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あなたの使い魔は、天使ですか悪魔ですか、それとも魔法少女ですか?  作者: へるきち
カレイなるタマヨン

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018. 老害と娘のブルース

「お会計、990円になります」

「カード使えますー?」

「ポケモンカードですか?」

「なんでやねん! カードゆうたらクレジットカードやろ。それとも、この店はポケモンカードで支払い出来るんかい!?」

「ポケモンカードが支払いに使えるワケないでしょ。非常識な事言わないでよ」

 ロールプレイ形式で、私が店員、梅ちゃんが客の役をやって、喫茶店レジ対応の研修中。

「なんや、このコント…」

「タマにゃん、接客無理なんじゃなーい?」

 梅ちゃんがガックリ力尽き、常連の桜子が囃し立てる。

「だってカードじゃ分かんなくない? クレジットカードって言わないと、認識に齟齬が生じる危険性があるよ。日本語って、曖昧な単語を使いたがるけどさ、レコードが今流行ってるなんて言うけど、あれって記録って意味だし、音楽媒体である事を示して無いよね。携帯電話をケータイって略すのもどうかしてる。機能を示す重要な方を省いてどうすんの?」

「めんどくさいなあ! コイツ!」

「あら? レコードなら、英語圏でもヴァイナルって言うけど、それって石油製品でしか無いじゃない? なんでも日本語がオカシイって理屈は、一方的に過ぎると思うわ。私も、昨今の略し方には疑問を感じるけども。バサキって何なんの? おいしそうだわ、って思ったら、バイト先? バイト先って時点で、もう十分略してるじゃないの。イトの2文字くらい、省かず言えばいいのに。そういうワケで、手羽先の唐揚げ頂戴。胡椒多めでね」

「こいつも、めんどくさい!」

「仕方無いでしょ、こいつら老害なんだし」

 私がめんどくさい事を言えば、桜子もめんどくさい事を言い、前世妹はそんな私達を老害だとバッサリ斬り捨てた。

「もうええ。タマヨンは、接客せんでええわ」

「部下の能力を適切に評価出来る。梅ちゃんは、いい上司だね!」

「やかましいわ!」

 ガワだけが14歳女児になっても、中身はおっさんなのだ。立派な老害だよ。

 こうして私はフロント業務から外されて、お小遣いは月3千円に減額された。


 私は、タマヨン。

 擦り切れたシステムエンジニア、50過ぎのおっさん。

 だった。

 ある日、公園で魔法少女を拾って、使い魔契約をしてしまった時から、私の人生は理解の範疇を越えてレッドゾーンの彼方へ。不老不死で14歳女児になってしまった私は、3人の幼児を抱えて、シングルパパん生活をエンジョイ中。これがリリース作業なら、とうの昔に切り戻り可能ポイントは越えた。もう引き返す事は出来ない。


「そういうわけでー、お給仕ロボを増やします」

「こんな事もあろうかと、既に用意してあるのじゃ」

 私と違って、うちの娘達は実に優秀だ。

 悪魔オモッチの依り代を魔改造して、お給仕ロボを3体も作ってくれた。

 桜子はロボの不良在庫を処分、梅ちゃんは労働力を獲得、私は労働から解放。

 三者に利益がある。うぃんうぃんうぃん!

 お給仕ロボは在宅でリモート操作も出来るし、高度AIによる自律行動も可能だ。24時間365日戦える。

「ロボットじゃないよ、アンドロイドだよ」

 そんな定番のセリフだって言える。

 異世界不思議生物とロボットを従えて、私は悠々自適な生活だ!

 月のお小遣いは3千円だけど。


「え! 貯金使っちゃったの!?」

 アンとニャアは、魔改造費用として円の現金預金を使い込んでいた。いや、使い切っていた。

「自律行動出来るアンドロイドのAIが、タダで動くわけないじゃろ」

「スパコンじゃなく、市販NPUで工夫したんだぜ? そんな俺を、もっと褒めていいんだぞ?」

 私の最後の資産を使い切っておいて、むしろ得意げなすっぽこ娘共。

 責任は全て俺がとるから好きにしなー、なんて言ったのは誰?

 それは、過去の私。

 ひでぇ設計書だなー、書いたの誰だよー、って思ったら自分だった。そんな感じデスね。誰が誰を責められようか。

「おぉ、何とかして金策をしないと…」

 急いで支払うものは、特に無いけれど。

 …なら、いいか?

