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あなたの使い魔は、天使ですか悪魔ですか、それともおっさんですか?  作者: へるきち


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016. 正義のヒーローは金かかる

「巨大なニワトリ? なんやそれ、ワイバーンやないかい」

 逃げる時間は残されていないので、前世妹の家に避難。

 ここなら座敷童の結界があるから、ワイバーンの襲撃にも耐えるだろう。

 梅ちゃん、桜子とも合流出来たよ。

「ワイバーンはな、唐揚げにするとウマいねん」

「やっぱりそれ、ニワトリじゃない?」

 我々が、サンドボックス環境で遭遇したのは、多摩区役所よりも巨大なニワトリだった。

 すっぽこ達も、梅ちゃんも、ソレをワイバーンなのだと言う。

 ワイバーンってドラゴンの一種でしょ?

 巨大なニワトリは違うんじゃない?

「おい? 誰だ? 今、俺をチキンと呼んだか!?」

「はいはい、チキンはおいしいね」

 戦闘モードで興奮しているアンに、つぶあんのおはぎを与えて落ち着かせる。

「でもな、ワイバーンの主食はニンゲンやねん」

「じゃあそれ、ニワトリと違うじゃん」

 漫才ごっこしてる場合ちゃうねん。

 ワイバーンの唐揚げかぁ、食べてみたいな。

「おい、行くぜブラザー!」

「どこに? 乙女は、負けると分かっている戦いには参加しないんだけど」

 アンは、好戦的過ぎやしないだろうか。

「出掛けるんなら、牛乳買って来てよ兄者」

 前世妹は、のんき過ぎやしないだろうか。


「ワイバーンだと? そんなものが何処に居るんだ?」

 アンとふたりで、ギョニソの救出に来た。

 ファンタジーどうぶつ同好会を脱退したとはいえ、数少ない友人だからね。

「ワイバーンも、不可視の生物なのかな?」

 すっぽこ族の一種であるなら、ギョニソには見えないのは道理だ。

 しかし、俺にも見えない。

 警報も防災無線も聞こえない。

 ワイバーンが、何処にも居ない。

 小田急線の電車を掴んで、中身をチュルンっと踊り食いしてる頃合いのはずなんだけどな。


 サンドボックス環境の未来シミュレーションは、現実ではない。

 起こり得る確率の高い事象を、仮想世界で実行しているに過ぎない。

 サンドボックス環境で起きた事が、必ず起こるワケではないのだ。

「私だ。そちらでワイバーンの出現を補足しているだろうか?」

 ギョニソが携帯電話で、何処かの誰かと会話している。

 脳内の内務省特別調査室かな?

 座敷童の加護を失っても、チュウニ回路は健在なんだね。

 えるぷさいこんがりー。


 二ヶ領用水沿いの小道を、梅ちゃん喫茶に向かって、ぽってぽて歩く。

「いつも、こんな歩いてんの?」 

 脇を歩くギョニソにたずねる。

 ギョニソの自宅から、梅ちゃん喫茶まで、徒歩だと30分はかかる。

 今は、アンも一緒だから、1時間はかかる。

 往きがそうだった。

 のんびり歩いてないで、車で行けば良かったな、と今更になって思う。

 システムエンジニアなんて、だいたいこんなもんだ。

 後になって、もうちょっとマシな手順を思い付く。

「いつもは、ロードバイクだな」

 バイクとか言ってるけど、自転車の事だ。

 パーツを集めて組む類の高価な自転車を、バイクと呼称する部族だったか。

 俺も、そこそこ高いクロスバイクを持っているが。せいぜい5万円程度。

 ギョニソの自転車は、総額100万円とか、そんなのかも。

「自転車は、取り締まりが強化されたから面倒じゃない?」

 取り締まりに関係なく、交通法規を遵守するのは当然の事ではある。

 その上で、自分の身を守る行動をせねばならぬ。

 しかし、実際のところ、交通法規をきっちり守ると危なくない?

