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あなたの使い魔は、天使ですか悪魔ですか、それともおっさんですか?  作者: へるきち


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013. 暗黒の匙

 すっぽこ達を寝かし付け、ぽんぽこに膨らんだ腹を眺めている内に、俺も眠ってしまった。

 電話の着信音で、ギクッとして起きる。

 寝てる時に着信があると、ドキドキしちゃうのはシステムエンジニアの習性だ。

 障害の発生か、遅刻をやらかしてるか、いずれにしても危険な状態だからね。

「はいはい、なしたー?」

 うっかり電話番号を交換してしまった前世妹からだった。

「おにーちゃん! 私、ラーメン王になる!」

 そんな名前のカップ麺が、あった様な?

 召しませ、とか言うTVCMをちょっとエッチに感じた思春期の記憶が甦る。

「それはアレか? まさかラーメン屋をやるとかほざいてんの?」

「そうだよ。だから、ちょっと来てー」

「明日にして」

 お兄ちゃん回路が不完全な俺は、無慈悲に電話を切った。

 ベランダに面した掃き出し窓を、オレンジ色の閃光が包んでいる。

 そろそろ風呂入ったり、晩御飯食べたりする時間だな。

 酔っ払った前世妹の相手をしている暇など無い。

「必殺! お風呂トルネード洗い!」

「秘技! 包丁スラッシュ!」

 この時間の我が家は戦場だ。

 浴室は必殺技の餌食になるし、キッチンは包丁やおたまが飛び交う。

 家事をしてくれるのは有難い限りなんだが、お淑やかにやって欲しい。

 集合住宅で騒ぐな。子供だからー、では許されぬ。

 どうにかして一戸建てを手に入れたいものだなー。

 オリンピックが終われば、不動産が安くなると思ってたのに。

 むしろ、バブル状態である。10年前の倍以上になっている。

 一方で、放置された空き家の増加が深刻らしい。

 どうなってんだか。

 すっぽこ達の力で、都心を更地にしてやったら、どうなるんだろうか。

 そんな妄想に浸っている内に、初夏の夜は深まっていくのだった。


「仕事どうすんの? 9月まで契約残ってんじゃないの?」

 前世妹と桜餅は、飲んでいる内に意気投合し、ラーメン屋を開業する事にしたそうな。 

 そんな戯言を聞かされながら、梅ちゃん喫茶でモーニングを食べている。

 致死量越えてそうな生クリーム盛ったパンケーキと、アンコトーストに、ヤギ向けですか? って位に山盛りのサラダ、ベーコンエッグにゆで卵、うどんに天ぷら、オマケでコーヒー。

 これだけの豪華セットで、お値段なんと! 六千円!!

 コンビニバイトなら時給五時間分、アマゾンの配達なら約40個分。

 何でー? 喫茶店のモーニングって不当に安いのが、この世の理じゃないのー?

 しかも、客にはメニューの選択権すら無い。朝は、モーニング一択。

 常連客が20人も居れば、十分やってけそうだな、この店。

 イカレタ女宇宙海賊を雇えるはずだよ。

 しかし、派遣の契約期間は残ってるはずだし、今日だって仕事があるだろうに。

 前世妹は、一体何を思ったのだろうか?

 朝早くに呼び出しやがって。

「事務派遣なんて悠長にやってる場合じゃないんよ! この先、千年も生きるんだよ! ビッグマネーが必要なんだよ!」

 あー、やっと気付いたかー。

 長く生きるという事は、それだけ長く働き続けるか、ビッグサクセスを成し遂げてビッグマネーを手に入れねばならぬ。

 ビッグマネーとか、平成生まれの発想には無かっただろうなあ。

 他人と競うという発想からして、皆無らしい。

 友人すらライバルとして蹴落とすのが当然だった、俺達団塊ジュニアとは思想が違うのだ。

 事務の仕事を軽んじているかの様な発言は如何なものかと思うが、こいつにとってはチョロい腰掛け仕事だったのかもね。

 前世妹は、人生の大きな転換点を迎えているワケだ。

「ほんでー、あのマンションの契約を解除したいんだよねー」

「話が飛んだな?」

「ワイが補足したるわ。ここの隣、トンチキな連中が出てったやん? ほいで事故物件になっとるワケよ。ビルオーナーのコロネが、借り手がおらんゆうて困っとったんよ。その話聞いた妹ちゃん、ラーメン屋やる言い出して、酔った勢いで、もう契約しおったんよ。住居スペースもあるから、引っ越すんやて」

