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◆4 「予言の聖女」誕生!

 大聖女イニティウムから平民の農村娘に転生した私、フィーニスは、紆余曲折を経ながらも、なんとか前世の実家であるワルトチェル伯爵家の養女に収まることに成功した。

 そして、「神託を受けた聖女」というお墨付きを信仰に厚いワルトチェル伯爵家から得たうえで、ドゥッカ教会の修道院へと入った。


 ちなみに修道院とは、すべての宗教儀式を執り行うことができる、俗世から離れた聖なる施設ということになっている。

 帝都中央修道院では、女子修道院も併設され、男性の修道士、女性の修道女を合わせると五〇〇名以上が修行に励んでいた。

 そして修道院は、そういった修行道場的な側面だけではなく、酷く現実的な面もあり、世俗的にも強大な権限と権益を保持していた。

 荘園や農園を幾つも領有しており、この帝都中央修道院は帝都ブリズの中心部にあるため、数多くの国事行為を担ってきていた。

 その中には、瘴気の浄化、魔物の討伐含まれている。

 そして騎士団などの軍隊以外で、戦闘行為が許されているのは聖職者だけであった。


 だから、私は聖女とは言わない、最低でも修道女にはならなければ、と思っていた。


 私は信じている。

 世界の終末ーー人類社会の滅亡を防ぐために、善神アフラ様が、わざわざ時間を遡って、私を転生させてくれたのだ、と。

 今度こそは、悪神の顕現による世界崩壊を防ぎたい、そのため、悪神相手に最前線で戦える聖職者(できれば聖女)になろうとして修道会院に入ったのである。


 だが、善神アフラ様は私に試練を課すのがお好きらしい。


 せっかく修道院に入ったのだから、魔力鑑定(特に聖魔法の有無の確認)をしてもらった。

 今世では平民の農村娘だから当然、魔力を鑑定してもらう機会などなかったからだ。

 すると、見事なくらい、今の私には魔力がないことが判明した。

 聖魔力どころか、通常の魔力すらなかった。


 私、フィーニスが神託を受けた身であることを養家となったワルトチェル伯爵家が保証していたので、ドゥッカ教のお偉方からも期待されたようだが、ガッカリしたようだ。

 私自身もガッカリだよ。

 でも、おかげで聖職者の皆から妬まれずに済んだーーと考えることにしよう。

 これから厳しい年月を過ごすことになるのだから、気持ちの切り替えと、積極的思考は大事だよね、うん。


「神々の黄昏(ラグナロク)」が始まる神暦八三五年まで、あと十一年ある。

 残された時間をできるだけ有効に使わねば。


 そう思った。


 人類滅亡まで、あと十一年ーー。


 そのことを知っているのに、私、フィーニスは農民出身な上に、魔力も皆無だった。

 このままでは正式な修道女になることすら覚束ない。


 そんな社会的弱者である私が、今、修道院内で出来ることは何かーーウンウンと唸って考えた。

 その結果、聖魔法は使えないけど、これでも私は「聖女」なのだよ、とアピールすることに全力を投じることにした。


 修道院に時折訪れる大司教様や、皇宮からの使者などを相手に「神託が降りました」と称して、前世での記憶を総動員して、予言めいたことを口にし続けたのだ。


 それでも、ほんとうに「聖女」に成りおおせるのは至難の業、遠い道のりに思われた。

 修道院内では、俗界以上に厳しい階級社会が形成されていたからだ。


 修道院は俗世を捨てて善神アフラ様にお仕えすると誓った聖職者たちが集団生活をしている場所である。

 聖職者は法的に独立し、通常の裁判では裁けない特権階級だ。

 俗界との関わりを断つといいながら、世俗と同じく階級社会を形成していた。

 修道院長を頂点に、副院長や財務、宝物庫の管理などを任された二〇名近くの役職付きの修道士が権力の中枢を握り、あとは大勢の修道士(女子修道院では修道女)が共同生活を行っている。

 だが、修道院の中で生活しているのは、そうした修道士たちのような聖職者だけではない。

 労働や畑作を担う助修士、財産を寄付することによって院内で生活することになった献身者といった非聖職者も生活していた。


 私、フィーニスとオリガは、共にワルトチェル伯爵家とゴルトムント公爵家といった実家から多額の献金と共に修道院に送り込まれた人材なので、もともとは非聖職者の「献身者」に当たる。

 そうした非聖職者の立場から、献身の儀を通じて修道士になったため、私はオリガ同様、半ば「献身者」半ば「修道士」という微妙な位置付けとなっていた。


 そのうえ、私、フィーニスの立場は、オリガ以上に危ういものだった。

 本人に感知される魔力は皆無だったし、今まで歴史上、魔力で予言を成した存在はいなかったから、私、フィーニスが受けたと称する「神託」自体も、人々から半信半疑扱いにされていた。



 ところが、幸いなことに、十年間の間に、大時化(おおしけ)によって、我がネビール帝国が海外に派遣した交易船が沈没すること、そして第三皇女ナタリアス・ネビールが誘拐されることを予言し、それが的中したことによって、私は聖女認定されることとなった。

