第16話 「電車・アイアンメイデン」
日常には、本人すら気付いていない禁忌が存在する。
今回は、その禁忌を一つ解放するのである。
電車の吊り輪。
ただの吊り輪ではない。
恐るべき、アイアンメイデンなのである。
第16話 「イタズラは程々に」
第16話
電車に乗り込み、ゆっきーたちは、うむ、私に合わせて角席、神の玉座に腰を落とした。
オセロで例えるなら、無敵の四点配置と私は例えているのだ。
そして、電車には恐ろしい、禁忌とも呼ばれる、悪魔的な罠が配置されているのだ。
吊り輪の輪っか。
あの上のベルトに付いている、上下に動くプラスチックの鞘。
あれは危険であるのだ。
昔、ゆっきーに、あの鞘の部分を上にずらして、
「りりっぺ、ここに手を通してみて」
と言われ、両手をその隙間に通して、ゆっきーがその鞘の部分を下に下げた。
何て事だ。
両手が、あの宇宙人みたいな絵の形になり、ホールドされて、自力で解除ができないのである。
あれは、悪用されると、やられた側はたまったものではないのである。
もはや、イタズラレベルを超える。
恐ろしすぎる、拘束装置なのである。
よし、トークンガールこと、
秋田 早苗。
すでに「さっちー」呼びになっている、さっちーに試してみるのだ。
貴様には、割り勘破壊ブレイカーをされた恨み晴らしてくれようぞ。
「さっちーよ、ちょっと立ち上がって、ここの隙間に手を通してくれないか?
で、ここに手を通して欲しいのだが」
「うん? いいよー。
何があるの、そんなとこに手を通して」
ふはははっ。
やはり、この悪魔の拘束器具を知らないのである。
あっ。
ゆっきーと、目が合ってしまった。
ゆっきーは、うすら笑いをしている。
気付いているのである。
流石、発案者である。
そして、両手首が隙間を通した瞬間に、鞘を下に下ろすのみなのだ!
カチッ。
と下ろした。
「あれ、あれ、取れない。
何これ。
えっ、嘘、何、なんなのこれ!
早く、これ直して欲しいんですけどー」
「ははははっ。
最早、自力では抜け出すことは出来ない。
アイアンメイデンが発動したのである!」
「りりっぺ、駄目でしょ。
こんなイタズラしたら」
「な、何だと!
貴様が発案者ではないか!
何故、私が悪者扱いされているのだ?」
あっ。
だめだ。
サムライガールこと、春んと、担い手ガールこと、姫の視線が生温かいのである。
いや、待つのである。
これの発案者は、ゆっきーなのだ。
私は昔にやられ、プルプル爪先立ちを何駅か強制されたのであるのだ。
「運動不足だから、体の鍛錬になるよっ」
とか言いながら、ゆっきーは満面の悪意ある笑みを浮かべていたっ。
うぼっ。
ゆっきーの手刀が、脇腹を抉る。
「何、言ってんの?
りりっぺ、早く取って上げなさい!
さっちーが、困ってるでしょ」
ゆっきーの手刀は痛くは無いが、上手く人体の構造を熟知し、横隔膜に呼吸を乱すようなピンポイントで、入ったのである。
あっ。
さっちーが、自力解除を諦め項垂れている。
何か、貼り付けされた名画のシーンみたいなポーズになっているのである。
取り敢えず、アイアンメイデンを解除しなければ。
今度、お詫びに鰤とハマチでも送るとしよう。
「これ、まじでやばいんですけどー。」
流石に、さっちーは気付いた様である。
アイアンメイデンの威力に。
「ごめんね。さっちー」
「良いよ、結構やばいね、これ。」
「はい、はい、あっしも試して欲しいんやん。」
おっと、自らチャレンジャーに。
流石は担い手ガールの姫。
ふむ、アイアンメイデンだけに、
姫にはお似合いなのだ。
すべてを愛し、信じるべき人を信じ、誰にも悪いことをしてはいけない。
しかし、自ら名乗りを上げた猛者には、アイアンメイデンも威力を思い知るが良い。
「姫〜、ここに手首通して欲しいのだ。」
「あいー」
カチ。
鞘が下に落ち、アイアンメイデンが発動した。
「あれ、何なん、これ!
いや、あかんわ、これ、取って〜!」
開始10秒でこの有様。
このメンバーで、アイアンメイデンを使う事になる事は二度と無いのを確信したのである。
取り敢えず、解除するのである。
「どう? 姫?」
「あかん、あかん、チートや。
これはチーターや。」
ん?
どこかのアニメで聞いた事が、あるような? ないような?
取り敢えず、解除するのだ。
「いやー、ガチでヤバいやん。
引くぐらいヤバいし。
あっしの体を弄ばれるかと思ったやん。」
ん?
お触りしても、良かったのであるか?
しかし、姫もナイススリムボディー。
空気抵抗を受け付けない、私のライバルである。
そして、たわいもない会話で、より距離が近づき駅に着き、改札を抜ける。
「じゃあ、また明日ねー」
「バイバイバイシクルである!」
「あははっ、何それ?」
「またねー」
皆んなが自転車に乗り帰路に着いて行くのである。
私とゆっきーは、徒歩圏内なのである。
「りりっぺ、駄目でしょ!
最初から、あんな大技したら。
何事もコツコツ削る事が必要か何だよ!」
「ん? 削る?」
「いや、コツコツ仲良くコミュニケーションが必要かではないのか?
それは、もしや、ローキックの例えではないのでいるか?」
「あっ、そっか、ごめん、ごめん。」
今日もバーサーカーは絶好調であったのである。
次話に続くー
今回、改めて確信した。
遊びには、やっていい事と悪い事がある。
そして、発案者が誰なのかは、最後まで重要なのである。
今日も平和な電車の旅であった。
鰤とハマチは鉄板である。




