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現代ダンジョン ―世界は今日も世知辛い―  作者: AIやすし
第一章

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第3話 救援の仕事

 榎本がそう言い終えたあとも、奥へ続く経路から足音は返ってこなかった。


 遠くで水が根の下へ落ちる。短い音が消えると、代わりに榎本の荒い呼吸と、装備の留め具がわずかに触れ合う音が残った。


 康一はすぐに榎本だけへ近づかず、まずその向こうを見た。重なった根の陰、曲がり道の先、脇へ分かれる細い経路。見える範囲に動くものはいない。だからといって、何もいないと決められる広さでもなかった。


「久我さん、周囲をお願いします。南雲さんは現在位置と通信を。伊東さんは私と榎本さんの確認を手伝ってください」


 藤堂の声に、三人がほぼ同時に動いた。


「了解」


 久我は榎本が来た奥側だけに注意を向けず、康一たちが通ってきた経路と脇道まで見渡せる位置へ移った。長柄斧をすぐ振れる高さに保ち、根の陰を一つずつ確かめる。


「現在位置、確認しました。内部無線も受信できています」


 南雲は端末の表示と周囲の目印を照合したあと、榎本の無線にも受信表示が出ていることを目で確かめた。確認した時刻を記録へ残し、藤堂へうなずく。


 藤堂はそれを見てから榎本へ向き直った。


「榎本さん、そのままで大丈夫です。無理に姿勢を直さないでください。まず、意識が遠くなる感じや吐き気はありませんか」


「ありません。頭も打ってないです。足以外は、大丈夫です」


 答えは明瞭だった。ただ、話すたびに呼吸の間が一つずつ長くなる。額から流れた汗がこめかみを通り、顎の下へ落ちた。


「大きく血が出たところは」


「ないです。転んだときに擦ったくらいで」


 榎本は自分の脚へ目を落とした。痛めた足首の周りには簡単な固定が施されている。反対の脚と根の壁へ体重を逃がし、片方の靴底は地面へ触れているだけに近かった。


「背負ったままだと確認しにくいですね。荷物を下ろします。伊東さん、反対側を」


「はい」


 康一は短槍を背の固定具へ収め、榎本の横へ回った。


「肩の留め具を外します。痛かったら止めてください」


「お願いします」


 榎本が根から手を離した瞬間、上体がわずかに揺れた。康一が肘の上を支えると、腕越しに体重がかかる。榎本はすぐに踏み直したが、痛めた足へ力が移ったところで息を詰めた。


「すみません」


「大丈夫です。急がなくていいです」


 藤堂が背負い袋を受け取り、根元の乾いた場所へ置く。荷が肩から外れても、榎本の呼吸はすぐには整わなかった。奥へ戻りたい気持ちと、足がそれを許さないことが、立ち方にそのまま出ているように康一には見えた。


「ここまで、どれくらい歩けましたか」


「三人と別れた場所から、休みながらです。平らなら歩けます。段差は、時間がかかります」


「走るのは」


「無理です。さっき試して、足を着いたところで止まりました」


 言い終える前に、榎本の視線がまた奥へ向いた。久我が警戒している経路の先に三人がいる。見えてはいない。それでも榎本は、呼吸を整えるたびにそちらを確かめていた。


「状態を見るために一歩だけ動けますか。無理なら、今の説明だけで構いません」


「動けます」


 榎本は根に手を置いたまま、痛めていない足を半歩前へ出した。続いてもう片方を運ぶ。靴底が湿った地面を擦り、体重が移りかけたところで膝と肩が止まった。顔をしかめ、息を吐いてから、ようやく足をそろえる。


「これ以上は結構です」


 藤堂がすぐに止めた。


「歩けることは確認できました。ただ、診断は外へ戻ってからです。ここでは走らず、痛みや動き方が変わったらすぐに教えてください」


「分かりました」


 榎本はうなずいたが、返事のあとにも奥を見た。


 康一は見えたことを頭の中で分ける。榎本は自分で歩いてここまで来た。受け答えはできている。大きな出血は外から見える範囲にはない。だが、痛めた足へ体重が移ると動作が止まり、走れない。負傷の種類も、この先どれだけ歩けるかも、康一が決められることではなかった。