「行動力は、評価出来るな。敷金とかは桜餅が出したん?」

「いや、敷金礼金不要。家賃も三ヶ月無料の破格物件や」

「そんだけ、不人気物件って事じゃん。イニシャルけちって後で苦労するパターンだろうなあ」

 ITインフラで言えば、機種代金けちってマイナーな製品入れると、設計工程もテスト工程も余計なコストが嵩むし、その呪いは運用後もしつこく着いて回る。お高くても、実績のある機器を入れるのが、トータルでは安く済むって感じだろうな。

「そういえば、ここもコロネ物件なの?」

「ここは、コロネからワイが買った。いや、買わされた。賃貸の審査は通らへんかったのに、ローンの審査は通るってどういう事や!?」

 どうやら、生かさず殺さず、飼い殺しにするのがコロネのやり方らしい。

 貴族の義務って、領民から絞り取る事だったのかな。

「ちなみに、おいくら?」

 案外、買えそうな金額だった。

 店舗がオマケに付いた一戸建てだと思えば、破格なのではないだろうか?

 隣に巣食ってた全グレのせい、いやお陰? だろうか。

「事情は分かったが、賃貸の解約ぐらい自分で出来るだろ? お前、何屋さんだよ」

 事務派遣なら、そういうの出来るでしょ。

 あの職場の事務手続きは、俺には理解不能なくらい難解だぞ。

「それがー、契約書の連絡先がデタラメっぽくてー」

「あー、だろうな。ちょっと見せて」

 俺と同じマンションなんだから、連絡先も当然同じはずだなんだがー。

 大家も管理会社も、俺のアドレス帳に登録してある連絡先と異なっている。

 放火不動産としては、まともな契約をする必要なんて無かったワケだから。

 試し、ネットの賃貸情報で確認すると、数子が契約したつもりの部屋は入居者募集中だった。

 事故物件ですら無かった。それは余計な偽装だった気もするね。

「事故物件なはずは無いなーって思ってたぜ? 俺はな!」

 アンが、どやってるけど、後出しで言ってもね?

 てっきりコイツが、先住者を始末したのかと思ってたわ。

 始末しないまでも、何かしたのかも知れんけど。

「金はまだ一円も払ってないよな?」

「家賃の口座振替の手続きとかもしてないよ」

「じゃあ、これはもうほっとけ。それより、不法占拠状態だから、今すぐ逃げ出せ」

「お、おう! と言っても、あの部屋には、まだ何も置いてないや」

「そりゃ何よりだ。じゃあ、会社行けよ。ラーメン屋始めるにしてもスケルトン物件なんだろ? 三ヶ月はかかるんだから」

 ラーメン屋のインフラの事までは知らんけど、だいたいそんなもんじゃないかな?

 厨房の設備やら器具を揃えて、内装工事して、保健所の検査とかあるんだっけ?

「そうかー。じゃあ、小銭稼いで来るかー」

 前世妹は、会社に向かった。

 スーパーフレックスの職場だから、多少遅れて行っても遅刻にはならない。

 昼過ぎまで出て来ないのが、ほとんどなくらいだし。

「お兄ちゃんも物件見とく? 鍵預かってるで」

「俺は保護者じゃないんだがなあ。というか、梅ちゃんも巻き込まれてんのか」

「そういう事やな。出入りする業者の胃袋を掴んで回収したるねん!」

 逞しい事で。俺は、回収するあてが無いんだが。

 袖振り合うも他生の縁、と言うし。ファントムシスターを手伝ってやるか。

 ファントムは、違うか? リンカネーション・シスター? フォアレーベン・シュベスター?

 ドイツ語にすればいいってもんじゃないな。


「おー、これ家賃いくらとんだよ」

「タダ同然らしいで」

 ドバっと広がった赤黒い染みやら、あきちこに開いた不気味な穴やら、事故物件にも程がある。

 設備は、何も無い。警察だか検察だかが、根こそぎ押収してったか。

「ラーメン屋なあ」

 ラーメン屋の経営を支えるのは、気合と根性ではないだろうか。

 特殊やセンスや技能もあった方が、そりゃいいんだろうけど。

 ひたすら何時間も出汁を取るのに必要なのは繊細さよりも、きっと根気。

 高級路線は取り辛く、単価を上げるのは限度がある。 

 競合店の多い業界だから、競争は苛烈。

 気合と根性で乗り切るしかないんじゃないの?

