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私の使い魔は魔法少女、あるいは魔法少女の使い魔がおっさん  作者: へるきち
タマヨンをめぐる冒険

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22/27

022. 大更改時代

「世界7大魔女の最後のひとり、女子力53万の多恵子を、生田の竹やぶの中で、やっとこ見つけたんじゃがー。そこに、魔王の軍勢が待ち伏せておってのう。ワシの必殺パピコ拳すら、やつらの絶対防御ファイアウォールの前には、すべてイジェクトされてしもうたんじゃ。ほいでー、黒ジャガーに覚醒したドラヤキがー。あ、肉じゃがを食べたら覚醒するんじゃけども」


 異世界での冒険譚を、滔々とニャアが語っている。

 お土産に買って来た崎陽軒のシウマイとマーロウのビーカープリンを、すっかり食べて終えてしまったので、続きはウェブでじゃ! と終わった。なろうに妄想小説でも垂れ流してんのかな?

 創作能力が高くて大変結構。うちの娘は、優秀でかわいいなあ。


「向こうの世界では、ニャアが他者に認識されてたってのは大きな収穫ね。魔導粒子の濃さが関係しているのかしら?」

 優秀でかわいいアズキが、鋭い着眼点を発揮する。そういや、そうだったわー。こっちの世界じゃ、不可視の悪魔なのに、甘味処のグーロさんはじめ、王や官僚の連中ともコミュニケーションしてたわ。

「なあ? なんで鉄よりも安いゴールドを買って来なかったんだ? こっちの世界なら、1オンス2,500ドルで換金出来たのに」

 アンも、優秀でかわいい。ゴールドの価値をドル建てで言っちゃうとこがアレだけど。

 ところで、50過ぎのハゲオヤジが「かわいい」連呼してるとキモイけど、私は14歳女児だからいいよね。だって、私も超かわいいし。ツラだけは。中身は想像すんなよ?

 ニャアよりもアズキかアンを連れて行った方が良かったんじゃ? なんて思ったけど、そういう事じゃないな。ニャアが用意していたどんぐりが無ければ帰還出来なかったしね。全員一緒なのがベストだろう。

 うん、やっぱ異世界に行くなら、家族総出がいいだろう。

「鉄よりも安いクズだから、何処にも売ってなかったんだよ」

「ああ、そういう事ね。だったら、ゴミの中から拾って来なさいよ」

「やっぱさー、みんなで行くべきじゃねぇか?」

「ほうじゃのー、パーティで活動するのは冒険の基本じゃけの」

 皆も、同じ意見らしい。行くなら家族総出で。旅行も兼ねてそうしたいものだ。

「ふぅ。本来なら、タマヨンが大魔導士レベルのはずなのにね」

 アズキが溜息と共にそんな事を言って、ちらっとアンを見た。

 最初に契約したアンの使い魔教育が不足しているとか? きっと、そういう事なのだろう。

「大魔導士なら、ひとりでも全員を異世界転移させるくらい、余裕じゃろうなあ」

 マジでー? そんなに違うの!?

 PINGも打てない新人と、金融案件の現場リーダーくらい違うじゃん。

 今の私は、何の魔法も使えないからね。

「マイブラザーを大魔導士にしようじゃねぇか! 血尿出るまで鍛えてやるぜ!」

 ええ!? そんな昭和のモーレツ社畜みたいな事したくないよ。

 しかも、俺のトラウマを抉ってきやがった。このすっぽこ娘め!


「いいかー? 行くぞー」

 サンドボックス環境に入ってから、多摩川の河川敷までやって来た。

 コボル銃を構えて、60フィート6インチ先に立つアンを狙って撃つ。これは、野球のピッチャープレートからホームプレートの先端までの距離と同じ。

 つまり、コボルレーザーをアダマンタイトバットで撃ち返す遊びをしているのだ。

 魔法の特訓何処行った?

 ぴちゅん! と、コボルレーザーの閃光が走る。

 かっきーん! と、アンが振り抜いたバットがレーザーを打ち返す。

 ひゅんっ! と、レーザーが私のアホ毛を掠める。

「おい! ピッチャーライナー喰らったら、死ぬじゃねーか!」

 危なかった。ヘルメットが無かったから、即死するところだった。

 レーザーと云っても、純粋な光線では無いので、弾速は光速ではない。

 せいぜい時速150キロ程度だろうか?

