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2人の魔女  作者: しゃま
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第5話








——どうして、涙は出なきゃいけないの?



静かな部屋で一つの質問をした。


  

「……涙は出る、んじゃなくて、常に出ていたもの…………」



と、ベッドの上、膝枕されて丸くなっている秋葉からそのようなご啓示を頂けた。猫みたいだな。



「もともと水の世界と人間は関係していて……喜びも何でも溢れさせて生きていた……それが自然。逆に今は……欲しがっているだけ、だから、放出されることに余計に負荷を感じる…………」


 

でもさ……もう単純に私は泣きたくないよ。これまでの人生で何mlの想いが無駄に抽出されたんだか。もう泣くのは嫌だよ……と言うと彼女はふっと微笑み。



「涙を失ったら……人間ではなくなる。これは疲れるけれど、強くなれること。」



って……私の太ももに顔を向けてモゾモゾ話すからくすぐったくて仕方がない。


 

人間かぁ…………人というのは、この世の成り立ちと等しく理解し難いことが割と存在しないか?その一つが恋とか、そういう類のものだ。

 


私には、夢の中でチヨ吉や未佳が誰かを追いかけていたような、ああいう強い欲求は……ないと思う。だけど。今こうして秋葉といると……時々、こうでありたいと突然思うような、もう一人の自分だよ!ってウサギが穴からぴょんと飛び出して来ることがあって驚く。これは……恋?というのか何なのか。よく分からないんだけど。



彼女といると、そんな風に子どもの気持ちに戻っている気がする。……昔はもっと自由だった、いつか空も飛べると思っていたし、好きに怒ったり笑ったり、好きに泣いても……いた。

そうか、じゃあ私も秋葉も今、自然に戻ってるんだね、と言うと「そうだよ」と脚をモミモミされたから、わき腹を触ったらセクハラやめてと睨まれた。なんでだ。



「放出するのが、自然。それが……愛。」



大切なことなので起き上がり、美しい人差し指と真面目な表情でお教え下さる。秋葉、涙のせいでちょっと目が赤い。それは私もそうだ。でも取り繕いとかはなく、気楽だ。心地よい。秋葉と一緒にいるとね、楽しいよ、面白いしって伝えたら「え?うん、私も……」と急に小声になるから可愛いなって思うし、なんか…………いや、まあいいか。





  

窓の外から優しい夕陽が差し込んで、身体と物に影を……作らない。なぜならこれは、それからここは影そのもの、仮の姿だから。


 

魔法薬の効果が切れるまであと9時間くらいだね、と聞いたら、秋葉はベッドから降りて少し何かを考える仕草をしてから私を見た。珍しく髪を軽く掻いて、言おうかどうか迷っているような顔だ。え?何?告白?



「……あの、丹海。ちょっとお願いというか、そういうのがあって、聞いて欲しいんだけど……」



うん、と改まって。……何だろうか?また透けた下着を付けてほしいとか言うんだろか?『丹海が着てるの……ちょっとまた見たくなっちゃって……』とか?……そんなわけない。昨夜の、魔法薬で酔った妖艶な秋葉のせいで変なイメージが浮かんでくる。



「何で顔を赤くしてるの?」って聞かれたので、してないよ〜はは……と笑顔でごまかした。それで、お話なんだっけ?と言うと「いや、これはやってみたかったことなんだけど……」ともじもじしている。えぇ……やっぱりそういうことじゃん。



「丹海、できたら一緒に……」



真剣な眼差しで私の手を取り、顔を近づけて



「一緒に、さらに進んだ…………夢の世界に行ってみたいんだけど…………どうかな。」



どうって……なに?これ、なんのお誘い?分からない。


 

……え?私とエッチなことしたいって意味?って聞いたら「な……なんでそん……なこと……」と脳が壊れそうになってるからごめんごめん!違ったよね!勘違いしてたよ!と会話の軌道修正を試みたけど遅かったのか「……丹海はやっぱりエッチ……あおいさんと同じくらいエッチ」とスケベランク同列にされた。彼女に会ったことはないが秋葉に不服申し立てたい。



「……そうじゃなくて、夢のこと。丹海といると、何でもできる気がするから……これは絶対母もやったことのない試み。完全な霊になって……起きたまま夢に入る。」



そんなことできるの?と聞くと、彼女は不思議冷蔵庫へ行き、そこからワインボトルのようなものを取り出してきて「出てきたから行けるかも」と目を輝かせた。



薄いエメラルドグリーンの液体で満たされたそれは、いかにも怪しい感じだ。パッケージは読めない言語で書かれていて、しかもガラス瓶の中で勝手にゴボゴボ泡を出している。えぇ…………



