エピローグ
私は雨に濡れていた。
その時、たまたま通りかかったのがマシュだ。彼は私に言った。こんな所で何をしているのか? と。私は答えた。ただ、息をしている、と。私の手には、魔剣レイシェラが握られたままだ。
『息をしている、か』
マシュはそう言うと、黙って私の隣に腰を下ろした。雨はいっそうその強さを増す。二人とも、ずぶ濡れだ。
『付き合う必要はない』
私はそう言った。なのにマシュは、何を思ったのか私の頭に手を置き、言ったのだ。
『……君はここにいていいんだよ。生きていていいんだよ。一人が辛いのなら、私が側にいてあげる。一生、君の側にいてあげる』
はじめ、彼が何を言っているのかわからなかった。見ず知らずの男が、出会ったばかりの女に言う台詞ではない。からかわれているのだとも思った。だが、そうではなかった。
『……生きなくちゃならない理由があるんだろう?』
『……え?』
『息をしている、とはそういう意味だ。違うかい?』
私は生きなくてはいけない。
もらった命だから。生きろ、と言われたから。でも、どうやって生きればいいのかなんてわからない。だから……息をしていた。
『……よく…わかったな、』
私は小さく笑った。
森の奥深く、その村は存在する。
誰にも邪魔されることなく、ひっそりと静かな暮らしをしている村。その中に、私は身を置いていた。
憎き『魔』の血を受ける者。
それ故に世間から弾き出され、どこにも帰る場所がない人々。
私も同じだ。
『魔』に取り憑かれ、帰る場所をなくした。やっと見つけた安息の地は、奪い去られた。
『リレィ、生きるからには、幸せでなくちゃいけないよ』
マシュはそう言うけれど、私にはどうしても受け入れられなかった。
時々思う。人は何故、感情というものを与えられたのだろう。何故、それを表す為の言葉というものを覚えたのだろう。今日を生きることだけで手一杯の花や虫たちを見ていると、羨ましく思うこともある。彼らは何も感じない。生きることにも、死ぬことにも、常に前向きで、静かに、強い。何も語らず、命というものをいつも全面に出して生きている。
私はあのとき、自らの命を絶つことも考えていた。けれどカリムにもらった命、無駄にすることなど出来ない。彼と一緒に生活した日々を、私は一生忘れない。辛くとも、悲しくとも、絶対に……。
「マー、マー…、」
歩き始めたばかりのシェスタがご飯の要求を始めた。私はふっと微笑み、彼を抱き上げる。小さな重み。彼を見ていると『生きる』ということがどういうことなのか、思い知らされる。私とマシュの、宝だ。
「リレィ、荷物はこれで全部か?」
両手に荷物を抱え、マシュ。私は頷くと、
「みんなは、どう?」
と、聞いた。
国に申し立てをし、きちんと市民権を得た村人たちは、国から指定された土地に新しく家を建てることになった。ようやくその日を迎え、引越し作業に追われていたのだ。
「大体みんな終わったよ。これで安心してシェスタを育てられるな。なー?」
私の腕の中でニッコリ笑うシェスタを見、マシュが目を細める。
私は、幸せだった。
カリム、私は幸せだ。
お前にもらったこの命、大切にすると約束する。
だから、だからどうか……私を許して欲しい。こんなに幸せで、こんなに切ない私を、どうか…許して欲しい。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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また、魔剣シリーズってことでシリーズ化しております。
全部別のお話として書いてますが、すべて同じ時間軸で、たまに登場人物被ります。
よかったら合わせてお読みください!