 先送り出来る事は保留して、未来の自分に託す。

 これが、システムエンジニアというものだ。


 やるべき事は決まっているのに、そのための手法も手順も思いつかぬ。あるいは、何処からどう手を付けていいのか分からぬ。実を言うと、やる気が無い。帰って寝てしまいたい。

 こんな時に、工数として計上し易いのが事務処理だ。何もしていないワケでは無いのだ、と言い訳が立つ。もちろん、事務処理だって重要なタスクである。おろそかにしてはならぬ。期限が明確に定まっている分、優先度は高い。

 とりわけ、運転免許証とマイナンバーカードの再交付申請は急務である。

 何故ならば、認識齟齬の魔法を使っても、機械的な顔認証はパス出来ないのだ。

 各種申請や手続きがオンラインとなった昨今、機械こそ騙せねばならぬ。


 運転免許証の再交付申請のため、二俣川の運転免許センターまで行く。

 何故、運転免許センターは不便な場所にあるのか? 都内の方が近いんですけどー、などと猛暑の中を愚痴りながら向かった。いつもの老害脳なら、フェルミ推定でその理由を妄想するのだが、そんな余裕は無い。

 容姿に著しい変化が生じたため、という理由で申請してみたら、あっさり受理された。もしかして、こういう前例があるのだろうか? この世は、そこまで多様性に寛容だったのか。

 昭和生まれのおっさんの免許証には、14歳女児の楚々としたツラが顔写真として載っている。外見上の何もかもが違う。染色体構造の壁も、時空すらも越えている。廃車寸前のプロボックスと、新車のロードスター位違う。

 そういえば、極悪キャンディーズも、多摩警察署ではなく運転免許センターに連れて行けば良かったのかも知れない。そうすれば、彼女達が収監される事も無かったのかも知れない。

 しかし、罪には罰が必要なのだ。結果的には、正しい選択だったと言えよう。

 老害は、こうやって自己弁護をする事には長けている。


「この近くに、アズキが座敷童やっとったスーパー銭湯があるんじゃろ?」

 運転免許証センター最寄りの二俣川駅に着いたところで、猛暑でクタクタになったニャアが言う。きっと、スーパー銭湯に寄りたいのだろうな。

 でも、同行しているのはニャアだけだから、それは無理だろう。ニャアとだけ行ってしまうと、アンとアズキが、きっと拗ねるから。

 アンとアズキは、お給仕ロボを操作して店で働いている。

 ニャアが担当しているロボは、永野護がデザインした様な、ソリッドで有機的なタイプ。おっさん客の多い夜間と休日は、稼ぎ時じゃなかろうか。ファティマタイプが作れたら大人気かも知れない。風営法の規制対象になりそうだが。逆に言えば、ニャアに限っては、朝から夕方頃までは暇を持て余している。

 そんなワケで、ニャアだけ連れて来た。

「座敷童ってどういう事? あんた達、ドラゴンなんでしょ? そんな事もできるの?」

 アズキ自身も、用心棒みたいな事してたなんて言ってたけど、座敷童もドラゴンの眷属だったりするのだろうか? うちの娘達は、五色龍というドラゴンの最上位種だ。

 ホームに来た電車に、にゃあを担いで乗る。スーパー銭湯に寄りたいのは、やまやまだけど、この電車は上星川とは逆の海老名行だ。小田急に乗り換えて、多摩区役所の最寄り駅である向ヶ丘遊園に行く。運転免許証の次は、マイナンバーカードの再交付申請だ。

「ワシらも巣に加護を与える事くらいはする。座敷童ほどの執着は無いけどのう」

 ニャアは、そう言うと車窓に釘付けになった。往きとは違う経路だから、見飽きないのだろう。五色龍とはいえ、こういう行動は幼児そのものだ。

「アレ、うまそうじゃのう」

 何を見て言っているのだろうか?

 電車に乗ると眠くなるのが社畜の習性だが、今は眠るのが惜しい。

 すっぽこ娘を見ていると飽きないのだから。

 座敷童的な加護の有無に係わらず、私の生活様式は大きく変わった。


 マイナンバーカードの再交付も、あっさりと出来た。

 既に運転免許証が切り替わっているのだから、再交付されない道理が無い。

 券面に性別に記載があるせいで、免許証よりも違和感が大きい。

 これで、予定していた手続きは完了。

 帰りは、多摩区役所前からバスを利用するのが理想的だけど、本数が少ない。

 歩いて帰ろうか?

 しかし、日が傾いて来たとはいえ、厳しい暑さだ。うちに辿り着くまでに、お土産に買ったしうまいを、ニャアが我慢出来るかも心配だ。

 いっそタクシー?

