第6話 「家に帰れば日常」
「またねー、りりっぺ」
「うむ、お疲れ様である。今日も元気に正拳突き、しに行くのであるか?」
「酷い言い方ねー。道場に行くだけでしょ。カ・ラ・テの道場。体を動かしに行くだけよ」
「行ってらっしゃい、撲殺マシーンよ」
(今日もゆっきーの被害者がそうなのである)
「むぅ……。行って来るわよ、今日も」
「じゃあねー」
「うむ。また明日である」
ゆっきーは軽く手を振ると、お隣の自宅へ向かって歩き出した。
(……さて)
私はその背中を見送る。
(我が家へ帰還するのである)
高校生活初日。
学校という未知の環境を攻略し、電車という第一関門を突破し、立ち食いそばという青春まで堪能した。
そして今、ようやく自宅という安全地帯へ戻ってきたのである。
……もっとも。
家に帰ったからといって、今日という一日の問題が全て終了したわけではない。
(まずは時間割の再確認から始めるとしよう)
高校生活とは、明日への準備まで含めて高校生活なのである。
「ただいまー」
「お帰り、りりか。どうだった? 入学式は?」
「自己紹介という一大イベントが無かったのだ!」
「あら、今はそんな感じなのねー。大丈夫よ。明日、最初の始まりは自己紹介からよ。順番が入れ替わったと思えばいいのよ」
「あっ……不覚……。なるほどな! 大局を見るあまり、足元の構造が見れてなかったのであるか……。マミー、感謝なのである」
「ふふふ。大人ぶった思考でも、まだまだ経験が足りないわよ」
「ふふふっ、ならば伸び代がまだまだあるということである。お胸も希望に満ち足りてるのだ。頭脳は明晰、あとは経験なのである」
「あら、自分でそれ、言っちゃう?」
「む?」
「りりか、あなたは運動音痴です。天は二物を与えないって言うでしょ。りりかは、そこが壊滅的でしょ?」
「うぐっ……。確かに100メートル走れば、肺が体の構造上、悲鳴を上げるのである」
「ね。毎朝早起きして、少しは雪菜ちゃんみたいにジョギングでもしてみたら?」
「ジョギングはノーセンキューである!」
私は即座に拒否した。
「春休みに一度連れて行かれ、このりりか、初めて地獄を見たのだ! あの撲殺マシーンとは、体の構造が違うのである!」
「そんなに違う?」
「数値で示すと、私がHP10なら、ゆっきーは脳筋HP500の戦士型バーサーカーなのである」
「うーん、そうね。雪菜ちゃんとは正反対なタイプね。二人とも見た目は可愛いけど、真逆ねー」
「ふふふっ。陰と陽、影と光。私が、光なのである」
「りりか、あなたは影よ。光は雪菜ちゃんですからね」
「むむむっ……」
私は少し考えた。
「……さてと、着替えようっと」
「こら、待ちなさい」
母親の言葉による静止を、私は知らないふりをした。
(本日の第一関門、家庭内ジョギング勧誘作戦から離脱することに成功)
私はそのまま自分の部屋へ戻っていく。
高校生活初日。
学校では、まだ何も始まっていないようにも思える。
けれど。
家に帰れば、いつもの日常が待っている。
(うむ。これもまた、高校生活の一部なのである)
――次話へ続く。




