表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の使い魔は魔法少女、あるいは魔法少女の使い魔がおっさん  作者: へるきち
タマヨンをめぐる冒険

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/27

023. 異世界へと続く道などない

 すっぽこ娘達は風呂から上がると、3人揃ってパピコの片割れを差し出してくる。

 4人居るんだからさあ、2つで十分デスよ、2つで。

 風呂上りに毎回これをやられるので、渡された内の2つは冷凍庫に仕舞う事になる。こうして、我が家の冷凍庫には片割れだけのパピコが溜まっていく。まるで、パピコの墓場だ。そして、すっぽこ娘達は、この片割れは食べようとしない。

 自分のが選ばれないと拗ねるとか、俺のパピコが食えねえのかと凄んでくるとか、そういうのは無いから、この事態はまだマシな方なのだろう。どんな事だって、前向きに捉える事が、長生きに繋がるのではないだろうか? どうせ、私は不老不死だけど。

 半身を失ったパピコは、半同居状態の座敷童にお供えしてるけど、ちっとも減らない。異世界貿易で売ってしまおうか? もっとも、異世界へ行く安全で確実な手段は、未だ確立していない。


 アンが半日足らずで、超絶技巧ギタリストとなった秘密が判明した。

 サンドボックス環境に1年間引き籠って、血尿が出る寸前まで特訓したのだ。

 それでも、1年間であのレベルに達するのは、相当な偉業だし。そもそも、1年間も特訓を続けた事こそが大いなる偉業である。中身がおっさんのチュウニ女児には、到底真似が出来ない。

 そんな偉大なるアンのお陰で、獲得した事実が2つある。

 ひとつは、1年後も我が家はここにある、という事。これは大事な事だ。この世界が、その時まで存在しているという事でもあるのだから。

 もうひとつは、努力すれば成し遂げられる事がある、という事。逆に言えば、努力しなければ、何事も成し得ない。

 つまり、どういう事かと言うとだ。


「魔法は、気合いと根性だって事だよ! 死ねーっ!」

「うぎゃーっ!」

「さすがよアン。その調子で、死なない個所を上手く狙うのよ。顔はやめなよ、ボディにしな」

 ボディもダメだよ。

 アンのコボル銃によって、死なない程度にコボルレーザーで撃ち抜かれている。死んじゃうとサンドボックス環境が解除されちゃうから、特訓が継続出来ないからね。

 大魔導士タマヨンになるために、多摩川の河川敷で魔法の特訓というワケよ。一度は諦めた道だけど、信じて努力すれば、きっとなんとかなるのだから。

 でもさー、死ねー、とか言っちゃって、殺意全開じゃない? どういう事? 保護者虐待じゃない?

 昨今の厳しいコンプライアンスに真っ向から挑むそのスタイルは、個人的には評価出来る。

 しかし、ソレも生きていればこそだ。はやく防御魔法を行使出来る様にならねば、いつか死ぬ。夢の中の衝撃で死に至る事もあるという。サンドボックス環境の中とて、油断は出来ぬ。

 アンは、敢えて鬼となり、私の覚醒を促す危機的状況を演出しているのだ。そうでなければ、泣いちゃうよ?


「おらー! お前こそ死ねやー! 銃を撃つ者は、撃たれる覚悟のある者だけじゃー!」

 念のために言っておくが、良い子のみんなは、こんな危険な遊びをしたり、品の無い言葉を叫んだりしてはいけないよ。まあ、他人の子がどうなろうと、知ったこっちゃないけどね。

「うぎゃーっ!」

 気合いと根性で打ち返したレーザーは、アンの頭を撃ち抜いた。

「やるな、ブラザー…、もうお前に教える事は無いぜ…」

「アン、死ぬなー!」

「そうよ。死ぬと、サンドボックス環境が解除されて、やり直しじゃない。面倒だわ」

「ここでの死が仮想的なものじゃとしても、もうちょっと言い様が無いんかコイツ」

 さすがの黒ドラゴンも、右脳を一瞬で破壊されると死んでしまう。

 新しい発見だ。

 人は、いつくになっても学びの姿勢を忘れてはならぬ。


「他の方法を考えましょう」

 仮想的にとはいえ、ついにアンが死に至る事態にまでなっても、私が大魔導士として覚醒する事は無かった。致命的に、才能が欠如しているのかも知れない。もしくは、大器晩成なんだな。10万年くらいかければ、何とかなるかも知れないね?