 市バスとか、平気で幅寄せしてくるから、車道なんて走れないよ。

 歩道だと歩行者を脅威に晒すし、他の自転車の無法な運転だって危険因子だ。

 結論として、自転車には乗らない、が俺の選択。

 2年前に派手に転んだ事もあって、それ以来乗っていない。

 50過ぎると、ちょっとした擦り傷が、ずっと治らないんだよなー。

 自動車なら安全なのかと言えば、やっぱり路上は無法者の集まりなんだけどね。

 この世界は、理不尽と暴力に満ちているのだ。

「俺は、交通法規をきっちり守る。何も問題は無い」

 ギョニソなら、そうなんだろうね。

 自分に出来ない事でも、平然とやってのける者は居る。

 この手の話題は、不毛な議論になりかねない。

 話題を変えよう。本来の目的だったギョニソの勧誘だ。


「なあ、ギョニソ。お前も、こっち側に戻って来ないか?」

「断る。しかし、ワイバーンなんて危険生物が出現すると言うならば検討の余地はある。これでも、内務省特別調査室のエージェントだからな。もっとも、座敷童や精霊の加護で、ワイバーンに対抗出来るとは思えんが」

 加護がワイバーン討伐の切り札にはならんだろう、というのは同意だ。

 そりゃそうでしょ、俺なんて14歳女児になっただけし。

 おっさんの方が、なんぼか強いわ。

 どっちみち瞬殺だけど。

 話の持って行き方を間違ったな。

 我々は、キノコとタケノコのどっちが強いかという、より不毛な議論をしながら歩き続けた。

 西の空を染める夕陽は、不気味な程赤かった。

 今日も空が汚れている証だ。

 大気の汚れが、夕焼けを赤く美しく見せるのだから、皮肉なものだ。

 会話に参加出来ないアンは、そんな空をぽんやりと眺めていた。

 この世界の空は汚過ぎると嘆いていた五色龍は、その小さな頭の中で何を思っているのだろうか?


「ワイバーン、ここに居るじゃん」

 巨大なニワトリにしか見えないワイバーンが、前世妹の家を突ついている。

 サンドボックス環境と現実には、差異がふたつあった。

 ひとつは、ワイバーンの出現場所。

 多摩区役所付近ではなく、こんな所に居る。

「そうなのか? 俺には見えぬが」

 もうひとつは、不可視の生物である事だ。

 ギョニソには見えていない。

 ただし、俺とアンには見えている。

「ヘイブラザー! ドラゴンスレイヤーの称号はお前のモノだぜ?」

 アンは、簡単そうに言うけど、どうやって倒せと?

 ワイバーンと、目が合った。

 サンドボックス環境で踏みつぶされたトラウマで、ビクッとなる。

 最早、撤退は無理だ。立ち向かうしか無い。

 こういう時は、戦力の出し惜しみをしてはならぬ。

 障害対応でも、要員をケチると二次障害に発展してしまうものだ。

 持てる最大戦力であるアンを、わっしと抱え上げる。

「飛べ! ガンガル!」

「俺は、ガンガルじゃねー!」

 文句を言いながらも、ミサイルと化してズキュン! と飛んでいくアン。

「やったか!?」

 あ、そのセリフは言うな! 基本だろうがっ!

 ギョニソのフラグ発言にドキッとしたけど、アンミサイルはワイバーンのクビを吹き飛ばした。

 ずどんっ! と轟音と土煙を立てて、巨大なクビが地に落ち、ぶっしゃー! と大量の血液が吹き出す。

「やったか!?」

 しまった、俺もつい言ってしまった。だって、チュウニなんだもん。

「コケーッ!」

 やっぱりニワトリなんじゃない?

 脳を失ったはずのワイバーンは、何故か倒れる事は無く。

 コケコケー! と辺りを走り回る。

 ばっしゃばっしゃ、と血溜まりの血を撒き散らしながら。

「うわっ、状況が悪化したかも!?」

 この血液、人体に有害な細菌とか含んでないだろうな?

