↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現代ダンジョン ―世界は今日も世知辛い―  作者: AIやすし
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/27

第3話 二時間で十階層

 六人は人の流れに乗り、日比谷ダンジョンの受付区画を奥へ進んだ。


 一般の入場受付とは別に、車両便の利用者が並ぶ窓口がある。壁の表示には行き先と予約番号を確認する欄が並び、その一つに第十階層行きのチャーター便が出ていた。


 黒川が端末を差し出すと、受付担当者は予約内容を読み上げた。


「第十階層までの往復利用、乗車は六名で承っています。定員は十名、料金は一便往復で百万円です」


「間違いありません」


「帰りは指定時刻の前に、現地の乗降地点へお戻りください。運行状況によって到着時刻が前後する場合は、登録された連絡先へ案内が入ります」


 黒川は六人の端末に予約情報が届いたことを確かめた。康一の画面にも、往路と復路の利用内容が表示されている。六人で割れば安くはないが、徒歩なら最短でも二日かかる行程を省ける。闘技場を二コマ予約した今回の探索では、その時間の方が重かった。


「装備は持ち込めますか」


 篠崎が腰の短剣を示す。受付担当者は刃が鞘に収まり、留め具が掛かっていることを見て頷いた。


「その状態でお願いします。車内では外さず、指定の固定場所を使ってください」


「短槍は分割したままなら?」


 康一が背負いを少しずらして見せると、長さを確かめた担当者が、乗車口で係員に渡すよう案内した。


 久我の長柄斧と黒川の大盾、榊原の弓も、その場で持ち込み方法を確認される。水野の携行袋を含め、預けて別便に回す荷物はなかった。


「六人とも装備ごと乗るわけか。十人で来たら、座る場所より武器の方が幅を取りそうだな」


 久我が言うと、篠崎が腰の短剣を軽く叩いた。


「少なくとも私のは、久我さんの斧ほど迷惑じゃない」


「盾も忘れないでくれ」


「これは前で役に立つ」


 黒川が真顔で返し、受付担当者がわずかに笑った。


 手続きを終えた六人は、装備をそれぞれ携え、係員の案内で日比谷ダンジョンの大型入口へ向かった。


 大型入口には、六人が装備を携えて通っても余裕のある幅があった。康一たちは自分たちの装備を持ったまま、一人ずつ境界面を越えた。


 境界を抜ける短い間、康一の端末から表示が消えた。完全に内側へ入ると画面は再び点き、先ほど届いた予約情報を表示した。


 六人はそのままダンジョン内部側の乗車区画へ進んだ。そこには、すでに内部へ搬入された装甲車が待っていた。康一が街中で見る車両より車高があり、窓は小さい。外板には新しい傷と古い補修跡が混じっていた。


 乗車口では、大型装備から順に固定された。黒川の盾、久我の斧は壁際に柄まで留め具で固定される。康一の短槍は分割したケースごと座席下の枠へ入り、手を伸ばせば届く位置で動かないことが確認できた。


「着くまで使わずに済むのが一番です」


 水野が言った。


「使うようなら、運賃以上の問題だな」


 榊原の返事に、康一も同感だった。


 扉が閉じる。金属の厚い音が、ダンジョン内部の乗車区画のざわめきを切り離した。



 装甲車は内部側の乗車区画で短い待機を終えると、ゆっくりと動き出した。


 前方の確認を待ち、窓の外を資材を積んだ車両が先に通過していく。反対側では、地上へ戻る作業員たちが、境界へ向かう前に装備を点検していた。


 合図が出ると、車体はダンジョン内部の道路へ進んだ。


 乗車区画を離れても、すぐに暗闇にはならない。進路に沿って照明が続き、路面には車輪が繰り返し通った跡がある。歩行者の区画と車両の通る筋は分けられ、分岐には進行先を示す表示が立っていた。


 康一が知識として知っていた日比谷と、窓越しに見る日比谷は少し違った。


 世界で最初に現れたダンジョン。長く使われ、浅い階層から中層にかけて整備が進んだ場所。言葉にすればそれだけだが、実際には道の脇に資材の集積所があり、作業車両が行き交い、荷を下ろす人間がいる。


 車体が広い空間へ出ると、片側に仮設の作業拠点が見えた。積み上げられた容器の数を係員が確かめ、その横では別の班が台車へ荷を移している。探索者だけでなく、整備と運搬を仕事にする人間の動きが途切れなかった。


「初めてだと、そこを見るよな」


 向かいに座った久我が言った。


「もっと何もない場所を走ると思っていました」


「そのうち何もない場所の方が増える。ここは長く使われてる側だ」


 久我が窓の先を顎で示す。整えられた路面は次の分岐まで続いていたが、その外側には手の入っていない地形が残っている。照明の届かない先は広く、何がいるかまでは見えなかった。


 篠崎も外を見たまま口を挟んだ。


「道から外れたら、普通に探索だから。車で来られることと、どこでも安全なことは別」


「その確認は、着いてからもう一度します」


 黒川が言う。班長として経路を気にしてはいるが、前方の通行判断には口を出さない。車両を止めるか進めるかは、運転席と道路脇の係員が合図を交わして決めていた。


 資材を積んだ車両とすれ違うため、装甲車が待避できる場所で止まる。重い荷を載せた車列が通り過ぎると、床を通して小さな振動が伝わった。


「ダンジョンの中で渋滞待ちか」


 久我が呟く。


「歩いて二日よりは早いでしょう」


 水野が返すと、久我は「それは間違いない」と背もたれへ体を預けた。


 車列が途切れ、装甲車は再び進み始めた。



 進むにつれて、窓の外の様子は何度も変わった。


 人と荷の集まる場所を抜けると、照明の間隔が広がる。平らに整えられた路面にも継ぎ目や傾きが増え、車体が揺れるたび、固定具が低く鳴った。康一は座席下の短槍が動いていないことを足元で確かめた。


