からないものね。桜子じゃ無理だわ。そもそも戦闘能力が無いじゃないの」
「お? そうなると私の出番? ここインターネット繋がらないからヤダなー」
数子の転移魔法なら、必殺の攻撃にもなるけど。本人にやる気が無い以上は無理。
「俺は、この世界嫌いじゃないぜ?」
「アンが、ここに常駐しちゃうと、タマヨンもセットになっちゃうでしょ。それは、私とニャアが困るからダメよ」
「俺だって嫌だぜ。向こう千年くらいは梅ちゃん喫茶に居着くって決めたんだ」
つまり、ここに常駐出来る要員は居ない。いや、現地採用すれば? でも、どうやって募集するんだ? この世界に、ハローワークとかバイト情報誌とかあんの?
ここを開発するリソースがあるなら、神聖カワサキ帝国の拠点に集中するべきか。
あそこには、ギョニソとミヨちゃんが居るし。
城を建て、周囲に村を作ろうかと思ってたんだが。
現実は、どうぶつの森みたいには行かないか。ここが現実世界なのかって言えば、どうだろうかって感じだけど。
「最後に、ヒヒイロカネを回収したら、ここは破棄するかー」
「のじゃー」
蔵から回収し損ねたヒヒイロカネを回収。
大火に依って蔵は消し炭になっていたが、ヒヒイロカネは多少溶けた程度だった。
さすがは、魔導素材だな。
ゴールドはドロドロだったし、そもそもこっちは使い道が無いが。それでも転移魔法にかけるだけで精錬出来るのだから、川崎市の地下倉庫に送っておいた。
ヒヒイロカネは、神聖カワサキ帝国の拠点3階に転送。
相変わらず、日本円にするスキームには至っていないが、きっと前には進んでいる。そう評価してもいいだろうよ。
だって、ここには偏屈なクライアントも、無能な上役も居ない。
すべてを判断し決定するのは、己自身なのだから。
タマヨンは、この状況をプラスに評価するよ。
「えー、じゃあ、この異世界ゲートは破棄するけど、どうやって帰還すればいいの?」
「そんなの簡単じゃないの。私達がゲートを通過した後で、タマヨンとアンだけ転移魔法を使えばいいじゃないの」
「あ、そうか」
この世界限定でタマヨンは大魔導士なのだった。
ああ、その点だけはちょっと惜しい気もするね?
「おい、マイブラザー。おかしな気を起こすんじゃないぞ?」
「え? なんで分かったの?」
「言っただろ? 俺達は、一心同体だって。やれやれだぜ」
皆が帰還し、異世界ゲートを破壊した後、アンに見透かされてしまった。
転移魔法を使って、おっさんの体を取り戻しちゃおっかなーって思ってたのを。
大魔導士で居られるこの世界でなら? これは最後のチャンスかも知れない。
しかし、失敗した時のリカバリー手段は、そこには無いのだ。
「分かったよ。アンとタマヨンは一心同体。一連托生だもんね」
「ああ、分かってるならいい」
川崎市に帰ったら、性別変更の申請をしてしまおうか。家庭裁判所に申し立てをするんだっけな?
既に、切り戻し可能なポイントは過ぎ去ったのだ。タマヨンが、それを意識する暇も、選択肢を与えられる事も無く。いや、きっと何処かにはあったが、愚かさ故に気付かなかったのだろう。システムエンジニアなんて、そんなもんだ。
これが派遣労働ならば、派遣先を切り替える事で、逃げる事も可能だが。
乙女になった事を、受け入れる時が来ている。
人生には、納得がいかなくても、事実を受け入れねばならぬ時が、3度ある。
そうだろう?