 でも、その前に荒み切った心が先に死んでしまうんよ。家族で殺し合いなんかしちゃダメだな。戦国時代の武将じゃないんだから。

「どうするんだ? 異世界貿易を諦めるのか? そいつはヘヴィだぜ」

「いや。異世界転移の方法を変えたらどうじゃろうか」

 異世界へ行くために、前回は4人と1頭に加え座敷童の、クアッドコア+コプロセッサ+NPU的な構成で異世界転移魔法を実行した。この方法の欠点は、異世界へ送り込めるのが2人と1頭に限定されるので、復路が確保出来ない事だ。往路より縮退した構成では、異世界転移魔法が実行出来ないからね。

 しかし、私が大魔導士になれば、シングルコアによる実行でも往復が余裕。4人と1頭まとめても大丈夫。という構想で魔法の特訓をしていたのだけど、それは成果が無かった。他の手段を探すべきだろうね。

「そうね。異世界ゲートの設置を検討しましょう」

 異世界ゲートだって?

 それって、学習机の引き出しの中や、畳の裏から異世界へ行けるというアレか!?


「理想的なのは、露天風呂ね。脱衣所が2つあれば、異世界ゲートを構築出来る」

 アズキが定期購読している月刊異世界通信の付録だとか、巻末広告の通販で買えるとか、そういうお手軽な物では無かった。ドア1枚設置するだけ、という省スペースな物でも無かった。

 異世界ゲートを構築するには、銭湯1軒分くらいの広い空間が必要なのだという。

 そんなもん、何処にあるというのか? 無ければ確保するしか無いね。


「ここに露天風呂作るんは構へんで。費用を出してくれるんならな? ただし、脱衣所の建物を増築するんはなあ。違法建築になってまうかなー」

 まずは、うちのビルの屋上から現地調査だ。ビルオーナーの梅ちゃんにも立ち会ってもらう。

 異世界ゲートには、脱衣所が2つ必要。男性用と女性用ではない。入り口と出口だ。ファイヤーウォールで言えば、外部ファイヤーウォールと内部ファイヤーウォールである。

 まず内部ファイヤーウォール脱衣所で服を脱いで露天風呂に入る。露天風呂は非武装地帯、DMZだ。ここでは全裸になってるから、まさに非武装地帯だね。

 これは、アズキ曰く、検疫の効果があるらしい。自宅でも、露天風呂に入りたいだけだと思うが。

 続いて、露天風呂を挟んで対面に設置した、外部ファイヤーウォール脱衣所で異世界向けの服装に着替える。着替えたら、お風呂とは反対のドアから出る。

 すると! そこは異世界! ってワケ。ほんとかなー。

「へえ、そないな方法があるんかいな。完成したらワイも異世界行きたいわー」

「それは無理ね。私達と使い魔じゃないと、魔導粒子の圧力に耐えられずに、生きたミートボールになるわ」

「なんやソレ!? こわい! どのみち屋上はアカンやろ。費用も500万円は、かかる思うで」

「似た様な構造さえ取れたらいいのよ。エアロックみたいな多重構造になってれば、それでいい」

「なるほどな? 屋上の小屋を中で区切ったらアカンのか?」

「それだとダメね。露天風呂に出てから、また戻る動きになっちゃうから。動線が直線的じゃないと異世界に繋がらないのよ」

「はーん? そういう事かー。露天風呂を諦めるんなら、ええもんがあるで」

 どうやら屋上への構築は無理な様子だけど、まだ諦めるのは早そうだ。

 