 速く走れる区間ばかりではなかった。先行車からの連絡を待って速度を落とし、路肩で作業が続く場所は一台ずつ通る。先の見えない曲がりでは短く停止し、対向側から合図が返ってから進んだ。


 それでも、徒歩とは比べものにならない速さで距離が縮んでいく。


 歩けば、周囲を警戒しながら荷を背負い、休息する場所を選ばなければならない。遭遇を避けられなければ戦闘も増える。最短約二日という時間には、足を前へ運ぶ以外の仕事がいくつも含まれていた。


 今はその大半を、道路と車両と、運行を支える人間が引き受けている。


 康一は端末の時刻を見た。出発から一時間を過ぎていた。


「早いですね」


「早いけど、寝る気にはならないだろ」


 榊原は小さな窓から前方を見ていた。弓は固定具に収まったままだが、姿勢は休み切っていない。


 康一も同じだった。装甲車の外板があっても、走っているのはダンジョンの内部だ。道の外に動く影が見えれば、車内の会話は自然に止まった。運転席から問題なしの案内があるまで、黒川は窓の外と六人の様子を見ていた。


 途中、前方の確認で車両が止まった。


 静かになると、遠くで何かが擦れるような音が聞こえた。康一には発生源までは分からない。篠崎が窓へ視線を向け、久我が固定された斧の位置を確かめる。水野は携行袋を膝へ引き寄せた。


 やがて運転席から、進路上の支障がなくなったと告げられた。六人の誰も理由を決めつけず、車体が動き出してから息を戻した。


「便利と安全は別、か」


 康一が言うと、黒川が頷いた。


「便利だから使う。ただし、着いた先では車両の外です」


 その言葉を境に、六人は降車後の動きをもう一度確認した。


 黒川を先頭に、篠崎と久我が周囲を見られる位置へ出る。榊原は射線を取れる場所を確かめ、水野は最後に荷を受け取る。康一は短槍を組み立てるまで、剣鉈へ手を届かせておく。


 時刻が二時間に近づくころ、路面の揺れが変わった。小窓の向こうに、これまでより明るい色が見え始める。


 人工の照明ではなかった。



 装甲車が最後の通路を抜けると、視界が一気に開けた。


 窓の外に草原が広がっている。頭上には空が広がり、遠くまで続く草を地上とは違う光が一面に照らしていた。離れた場所に大きな円形の闘技場が見えるほかは、視界を大きく遮る構造物がほとんどない。


「第十階層です」


 案内の声が入った。


 装甲車は草原の端に設けられた乗降地点で止まった。扉が開く前に、黒川が全員へ声を掛ける。


「降りたら予定どおり周囲を確認。装備を受け取っても、ここで広げ過ぎないでください」


 返事が揃う。


 扉が開き、外の空気が入ってきた。康一が地面へ降りると、揺れの残る足裏に草の感触が伝わった。


 篠崎が先に周囲を見て、久我がその反対側へ立つ。黒川は大盾を受け取り、留め具を確かめた。榊原は弓と矢筒、水野は携行袋を順に回収する。


 康一も短槍のケースを受け取った。固定具に挟まれていた跡はあるが、外から見て破損はない。二つの部品を接合し、交換した箇所が最後まで締まったことを手で確認する。


「帰りの集合はここです」


 黒川が全員の端末に表示された位置を確かめた。


「指定時刻の三十分前には戻る。遅れそうなら、分かった時点で共有してください。連絡が入った場合は、俺だけで決めず全員へ回します」


「車が早く来ても、六人揃わないまま帰らないでね」


 篠崎が久我を見る。


「なんで俺に言う」


「一番、草原の向こうまで行きそうだから」


「今日は班長の指示に従う男だ」


「今日は、を付けるな」


 黒川の声に、榊原が笑いを噛み殺した。


 短いやり取りの間にも、六人の手は止まっていない。水野が共有物の数を確認し、榊原は矢筒の位置を直す。篠崎は短剣の留め具を外して抜きやすい状態へ戻した。


 装甲車の係員から、復路の確認方法が改めて伝えられる。黒川が内容を復唱し、康一たちも各自の端末で同じ情報を確かめた。


 やがて扉が閉まり、装甲車は来た道の方へ向きを変えた。車体が遠ざかるにつれ、低い駆動音が草原の広さへと薄まっていく。


 装甲車に乗ってから、およそ二時間。


 徒歩なら二日を見込む第十階層に、六人は装備を消耗させず立っていた。


 だが、ここから先は今回の車両に運んでもらう区間ではない。闘技場までの草原は、車窓から眺める場所ではなく、自分たちで歩き、警戒し、必要なら戦う探索区域だった。


 黒川が大盾を腕へ通す。


「ここから通常探索に切り替えます。隊列は確認したとおり。最初の接触では、無理に仕留めるより六人の間合いを確かめる」


 久我が長柄斧を構え直し、篠崎と榊原が左右の視界を取った。水野は一歩後ろへ位置を定める。


 康一も短槍を握り、穂先を草原へ向けた。


 六人で顔を合わせる時間は終わった。


 次に確かめるのは、六人でどう戦うかだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。