 それでも、撃ち返すのも避けるのも簡単ではない。

 音速を越える銃弾よりは、ずっと安全かも知らんが。

 異世界の子供は、危険な遊びしてんなあ。

「大丈夫。魔導素材が反射したコボルレーザーは、致死成分を吸収されていて概ね無害だから。ただちに死ぬ事は無い」

 あまり大丈夫な気はしない。

 TCPの再送制御をあてにして、本番稼働中のLANケーブルを差し替える位には落ち着かない。

 だって、掠っただけで、私のアホ毛焦げてるよ? 隊長機のツノみたいなアホ毛が。

「ねえ? この危険な遊びが、魔法の訓練なワケ?」

「魔導粒子の扱いに馴れる効果はあるわ」

「まあ、そういう事なら…」

 地獄の様な死亡遊戯にしばし興じるのだった。

 これで、魔法の訓練になるなら、チョロいもんよ。


「デッドボール喰らうと即死じゃん!」

 文字通り、デッドだったわー。

 魔導素材で反射し損ねてレーザーの直撃を喰らうと、ただちに死ぬのだ。

 バッターボックスでレーザーを喰らった瞬間に、サンドボックス環境が解除された。サンドボックス環境は、被術者が死ぬと解除されるからね。

 仮想体験とはいえ、何度も死にたくはないんだけど。

 これ、貿易事業の準備なんだよね? 何で命がけなの? 大航海時代なの?

「やれやれだぜ、ブラザー。こないだワイバーンのクビを落としたじゃん?」

 じゃん、じゃねーよ。アンの説明は、いつも中間の工程が抜けている。

 確かに、アンをミサイルにしてワイバーンのクビを落とした事があるけど。

「飛行中は防御膜を張っているのよ。だから、アンミサイルに貫通力があるってワケ」

 解説のアズキさんに依るとだ、飛行魔法は音速以上で術者を機動する。

 我々の体は流線形でも無いし、皮膚が耐熱性の高い素材でもないので、衝撃波や大気摩擦熱に耐えられずに自壊してしまうハズだ。なので、そういった衝撃から身を守るために、防御魔法を同時に展開して、全身に防御膜を張る。つまり、全身が弾丸の形状になっているのと同等なため、アンミサイルが成立する、というワケだ。

 魔法なんだから、ふわっとイイ感じになってる部分は大いにあるだろうけど、これでなかなか理屈を理解していないと危険なのだ。

「分かった? 防御膜も張らずにバッターボックスに立つのが悪いってこった」

「ああ、分かったよ。命がけのスパルタ訓練だって事がな」

 我が娘によるパワハラは、何処に訴えればいいですか?

 なお、不可視の娘なので調査も立件も不可能かと存じます。


 もちろん分かっているさ。

 すっぽこ娘達だって、保護者を虐待したいワケじゃないって事くらいは。

 だがしかし、死んでしまっては本末転倒というものだ。

 永遠の寿命を支えるための収入源を模索しているのだから。

 目的と手段を取り違えてはならぬ。

 そりゃあ、魔法は使いたいけど、命と引き換えには出来ないなあ。


 異世界貿易には可能性を感じるが、課題が厄介過ぎる。

 このプロジェクトは、一時凍結だ。

 そもそも、人に頼ろうとしているのが良くない。

 あまつさえ、頼った相手の責任を追及するとかクズの所業である。

 私は、ひとりで考えるため、狭い書斎に籠った。

 いいアイデアを思い付いたら、すっぽこ娘達に実現可否を相談しよう。


 ぽくぽくちーん! と閃く事もなく、ユーチューブ動画を適当に漁っていると、アンがやって来た。

 壁際に立て掛けてあるギターを手に取ると、ぺきょぺきょぺっ、と弾き始めた。

「ん? ギターに興味あんの? 教本あるけど見る?」

 本棚から初心者向けの教本を取り出して渡す。

「へえ。まったく開いた形跡が無いわね。他に、上級者向け教本まで本棚にあるというのに」

 アズキまでやって来て、教本を後ろから覗き込みながら、鋭い事を言う。

 そうなんだよ。

 ギターを始めてから早40年。未だに、基礎的な理論すら理解していないおっさんは、たまにやる気を出して教本を買ってみるものの、未だに読んですらいない。そんな教本が、うちには何冊もある。初級者向けすらクリアしていないのに、上級者向けまで取り揃えている。

