011. 小さきお茶会
「俺は、コードネーム:ギョニソ。こっちは、家の座敷童」
そのコードネーム、気に入っちゃったんだね。
内務省特別調査室のエージェント、って設定なのかな。
えるぷさいこんがりー。
「すっぽこすこすこ」
座敷童は、すっぽこ語しか話せないらしい。
前髪パッツンおかっぱ黒髪に着物、まるで生きた日本人形。
見た目通りの座敷童なんだね。
外出しちゃってるけど、大丈夫なんだろうか。
「ふーん? ここに座敷童が居るワケ? 何も見えないんだけど」
酔っ払いが、隣に座った座敷童の頭をポスポス叩いている。
それでも、存在を認識出来ない。
「30年前に、中古の一戸建てを買ったら付いてた。九七式屋敷搭載神アマテラスと名付け崇めている。それ以来、住宅ローンは繰り上げ返済出来るし、昇進するし。経済的には実に豊かな人生を送っている」
家のオマケみたいに言ってるけど、座敷童ってそんなもんかな?
ギョニソ家に繁栄をもたらしている福の神とはいえ、御大層なお名前だね。
チュウニ要素に突っ込むのは、ブーメランが刺さりそうなのでよそう。
今の俺、現役リアルチュウニだし。
「お前、30年以上病んでんのか? はぁ、すげえな。次は、アタシかな」
隣の酔っ払い女が、グラスを掲げて自己紹介を始める。
髪型は、シニョンって言うんだっけ? なんか、くるくるクリンでキチンとしたやつ。
化粧はパリっとして、服装も落ち着いてるし、きりっとした系のお姉さん。
に、見えるんだろうけど、喋ると台無しだな。社会に出たら上手くやれない人。
「桜子だ。アタシも30年くらいかな? ネトゲで知り合った悪魔オモッチに魂を売った。オモッチの預言でトレードしながら、酒飲んで暮らしてる」
「悪魔は、預言なんて出来るんだ」
「預言といっても、細かいもんじゃない。今、聞いてるのは、夏の間にドルと日経の主要銘柄買っとけってくらい。デイトレは無理」
なるほど。スイングってやつか。長期間かけて利益を取る方式だから、暇で飲んだくれてると。
いいなあ。俺も、そういう生活がしたい。
オモッチは、さっきからグッタリしているけど、アンに壊されちゃったかな?
無駄に高価そうだから、弁償出来るか心配だ。
と思ったら、再起動して喋りだした。
「預言と言うと正確さに欠けるな。そうなる様に、因果律を誘導しておる。失敗する事もあるが」
如何にも、悪魔らしい感じだね。
チュウニの妄言と区別付かないけど。
預言する悪魔と云えば、ラプラスとかベルゼブブだろうか?
オモッチなんて、おいしそうなのは知らないな。
桜子と合わせると、桜餅か。チーム桜餅と、勝手に命名しておく。
「次は、ワイか? 梅子や。梅ちゃんと呼んだって。異世界で女神をやっとった。引退してこの世界で隠居生活中や。もう女神ちゃうけど、ニンゲンよりはずっと長生きやろな。物知りお姉さんくらいに思っといて」
見た目は、凡庸と言うと失礼だろうか? 大手町辺りに居たら、埋もれてしまいそうな容姿。
おおよそ女神らしくない。
梅ちゃんだし、インチキ関西弁だし。
年齢的には、永遠のロックンローラー、27歳って感じ。
ほんまに女神なん? って顔に出てたのか、梅ちゃんが追加説明してくれる。
「ちなみに、女神いうのわやなー、ニンゲンを皆殺しに出来る者っちゅうとこかな? 実績あれば尚良しや」
「ニンゲンを創造するんじゃないんだ」
「それは、いけすかん創造神の仕事や。あいつ、ワイのプリン勝手に食いおった。腹いせに、あいつが創った人類滅ぼしたったわ」
なんか、兄弟喧嘩みたいな理由で、異世界の人類が滅んじゃってる。
「後、重要なのが信仰を集める事や。ワイは、これを失って女神を辞めた」
「へえ。信者が宗教戦争に負けちゃったとか?」
「いんや。総選挙で負けてもうた。大魔女と破壊神の奴がなー、あいつ等ツラだけはええからなあ」
結構、俗っぽい感じだった。でも、宗教って、そんなもんかもね。
「ワタクシはコロネですわ! 貴方達雑魚庶民が、ドン引くくらいの資産を持て余してますわ!」
梅ちゃんと一緒に来た幼女は、名前の通りというか、チョココロネの様な縦ロールだ。
ブラウンの巻き毛、中心が黒髪、まさにチョココロネ。
コロネって、アンの名前の候補のひとつだったから、被るところだった。
「コロネが梅ちゃんの使い魔なの?」
「いんや。コロネは資産以外、何の取り柄も無いただのニンゲンや。ワイが使い魔みたいなもんかな? 魔ちゃうけど、マヌケやけど」
「ワタクシが梅ちゃんを養ってますの。貴族の義務ですわね!」
このコンビはキャラが立っている。
ラノベの主人公やれちゃうんじゃない?