 前世で両親が亡くなる前にあった事件で目立ったものといえば、この二つの事件だったから、私は思い出すことが出来たのだ。


 だが、この「予言」をしたときは、いまだ私は「聖女」扱いではなく、信用されていなかったため、皇宮は使者からの報告を耳にしただけで碌に対策を立てなかった。

 おかげで交易船は海流に呑まれて沈没してネビール帝国に大損害を与え、大騒ぎになっているうちに、第三皇女ナタリアスも拐(さら)われてしまった。


 青褪めたネビール皇家は、私を直に皇宮へと呼び出し、誘拐された第三皇女ナタリアスの現在の居所を尋ねた。

 特に皇妃イオウナ様は泣き出しそうな顔をなさっていた。

 だが、私は「神託を受けた」と称しつつも、第三皇女ナタリアス様の居所については、「皇太子フェルトン殿下のみにお伝えいたします」とした。

 皇妃イオウナ殿下の耳に直接入れるのは憚(はばか)られたからだ。


 誘拐事件の犯人は、じつは皇家に身近な者であった。

 第二皇子ニコライ・ネビールの取り巻き貴族モンテ侯爵家とペロット伯爵家による犯行であった。

 第二皇子ニコライの後援貴族たちは傭兵に命じて、ニコライの実妹である第三皇女ナタリアスを拐(さら)わせ、彼女の生命と引き換えにフェルトン皇太子に退位を迫る計画であった。


 前世では、フェルトン皇太子は誘拐犯との取引に応じず、結果として一週間後に皇城の内堀に第三皇女ナタリアスの死体が投げ捨てられているのが発見された。

 フェルトン皇太子が取った態度は、当然とも言えるものであったが、以降、イオウナ皇妃とフェルトン皇太子の仲が険悪なものとなった。

 イオウナ皇妃殿下は殊の外偏愛の激しい女性で、第二皇子ニコライと第三皇女ナタリアスばかりを可愛がっていたから、我が子とはいえ、フェルトン皇太子の決断に怨みを持ち、実際に、皇太子を廃嫡しようという動きまで起こして、皇宮全体が重苦しい空気に包まれた。


 結局、前世では、第三皇女ナタリアス誘拐事件の真実が明らかになったのは事件発生の翌年、実行犯の一人が口封じのために殺されそうになったところを教会に逃げ延びて、懺悔したことによってであった。


 その結果、第二皇子ニコライの取り巻きであったミハイル・モンテ侯爵とチチェルバヤ・ペロット伯爵のお家はお取り潰しとなり、第二皇子ニコライも監獄塔に幽閉されることとなった。


 イオウナ皇妃殿下は泣き狂うが、さすがに派閥の領袖に担がれていた第二皇子ニコライを無罪とするわけにもいかなかった。


 が、こうしたゴタゴタも、皇女誘拐事件から三年後の悪神襲来事件以降、すべて黒い風と共に吹き飛ばされてしまった。

 前世の私、イニティウムが「聖なる犠牲」を発動する以前に、皇城自体が悪神に呑み込まれて、第二皇子ニコライばかりか、コーフコル・テラ・ネビール皇帝もイオウナ皇妃もすべて死んでしまったのだ。

 前線に出て指揮していたフェルトン皇太子のみが皇族で唯一生き残ったというのだから、皮肉なものである。


 で、今世では、私、フィーニスが、「誘拐は第二皇子ニコライの派貴族による謀略」であり、「第三皇女ナタリアスは第二皇子が住まうお屋敷の地下室に閉じ込められている」と告げた。

 前世で、明らかにされた事件の真相を素直に語ったのである。

 すぐさま近衛騎士団が現場に派遣され、第三皇女ナタリアスを救出することができた。


 次いで私は、「第二皇子ニコライは無実です。妹の誘拐事件を知らなかったと神様から告げられました」と虚偽の発言をした。

 実際、第三皇女誘拐事件に、どれぐらい第二皇子が噛んでいたかは、わからない。

 だが、イオウナ皇妃殿下とフェルトン皇太子殿下とが対立するようになるのは望ましくないと、私は判断したから、「神託を受けた」と嘘をついたのだ。

 皇室全体が一丸となって、悪神の襲来に備えないと、ネビール帝国ばかりか人類社会が滅亡してしまうから仕方ない。


 結局、皇位継承権を放棄する旨を誓約書に記すことによって、第二皇子ニコライが罪を受けることはなくなった。

 その結果、私、フィーニスは、第三皇女ナタリアス、そしてイオウナ皇妃殿下と親しくなった。

 彼女たちはもともとオリガとは親戚同士であったから、オリガを介して親睦を深めやすかった。

 イオウナ皇妃殿下にしても、第二皇子ニコライを愛でてはいたが、無理にでも帝位に就かせたかったわけではなかったらしい。

 帝位に就くよう焚き付けてきたミハイル・モンテ侯爵とチチェルバヤ・ペロット伯爵が皇宮から追放された結果、皇妃の心も落ち着いたようだった。

 キナ臭い帝位継承争いがなくなって、フェルトン皇太子からも感謝され、私は皇族の一部からは、ますます「聖女」として扱われるようになったのだった。

 読んでくださって、ありがとうございます。

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