「榎本さん、三人と最後に連絡した位置を見せてください」


 南雲が榎本の正面ではなく、端末を見せやすい側へ回った。


「それと、最後に声を聞いた時刻、今も無線がつながっているか、順に確認します」


「はい。記録はここです」


 榎本は腰の端末を取り出した。指を画面へ置き、一度滑らせる。操作をやり直そうとして手を止め、短く息を吐いた。


「貸してください。画面は榎本さんに見える向きのままにします」


「すみません」


「記録を写すだけです。消したり変更したりはしません」


 南雲は榎本が示す位置と最終通信の記録を、自分たちの現在位置へ重ねた。時刻も照合し、内容を藤堂へ読み上げる。


「残る三人の最終確認位置は、ここから中層側です。私たちが予定していた次の地点より先ですが、榎本さんが分かれた場所までの経路記録は残っています」


「三人とは、今も連絡を取れますか」


 藤堂が尋ねる。


「つながります。別れたあとにも話しました。三人はその場で待つと言ってます」


「救難通報は、榎本さんが」


「俺です。分かれたあとに内部連絡拠点へ通報しました。三人の位置と、俺が走れないことも伝えました」


 榎本はそこまで一息で答え、呼吸を整えてから続けた。


「俺は出入り口側へ移動して、救援と接触するように言われています。無線を切らずに、移動した位置も送っています」


「分かりました。管理側の指示で移動していたんですね」


「はい。でも、正式救援隊が着くまで三人を待たせることになる。俺が普通に動ければ――」


「榎本さん」


 藤堂は強く遮らず、榎本が顔を上げるまで待った。


「救難通報は届いています。まず、今の状況を管理側と合わせます。三人のことを考えるのは、その確認が済んでからにしましょう」


 榎本の口元が動いた。すぐには返事にならず、やがて小さくうなずく。


 南雲が内部無線の回線を合わせた。受信音が一度鳴り、湿った空気の中へ細い雑音が流れる。


「回線、つながります」


 藤堂は榎本の記録を手元で確かめてから送信した。


「こちら藤堂。探索中の四人です。負傷した探索者、榎本拓海さん一名と接触しました。榎本さんの救難通報と、残る三名への初動状況を確認したいです」


 応答までの時間は長くなかった。


『救難通報は受理済みです。榎本さんの移動記録も受信しています。残る三名の位置と通信継続を確認し、正式救援隊は出入り口側から進行中です』


 無線から返った声は、確認事項を一つずつ区切って伝えた。通報を初めて知った反応ではない。すでに届いた情報と、いま藤堂たちから入った情報を照らし合わせている。


「こちらの現在位置を送ります。榎本さんは会話可能、大きな出血は見える範囲になし。自力歩行はできますが、走れず、段差では速度が落ちます」


『受信しました。その位置で周囲の安全を維持してください。現在位置、正式救援隊との位置関係、残る三名への経路を確認します』


「了解しました」


 通信がいったん切れる。


 待っている間、五人の誰も奥へ歩き出さなかった。


 久我は警戒位置を変えず、根の重なりへ視線を走らせる。南雲は送信済みの位置がずれていないか再確認し、榎本の最終通信地点までの経路を表示した。藤堂は榎本の呼吸と立ち方を見ている。康一は地面へ下ろした背負い袋の留め具が緩んでいないことを確かめたあと、横へ分かれる経路へ注意を戻した。