「あくまで身体は現在に置いてあるから、時間になれば戻る。それまでの間を……行きたい。」



う〜ん、今度は気を失ったりしないんだよね?と聞くと、たぶん……と返されて不安しかない。もう既に天国のような領域にいて、これ以上に霊になると言っているのだから普通に考えたら正気の沙汰ではないのだ。



前回のこともあってかなり迷っていたら、秋葉はにこっと微笑んで言う。



「夢の世界は……私たちが望んでいる通りの場所。丹海がお菓子を好きなら……好きなだけ食べれる……見たことのないものも……他にも色々」



って、それを早く言ってくださいよ〜秋葉さんよ。はいはい行きま〜す!と即、参加表明をした。もういいや、軽いかよ私。 

 


いよいよボトルを開け、香りを確かめようとしたら消毒液に似た強い刺激で既にフラついた。そこを秋葉に支えられるのも2回目で怖い。が、伝説の夢のスイーツのためだ。私はそのために、もしかしたらまた死にかけたり、美女に下着を剥がされかけたりするのかもしれないけど……やるんだ。何をやっているのか。


  

2人で小さなグラスを持ち、念のため手をつなぐ。こんなこと、世界の誰もやったことがないよと秋葉は興奮しているし、そういう私も、結構未知なる冒険は好きだ。だいたい同じことを考えているから、こうして隣にいるのかもしれない。

 


……秋葉、ありがとね。これまでの人生で出会ったたくさんの人たちのこと、忘れるわけはないけど……秋葉が言うように私も、色んなすべての人をね、深く愛し関わっていくことは、実際問題できないんだって分かったよ。それぞれに心の事情があって、最終的にはそれは……自分にしか解決できないことだから。

私、みんなを救いたいとか、いい顔見せようとか、そんなこともう思わない。この世界において私がすることは……他の人と同じように自分のために時間を使うこと。私にとってはそれが……秋葉と一緒に、自分達の世界を創るということだよ。



気がつけば、言葉がどんどんと出てきてしまった。秋葉は優しく片手でハグして、そのままじっとしているから私も静かに立っていた。2人とも、同じことを無言で伝達し合っているようだった。


 

……人間というのは、そんなに余裕があるものではない。もう、これ以上窓の外についての涙や悲しみは、2人には要らない。世界とは、自分のことだ。結局私たちは、手前と目の前のことしか直接変えたり触れたりはできない、だから……



「一緒に……創ろう、私と。」



こっそり目を拭って、うん、と、明るく返した。本当にもうしばらくは泣きたくない。

 


「毎日、思いっきり、楽しもう。」



秋葉の小学校みたいなスローガンを聞いて早速ぷっと笑った。なんで笑うのと怒られたけど、おかしさが内側からこみ上げて抑えられなくて。思いっきり泣いて、私は何かあちこち壊れてしまったみたいだ。



「……もういい。丹海はおかしい。大事なことを言ってるのに。」



いけない、ご機嫌を損ねている。秋葉、ありがとね。って、ハグし直した。そういう一生懸命なところ、私は好きだよ、って……えーとなんか告白みたいなこと言っちゃったけどまあいいや。ねぇ、乾杯しよう?って言ったら「近いから……」と距離をとられた。はい。



「夢を、楽しもう。……乾杯。」



小さくカチンとグラスが鳴り、冷たく沸騰する液体を一口で……飲んだ。いや、一気にいっちゃったよ……と気づいたのが遅い。喉はとんでもなく熱くなり、口の中はフルーティで誘うような香りが広がって、わけが分からなくなった脳はちょうちょになって身体から飛びはじめる。でも、倒れたりはしないからあの魔法薬よりマシだと思った。



秋葉も、ぽぉ〜っとしている。あれ、頭に猫の耳が……?って、それは私もだった。


 

「丹海、かわいい……」



優しく撫でられると本物の耳と同じくひゃっとなる。2人でおそろいの肉球柄のパジャマをいつの間に着ていて、私たちは気がつけば……暗くて古めいた倉庫のような一室に立っていた。 



え、どこだここ……さっきまで部屋にいたのに。



「私たちの、夢の中に入った。すごい。」 


 

秋葉は私の手を取ってはしゃいだ。いや、そうみたいだけど……と思ったら、部屋の隅の方からガヤガヤと声が聞こえる。よく見ると小さなくぐり戸がそこにあって、私たちは猫みたいにしゃがみながら戸を開けてみる。



うわぁ、と感激した。これは……花のワルツを演奏した時に出てきた町酒場じゃん、と秋葉と笑った。カクテル瓶を並べた棚と樽と、木のカウンターと、たくさんのテーブル。そこにはお客さんがいて、みんな姿は動物だった。