 人気ラーメン店の紹介動画なんか見るに、そういう印象。

 バイトした事すら無いから、実態は知らんけど。

 飛び込み営業と同じ。

 口の上手さとか、そういうのより、ひたすら数をこなす。

 10軒回れば1軒は話を聞いてくれるし、10軒話を聞いてくれれば1件くらいは契約を獲れる。

 それを成し遂げるのに必要なのは、気合と根性。

 20代前半、何のスキルも無い俺の生活は、気合と根性に支えられていた。

「ラーメンは嫌いじゃないけど、ラーメン屋は好きじゃないんだよなあ」

 タオル巻いて腕組んでる感じも、性に合わないんだけど。

 気合と根性の世界だからかなあ。

 俺自身、気合と根性で生きてきたとこが多いにあるから、近親憎悪なのか、共感性の何かなのか。

「だったら、手伝うの無理でしょ?」

「だな」

「俺達の戦場はココじゃないって事だ。撤収するぜ、マイブラザー!」

 飲食関係に何か伝手があるでもなし。

 ファントムシスターの事は、放っておこう。

 きっと、気合も根性もあるよ。


「この部屋でアプリを開発します。完成するまで絶対に覗かないで下さい」

 アンが、仕事部屋を占拠して、恩返しする鶴みたいな事を言い出した。

 ニャアと共に引き籠って、アプリ開発に集中するつもりらしい。

「覗いたら、どうなんの?」

「爆発します」

 何が、爆発するんだろう。

 アンは、猫が通れるだけの隙間を残してドアを閉めた。

 覗くなって言われても、丸見えなんですけど。

 出来るだけ、近づかない様にしとくか。

「あ、やっぱり血尿が出ます」

 ふいに思い出したかの様に、言い直すアン。

「そうかい」

 せっかくのやる気に水を差す事は無いので、好きにさせておこう。

 血尿出るのやだし。


 ソファの上には、俺とアズキだけ。

 俺は、ぼんやりと外を眺め、アズキは、俺の膝の上に足を乗せて伸びている。

 昨日先送りにした話題を思い出したので振ってみる。

「なあ、ここに来る前の2年間、どこで何してたの?」

「お風呂に居た」

 アズキと出会ったのは、スーパー銭湯だった。

 あそこに棲み着いていたのだろうか。

「あそこなら、お風呂に入れるし、ご飯もある。下のスーパーでも、ご飯が手に入る」

 支払いは、どうしていたのだろうか。

 いや、アズキは、誰からも見えないから、支払う事は無理か。

「ご飯は、廃棄された食品を貰った。お風呂では、密かに用心棒的な事もしてたし。温泉の出が良くなるように地脈を操作してあげたから、その代償として入っても許される」

 アズキなりに、世の中の仕組みを理解して、ちゃんとルールを守ろうとしていたのか。

 やや、独善的な傾向はあるけども。

「ニンゲンの言葉は、お風呂で憶えたの?」

「そう。男湯は静かみたいだけど、女湯は結構おしゃべりが多いから」

 アンは、うちに来てからアニメや映画で日本語を習得したけれど。

 アズキは、うちに来る前に習得済みだった様だ。

 ニャアも、何処かでアズキと同じ様にしたのだろう。

「最初のうち、すっぽこすっぽこ言ってたのは何で?」

「この世界には、私達の存在を阻害する力が働いているのだと思う。使い魔が居ないと、言葉もしゃべれない。使い魔以外には、姿も見えない、声も聞こえない」

 その推察には、それなりに説得力を感じるが、辻褄が合わない部分もある様な気がする。

 すっぽこ共は、キテレツな様でいて、周りをよく見ているし、倫理感も持ち合わせている。

 この世界が拒む程の邪悪な存在だとは思えない。

 もし俺が、育て方を間違えると、この世に災厄をもたらす事になるのだろうか?


 15時頃に、ニャアだけが仕事部屋から出て来た。

「アプリが完成するまで、籠るのんじゃないの?」

「今日はもう定時じゃ」

 定時早いな。

 働き過ぎは、良くないから、それでいい。

 おやつ箱を、ガサガサ漁っていたが、ピコんと来るものが無かったらしい。

 冷凍庫からパピコを取り出すと、ぱきっと割って、片割れを俺に差し出す。

「俺は、いいから、アズキにやりなよ」

「使い魔に渡すものなんじゃがー」

 ニャアに限らず、アンとアズキも、パピコを割ると片割れを俺に差し出す。

 使い魔には、半分渡すのが、すっぽこの仁義なんだとか。

「俺は、お前の使い魔じゃないだろ?」

「いんや。もう契約を済ませた。寝てる間に」

 どいつもこいつも、同意を得ずに勝手な事をするな。

 契約の指輪を見ると、また色が変わっている。

 見る角度によって、黒か白かゴールドに見える。

 確かに、契約しちゃってるわ、これ。

「あれ? どういう事だ? 使い魔契約って、そんな多重で出来んの?」

「ワシの契約は、一日だけじゃけ。毎日、自動更新されるんじゃけどな」

 アンの契約が正規雇用なら、アズキが派遣契約、ニャアは隙間バイトって感じだろうか。

 使い魔って、そんななの? 労働基準法は適用されないの? 過労死するんじゃない?