「すみません。巻き込んで」


 榎本が低い声で言った。


「まだ何も決めていません」


 藤堂が答える。


「だからこそ、必要な情報を確認しています。榎本さんも、今は足を休めてください」


 榎本は根へ背を預けた。力を抜いた分だけ、痛めていない脚へかかる重さが増す。額の汗を手袋の甲で拭い、目だけを奥へ向けた。


 やがて無線が鳴った。


 南雲が表示を見て、藤堂へ端末を渡す。


『藤堂さんたちの現在位置を確認しました。正式救援隊はそちらより出入り口側から接近中です。残る三名へは、藤堂さんたちの位置から向かう方が早く接触できる見込みです』


 管理側は、そこで言葉を切った。


『近傍の探索者班として、正式な救援協力を要請します。参加可能か、班内と榎本さんの状態を確認したうえで回答してください』



 無線の向こうから、すぐの返答を迫る声は続かなかった。


 藤堂も即答しない。


「要請内容を確認します。私たちは榎本さんを伴い、残る三人へ向かって接触する。正式救援隊は出入り口側から進行を続ける。それで合っていますか」


『はい。移動中も通信を維持し、状態や経路上の変化を共有してください。無理に速度を上げる必要はありません』


「通常探索を終了し、救援へ切り替える場合の扱いも確認します」


 藤堂が言うと、久我が警戒を続けたまま無線の方へ顔を向けた。


「救援協力の報酬と、必要になった消耗品や損失の補償は、通常の扱いでいいんだな」


 言葉は率直だったが、榎本を見る声ではなかった。これから四人の仕事を別の仕事へ切り替えるために、管理側へ必要な確認をしている。


『正式な救援協力として記録します。報酬と補償は規定の範囲で処理されます。具体的な確認は帰還後に行います』


「分かった」


 久我はそれ以上、金の話を続けなかった。


 藤堂は送信をいったん止め、四人で話せる状態にした。


「要請は確認できました。ここからは、私たちが参加できる状態かを見ます」


 最初に南雲を見る。


「位置と時間はどうですか」


 南雲はすでに表示を切り替えていた。今日の予定経路、現在位置、残る三人の最終確認位置、出入り口側への帰還経路が一つの画面に並ぶ。


「現在時刻とここまでの行程を確認しました。予定していた帰還余裕を残しても、三人の最終確認位置までは進めます。ただし、榎本さんの歩調に合わせるので、通常の移動時間では見ません」


「正式救援隊との位置関係は」


「向こうは出入り口側です。私たちが先に中層側へ進み、正式救援隊が後方から近づく形になります。通信記録と経路記録は継続できます」


「ありがとうございます」


 藤堂が久我へ向く。


「装備と消耗は」


「斧は問題ない。防具も動く。さっきまでの戦闘で使った分はあるが、救援に入れないほどじゃない」


 久我は答えたあと、康一たちの回収袋へ目を向けた。


「ただし、救援に切り替えるなら今日の探索はここで終わりだ。途中で獲物を見つけても追わない。回収品は持っていくが、これ以上荷物を増やさない。それでいいな」


「そのつもりです」


 藤堂が答える。


「なら、俺は行ける」


 今日の残りの稼ぎを捨てることも、すでに回収したものを抱えたまま人を探しに行くことも、探索者の仕事から外れた話ではない。久我は損得を気にしないふりをせず、損失を確認したうえで、必要な方へ仕事を切り替えようとしていた。


「伊東さんは」


 康一は短槍の固定を外し、穂先と継ぎ目を確かめた。腕や脚に痛みはない。防具の留め具も外れていない。回収袋は背負ったまま動ける重さに収まっている。


「負傷はありません。短槍も使えます。榎本さんの荷物を分ける必要があれば持てます」


「分かりました」


 康一の返事だけで決定は終わらない。藤堂は自分の盾の縁と片手剣の固定を見てから、最後に榎本へ向き直った。


「榎本さん。私たちが受ける場合、あなたにも一緒に中層側へ戻ってもらいます。私たちの普段の速度では進みません。あなたが歩ける速度に合わせます。それでも、途中で歩けなくなる可能性はありますか」