「おー、地下にこんなもんがあったのね…」

 今度は、ビルの地下室だ。地下室があるなんて、知らなかったな。

「シェルターってヤツやな。ここが建った時は、東西冷戦の真っ最中。キューバ危機とかあった頃やからなー。知らんけど」

 当時、そういうものが富裕層の間で流行ったとか。ニュースなんかで見た記憶はあるけど、こうやって実物がまだ残っているとは。

 もっとも、シェルターといっても、これで大量破壊兵器の攻撃に耐えられたかは疑問だわ。

「今は倉庫として使っとるから、派手に改装されると困るけど。奥にもひとつ小さい部屋があるし。条件的には満たしてるやろ?」

「そうね。別に物が置いてあっても、問題無いし。1階を入口、倉庫部分を非武装地帯、その奥の小部屋を出口にすればいけるわね。小部屋にあるトイレのドアを最終ゲートに出来るわ」

 おお! 何かハードSFっぽい! 錯覚してしまいそう。最初に、露天風呂とか言ってなけりゃなあ。

「ほんなら、好きにしてええわ」

「壁にちょっとスイッチ設置したり、その程度はいいかしら?」

「ええよ。ワイも独自に異世界ゲート設置するわ。話聞いてたら出来る気がして来た。たまには弟子のところへ顔出したいからな」

「そう。梅ちゃんなら、きっと出来るわ」

 異世界ゲート構築プロジェクトの開始だ。


「出来たわ」

「早いね」

 買い出し部隊が、アンコを仕入れて来る間に、アズキの手によって地下への異世界ゲート構築は完了していた。

「アマテラスとドラヤキに手伝ってもらったからね」

「ぽっすん」

「にゃあ」

 アマテラスは座敷童である。空間内の魔導粒子を整流する能力を有している。それを行使する事で、まあ、なんかうまくやったんだろう。知らんけど。

 ドラヤキが何をしたのかは、よく分からないな。休憩中の癒しかな?

「ここで異世界転移魔法を実行して次元貫通させれば、ゲートが開通するわ」

「もはや完成したも同然じゃろか」

「問題は、これからよ。異世界側にもゲートを構築しないとね」

「それは、このゲートを通って行けばいいんじゃないの?」

「いいえ。最初の次元貫通の段階では、異世界に行けるのは前回と同じで2人までだからね。言い方を変えると、異世界に2人送らないと開通しない」

 それは、何だか大変そうだよ?


「今回は、私とタマヨンで行くわ。向こうに持ち込んだアンコで建設資金を捻出しましょう。帰りの事は、まあ何とかなるでしょ。最悪の場合は、世界7大魔女を捕獲して異世界転移魔法を行使させればいいでしょ。魔導粒子の枯渇した世界に、そんなのが居るとは思えないけどね」

 異世界側でもゲートを開通させるためには、初回の異世界転移魔法で次元貫通させる必要がある。

 つまり、帰りは2人だけで、異世界転移魔法を実行して帰還せねばならぬ。

 前回は、ニャア秘蔵のどんぐりを使う事で、2人と1頭だけでも帰還出来たけども。どんぐりは在庫がもう無いし、拾える季節でもない。

「どんぐりが拾える季節まで待った方がいいんじゃない?」

「それでも確実とは言えないけどね」

 少しでも成功する確率は上げてから臨むべきだ。

 もっとも確実なのは、私が大魔導士になる事なんだろうけども。

 うーん、血尿が出るまで地獄の特訓は終わりそうにないなあ…、それは嫌だ…、やっぱ行くなら今か?

 時には、勢いに身を任せる事も必要だ。幸運の女神には前髪しか生えてないんだっけ?

 努力してもどうにもならない時は、女神様の前髪を掴んで引っこ抜いてやるのさ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