第13話 「因果の構造・絡みつく宿命」
第13話 青春とは?想定外
因みに、ゆっきーもスタンド使いである。
サンドバッグに向かい、
「エイエイエイエイエイエイエイエイエイエイエイエイエイエイエイエイエイエイエイエイエイエイ!」
と叫びながら、無数のパンチ、蹴り、肘、膝を巧みに組み合わせ、無限コンボを繰り出す。
あの有名なスタンド使いであると、私は予測している。
(恐らく、本人にスタンドという自覚はない)
(だが、あれは間違いなくスタンド能力である)
私の『シルバーチャリンオッツ』とは、性能がまるで違う。
片や、飲食店の募金箱に銀色の1円玉を一枚投入するだけ。
片や、サンドバッグに無限コンボ。
(相性が悪い……)
(あまりにも性能差がありすぎる)
(私のスタンドでは、ゆっきーの無限コンボを止められないのである)
これもまた、構造の違いというものなのだ。
「説明しよう」
ゆっきーのスタンド。
『スターブラチラ』とは――
夏服に衣替えした瞬間、対象の「視線の動線」を自動で解析する近接タイプの能力である。
相手がどこを見ているのか、どの角度で、どれくらいの時間、視線を留めているのか。
その軌跡を、無意識のうちにアルゴリズムとして読み取る。
そして解析結果として、
「今日のりりっぺ、ブラの色はブルー系だねー」
と、視線の偏りから色味まで察知する。
しかし、制服が夏服になると、クラスメイトの男子は突然、全員が『スターブラチラ』を発動させる。
視線のアルゴリズムが、一斉に起動するのである。
だが、悲しけり。
乙女は視線の流れに敏感である。
無意識に体の向きを変え、距離を取り、視線の交差を避ける。
防御アルゴリズムが、先に走るのである。
うん、思春期あるあるなのである。
今や、スマホにネット、思春期ボーイは情報の海を泳ぎ続けるのが確定である。
見ていないボーイは、国で保護案件レベル。
そして、ファミレスでの会話内容。
(……これは、本当にお年頃の乙女の会話なのか?)
「プロテインは何味がいい」
「体の柔軟性をつけるにはどうすればいい」
「どの筋トレが効率的なのか」
……。
(青春とは、何だったのであろうか?)
恋愛。
好きな人。
放課後の恋バナ。
おしゃれやコスメ。
そういう方向に進むのが、私の想像する高校生活だったはずである。
しかし。
(どうやら私は、青春とは別の方向性を持つ、脳筋グループの因果図に入り込んでしまったようなのである)
私の青春の初期配置。
まさかの、
体育会系五レンジャー。
そして、その中に混ざる私。
(……構造が、完全に想定外なのである)
そして、レジの会計時に私はもう1人のスタンド使いを見た。
いや、気付いてしまったのである。
秋田早苗。
彼女もまた、スタンド使いだったとは。
(スタンド使いは、スタンド使いを呼び寄せる)
(そんな名言があったような? 無かったような?)
「説明しよう」
秋田早苗のスタンド。
『キラートークン』とは――
会計の瞬間、スマホ画面に突然現れる「仮想通貨ウォレット」である。
彼女は静かに画面を持ち上げ、
「私の分、これで」
と、誰も見たことのないトークンを提示する。
相手が、
「それ円に換算するといくらですか?申し訳ございませんが、当店では取り扱い出来ません」
店員さんが、そう答える。
と聞いた瞬間、スタンドは本領を発揮する。
価格は変動する。
手数料が発生する。
送金に三分かかる。
そして何より、誰も受け取れる状態にない。
『キラートークン』の本質は、支払いを完了させることではない。
「払う意思はある。ただし、この世の決済システムがまだ追いついていないだけだ」
という、圧倒的な正当性を相手に押し付けることにある。
ファミレスの会計で発動すれば、レジは止まる。
店員は困惑する。
ゆっきーは、
「現金かデビットカードかスマホ決済アプリは他にないの?」
と先に言う。
私の『シルバーチャリンオッツ』は、募金箱に1円を入れることしかできない。
(相性以前に、土俵が違いすぎる)
(キラートークンは、会計という戦場において、すでに勝ちを拾いに来ている)
(だが、誰も勝たせてくれないのである)
これが、秋田早苗のスタンド。
『キラートークン』。
発動条件はただ一つ。
「割り勘」の二字が、空気中に浮かんだ瞬間である。
ー次話に続くー




