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あなたの使い魔は、天使ですか悪魔ですか、それとも魔法少女ですか?  作者: へるきち
カレイなるタマヨン

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019. 私は収入が少ない

「兄者さー、うちでバイトしない? お小遣い5千円くらいあげるよ?」


 前世妹が、探偵事務所のバイトに勧誘して来た。

 私のお小遣いが月3千円だと知って、付け込んでいるつもりなのだろう。

 最低賃金って概念を知らないのかな? 労働基準監督署に告発してやろうか?

 残念な前世妹は、思い違いをしている。

 私は、月給3千円で労働しているワケではない。


 私は、梅ちゃん喫茶の共同経営者なのだ。少なくない額の出資だってしている。NISAの枠内でコツコツ積み立てた投資信託、高値掴みで腐った株の現物、それらの資産を現金化し原資に充てた。(もちろん、この当時は日経平均株価が6万円を越える事など予想すらしていない) それらの資金は、お給仕ロボの素材購入と魔改造の費用、ワイバーン討伐時の諸経費として使われた。なお、ワイバーン討伐は、店舗周辺の清掃業務とした。梅ちゃん喫茶は多角経営で法人化もされているので、だいたいの事は経費として計上出来る。お給仕ロボを自律制御させるためのAIサーバを購入する費用は、貯金の残高が使われた。それだけの出資をした報酬は、ちゃんとある。家賃、食費、水道光熱費、通信費、社会保険料、確定拠出年金の掛け金、住民税、それらに相当する額が報酬として支給されている。現金として手元に残っていないだけだ。3年もあれば、出資額は全額回収出来る見込み。派遣期間の上限と同じ3年間というのが、実に私らしい。


「分かった?」

「はあ? 長いわー。老害は話が長いわー。3行にまとめてよ」

 うん。自分でも、そう思ったよ。


 結局、前世妹に押し切られて、探偵事務所を手伝う事になった。

 依頼があれば、都度お小遣いを貰うという約束で。

 どうせ、依頼なんてあるはずがない。


 そう、思っていたのだけど。


「ワンジロウ君は? ここに居るはずですが?」


 探偵事務所初めての客は、そんな事をのたまった。

 どんな酔狂な客が来たのかと思えば、何の事は無い。ここに巣食っていた全グレ共の指示者のひとりらしい。ワンジロウ君とは、全グレの頭なのだろう。

 とっとと警察に突き出してしまおう。お巡りさん、こいつが主犯デス、と。犯罪教唆は立件しづらいらしいが、犯罪者の処分は然るべき機関に任せるべきだ。

 しかし、金に目が眩んだ前世妹が、話だけでも聞いてみよう、などと言い出した。


 まずは、こいつの名を聞こうか。


「私は、聖女です」

 犯罪の黒幕ではなく、頭のオカシイ女だった様だ。

 昨今の厳しいコンプライアンスを鑑みて、もうちょっとソフトな表現を模索してはみたが、他に言い様が無い。

 聖女などと言われても、港区辺りに出没する女にしか見えない。ツラとスタイル以外には、強みなんてまるで無さそう。数年後には賞味期限切れで、ただのゴミだろう。ツラとスタイルだって、そこそこだし。おっと、これ以上は辞めておこう。私にも、ブーメランとして突き刺さりそうだ。