「このチキン野郎! しぶといな!」

 クビを落とされたニワトリが、何年も生き続けたなんて話もあるらしいが。

 どうやってトドメを刺せばいいんだ?

 アンミサイルを再装填したものの、ターゲットの移動速度が速過ぎて狙いが定まらない。

 しかしー。


 多摩川に向かってチキンランを始めたワイバーンは、県境を越える事なく息絶えた。

「この川には、強力な結界があるからね」

 解説のアズキさんによると、多摩川には強力な結界があるそうだ。

 そうか、だから川崎市民は、この川を越える事に抵抗があるのか。

 ワイバーンは、結界に衝突して圧死したのかな?

 そういえば、アズキは異世界的な知識が豊富だけど、いつ何処で学んだのだろうか?

「目撃者が出てくる前に、肉を回収するでー!」

 ワイバーンは、ただの鶏肉になると一般人にも見える可能性があるそうだ。

 重機を使って解体し、冷凍コンテナに巨大を鶏肉を積み込む。

 大量に流れた赤い血も、特殊部隊が清掃と浄化処理を施す。

 重機と冷凍コンテナは、コロネの財力で手配。

 特殊部隊は、内務省特別調査室から派遣されて来た。

 実在する組織だったのかよ。

 どう見ても、バイト清掃員の集団なんだけど。

「これって何? やばいやつじゃないの?」

「時給がめっちゃいいのがコワいよなー」

「SNSとかに写真アップしたら厳罰だってよ」

「スマホ取り上げられってから、無理じゃん」

 そんな事を言い合いながら、掃除してる。

 パンイチになって、血の海で泳ぐバカまで居る。

 どうやら、血の海ではなく、逆流した下水に見えているらしいけど。

 どのみち、そこで泳いじゃダメでしょ。

 腐ってもげちゃうよ?

 武蔵小杉で、こんな光景見た事あるなー。

 何故ヒトは、同じ過ちを繰り返すのか?


「うめー! ビールに合うわー!」

「ハイボールにも、合うわー!」

 ワイバーン肉は、早速梅ちゃんの手にかかって唐揚げになった。

 当然の如く、前世妹と桜子が酒盛りを始める。

 いいなあ、楽しそうで。

 俺も、ワイバーンの討伐益でホクホクである。

 と、思うじゃん?

 産地不明の謎肉なんて、どこにも卸せるワケないじゃん。

 比喩とかじゃなく、正真正銘の謎の肉。

 我が国の食品衛生法は、そんな代物の流通を許容していない。

 重機と冷凍コンテナの手配費用、血の海の清掃代金、それらの請求で大損害である。

 ぐぅっ、正義のヒーローは金かかるぜぇ!

「嘆くなブラザー。これで、お前はドラゴンスレイヤーだ。なっ?」

 アンが、俺の肩をぽんっと叩き、唐揚げの乗った皿を差し出してくれた。

 ワイバーンの唐揚げは、確かにうまかった。


「おう! ギョニソ! おめー俺らと一緒にラーメンの館に住もうぜ!」

「ただし、ちんこはもげよな! ちっさそうだけど。がははははっ!」

 前世妹と桜子が泥酔して、ギョニソをルームシェアに誘っている。

「断る。包茎手術したばかりだ。もいでなるものか」

「なんだコイツ! 剥くのに失敗したギョニソだったんか! プヒー!」

「こいつらアカン。幼児の前で、何言うとんねん」

 幼児の情操教育によろしくない。

 うちの子達は、0歳児と2歳児デスよ?

 俺だって、14歳女児デスよ? 分かってますか?

 俺は、唐揚げをタッパーに詰めて、すっぽこ達を連れて帰った。

 オペレーション・ガベージコレクションは失敗だ。大失敗だ。

 早急に、他の作戦を検討せねば。

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