「私も最近気付いたけど。タマヨンには、ダブルワークが可能」

 アズキも似た様な捉え方をしているらしく、そんな事を言う。

 ダブルどころか、トリプルなんだけど。

「つまり、やっぱり俺が使い魔なの?」

「それは、どっちもいいよ」

「タマヨンには、あと2つくらい空きスロットがありそうじゃの」

 えぇ? これ以上すっぽこ搭載したら過労死しちゃう。

 使い魔って、ほんと何なの?

 確かなのは、今後も3人の幼児を世話せねばならぬという事だ。


 19時過ぎになって、ようやくアンは仕事部屋から出て来た。

 さっと作ったカレーを、もそもそっと手早く食べると、再び引き籠った。

 どうやらアンには、何かに集中すると、徹底的に根を詰める習性があるらしい。

 アニメや映画、書籍から日本語を習得している時も、そうだった。

 こういうのは言って聞かせても、どうにもならないのは、経験則上よく知っている。

 他ならぬ俺自身が、そうだから。

 適度に見守りながら、好きにさせる。

 

 0時近くになって、どさっと俺の腹に乗っかって来るアン。

「何故、あそこで…、処理か? 変数か? むぅう…」

 ぶつくさ言いながら、すぴょーと眠った。

 すっぽこ達の寝床は、猫の様に、あちこちにある。

 まず、俺の布団の中。夏の夜に生体湯たんぽは拷問だよ。

 そして、押し入れの上段は、人気スポットらしい。

 他には、ソファ脇に敷いた布団、仕事部屋に持ち込まれた布団。

 ベランダでハンモックにも挑戦していたけど、それは設置がうまく行かず諦めたみたい。

 

 朝6時、アンに叩き起こされた。

「さっさと朝ご飯食べてよ! 片付かないでしょ!」

 いや、早くない? リアルチュウニは眠いんだよ。

 寝た子を起こすなって、妖怪大先生もおっしゃられたでしょ?

 アンが、こういったコメディの様な行動をとるのは、ラノベやアニメの影響だろうか。

 日本語を習得する過程で、ニンゲンの生活様式として吸収してしまった様だ。

 ラッキースケベイベントが起きねぇ、とか言ってるし。

 起きるワケ無いじゃん。

 うちには、(中身は、ともかく)女子しか居ないんだから。

 俺達に朝ご飯を食べさせると、アンは再び引き籠った。


「出来たでー! やったでー! ワイは、やったでー!」

 疲労のせいかキャラが崩壊しているアン。

 アンの岩戸は、5日目の夕方に開いた。

「次は、テストだな。ここからが、地獄の二丁目だぜ」

 それは、実際に使用するメンバーに委ねるのが、手っ取り早いだろう。

「ほんじゃー、メタル喫茶へ行こ」

「そうだね、晩ご飯もそこで食べよう」

 梅ちゃん喫茶、メタル喫茶クロスロードへ向かう道すがら、ニャアの半生を聞いた。

 半生っても、半年しかないけど。

「ワシは、小学校におったんよ。アレは、長州の国じゃったと思う」

「やっぱりそれ、山口弁じゃったんか」

「お? よう分かったの?」

「ワシも、山口生まれじゃけ」

「会津藩じゃのうて良かったわ」

「危険な事を口走るな…」

 給食の残りで食い繋ぎながら、半年そこで暮らしたニャア。

 しかし、小学校には致命的に不足している設備があった。

「お風呂じゃ」

 すっぽこ達は、オフロスキー。お風呂に入らないと滅する。

 ニャアは、密航を決意する。長距離トラックの荷物に紛れて上京。

 辿り着いたのは、東京一歩手前の川崎だった。

 多摩区に来るまでも、そこそこ冒険があったらしい。

「続きはウェブでじゃ!」

 懐かしい言い回しだな。なろう小説でも書いてんの?