「聖女だとか言われてもね? 異世界ファンタジーなら、間に合ってるんだが」

 私は、ハードボイルドを気取って、そう言った。

 探偵だからハードボイルド。我ながら、頭悪い。頭オカシイ女とイイ勝負だろう。

「こいつ知ってる?」

 桜子が、スマホに話しかける。

 AIと対話している様に見えるだろうが、相手は悪魔オモッチだ。

 オモッチの新しい依り代は、クラウドサーバで稼働するAIなのだ。

 随分と、先進的な悪魔である。

 スマホのレンズを通して、聖女を視認したオモッチが回答する。

「聖女など我は知らぬ。その様な者が存在するのならば、ニンゲン共の世界は、もう少しマシなのではないか? 我に分かるのは、そいつの胸が偽装だと云う事のみ」

 そういうセクハラはよそうよ? いや、セクハラどころか名誉棄損だ。

 胸パッド(かどうか知らんが)を暴露するなんて鬼の所業だ? あんた鬼なの? 悪魔だったね。

「聖女? 私も知らないなー。もしかして、有名人なの? ユーチューバーとか?」

 聖女チャンネル、興味無いわー。

 前世妹も、聖女の事は知らないと言う。

 川崎にもローカルな有名人は居る。

 ピンク色のジャージを着て、頭には段ボールを被り、クラブチッタ界隈を練り歩く、通称ぼっちざメタルとか。中身は、スキンヘッドでマッチョな老婆だという噂だ。

 そういう類か、あるいは前世妹の言うユーチューバーなのか。


「貴方の様な凡愚な民が知らないのも無理はありませんね。私の活動は、世に喧伝しているものではありませんので」

 この聖女、コロネと同じ部族なのかも知れない。初対面の前世妹を、凡愚な民と言い放った。

「聖女様は、どの様な活動をなさっておられるので?」

 相手が金持ちだと分が悪い。この世で最大の暴力は金なのだから。

 私は、相手に合わせて話を進めてみる事にした。

 気分は、顧客のIT課題をヒアリングするセールスエンジニアだ。

 貴方の課題をキャッチアップして、ITによるソリューションに依ってイノベーションする事をコミットして差し上げましょう!

「世の中の浄化ですね。ワンジロウ君の更生も、そのひとつですよ」

「なんだ偽善者か。まあ、なんでもいいや。金になる話なら聞いてやるから、さっさとしろよ」

 やはり桜子は、社会に出すのは禁忌の者だった。

 しかし、世の浄化を願う聖女は、桜子の言い草を気にするでもなく話を続けた。


「では、本題に入りましょうか。この近くに、放火…失火で更地になった土地があります。そこの地上げ…再開発が少々難航しておりまして。先住民を追い出して頂きたいのです」

 この聖女、失言が多いなあ。

 最後の方は、取り繕うのもやめてしまった。

 なんだよ、やっぱり黒幕じゃないか。


「なるほど。対応可否を検討の上、後ほど連絡します」

 こういう案件を、その場で「やります!」などと言ってはならぬ。

 ITの現場では、そんな営業ばっかりだけどね。

「では、このモーニングセットを頂いてから帰りましょう」

「ごゆっくりどうぞ」

 聖女は、もっしゃもっしゃとアンコハニートーストを食べ始めた。

 ここは探偵事務所ではない。梅ちゃん喫茶の一角だ。

 探偵事務所で、ぼんやり待っているなんて退屈だもんね。

 前世妹も桜子もここに入り浸っている。

 隣の事務所、不要なのでは?

 なお、梅ちゃん喫茶は、こういったあやしい商談なんかにも最適です。

 是非、ご利用を。


「話は聞いとったが。コロネ案件ちゃう? もしくは通報やな」

 聖女が帰った後で、カウンターの中に居た梅ちゃんが言う。

 守秘義務なんて微塵も守ってない探偵事務所だな。

「コロネ? ああ、あいつも不動産屋か」

 こういうのは善意の第三者に丸投げするのが良いだろう。

 我々も、情報を得ただけの善意の第三者である。

 不動産をどうこうするのは、システムエンジニアには無理な話だ。

 その道の専門家に委ねておけばいい。

「ファイナンシャルプランナーのアタシの出番かな!」

 桜子が意気揚々と宣言した。

 聖女の事は通報しつつ、金融知識を活かしてオイシク頂くのが正義だろうね。


 漁夫の利というやつだ。

 地上げに困っていた土地所有者達には、桜子とコロネの提案が救済に見えてしまったのだろう。

 とんでもない幻影だ。しかし、違法性は皆無だし、救済であったのも事実。

 難航するかに思えた問題は、すんなり解決した。

 土地を取り上げるのではなく、預託する事でまとめ上げて、マンションを建てる事になった。

 不動産価格の上昇がいつまで続くのか、建ったマンションが利益を生むのかも未知数、リスクを背負っているのは土地所有者達に他ならないのだが、代々の土地を失わずに済んだ、という一点において皆納得している。