 榎本はすぐに大丈夫だと言いかけ、口を閉じた。


 根へ置いた手に力が入る。痛めた足を見てから、奥へ続く経路を見る。


「分かりません。ここまでは歩けました。でも、さっきより痛みはあります」


「それで構いません。分からないものを大丈夫と決めないでください」


 藤堂の声は変わらなかった。


「歩幅が落ちたとき、痛みが変わったとき、止まりたいときは言ってください。言えない状態になる前に止まります」


「はい」


 榎本は今度こそ、はっきりうなずいた。


「俺も、三人のところへ戻りたいです。行けるところまで行きます」


「行けるところまでではなく、五人で状況を見ながら進みます」


 藤堂は四人を見回した。


「私は参加可能です。皆さんも、救援協力を受けることでよいですか」


「はい」


 南雲が答え、端末を持ち直す。


「問題ない」


 久我が短く続けた。


「賛成です」


 康一も答えた。


 藤堂は三人の返事を聞いてから、無線を再び送信状態へ戻した。


「こちら藤堂。班内と榎本さんの状態を確認しました。救援協力を受けます。本日の通常探索はここで終了します。榎本さんを伴い、残る三人の最終確認位置へ向かいます」


『救援協力の受諾を確認しました。正式救援隊は進行を継続します。移動を開始するときに連絡してください』


「了解しました」


 通信が終わると、同じ場所にいた五人の手が別々に動き始めた。


 南雲は予定していた探索地点の表示を閉じ、目的地を残る三人の最終確認位置へ切り替える。記録には、通常探索を終了して救援協力へ移った時刻と現在位置を加えた。


 久我は回収袋の口と固定具を確かめた。


「緩いのは締め直す。今から落とした物を探しに戻る余裕はない」


 康一も自分の袋を引き寄せ、根穿虫や樹甲獣から回収したものが内部で動かないよう留め直した。朝から積み上げてきた今日の稼ぎは、そこで増えるのをやめた。


 予定地点まで進み、獲物を探し、持ち帰れるものを増やす。そのために見ていた地図は閉じられた。


 代わりに画面の中心へ置かれたのは、まだ戻っていない三人の位置だった。


 藤堂は榎本の背負い袋を持ち上げ、久我と重さを確かめる。


「伊東さん、回収品に余裕はありますか」


「少しなら分けられます」


「では、榎本さんの荷物は私と伊東さんで分けます。榎本さんには無線と、すぐ必要なものだけ持ってもらいます」


「自分で持てます」


 榎本が言った。


「持てることと、今持つべきかは別です」


 久我が袋の留め具を外しながら返す。


「足に使う余裕を、荷物で減らすな」


 榎本は言葉を探すように四人を見たあと、肩から力を抜いた。


「お願いします」


 装備を分け終えると、藤堂が順番を決め直した。


 久我が前方を警戒する。南雲が経路と通信を管理し、そのすぐ後ろを榎本と藤堂が進む。康一は後方と横へ続く枝道を見ながら、必要なときは榎本の反対側を支える。


「移動を開始します」


 藤堂が内部連絡拠点へ告げた。


 短い確認が返る。


 五人は、中層側へ向けて歩き出した。



 最初の数歩だけでも、四人で歩いていたときとの違いははっきりした。


 榎本は痛めていない足から先へ出し、もう片方を引き寄せる。靴底が地面へ着くたび、歩幅と呼吸が一度ずつ止まった。五人の装備音も、その間に合わせて途切れる。


 急ぐ理由はある。急がせてよい状態ではない。


 久我は先行しすぎず、曲がり角を確認しては手で進行を示す。南雲は足元の段差と端末を交互に見て、通りやすい側を声に出した。藤堂は榎本のすぐ横で、返事より先に歩き方を見ている。


