第11話 「高校生活・レバレッジポイント」
第11話 初めが肝心
自己紹介も終わり、当たり障りのない授業は終わったのである。
クラスメイトからは、「東マン先生」とあだ名付けられたみたいなのだ、ジョン先生は。
何やら、一時期、タイムリープ物のヤンキー漫画がアニメになり流行っていたので、そこから名付けられたのであろう。
(東マンティーチャー、いや、ジョン先生は流石にCB250Tバブを乗ってはいないだろう)
あんなバイクは、スーパーに買い物に行って、置いておく数分間で、あら、不思議? バイクは何処に?
イリュージョンのように消え去る運命のバイクである。
まあ、すぐに目を付けられたら、行方不明待ったなしであろう構造のプレミアムの宿命である。
私には、
(ヤンキーティーチャー、母校に帰る)
グレートなティーチャーでは無く、こちらのティーチャーが脳裏に浮かぶのである。
(教え子に手を付けた、変なティーチャー)
「ただの若い子が好きな、鮮度命のお魚屋さんティーチャーである」
という像しか思いつかないのである。
しかし、流石はアメリカのお方。
ジョン先生は侮れないのだ。
フレンドリーな異常に高いコミュ力に、ユーモアと柔軟な思考をお持ちだ。
私にも、その自信や溢れ出す、ポジティブをお裾分けして欲しいのである。
なかなかブラックなジョークすら、受け止めてくれそうである。
先ずは欧米風に例えると、ハンドシェイク。
握手は大事なのであるが、緊張に危機管理に気を回してる私の手のひらは、変な手汗が滲み出て、手汗女子認定されそうなのである。
青春の爽やかな運動でかく汗と同じ成分なのだが、別物に変換されてしまう構造なのである。
某アイドルなどの握手会。
絶対に、アイドル側は、うわー、こいつ手汗最悪、とか、心の中には思っていても、表面上、顔には出さない、スマイル作戦。
全ては、ビジネス、マネーの力である。
これが、大人の世界の構造である。
大人の世界……教育の現場にもの、必ず歪な自分の絶対正義思想をお持ちのティーチャーもいてるはずだ。
これがもし、形骸化したマニュアル通りの教師だったらどうだったか。
「何かクラスで悩んでることでも……?」
クラスの皆んなと、この問題について、とか、
無駄に晒す様な事をしでかし、
火に油を注ぐ悪い癖がありそうだ。
こちらの意図を完全に無視した的外れな心配をされ、スクールカウンセラーへの直行便か、親を召喚しての三者面談コンボが確定的だったに違いないのである。
(公務員ティーチャー、あるある。変化球には対応不可なところがありそうなのである。現代はモンペアやSNSなど、デメリットが大きい職業でもあるが、危険手当が無いのは、何とも言えないが、うん。私には関係無いのである)
(そもそも私は、国歌斉唱の場面になると、脳内で謎にパンキッシュなメロディが再生されてしまう習性があるのだが、それはまた別の話だ)
しかし、そんな危機を回避したところで、本当の勝負はここからである。
ここからが、高校生活における最大の山場。
レバレッジポイントである。
最初が肝心。
この休み時間という、人生のパラダイムシフト。
普通の高校生活を送れるか?
それとも、変なレッテルを背負ったまま三年間を過ごすことになるのか?
――これは極めて重大な人生の分岐点である。
一度変なレッテルを貼られたら、そこから巻き返すのは一苦労なのだ。
天秤のマイナスをプラスに変える。
これ、即ちレバレッジバランスシンキングである。
休み時間。
クラスの空気が少しずつ緩み始めた頃、隣の席から声がかかった。
「ねえねえ、井川さんって空手やってるんだねー、体育会系? 私は、剣道やってるんだ。
さっきの自己紹介で言ってた、クラブなんとかって何? 気になったんだけど?」
何! ゆっきーに先手を取られただと!
話を聞く限り、名前は西田春さん。
うん、私の中では、侍女子枠に認定だ!
「ああ、クラブの話か。軽く触れただけなんだけど……」
そこから少しずつ会話が広がっていく。
空手と剣道と意味が分からない海外の格闘技、武闘派同士の共通点から始まった話は、あっという間にクラスの他の話題にも枝分かれしていった。
気づけば、周囲にも数人が集まってきている。
短い休み時間の中で、小さな因果の矢印が何本か引かれていくのを感じた。
そして、午前の授業がすべて終わった後。
「ねえ、この後どうする? ちょっとファミレスでも行かない?」
誰からともなくそんな声が上がり、自然な流れで何人かと一緒に校門を出ることになった。
連絡先を交換した瞬間、クラスという小さなシステムの中に、新しい因果の繋がりが一本、確かに生まれた。
これは正のフィードバックの始まりかもしれない。
レバレッジポイントで傾けた天秤が、ほんの少しだけプラス側に動いたのを、確かに感じたのである。
――第11話 次話に続く