 そういえば、タクシー代が経費として認められずに、2時間近く海芝浦の駅で待った事があったなあ。あの日も、今日みたいな猛暑だった。ちょっとの経費をケチって、社員の命を危険に晒す様な会社で働いてはならぬ。やはり、独立せねば。

 電車で帰る事にして、登戸駅まで歩いた。

 駅の売店で売っているドラえもんグッズをニャアと共に物色する。藤子・F・不二夫ミュージアムの最寄り駅だから、こういう物も売っているのだ。

 ハンドタオル、箸などの食器類、ぬいぐるみ、ドラえもんだけでなくパーマングッズもある。いろいろあってニャアは目移りしている。

「うーん、どれがええかのう。ぬいぐるみかわいいのう」

「アンとアズキの分も選びなよ」

 ニャアは、ドラえもんの形をした人形焼きを選んだ。

「これなら、みんなで分けたらええじゃろ」

「そうだね」

 情緒と優しさの育っているニャアを眺めて、親の気分を味わう老害の私だった。

 なお、しうまいは我慢出来なったニャアが食べてしまった。


 うちに帰り着いて、まずお風呂に入る。

 14歳乙女も、ドロドロになるとクサクサだ。

 うちは梅ちゃんと私の経営する喫茶店だ。さっぱりしてから店に顔を出す。

 桜子と前世妹が酒盛りをしている。ワイバーンの唐揚げが、山の如く皿に盛ってある。これはあくまでも、身内への賄い料理。お客様に提供してしまうと、違法性を問われる。

 産地偽装も食肉偽装もなく、ドラゴンの唐揚げをジビエ料理として提供したとしても無理なのだ。我が国では、食の安全が厳密に管理されているのだ。

 この店には「肉ジャガー」や「しろくま」といったメニューがあるけど、もちろんジャガーや白熊の肉は使っていない。まっとうにやっている商売なのである。ただ、店主がふざけているだけだ。


「ほい、タマヨンのポイントカード」

 そう言って、桜子にカードを差し出された。

 今時珍しい紙のカードで、スタンプを押す枠が並んでいる。

「なにこれ? ラーメン屋のポイントカード?」

「いや。探偵事務所のだよ」

 ポイントカードのある探偵事務所。画期的ではないだろうか。知らんけど。

「ポイント集めたら何か貰えんの?」

 探偵事務所でポイント貯める程のヘビーユーザーって不幸の塊なんじゃない?

 浮気調査とかがメインになるんでしょ?

 そんな不幸がてんこ盛りな顧客に何を与えると言うのだろうか。

「ん-。まだ考えてないけど、悪魔に魂を売る権利とか?」

 売っちゃダメだし、買わせてもダメでしょ。

 そもそも、探偵事務所ってどういう事? ラーメン屋はどうしたの?

 うちの隣の空き物件で、ラーメン屋やるんじゃなかったの?

「だってー、レシピ開発担当は逃げちゃし、ラーメン屋の設備は金も時間もかかるしー。探偵事務所しかないでしょ!」

 ダメだ。前世妹が、桜子に洗脳されてしまっている。

 底辺キャラ達が、探偵事務所を開業して活躍するのは、フィクションの世界だけだ。現実世界には、あれれー? とかのたまう名探偵など居ないし、真実はいつだって人の数だけ在るのだ。

「資格とか持ってんの? 必要なのかどうか知らんけど」

「公安委員会に届け出るだけだよ。資格なら、ファイナンシャルプランナー持ってるし」

 そう、桜子が答える。ああ、一応ちゃんとしてんだ。

 ファイナンシャルプランナーの資格で何するつもりなのか知らんけど。

「もう内装工事も済んで、開業しちゃったし」

 うちが引っ越しに追われている間に、そんな事になってたか。

 このふたりに探偵なんて出来るとは思えないんだけど。

 座敷童の加護と、悪魔の力があれば、何とかなるのだろうか?

 うちの隣の探偵事務所には座敷童が住み、桜子は魂を売った代償に悪魔と契約している。

「法人化するのが目的だからね。何なら赤字だっていいのよ。個人投資家って、税金えぐいから。損失計上して、節税になればいいのよ」

 そういえば、うちの給仕ロボの素材も、損失計上するからっていう理由で、捨て値で譲って貰えたのだった。

 随分と、したたかで逞しい事だ。脱税にならなきゃいいけど。

 私も負けてはいられないな、と思うのだけど。

 何をするべきか、何が出来るのか、その答えは1ビットも無い。

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