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魔憑きの少女は女誑しの捕縛師に愛される  作者: にわ冬莉


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12/16

勝負

「俺、知らねぇぞ」

 カリムが呟く。と、同時に二人が動いた。ぱっと離れたかと思うとまた重なる。その度に金属のこすれる甲高い音が鳴り響き、しかし、どちらも引かない。無駄のない動きと見事な足裁き。見る者たちを圧倒する、美しいと言ってもいい程の光景。

「兄貴、手加減してるのかぁ?」

 誰かが呟く、と、

「いや、そんなはずねぇぜ」

 と誰かが返す。額には汗。真剣な眼差し。とても相手を馬鹿にして力を抜いているようには見えなかった。大きなキャラバンを纏める程の男だ。その力たるや、間違いなくこの中で随一の筈。そのライカがてこずっているのだから、自己流とはいえリレィの剣術もなかなかのものである。と同時に、ライカの中ではある疑問が湧き上がっていた。

「お前、一体何者だっ?」

 一部の隙も見せず、問う。

「……私は私だ。何者でもないっ」

 リレィが返す。

「これだけの腕があったらなんでも出来るだろうにっ」

「なんでもって、なんだっ?」

「裏でも表でも、商売出来るって事だ!」

 カンッ、

 ライカの剣が、リレィのそれを弾き飛ばした。勝負あり、だ。二人とも息が上がっている。激しく肩を上下させながら見つめ合っていると、静寂を突き破るかのように周りの男たちが咆哮をあげた。歓喜の叫びだ。

 リレィは肩をすくめ、ライカに言った。

「私を切りたければ切ってくれ。但し、その男には手を出すな」

「って、リレィ!」

 聞いていたカリムが慌てる。

「お前は黙っていろ! 負けたのは私だ。当然だろう?」

「そんなこと言ったって、」

 腰に下げている魔剣カサラギに手を伸ばす。万が一のときは……仕方あるまい。

「捕吏師、魔剣は抜くな」

 ライカが言った。

「こいつを切るつもりはない」

 その言葉を聞き、ホッとするカリム。いくらリレィを助ける為とはいえ、カサラギを振り回せば死人がゼロというわけにもいかないだろうと思っていたのだ。

「感謝する」

 簡潔に礼を述べる。

 と、ライカがリレィにツカツカ歩みより、肩に手を置き、顔を覗きこんだ。

「キャラバンに来ないか?」

 男たちがどよめく。

「お頭、引き抜きっすか?」

「……まさか、惚れたんじゃあ、」

 どっと笑いが起きた。だが、リレィは間髪入れずに答えた。

「断る」

「……何故?」

「私はある厄介事を抱えている。行動を共にすれば、皆に迷惑をかけるだろう」

「厄介事?」

 ライカがリレィとカリムの顔を交互に見比べた。溜息をつき、カリムが説明しようと口を開いた瞬間、

「ぎゃあ!」

 という声が後方より上がる。

「なんだ?」

 全員が後ろを振り向く。と、巨大な魔物三匹が暴れまわっていた。手には、握りつぶした男の遺体を持ったまま、だ。

「……なっ、」

 男たちの顔色が変わった。こんなに間近で醜い生き物をみるのは初めてなのだろう。

「全員、自分の持ち馬車に戻れ!」

 ライカが声を張り上げた。途端に蜘蛛の子を散らすように男たちが自らの馬車へと戻っていく。後方、魔物たちのいる場所に置いてある馬車の持ち主だけが、戻れずに右往左往していた。

「チッ、」

 リレィは舌打ちをすると落ちていた剣を拾い、馬車の間を突っ走った。三匹の内、死体を手にしたやつの所まで行くと、剣を薙ぎ払って魔物の腕を切り落とす。ドサリ、という音と共に腕と、遺体が地面に落ちた。

「多勢に無勢だな」

 馬車は次々にその歩みを進め始めた。キャラバンは一気に、その場を離れようというのだ。

「当然か、」

 リレィを捕まえようと伸びてくる腕を避けながら、相手を切りつける。大きい魔物というのは力が強い為、一気にカタを付けたいところなのだが、

「……なにっ?」

 ズシャッ

 という音と、強烈な悪臭。見ると、ライカとカリムがそれぞれ一匹ずつ魔物に向かって切り付けていた。一匹、また一匹と確実に倒していく。初めて組むにしては息も合っていた。魔物たちは大した抵抗も出来ぬまま、地に沈んだ。

「はぁっ、はぁっ、」

 息を整える。整え、そして言った。

「……私はっ、魔…魔に、はぁっ、好かれる性質らしくてねっ、……始終こんな目に合うのはっ、困るだろっ?」

「はぁっ、……なるほどね、っ、はっ、それじゃ仕方ないなっ、」

「しかしっ、はぁっ、あんたもやるなっ、さ、さすがっ、あのキャラバンの纏め役だっ、」

 三人はそれぞれ顔を見合わせると、なんとなくこみ上げてくる笑いに身を任せた。遠くの方から、ライカを呼ぶ男たちの声が聞こえていた。

「お前らっ、今日はここで夜を明かすぞっ。とっとと宴の準備だーっ!」

 そう、命を出すライカ。

「今夜は付き合え。飲むぞ、リレィ」

「……おい、さっきの私の話、聞いてたか?」

 顔を引きつらせながら、リレィ。と、ライカは豪快に笑って言ったのだ。

「見張りは立てる。安心しろ」

 そしてリレィとカリムは、朝まで飲んだくれることになるのだった。

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