『おんや、君たち。そこのテーブルは空いてるよん。』



コウモリみたいなバーテンダーにいきなり声をかけられてぎょっとする。あ、ども……と平静を装ってそそくさと座るとすぐに『ごちゅーもんは?パンタルクン?』とアリみたいな女の人に意味不明な質問をされた。あ……いや、いらないですって言ったら『あいよっりょーかい。』ってすぐにテーブルに謎の飲み物と、山盛りのフライドポテトを生み出して去っていった。えぇ…………



生演奏のジャズや音楽が流れる店内は、お客さんの声と熱気ですごい。私たちが見た通りの光景じゃん!とひそひそと話しながらポテトをつまむ。ちゃんと味もする。ピンクのストローのささった紫色のジュースは、飲むと口から煙が出た。秋葉はそれに爆笑した。2人でたばこを吸った人みたいにフーっと天井に吹くと、一つにくっついて魚になって泳いでいった。夢世界すご………


 

周りをちらっと見ると、それぞれ歌ったり立って踊ったり終始楽しそうだ。



『ほら、そこのお猫さんたちもご一緒に?さあさあ♪』



私たちはなぜか盛り上がる人々の真ん中に連れて来られて、陽気な音楽と共に色んな動物さんと流れるままダンスをした。ワルツなのか何なのか、もうごちゃまぜなリズムとノリで、上からフルーツの味のする雨やらカラフルな粒が振ってきて滑って転げて笑いが止まらない。



その時音楽隊がフライ・ミー・トゥー・ザ・ムーンを演奏し、秋葉に現代的なマイクが渡される。え?という顔をしたけど、普段は見せない明るい表情で歌いはじめた。ああ……これはあの人だ。どこかで聴いた、見た、本物のHISUIだ。芯のある包むような歌声で、心にしっかりと寄り添う。歌い終えると本人もびっくりしている。



「勝手に……歌詞が降りてきて……音楽に乗った……」



すごかったよ、きれいだったと伝えると「ありがと……」と、いつもの彼女に戻った。すると天井から大量のクラッカーがパァンと破裂し、みんなは紙吹雪にまみれてまた、陽気なダンスを踊り出す。その隙に私たちはそろそろお店を出ようと決めて、こっそりと抜け出そうとしたら



「飲み物とか……払わなくていいのかな」



そうだ、と思って入り口近くの鼻ピアスの黒いブタさんに聞くと『おカネ?なんだそれ?』と言われ。じゃあいっかと木の扉をギィと押したら『ありがとう〜ございませんっ♪』とウェイターに叫ばれた。……は?




酒場の外は、クリスマスの夜の街だった。あちこち赤と緑と金で飾られていて、雪が積もる道を裸足のパジャマで歩いても寒くも何ともない。秋葉が手をつないで歩こうよっていうから差し出してぺたぺた歩いていると、彼女はおもむろに話した。

 


「12月のこの頃…………丹海と遊ぼうって言えなかった。」


 

え?クリスマスに?と聞いたら、秋葉は静かにうん、とうなづく。へぇ、そうだったんだ……と返事をしながら、あの高校生だった自分を思い出していた。微妙にまだ、記憶が曖昧なところがある。

 


……確かにあの頃は保健室に隠遁する放課後生活をはじめたばかりで、まだそれほど秋葉のことが分からなかった時期だった。年明けて3学期が始まってからようやく一緒にバス登校したりちょくちょくメールをしていた気がする。何となく、お互いに心の壁が溶けるまで時間がかかったのだ。


 

でも……誘ってくれたら行ったし、全然構わなかったのに。



どうして?と、やめてしまった理由を聞くと

「その…………色々予定があると思って………………彼氏とか…………」と、そっぽを向いて言う。



え……もしかして……私が告白除けに作った「偽ウワサ」をまだ信じてたんじゃないよね?とお尋ねすると



「それは分かってたけど、でも…………やっぱり恋人とか、いると思ってたから…………丹海、モテてたし…………私より……」



と、宣わり遊ばせられ。



……いやいやいやいや。それはね、秋葉さん。今だから言っちゃうけど、君があまりにも純金プラチナの高嶺の花だったから、他の男子とかがね「あの子は自分には無理だ〜」てなって、こぞって「他のシルバーとか銅を当たろう〜」ってなるわけですよ。だって……これまで告白されたことないでしょう?と問うたら「ないよ。」と即答で返ってくる。


 

