表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたの使い魔は、天使ですか悪魔ですか、それともおっさんですか?  作者: へるきち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/17

015. 私は普通のおっさんに戻りたい

「ほななー、気ぃ付けて帰りやー」

 梅ちゃんに送り出されて、前世妹が極悪キャンディーズを連れて帰る。

 気ぃ付けてと言っても、隣なんだけどね。

 極悪キャンディーズも、ラーメン屋の居住スペースで暮らすそうだ。

 そうやって、やって来る者も居れば、出て行く者も居る。 


「アマテラスなら、家を出て行った」

 え? 座敷童って家出すんの? するかもね?

 屋敷の住人を見放せば、何処かに行っちゃうんだっけ。

 だとしたら、ギョニソの人生が下り坂になっちゃう。

「何か、きっかけになる様な変化でもあったんか?」

 梅ちゃんが、喫茶店のマスターらしく、人生相談モードになる。

 おもしろがってるだけかも知れないけど。

「そうだな。早期退職をして、ラーメン屋の経営に参画したな」

「それで座敷童が見限ってしもうたんやろか」

「脱サラした夫を見限って、出て行く妻みたいねぇ」

「さあな。でも俺は、すっきりしている。これで、やっと普通に戻れた」

 なんだ。本人は、この事態を歓迎しているじゃないか。

 まったく悲壮感なんて無い。

 本人の申告通り、すっきりした顔付きをしている。

「普通なぁ。これからは、人並に年もとってくんやろなぁ」

「ああ、そうだろうな。しかし、これから2周目の人生を始める愉快な気分だよ」

 本来なら、もう老後の隠居生活に入る年齢。

 退職金も出ただろうし、還暦を過ぎてるから、年金も受給出来る。

 それが30歳の体を持っているのだから、まさしく、これから人生2週目。

 30歳という年齢は、男子なら一念発起して何かを始める時期でもある。

 これからのギョニソには、座敷童という加護も無い。己の能力と運だけで、やっていくのだ。

 成長と同時に、老いと戦いながら。

 ちょっと羨ましくもある。


 アマテラスは何処へ行ってしまったのだろうか。

 もう2度と会えないのかも知れない。

 出会いがあれば、別れがある。

 我々の人生において、それは多くの場合に置いて、選ぶ事すら出来ない。

 ウィンドウズのサポートが切れてしまう様に。

 別れは、いつかやって来る。


「もうマジ無理って言うかぁ? 内装工事って、むずくなーい?」

「それな。爪も伸ばせないじゃーん?」

「やっぱ映えじゃん? 映えの無い内装はやる気出ないってゆうかー」

 翌朝、前世妹達のラーメン屋予定地に行くと。

 そこには、3匹のギャルが居た。

 元全グレの、極悪キャンディーズだ。

 こいつら、自分が女子になった事実を受け入れるの早過ぎない?

 作業服も、ピンクや紫になってる。

 なんかズレてるし、旧世代っぽいけど、ギャルだな。

 顔面の柄とのギャップが禍々しい。

 すげえな。俺には、覚悟が足りないのだろうか? そう思わせられちゃう。

「お前ら、働けよー、きーっ!」

 前世妹が、頭を抱えている。

 俺は、開きかけた扉を、そっと閉じた。

 梅ちゃん喫茶で、モーニングを食べようか!


 不貞腐れた様子で、前世妹が梅ちゃん喫茶にやって来た。

 極悪ギャルズの事は、あきらめたのだろうか?

 前世妹は、ここで在宅ワークをするつもりらしい。

 業務用PCの脇には、まるごとスイカらしきデザート。

 優雅な勤務態度だね。

 そういえば、精霊のアオイは何処へ行ったのだろうか?

 アオイは、今日も居ない。

「精霊は、何処行ったの? 魔界へ里帰りでもした?」

「え? アオイなら、ずっとここに居るよ」

 もしや? とは思っていたけど。

 前世妹は、トトロのパチモンみたいな、青いケモノのぬいぐるみを抱いている。

 それ、昨日も抱いてたな。

「やっちまったんですか?」

 思わず、敬語になってしまう俺だった。

「うん。なんかこいつウザいから、ついうっかりね。変身ガチャ魔法かけちゃった」

 召喚魔法を使える精霊に何て事を!?

 しかも、確信犯。転移魔法が、変身ガチャ魔法になるって分かってやってる。

「これ、中に小物が入って便利なんだよ」

 そう言って、ぬいぐるみの股間のジッパーを開けると、ボスっと手を突っ込む前世妹。

 そんな事をされているにも関わらず、ピクリとも動かないぬいぐるみ。

 ソレ、魂抜けちゃって無い?

「これ、タマヨン小説が万が一アニメ化でもされたら、グッズ展開出来るのう?」

「パチモンだから無理よ」

「背中のイラストといい、グッズ展開を考えてないよなー。やれやれだな、ブラザー」

「それを俺に刻んだのは誰だっけ? やれやれと言いたいのはこっちだよ」

「バックプリントのTシャツならいけるんじゃない? ところで、背中のイラストって何? 兄者が入れ墨でも背負ってんの? ウケるー」

 グッズ化以前に、スポンサーが付かないからアニメ化は無理じゃない?