「コロネ君は、この会のスポンサーでもある。資産以外にも、使える権力があって便利だぞ」
ギョニソも、社会でやっていけないタイプじゃない?
昇進したと言ってたけど、危篤な組織があったもんだ。
「席順からいけば、そこの精霊らしいのとウサギのぬいぐるみだが」
数子はぬいぐるみだから喋れない、アオイは喋っても皆には聞こえない。
「あー、俺が代理で紹介しとくよ。このウサギは数子、精霊のアオイの加護で千年くらい美肌を保ったまま生きるらしい。ぬいぐるみになってるけどね? 魔法が使える魔女でもあるね」
「なんや、けったいな事になっとんなあ? 元は、ニンゲンかいな?」
「解決法知ってたら、教えて欲しいよ。物知りお姉さん」
「んー。転移魔法に失敗して、そんなんなったの見た事あるなあ。そいつは不思議の国で楽しく暮らしとるけど」
「まさに、その転移魔法の失敗なんだけどね」
「もっかい転移してみたら? いつか戻るんちゃうん?」
物知りお姉さん、回答が雑だな。
「よりマシな依り代が欲しいなら、我が用意してやろうか? 代償は、もちろん汝の魂である」
悪魔オモッチが、救いなのか破滅なのか分からない提案をして来た。
ウサギのぬいぐるみは、プルプル増えている。
「お兄ちゃんが何とかしたったら?」
「お兄ちゃんって俺? いや、こんな妹要らないんだけど」
「そうは言うても。前世か? 来世かも知らんが。自分ら兄妹やで? 知らんかったの?」
前世の縁なんか、知らんよ。
何、シレっと他人のプライバシー見通しちゃってんの? このポンコツ女神。
そういうデリケートな事、いきなり暴露すんなよ。
総選挙で負けるはずだよ。
言うと、ブーメラン食らいそうだから、黙っておくけど!
システムエンジニアも、ヒトの情緒に疎いとこあるから。
「じっと見んな。なんか、こえーよ」
ウサギのぬいぐるみは、プルプル震えながら俺をじっと見る。
これ妹だったの?
あー、妹じゃあなあ、しょうがないなあ。
魂は売らないけど、後で何とかしよう。
「待てコラ、マイブラザーは俺のお兄ちゃんだぞ」
マイブラザーって、そういう意味だったの?
ちょっと違うんじゃない?
「ほらほら、この肉うまそうだぞ。お高そうな炭酸水も飲んどけ」
ややこしくなるので、ご飯を食べさせてアンを黙らせる。
「次は、そこの猫にゃん? 猫にゃんは何を従えているのかな?」
酔っ払いには、猫のドラヤキしか見えず、ニャアが見えていない。
これも俺が、代理するか。
ニャアは、ドラヤキに肉やら切り分けて与えるのに一生懸命だし。
「猫はドラヤキ。ミツバチみたいな恰好してんのが、使い魔のニャア。魔法が使える猫と幼女だね」
ニャアは、五色龍らしいけど、それは伏せておく。
「うーん。猫しか見えないねえ」
「わたくしにも、猫しか見えませんわ!」
縦ロールは、ドラヤキに興味深々らしい。
触りたそうにして、じーっと見ている。
「ワイには見えとるで。怪人ミツバチ幼女が。確かに、猫の使い魔状態やな」
「俺にも見えているな。見た目だけなら猫の方が悪魔っぽいが。幼女が使役されているな」
梅ちゃんは、物知りお姉さんと言うだけあって、この場の全員が見えているらしい。
全員が見えてそうなのは、梅ちゃんとギョニソ、そして俺か。
異形生物の中では、梅ちゃんだけが全員に見えている。
法則性とかは、別に無さそうだな。謎仕様だわ。
「最後は俺達だな。俺は、タマヨン。黒いのがアンで、白いのがアズキ。魔法幼女かな。アンとは半月前に使い魔契約をした。アズキとは、3日前だっけな?」
アンとアズキは、料理に集中していて、会話に参加する気はなさそう。
喋ると面倒な事になりそうだから、そのままにしておこう。
「使い魔契約? その幼女達、魔界のもんちゃうやろ? この中で、使い魔なのは、ポンコツロボちゃう? 悪魔やから、魔なのは間違いない」
「我は、使役されているワケではないし、ロボではないアンドロイドだ」
気にするのポンコツの部分じゃないんだ。
地獄からリモート操作してんのか、中に入ってんのか知らんけど、ロボの方が正しくない?