 康一は後ろを振り返ってから、横へ張り出した根の下を確かめた。同じダンジョンの同じ経路なのに、目へ入るものの順番が変わっていた。


 さきほどまでは、痕跡を見つければ獲物につながるかを考えた。いまは、根の陰に何かがいないか、榎本が越えられない段差ではないか、五人の間隔が開きすぎていないかを見る。


「次、根が高いです」


 南雲が足を止めた。


 湿気を含んだ太い根が、通路を横切っている。普段なら一歩で越えられる高さだった。


「榎本さん、こちら側へ」


 藤堂が低い方を示す。


 榎本は痛めていない足を根の向こうへ置いた。身体を持ち上げたところで、残した足が地面を擦る。康一が反対側の腕を取り、藤堂と二人で支えた。


 榎本の体重が、装備越しに腕と肩へ伝わった。一瞬だけ大きく預けられ、根を越えたところで戻る。


「痛みは」


「あります。でも、さっきと同じです」


「呼吸が落ち着くまで止まります」


 藤堂は返事を待たず、進行を止めた。


 立ち止まる時間が長く感じられる。誰も榎本を急かさない。久我は前を見たまま、康一は後ろを見たまま待った。南雲が時刻を記録し、五人の呼吸と遠い水音だけが経路へ残る。


「行けます」


 榎本の声が整ってから、藤堂がうなずいた。


「では、同じ歩調で進みます」


 途中で久我が二度、手を上げた。


 一度目は根の陰。二度目は脇へ開いた経路だった。どちらにもモンスターの姿はなく、見落としがないと確かめてから進行を再開する。


 戦闘を避けられるなら、その方がいい。


 今の仕事は、討伐数を増やすことではなかった。


「三人の最終確認位置まで、経路はこのままです」


 南雲が言う。


「通信状態も変わっていません。正式救援隊の位置は、引き続き出入り口側です」


「分かりました」


 藤堂の返事のあと、榎本が息を継いだ。


「三人には、俺からも――」


「次の停止で連絡しましょう」


 藤堂が答える。


「歩きながら操作しなくて大丈夫です。こちらの移動は管理側からも共有されています」


「はい」


 榎本は無線へ伸ばしかけた手を戻した。それでも視線は、久我の肩越しに続く奥側から離れなかった。


 やがて、足元の湿り方が変わった。


 乾いた土の上に細い光が揺れ、根の間を流れる水音が近くなる。以前にも通った細い水路だった。経路を確認するときの目印の一つで、南雲は近づく前から端末の記録へ目を落としていた。


「待ってください」


 南雲の声で、久我が止まる。後ろの四人も間隔を保ったまま足を止めた。


 南雲は水際まで近づかず、通路から見える根と石を順に指した。


「水が少ないです」


 細い流れそのものは残っている。だが、水面は露出した根の下まで届いていない。以前は流れに隠れていた石の面が湿った色を見せ、水路の底も広く出ている。


「前に通ったときは、あの根の下までありました。記録にも残っています」


 久我が根と水面を見比べた。


「確かに減ってるな」


 藤堂も榎本の横を離れない位置から確認する。康一にも違いは分かった。特別な見方を使う必要はない。前にあった水が、いまは同じ高さまでない。


 南雲は現在位置と確認した状態を記録し、内部連絡拠点へ送る準備をした。


「減水を確認。流れはあります。原因は分かりません」


「その内容で共有してください」


 藤堂が答える。


 康一は水路の先を見た。水が少ないという事実から、どこで、なぜ減ったのかまでは分からない。今日のモンスターの位置や接触間隔と結びつける根拠も、ここにはなかった。


「今は、三人のところへ向かいましょう」


 藤堂の言葉で、五人は水路を離れた。


 通常探索を続けていたときなら、この水路は経路を確かめる目印の一つだった。


 救援へ切り替わったいまは、同じ景色の中に、見過ごさず伝えるべき事実として残った。


 それが何を意味するのかは分からない。


 康一たちは答えを探すためではなく、まだ戻っていない三人を連れて帰るために、中層側へ進んだ。



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