 反社会的で、倫理観が致命的に欠如してるもん。

 日曜朝なんて絶対に無理。せっかくの魔法幼女モノなのにね。

 出版化でもされたら、出版社の正気を疑うわ。

 それ以前に、俺のネット小説なんて極少数しか読んでくれてないよ。

 あれれー! 問題はそこじゃないよー?

 前世妹が、スッポコーズとの会話に参加しているじゃないか。

「どういうこっちゃ? ギョニソの権限が、数子に移管されてもうたんか?」

 だとしたら、この世の管理者は、何をしておるのか?

「権限って何? やっと兄者の娘達に会えたわー。やっぱりシングルパパんだったんだね」

 ほんとこいつ、異常事態に耐性あるなあ。なんとも思ってないよ。

 さすがは俺の前世妹だな。

「ねえ、もしかして、座敷童の家出先って」

 アズキが何かに気付いてしまった様だ。

「あー、そう言えば、昨夜から日本人形みたいな子が、うちに居るなー」

 座敷童は、ギョニソの新しい職場へ引っ越したんだね。

 何となく予想はしていたけども、すぐ近くに居た。

 不可視の生物だから捜索願も出せないし、良かったよ?

 人生には、別れがあれば再会だってある。

 ウィンドウズの追加サポートがある様に。

「すっぽこぽんぽん」

 噂をすれば、座敷童のアマテラスがやって来た。

 試しに、モーニングのアンコトーストを、与えてみる。

「おいしい?」

「すっぽこん」

 どうやら、アンコと日本語の習得は関係無いらしい。


 前世妹に頼まれて、極悪ギャルズを警察署に連れて来た。

 自首させるためではない。

 運転免許証の再交付申請をするためだ。

 彼女達は、マイナンバーカードだけでなく、運転免許証も紛失していたのだ。

 きっと、木彫りの熊とかにした時に消えたんだろうね。

 無くなったものは、再発行して貰えばいいじゃん。

 なんて、簡単に考えていたのだけど。

「ちょーっと、こっちでお話をしようかー?」

 任意同行されてしまった。

 性別を変えたというのに、身バレしてしまった様だ。

 日本の警察って、優秀だね。

 名前なんかは、そのままなんだから当然?

「性別変えただけで、逃亡出来ると思ったのかあいつら」

「警察舐めてんなあ」

 警察官達の、そんな会話が聞こえてくる。

 この様子なら、マイナンバーカードも含めて再交付は可能だろう。

 ちゃんと、身分を特定出来たのだから。

 彼女達が、いつ釈放されるのか知らんけど。

「あらあら、指名手配の悪人かしら? こわいわねー」

 俺は、善良な一般市民を装いながら、巻き込まれる前に逃げた。

 出会いがあれば、別れもあるのだ。


「そういうワケで、貴重な労働力は失われました」

 前世妹に、電話で極悪キャンディーズの事を報告する。

「兄者、何やってんのー? まあ、いいけどさ。あいつら、すっすーうるさいし」

 どうやら、見逃してもらえそうだ。

「兄者が、代わりに働いてよー」

 逃げようとしたが、回り込まれてしまった!

「え、やだよ」

「おにーちゃんの、おにー!」

 お兄ちゃんは、鬼じゃない。使い魔だ。

 俺は、通話を無慈悲に切った。

 チャットツール開発の報酬を受け取ったのだ。

 しばらく、働く必要など無い。働く気も無い。

 しかし、この世界は無常だ。理不尽と暴力に満ちている。

「タマヨン、国民年金と国民健康保険の支払いしたの?」

「あ」

 この世界における最大の暴力、請求書が俺を襲う。

 1年分の保険料を支払ったら、報酬は32円しか残らなかった。

 そして、次の仕事の依頼は無い。

 ギョニソの脱退によって、ファンタジーどうぶつ同好会は、活動休止となったからだ。

 俺の2回目の人生は、停滞中だ。

 不思議な人生が、別れに翻弄されている。


「やっぱり、体を使って稼ぐしかないな」

 これからの生活費の確保について、家族会議を開催中。

 優秀な五色龍達なら、きっと画期的で斬新な提案をしてくれる。

 そう思ったのに、いきなりコレだ。

「14歳女児が、体を使って金を稼ぐと言うとアレか」

「ああ、アレだ」

 アンも、少しは倫理感を持っていると思っていたのに。

 どうやらそれは、幻想だったらしい。

 街角に立って、脱法的なマッチを売れと? この俺に。

「正義の使者、スケ番女神のお仕事だ」

「え? 何それ!?」

 正義の執行は、マネタイズ出来ない。

 何よりも、正義を名乗ってはいても、自力救済は違法行為だ。

 特に、暴力による解決は、反社会的行為として厳罰対象。

「裏切り者を始末するのさ」

 えー、それって誰の事かなー。


 裏切り者の始末。

 随分と物騒な事を言ってるが、俺達の作戦はこうだ。

 ギョニソを何らかの手段で女体化する。

 女体化したギョニソを、前世妹とルームシェアさせる。

 前世妹の巣には座敷童が居るので、ギョニソに加護が戻る。

 するとだろう! ギョニソはファンタジーどうぶつ同好会に復帰する!

