↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私を捨てた王太子が、囚人として着任しました~所長は私です。賠償金は全額返していただきます~  作者: 他力本願寺


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
39/50

第39話 元王太子へ届いた復権の手紙

雪が静かに降り積もるノルデンの朝。


 所長室のデスクに置かれた一通の封書を、灰色の作業着姿のユリウスがじっと見つめていた。


 正規の郵便便で届いたその手紙には、王家の封蝋ではなく、旧王太子派閥の有力貴族の印が押されていた。


 賠償執行区の規則により、執行対象者宛ての外部からの信書は、不正な連絡や逃亡の企てを防ぐため、所長ならびに監察官の立ち会いのもとで開封・検閲することが義務付けられている。


「開けなさい、ユリウス元殿下」


 クラウディアが感情の乗らない声で促すと、ユリウスは小さく息を吐き、ペーパーナイフで封を切った。


 中から出てきた便箋に目を走らせるにつれ、ユリウスの眉間には深い皺が刻まれていった。彼は最後まで読み終えると、忌々しげに舌打ちをして、その手紙をデスクの上、クラウディアとアルヴィンの前に広げてみせた。


「……ベルナール侯爵の失脚を見越した、旧派閥からの擦り寄りだ」


 ユリウスの声には、かつての彼にはなかった苦い響きが混じっていた。


 アルヴィンが手紙を手に取り、文面を素早く読み上げる。


「『憎きベルナール侯爵が、間もなく法廷で裁かれようとしている。侯爵が倒れれば、王宮の勢力図は一変する。殿下が辺境の地で真面目に労働し、罪を悔い改めていると大々的にアピールすれば、貴族院から同情票を集め、復権請願の余地が生まれるだろう。我々が裏から手を回すゆえ、機が熟すまで耐え忍ばれよ』……か」


 アルヴィンは読み終えた手紙を机に戻した。


「都合の良い頭をしている。自分たちが権力を握るための神輿として、反省した元王太子という肩書きを利用しようという腹だ」


「返事をするかどうかは、あなたが決めることです」


 クラウディアは、ユリウスが返事をするのを待った。


 ユリウスは差出人の印を見てから、首を横に振った。


「断る。……私はこの誘いに乗る気はない」


「ほう?」


 アルヴィンが片眉を上げた。ユリウスはクラウディアの目を真っ直ぐに見返して言った。


「私がここで雪に塗れ、重い木材を運び、流している汗は……エミリア殿をはじめとする被害者の方々への借金を、一銅貨でも多く返すためのものだ。自らの地位を取り戻すための点数稼ぎや、美談の材料にするつもりはない」


「クラウディア。この手紙は、不審な外部接触の証拠としてそちらで保全してくれ。そして……私からの正式な拒絶の返書を、彼らに送ってほしい。私は王族には戻らないと」


 ユリウスは机で短い返書を書き、署名した。クラウディアはそれを受け取り、宛先を確認した。


「……証拠としての保全と、拒絶の返書の発送については承知しました」


 クラウディアは手紙を淡々とファイルに挟み込み、告げた。


「賢明な判断だとは思いますが……それで、あなたの残債務が減るわけではありません。あなたが復権を望もうと望むまいと、被害者にとってはどうでもいいことです。私たちが評価するのは、あなたが今日、いくらの価値を生み出したかという数字だけです」


「ああ……分かっている。すぐに作業に戻る」


 ユリウスは一切の反論をせず、深く一礼して所長室を出ていった。


「……返書は今日の便に載せよう」


 扉が閉まった後、アルヴィンが静かに言った。


 クラウディアは小さく頷き、すぐにアルヴィンの方へ向き直った。


「アルヴィン、その手紙の差出人の印章ですが……」


「ああ。確認した」


 アルヴィンは、ユリウスが残していった封書を手に取り、金融組合から提出された『決済番号の対応表』と並べた。


「やはりな。この復権を持ちかけてきた旧王太子派の有力貴族たち。奴らの印章と、ベルナールの裏金庫である『外郭口座』へ資金を流し込んでいた出資者のリストが、見事に一致する」


「同じ出資者なら、この封書も調査の対象になりますね」


「ああ。ただ、出資していたことだけで横領への関与は決まらない。いつ、どの金が入り、配当を受けたか。本人たちの説明と合わせて調べる必要がある」


 アルヴィンは封書の収集記録を添え、本部へ送る書類に加えた。


 クラウディアはユリウスの返書を、別の封筒へ入れた。彼が何を断ったかと、差出人たちが何をしたかは、それぞれ確かめることだった。


 その日の午後。


 王都高等裁判所から、待ちに待った最終的な決定通知がノルデンへもたらされた。


 通信鳥が運んできた分厚い封筒を開いたクラウディアは、その文面を読み、深く息を吸い込んだ。


「アルヴィン。……裁判所が、動きました」


 彼女の声には、確かな勝利の響きが含まれていた。


「外郭口座の記録と配当原票の照合が終わり、この三百十二金貨には管理局側の控除権がないと判断されました。裁判所は中央局の違法性を極めて重く見ています。そして……トリスタンの完済後から今日に至るまでの間、中央へは渡さず『係争中隔離口座』へ累積させていた認証済み配当について、正式な命令が下りました」


「中央には戻さず、すべて被害者へ直送しろと?」


「はい」


 クラウディアは、決定通知書の最後の行を力強く読み上げた。


「明日付けで、係争中隔離口座に累積していた『三百十二金貨』全額を、配分対象となる十一名へ公開で直送することが許可されました。……エミリアとリオラの未払分も、これで届けられます」


 クラウディアはマルタを呼び、決定通知を渡した。


「明日の銀行の受付に、間に合わせましょう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。