やっぱり誰も告ってなかったかぁ…………ですよね。この絶対的美貌と無機質な表情でごめんなさいってばっさりフラれたら立ち直れないし、むしろこの人にそういう手間をかけさせたくないって思うでしょみんな。思い出作りに……なんて感じで気軽にいける相手でもないんだから。



だからまあ、そういうことだよ。と秋葉の美の証明が終わっても、私に対してあまり納得していない様子。……うん、どうしようか。相互理解を深めるには……自分の恋愛観とかも、しっかり共有しなきゃいけないのかもしれない。

  


…………秋葉、私はね、みんなのことは好きって人なんだけど、誰か特定の……とか、恋とかそういうのは分からないって感じだったから……本当にいなかったよ、彼氏とか。前にも言ったと思うけどね……だから私、ちょっと変わってるんだよ、と言うと「私もだよ」と、秋葉は立ち止まりこちらを見た。



「……私も、そう思ってた。自分の感覚は周りに理解されないし、恋愛みたいなものが心に存在していたとしても必要のないものだと思ってた。でも、丹海といると……何かを感じる。それは……無意味なものじゃない。家族といる気持ちと似ているようでまた違う……他の人にはない……これまでの言葉では表現できない……何か大事なものが…………ある。」



寒さなんてないのに、顔が赤くなってしまった。それは……何て返せば良いのか分からない。……えっと、私のことは好き、みたいな恋、とは別の何かがあるってこと?と聞くとうなづく。



「恋……では結局、所有に向かってしまう。私は……人間だし、偏る時もあるけど、丹海を大切に想っているから……束縛や限定をしたくない。でも、大切に想っているから…………近くに丹海がいて笑っていると……それが多ければ多いほど…………嬉しくなる。」



すごく、ときめいたし、納得した。



……そうだ。私も、秋葉のことそういう風に思ってたよ、と伝える。秋葉は私だけのものとか、そんな強く思ったりする気持ちじゃなくて……でも大切だから、近くで関係していれば関係しているほどね、私も嬉しくなるんだって言ったら、いきなりぎゅっとされて



「……同じ気持ち。」



と、頬にキスされた。え…………時が止まる。

「親愛の証。」と言われ「丹海もしてよ。」とほっぺたを向けてきたから、



…………した。道の真ん中で。みんな見ないでくれ。



ありがとう。と笑った秋葉はオトナのようで無邪気な少女にも見えて。私たちは何とも曖昧な、でも揺るぎない価値観を分かち合ってまた道を歩き出した。





  



今は何時だか分からない。いつまでも夜は続き、店は賑わい、動物子ども達は走り、月明かりではない地面からの不思議な虹色に染まって私たちは手をつなぎ、ずっと浮かれ気分になっている。



しばらく通りを歩くと、道にまで人があふれている大きな建物が見えた。カラフルなレンガ造りの店の看板には『バタフライじいさんのスイーツラボ』と書いてあり。顔を見合わせて即、戯れている群れに混ざり店内へ突入した。



地面から天井から棚まですべてお菓子で作られているのか、いい匂いが充満していて幸せになる。突然ウエハースの床に一部が変わったらしい。私は秋葉に笑われながら上に引っ張られて、ダークチョコレートに浸かった脚を「おいしそう」と指で触って舐め取ろうとしてくるから手で阻止した。



すぐに妖精みたいな光の人が飛んできて『大丈夫ばない?大丈夫ばない?』と言うから、え……大丈夫ですと答えたら『あら大変』と魔法を振りまいて私を一回下着にしてから元のきれいな肉球パジャマに戻す。秋葉に、今の見た?と聞いたら「見た。ありがとう。」ってお礼されたから逃げる後を追いかけた。



誰かが一部棚を食べてしまったみたいで、妖精店員は床に落ちかけている巨大クマのわたがしやたくさんのカップケーキを空中で止めて修復している。私たちは走り疲れて、近くにあったブドウ生搾りマシーンからジュースをもらい、半分こして飲んだ。



「お店にあるの全種類、食べてみようよ。」



もちろん、と私はほっぺたにツンをして、今度は秋葉に追いかけられた。マシュマロの部屋で追いつめられて、2人とも思いっきり壁に激突したら上から滝みたいに粉砂糖とゼラチンみたいな粉が振り、真っ白になって叫ぶ。



「ほら!丹海、壁ドンだよ壁ドン!」



壁ドンじゃなくてこれは壁ドバだ。むせて仕方がない。というか、全身白くなっても美しいのは本当に本物だ。


 

黒板消しにやられましたみたいな状態のまま、私たちは片っ端から店の中のものを味見していった。中には虫を使ったものもあったから、それはそばにいたアリクイさんにあげた。グミのような飴のようなスポンジのような雲のような。青のような透明のような水のような。ほとんどすべてが見たことのないスイーツだ……私の夢が叶えられた。