 いいんだよ。パワーコードとマイナーペンタトニックさえ理解してれば。ハードロックは、それで十分なんだから。(注:やっぱり偏見です)


 しばらくパラパラと教本をめくっていたアンだが。

「理論よりも実戦だな。実弾飛び交う戦場でこそ、戦士は成長するものさ」

 などと言い出すと、ぺいっと教本を放り出して、じゃっじゃっじゃー、と耳コピで超有名リフを弾き始めるアン。Deep PurpleのSmoke On The Waterだ。初めて弾く曲の王道。ストラトキャスターを選ぶところといい、いいセンスしてるわー。(注:偏見です)

 アズキは飽きてしまったのか、何処かへ行ってしまった。

「ん? ここは全部アップピッキングか? もしかして6弦と5弦?」

 などと呟きながら、どんどんマスターしていくアン。

 2時間後にはカノンを弾きこなし、日が暮れる頃には、ムーンライトソナタ第3楽章をタッピングで弾きこなしていた。

 ……、どういう事? 五色龍って、どんだけ優秀なの?


 アンのギター練習の様子は、スマホで録画しておいた。

「これを、ユーチューブにアップすれば! 流行の天才キッズギタリストとして大人気間違い無い!」

 うまくいけば、収入源になるだろう。

 問題は、余りにも成長が早いので、AIで生成した動画にしか見えない事だろうか?

「あれれー?」

 スマホでローカル再生する分には問題無いのだがー。

 アップロードした動画にはアンは映っていないし、超絶技巧プレイの音も聴こえない。

 私がブヒブヒ言っている、気持ち悪い声しか入っていない。

 そうかー、不可視属性は動画だとこういう事になんのかー。

 アンのユーチューバーデビューは幻と消えた。


「まずレモンのイエローを入れてー、そこにスイカのレッドを投入ー! さらに、バスハーブのグリーンにー、ミルクのホワイトでトドメだー!」

 浴槽のお湯に、入浴剤をドサドサと各種混入させていくアン。

 保護者によっては、行儀が悪いと叱る場面だろうけども、私は好きにさせておく。

 見てて面白いし、こういう行為から何かを学ぶかも知れない。

 入浴剤はアンの収入で買っているから、経済的な何かを学ぶかも知れない。

 無駄遣いは良くないなーでも、何でもいい。

 しかし、お湯がヒドイ色になったな。泥水みたい。でも、これはこれで温泉みたいでいいかも。

「はぁ。お風呂のお湯だから楽しいけどなー。これがドラゴン同士だとなー。何色も混ぜるのはなー」

 なんか深い事を言い始めたぞ、この0歳児。

 五色龍同士には、過去に何か因縁があるのだろうか?

 アン達は、先代以前の記憶も自らの遺伝子から読み出せるから、きっと不幸な過去も知っているのだろう。

「白と(きん)とは、うまくやってんじゃん」

 アンは黒ドラゴンで、アズキは白、ニャアは金だ。我が家には、五色龍が3色も揃っているのだ。そして私は、彼女達共有の使い魔である。

「まあなー、俺はここでは先輩だからなー。後輩の世話を焼くのは当然だろ?」

 そんな事言っているけど、せいぜい2週間だよね?

 芸人や職人の世界ならば、その差が絶対的なんだろうけども。

 あんた達、数億年規模で生きるんじゃないの? 2週間の差を気にするー?

 まあ、仲良くやってる様なら、それでいい。

 今も、一緒に風呂に入ろうとして、アズキとニャアが浴室にやって来たし。

 4人だと結構狭いのに、やたらと一緒に入りたがるんだよね。

「また、おかしなお湯にして。何が楽しいのコレ? ねるねるねるねは混ぜると色が変わるけど、黒ドラゴンを混ぜると、どんな色になるのかしらね?」

「アンはドリンクバーでも、わやブレンド作るからのー。お子様なんじゃのー」

「そうね。産まれたてのポンコツだったわね。使い魔もろくに育てられないような」

「おい! やんのかー! おー!」

「おー?」

 仲良くケンカしてくれ。

 災害級のモンスターだから、ちょっと不安だけど。

 使い魔が、命がけで世界を破滅から守るよ!

 

 猫のツブアンだけが、我関せずで、のんびりと湯に浮かんでいた。

 ああ、今日も月がキレイだなあ。

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