 もっとも利益を得たのは、デベロッパーとして参画したコロネである。 

 探偵事務所も、情報提供料とコンサル料を手にし、ついでに警察からも金一封を貰った。 

 こうして探偵事務所の初仕事は、いくらかの収入をもたらし、聖女の討伐という社会正義をも果たしたのだった。

 ただし、私が得たのは、お小遣い5千円のみ。

 大金と土地が動く話に、14歳女児が活躍する余地なんて無かったからね…。


「タマヨンはんが来てから、うちも景気がええなあ」

 探偵事務所の初仕事成功の打ち上げの最中、梅ちゃんがそんな事をしみじみと言う。

 前世妹と桜子は、いつも通りワイバーンを肴に飲んだくれている。

 もちろん、打ち上げの会場は、梅ちゃん喫茶。

 聖女との打ち合わせもそうだったけど、土地所有者やコロネとの会談にも、ここは使用された。

 梅ちゃんも、利益を得たひとりなのだ。


「うちの娘達は、座敷童的な加護を住処に与えるらしいよ」

 いつだったか、ニャアがそんな事を言っていた。

「ほーん、加護なあ。実際、彼女らの接客で常連が増えてるもんなあ」

 ついでに、本家座敷童もうちに入り浸る様になってるから、その加護も加わっていると思われる。

 桜子も、前世妹とルームシェアする事で、座敷童の庇護下に入り、すっぽこ娘達を認識出来る様になった。

 今も、わいわいぎゃーぎゃーと一緒に騒いで楽しそうだ。


「私にも、もうちょっと加護があってもいいと思うんだけどなー」

 何重もの加護があるにも係わらず、私のお小遣いは3千円のままだ。

 住むところがあって、食べるものにも困らない、それだけで満足するべきだろうか?

 大切な物は、その手にある時には気付かぬもの。


「ヘイ、ブラザー! 今日も湿気ってんな? 異世界貿易でも始めるか? もう、誰もお前を鶏肉とは呼ばせないぜ?」

 誰も、鶏肉なんて呼んでないし、何ならドラゴンスレイヤーなんだけど?

 きっとアンは、アニメかラノベの影響を受けたのだろう。異世界貿易なんて言い出した。

 異世界貿易。可能ならば、やってみたいものだ。

「小豆なんかを、アンの居た異世界に持って行けば儲かりそうだな?」

「あと、アレだな。どんぐり」

「どんぐり?」

「うん。どんぐり」

 異世界では、どんぐりが魔石扱いだったりするのだろうか?

「向こうからは、オリハルコンとか仕入れたいわね」

「あんこのレシピも高く売れそうじゃ」

 アズキとニャアも、異世界貿易の話に乗って来た。

「異世界貿易なんて検疫が大変そうなんだけど。それ以前に、大きな課題がある」

 食品は海外とやりとりするのだって大変なのだ。

 それが、異世界相手となれば、留意点も対処法も分からない。

 そして、もっとも大きな課題がー。

「どうやって異世界行くのよ?」

「あー、それなー」

 そこは何も考えて無かったかー。

 でも、アイデアは、実現可否を考えずに自由に出した方がいいもんな。

 良さそうなアイデアが出たなら、実現方法を検討すればいい。

 異世界へ行く方法は無いのか?

 すっぽこ娘達は、気付いたらこの世界に居たと言っている。

 他に、異世界からの移民が身近に居なかっただろうか?

 そいつが実践した方法なら、我々でも異世界へ行けるかも?

 つまりー。

「梅ちゃんは、どうやって異世界から来たの?」

 目の前に居るじゃん。異世界からやって来たのが。

「ん? あー、それな? こう、ぐいーんっとして、ばっきゅーん! どーん! って感じや」

 何も分からなかった。

 きっと、もう一度同じ事を聞くと、違う回答が返って来る事だろう。


「実を言うとな、ワイはもう異世界漫遊の能力無いねん。この世界で、梅子いう名前を貰ってもうたからな」

 転移じゃなくて漫遊なんだ。

 それは、ともかく。

 名付けには、この世界に存在を固定する効果があるらしい。

 やっぱり何も分からない。

「ちなみに、元の名前は?」

「ミラや」

 梅ちゃんが女神だった頃の名前を知ったところで、彼女の神話が読めるワケでもないが。

「ワイがおらんこなった後は、弟子のリーザが向こうで女神やってるわ」

 女神の弟子?

 落語家みたいな制度なのだろうか。

 やっぱり何も分からない。


 ふと、座敷童に新しい名前を付けたら、どうなるのか? なんて思った。

 ややこしくなりそうだから、やめておこう。

 私は、そんな気まぐれな想いを、そっと胸の内にしまった。

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