一番面白かったのは『ボイスとりかえちゃいません』というラムネみたいな菓子だ。同じ色の玉を食べ合うと、その人と声が入れ替わるというものらしい。



『あ……すごい……変わった。丹海じゃん。』



同じく、私も秋葉の声になって笑った。せっかくだし、彼女が絶対に言わないことを言っていこう。


 

……すご〜い!私、粉だらけ!でも見て見て!綺麗でしょ?世界一かわいいと思わない?うん、かわいいよ!すっごくかわいい!みんな〜、私、みんなのこと大好きだよ〜!ほら、丹海もかわいいって言ってよ〜!あはは!



秋葉は怒りか何なのか真っ赤になり、苦悶の表情で眉間を押さえている。すると後ろのビスケットの棚がひび割れんほど強く手をかけ、片手で私のあごを上げて



『……ねぇ、やめてくれない?世界一モテてかわいいのは私だよ?それが分からないならさ、魔法で教えてあげるよ。でもこれ、一生解けないんだけどね……かけてみてもいい?』



ガラガラと棚が崩れて2人とも缶とキャンディに埋もれた。なんだぁ?魔法って。私のイメージ酷すぎでしょ、そんな誘惑の魔女じゃないしっ、と言ったら『私だってそんな……じゃないもん。』とまだ私の声になってるからその口調でつぶやくのやめてほしい。



なるほど。秋葉の独特の喋りは、彼女の持つ落ち着いた声によってあざとさ等から回避、補正された上のものなのだ。そうまとめたレポートを提出すると、あざとくない……と髪にあちこちついた飴を口を尖らせながら取っている。頭に生えてる白い猫の耳も相まって、う〜ん満点。



 


店を練り歩いていると、勝手に動いて歩いているケーキ君達のコーナーを見つけた。私たちは彼らの内の5体からちょっと一部をテイクアウトで頂いて、温かい飲み物と一緒に店を出た。すぐ近くに『せきらんうん公園』というのがあり、おふとんみたいなそれによじ登ってごろ寝して、2人で夜中の寝そべりティータイムをはじめる。



「丹海、どのケーキ一番に食べたい?」



私は寝ながらこれ、と指さした。上から20層くらいある黒から茶色のチョコらしきグラデーションが美しい。秋葉みたいにゴージャスだねって感想を述べたら無言だけど耳が赤かった。あ〜んと、フォークでひとかたまりを口に押し込まれる。大きいよ〜と言いたかったけど、ものすごく美味しくてもう一口ちょーだいってもらった。いくら食べてもお腹いっぱいにならないから楽しい。



秋葉にもあ〜んしてあげよう。今度は、白いムースに黄色とピンクの発光するジュレが乗っかっていて、切ると中から濃い紫と黒のクリームが登場した。「丹海みたいだね」って、切ってから言われたから何となく嫌だ。笑い転げる秋葉に、かなり大きめの一口を捧げて黙らせる。


 

「……ふほくほいひい!」 


 

へぇ、さっぱり食べやすい。安定のムースと、フルーティな酸味と、クリームの甘さと、ベリーのような可憐な風味が後を引く。もう少し食べようと思ったら私の手を取ってあ〜んとするから、あげたら「……これは丹海。分かる。一度食べたら虜にさせる……魔性の味。」なんて言い出すから、私はそういうんじゃないですと謎のラテを飲んで顔をごまかした。まったく、いきなりそういうことを言うんだ。

 




一通り楽しんだらのんびりと、夜空を見上げた。


 

と言っても星などはない。代わりに、郵便ポストとか自転車に乗るウサギとかが泳いだり漂ったりしている。私たちもその一部になって、適当に雲のおふとんの上でゴロゴロ転がって、秋葉が端の方へ落とそうとしてきたからくすぐりで抵抗して、ゆっくりしてるんだからやめてよってなぜかこっちが怒られ、 



『お猫さんや、お空鑑賞のための激アツポップコーンはいりません?』



と通りすがりのデリバリーカモメ達が来たから、え……いや、いらないですと答えたら



『まいどありん♪気をつけてね♪』



と、上から雨のように落とされた。なんでよっ、買ってないじゃんっ!って必死に払ったり避けたりして。でも熱いけど何だか美味しそうだからあ〜んと口を開けていたら最後に大量に振ってきて、私たちは立ったまま埋もれた。……そうそう、こんな夢見たかったんだ♪……どんなだよ。











  





つ・づ・く


 


 



 

次がラスト予定です*

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