「ラーメン屋の内装くらい、魔法でちょちょいかと思ったのに。アオイが、お前の肝臓を代償に寄越せって言うんだよー」

 世の中を舐め腐った前世妹が、泣き言を言いながらアヤシゲな色をしたカクテルを煽っている。

 魔法は無から有を産むを事は出来ないから、ちょちょいとはいかんのよ。

 それにしても、精霊は肝が好きだな。

「梅ちゃん、内装工事の業者知らないの?」

「この店は、居抜きやったからなー。業者の伝手は無いな」

 俺も、飲食店のインフラは専門外だな。

 こういう時は、出来る奴に丸投げするのが、高度情報化社会のジャスティス。

「タマヨンさん? うち、IT屋なんですけど?」

 かつて在職していたブラック企業の営業課長に電話してみた。

 そうかー、こいつなら何でも調達出来ると思ったんだけどなー。

「それにうち、大手に買収されちゃったんで、個人との取引は購買がうるさくって」

「えー? 何ソレ。お給料増えちゃった感じ?」

「タマヨンさんも、うちに残ってれば良かったのに。プークス!」

 大手かー。グループ内で架空循環取引でもしてればいいよ。

 そうかー、あのド腐れブラックがなー。

 社員を外注扱いして、社会保険にも加入せず、源泉徴収も納めてない様な脱法企業がなー。

 残ってれば良かったのかね?

 過ぎた事は、どうでもいいか。

「そういうわけで、俺は専門外だ。他を頼れ」

 高度情報化社会の新しいジャスティス、AIチャットに相談すれば?

 AIは何でもやってくれる。俺を養って欲しい。

「ほう。おもしろそうな事を、やっているな。俺も参画しようじゃないか」

 ギョニソがやって来て、勝手に巻き込まれてくれた。

 俺達は、ご飯を食べ終えると、さっさと帰宅した。

 この店、夜間は風紀が乱れているから、朝と昼だけにしようかな。


「もう納品していいんじゃない?」

 チャットとファイル共有程度の機能しかないのだ、そんなにテストする事が無い。

 いや、きっと沢山あるんだろうけど、テスト項目を思い付かない。

 不具合があるなら、運用で対応すればいいよ。

「プレイストアの審査が完了したら、納品せるかのう」

 これで、半年分の生活費が入って来る。

 運用も担当するので、定常的にもいくらかは入って来る。

 今後もこうやってアプリ開発で食べていけるか? というとソレは無理だろう。

 まず、致命的に営業力が不足している。

 もっと問題なのが、アンの開発に対する姿勢だ。

 いつか、体壊すだろうし、その内飽きると思う。

「ところで、サーバーは何処にあんの?」

 テストで触っていたのは、アンドロイド端末で動くアプリだ。

 アプリだけではシステムは成立しないので、何処かにサーバーがある。

 アンがアプリを開発し、ニャアがサーバを構築したらしい。

「そこに転がっちょる」

 ダイニングの片隅、ルータの脇に無造作に古いデスクトップPCが置いてる。

 Windows11のサポート外だから引退させたやつ。

「宅内サーバか」

 うちは一般家庭なので、無停電電源装置も無ければ、回線の冗長化もされていない。

 無停電電源装置は、かつてあったのだけど、バッテリーが劣化したタイミングで、「コレ要らんな」と冷静になって捨てた。システムエンジニアは、要らんガジェットを買いがち。

 無停電電源装置っても、せいぜい5分間程度しか稼働しないのだ。

 生活を支える重要インフラってワケでも無いけど、停電やネットワーク障害の不安の少ない場所に預けたい。

「これは仮の姿さ。こいつの真の姿は、ご機嫌な提案書にまとめてあるぜ」

「クラウドで、ええんじゃないかと思う」

 ご機嫌な提案書を確認すると、金融情報センターのガイドラインからの引用、データセンターに自前で建てた場合の費用比較、想定される運用負荷、と網羅性も十分ながら分かり易い。ゼロトラストなんて、比較的新しい言葉も使ってる。概算だけど、見積もりも出来てた。

 いや、ゼロトラストはそんな新しくないか? おっさんは10年前くらいが先週の感覚である。

「ゼロトラストとか、よく知ってんな?」

「真の敵は、身内に居るって概念だろ? 俺達に死角は無いぜ」

 実に優秀である。俺を養って欲しい。

「これで、クライアントに提案しよう」

 すっぽこ達は、学習速度も、技術の習熟速度も圧倒的に早いし、柔軟性も高い。

 こんなモンスター達が、もし人類の敵に回ったとしたら?

 いや、人類が敵に回ったとしたら?

 何が起きても、俺だけはこいつらの味方だ。

 俺は、そう決意をするのだった。


 そんな自分をカッコいいー! って思う俺はやはりリアルチュウニなのだろう。

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