それよりも、梅ちゃんが気になる事を言ったね?
「本人達が、使い魔契約だと言ってるんだけど、違うのかな?」
「うーん? 使役されとる様には見えんな。主従関係も無いんちゃう? 強いて言えば、魔を感じるのはタマヨンの方やで?」
「じゃあ、俺が使い魔なのかな?」
俺としては、その方が腑に落ちる。
だって、幼女を使役してるなんて、鬼の所業っぽいじゃん?
魔を感じるとか言われてるけど。
「いや。一心同体というか一連托生の関係ちゃう?」
「ああ、それは、本人達も言ってたね」
アンとアズキは、話を聞いてはいたのか、顔を見合わせている。
「何て言うかは、重要じゃないかな。確かに、主従関係じゃないし」
「マイブラザーは、それ以上でも以下でもない。例えるなら、俺のガンガルだ」
使い魔って言葉のイメージが、実体に添って無いワケかな?
ドラゴン界隈では、もっと違う意味があるのかも知れないね。
俺のガンガルとやらは、意味不明だけど。
諸々謎をはらみつつも、これで自己紹介は、終わった。
ここからは、情報交換や相談の時間だろう。
「このメンバーって、どういう繋がりなのかな? 俺は、ギョニソと偶然出会って、数子は元同僚だな」
「ワイは、喫茶店を経営しとんやけど、桜子とギョニソは常連客や」
「喫茶店? 何処にあんの?」
喫茶店の常連って、ちょっと憧れる。
喫茶店でのんびりする暇なんて無い人生だった。
「多摩区やで」
「近所かも!?」
「ほな来たってやー。メタル喫茶クロスロードいうねん」
自宅付近を散歩してるけど、そんな店見た事ないな?
「看板には、アメリカン喫茶ナポリタンてあるで」
それなら知ってるかも。自宅から用水沿いに多摩川に向かって歩いて行くとあったかな。
ギョニソとの遭遇が無くても、いつかこの会に混ざれてたかもな。
「他にも、俺達みたいな、不思議生物とその相方みたいなの居るのかな?」
「さあ? おるんちゃう? 知らんけど」
「どうだろうか。居ても極めて少数かと思われる。多いなら、都市伝説なりになってるだろう」
「それもそうかな? SNSで、俺の使い魔うぇーい、とか話題になってないもんな」
こうしてお茶会なんてしているのは、奇跡に近いのかも。
出会うだけでも、隕石に潰される位に、確率低そう。
何かの導きなのだろうか?
「こうして集まって貰ったのは、相談があるからだ。早速いいだろうか?」
ギョニソが、まず切り出した。
こんな特殊な境遇なんだから、そりゃあ、いろいろあるよね。
「俺は、こう見えて既に還暦を過ぎて居る。組織内でも、そろそろ誤魔化しが効かなくなってるんだが、皆はそういう悩みは無いのだろうか?」
「アタシも似た様なもんだけど。トレードは引き籠りでも出来るから。ただ、年金を受給していいもんかな、とか悩むな。永遠に受給しちゃっていいもんなの、アレ?」
「ああ、その問題もあるな。俺は、早期退職に応募するつもりだが、引退後の人生計画も問題だな。年金だけでは永遠には暮らせぬし」
「あー、それ俺も同じ。永遠のチュウニだよ? 妖怪か何かにしか見えんよなあ、金も無いしなあ」
悩みは、皆同じ。さて、解決策を誰か持ってないの?
「ワイなんて異世界からの違法移民状態やからな。コロネの金と権力で、世を忍ぶ仮の身分を手に入れたで」
そうか。この世は、金と権力次第か。
我が家には、暴力しかないからなー。
「ご希望でしたら、用意して差し上げますわ! もちろん代償は必要ですけど」
貴族の義務とか言っていたけど、無償ってワケでは無いんだね。
実質0円が、そうである様に、タダ程コワいものは無いのだから。
代償次第で、コロネとの協業を検討したい。
「早速、その代償について聞きたいが、いいだろうか?」
こうして、地獄の入り口は開かれた。
その先にあるのは、金か? 名誉か? 権力なのか?
それともー。