 同好会は活動を再開し、チャットツール運用のお仕事を受注出来る!

 と、こういうすっぽこな寸法だ。

 仮定と前提条件を重ね過ぎじゃないですかね?

「危険なタイトロープダンスだが、踊ってみる価値はあるぜ、マイブラザー」

「むしろ俺も、普通のおっさんに戻りたいんだがなあ」

 こういう危険なプロジェクトは、まず実証実験だ。PoCってやつだ。

 俺達には、それをやれる魔法がある。

「サンドボックス環境開始! ぐるぐるどーん!」

 現実世界をシミュレーションした仮想環境にて、実際に作戦を実行してみる。

 その結果を以って、実現可否を検討するのだ。

「オペレーション・ガベージコレクションを、これより決行する!」

「のじゃー!」

 優秀な五色龍達が、ノリノリだよ。

 不要になったメモリ領域の解放と、裏切り者の始末をかけた作戦名らしい。

 ゾンビプロセスをKillコマンドで停止する方が近くない? と言ったら反対された。

 人格を否定される勢いでね。

「お前、仲間を殺す気か? 悪魔か?」

 なんて言われて、返す言葉は無かったよ。

 システムエンジニアは、すぐ殺しちゃうからなー。

 

「で、具体的にどうする? 転移魔法で女体化出来るかも知れんが、アレはガチャだぞ」

 作戦の第一フェーズからして、具体的な手順がまったく定まっていない。

「取り敢えず、ギョニソの家に行けばええじゃろ」

 いくらPocとはいえ、場当たり的にも程がある。

 でも、目標が段階的に定まっているだけマシかな。

 大概の失敗プロジェクトは、手順にだけやたら拘っていて、目標が定まっていないのだから。

「おお、いいとこ住んでんなあ、あいつ」

 ギョニソの家は、登戸駅と向ヶ丘遊園駅の中間辺りにあった。

 再開発が進んでいる辺りだから、きっと地価も高騰している事だろう。

 もうええでしょ、でお馴染みのドラマでも地面師がターゲットに選んでいた。

「ここ売っちゃえばいいのにな」

 そして、ラーメン屋で前世妹と暮らせばいいんだよ。

 しかし、あれでも年頃の娘さんだから、おっさんと同居させるワケにはいかぬ。

 だから、ギョニソを女体化しちゃえって事だね。

 つくづく、非人道的な作戦だな、コレ。

「ほんじゃー、地面師やる? こないだの不動産屋と因業大家を使えばええじゃろ」

「そういうのはダメだ」

 あの時は、俺もどうかしてたけど、最低限の倫理は守らないと。

 魔法にだって、倫理規定はあるのだから。

 まずは、正攻法で説得してみようか、無理だろうけど。

 なんて考えていたらー。

「おい!? 事件か事故か!?」

 サンドボックス環境ではお馴染みの、警報がワンワンと鳴り響いた。

 空を見上げると、真っ赤に染まって、今が昼間なのか夜なのかも分からない。

 アレは、魔女の放った炎なのか!?

 まるっきり、ディープ・パープルの名曲Burnの世界なんだけど!

 警報に続いて、役所の緊急アナウンスが。

「住民の皆さん、今すぐに避難して下さい! 巨大不明生物が多摩区に接近中です!」

「はぁ!?」


「アレ何?」

 即死だった。

 巨大不明生物の前に、14歳女児なんて小さき存在。

 そりゃもうプチっと。子供の前の蟻の様に。

 少年時代に弄んだ、カエルの逆襲なのかなって思ったよ。

 でも、サンドボックス環境だったので無傷で復帰した。

 ちょっとしたPTSD状態だけど。

「あれは、ドラゴンじゃろうのう」

 ドラゴンなんて居るワケが…、あったわー、目の前に居るわー。

「成体のドラゴンなのかな? 多摩区役所よりもデカかったよ」

「そうね。ワイバーンっていう雑魚だけど」

 その雑魚に、手も足も出ませんでしたが?

「ブラザー、こいつはビッグチャンスだぜ! ドラゴンスレイヤーは国の英雄だからな!」

 異世界ファンタジーなら、そうだろうね。

 こっちには最上位ドラゴンである五色龍が3体も居るのだし。

 体制を整えて挑めば、勝てる見込みは十分あるのだろうよ。

 出てくる場所だって、把握しちゃってるんだし。

 でもなー。

「避難した方がいい」

 アズキの冷静な意見を採用して、逃げる事にした。

 ただし、残された時間は殆ど無い。

 この世界は、理不尽と暴力に満ちている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