パラマス号⑫やさぐれ精神論
新緑と生き物の生命を感じる場所をパラマス号は作り出す。
そこは用意された場所ではなく、備わった空間として存在している。心の浄化施設。
「『やさぐれ精神論』光希さん面白そうなタイトルの本を読むんですね」
だだっ広い5次元空間の休憩スペースの芝生が敷き詰められたベンチに座っている、横島田光希にクルーのガン・コレラが話しかけた。
金属に由来する彼は、その鋼の体を屈ませ真っ直ぐ光希の表情を探るように深紅の光を合わせている。
「最近、生まれ故郷の書物にハマってる」
横島田光希は幼さが残る顔でガン・コレラを見て言った。
「君は艦長と同じ地球人?」
「うん、多分そうだよ」
「多分?」
「うん、俺は難民コロニー出身の体外子宮児だけど、型は地球のものさ」
光希は芝生をむしるように指先を動かした。
「……。うん」
ガン・コレラが一瞬フリーズを起こして再起動した。その果てしない悲しみの深淵に横島田光希を重ねるガン・コレラ。
隣に腰を下ろし、やさぐれ精神論を広げた。
ガン・コレラの光学センサーが、紙面に並ぶ無骨な文字列を捉える。
《自由という言葉が持つ解釈の違い、縛られているのは己の自由、そこに意味を求める人間たち、弱さの根底に流れる血流を皮膚の底に埋める。浮き出る色を隠せはしないが、人間のいかなる場合の弱さはその印なのだ。》
「君はパラマス号のエースパイロット、僕から見れば雲の上だよ」
やさぐれ精神論を読み取り、思考のジレンマが鋼の体を這う電気放電を塞き止めるのを、冷却ファンが懸命に内部調整をガン・コレラは待った。
「やめてくれ、そういうのは好きじゃない、艦長はエースと呼ぶが、あれは俺を鼓舞させる言葉であって、艦長のいわば一種の心の拠り所」
「君はそこまで考えているのかい?」
「いや、俺にはそう聞こえるだけなんだ。心の声というものが含んでる、真皮は真実だけど、そうじゃないことのほうが多いってだけさ」
横島田光希は照れながら笑った。その笑った顔はガン・コレラを安心させ落ち着かせた。
灌木が並ぶ奥の雑木林には鳥たちのさえずりが聴こえてくる。
警戒心が強いものもいれば、足元まで近寄ってくる呑気なものまで多種多様。
横島田光希とガン・コレラ二人の間には、束の間の集束という心のふれあいが生まれた。
天高く張り出す人工太陽はその頭上を平等に照らしていた。
おわり




