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2人の魔女  作者: しゃま
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第3話






もう何時間が過ぎたか分からない。ベッドの上、大人げなく親友の懐で泣くだけ泣いて、その間も秋葉はずっと背中をさすったり指で涙を拭ってくれていたから余計に顔を上げられなくて。こんなにも……余裕のない自分は初めてかもしれない。



それに対して彼女の鼓動はずっと落ち着いていて。柔らかさと温かさに包まれて「いつかこうなったら幸せだ」なんて冗談を言っていた事を思い出す。

あの孤独の時代から、私はもしかしたら温もりを求めていたのかもしれないけど……でも、もちろん誰でもよかったわけじゃない。たぶん秋葉だから、こうして心を開いているのだと思う。



……秒針の音はしない。彼女の部屋には時計がないのか、それか時計なんてもう要らないのかも。

私は、望んでいた新しい場所に辿り着いたのだろう。眠りの海に沈む前に名前を思い出し、呼びかけに反応して一つの場所で再会したんだと感覚的に分かっている。



「……いいにおい。」



そう優しい声で、耳のあたりの髪を梳かれて少しくすぐったい。…………というか、いいにおいってなんだ。思わず顔を上げたらにっこりと微笑んでいる。



「あったかくて、きもちいい……パジャマかわいい」



ってぎゅ〜っとされた。えぇ……新しい世界になって途端にIQとか色々子どもになったの?……そういえば秋葉とは春休みから会っていないんだ。地球が変わったというけど、同時に彼女の人格が全く別物になったなんてこともありえる。



見上げてじーっと顔を眺めると、しばらく見つめ合ってから少しの間があって、



「……だから表情とか目とか……すごい来るから」


 

と、相変わらず顔に手をやられた。やっぱり変わってなかったか〜とちょっと安心する。……って、そうだ。ここが秋葉の家に違いないならお母様にご挨拶しなきゃダメじゃん、と言って起き上がろうとすると、勢いよく肩を掴まれてベッドに戻された。力、強っ!



なぜか秋葉に押し倒される体勢になって、ほう、ここからどう色めきが展開していくのかな?と思ったら、割と思いつめたような真剣な表情で妙に動揺していて。「多分、いないと思うけどちょっと待ってて」と足早に部屋を出ていった。なんだかよく分からない。



私はその間にもう一度横になってごろごろした。決して枕の香りを嗅いでいたわけではない。そんなことより泣いた跡が絶対にあると思うので一刻も早く顔を洗いたいし、喉も渇いたから水が飲みたい。できたらお菓子も食べたい。 


 

私が起き上がると同時にカーテンのすき間から夜明けの光が次々と入ってきた。少し明るくなってきた周囲を見渡すと、彼女の部屋は「悟りを開いてるの?」と思うくらい物が存在せず、ベッドと机とクローゼットがあるだけというホテルみたいだ。ふ〜んと何回かまばたきして、あくびしながら身体を伸ばしていたら秋葉が割とすぐ戻ってきた。



「まざ……母はいなかった。出かけてしばらく戻らないってメモに書いてある」 



え……それは大丈夫なやつなの?と聞くと、最近『世界旅行』に行ってるから……と。さっすがセレブだ、芸能人ってやること大きいね〜って言ったらあまり反応がなかった。それよりも秋葉は私の後ろの方を見ていて。なんだ?と振り向くと部屋が拡大されている。



机の左側の空間が広がり、キッチンになっていた。え、いいじゃん、顔洗いたかったんだよね〜と新品のシンクの蛇口をひねる。ちゃんと水が出てくるから軽く洗い、キッチンペーパーで顔を拭くとそこには小型の緑のレトロ冷蔵庫があり、開けると私の好きな天然水のペットボトルが2本入っていた。おおう、マジック。



それを一つ秋葉に渡しても、彼女は受け取りながらただ呆然としている。こういうこと、今まで起きなかったの?私は魔法系のお話とか結構好きで映画見てたりしてたからあんまり抵抗ないのかもしれないけど、と話すと



「具現化……丹海(にう)に先越された…………」



とかなりショックを受けている。ぐげんか?何のことやら。マジメ顔の彼女のほっぺたをぷに、と押すとやり返さんと追いかけてきたので逃げた。そのうちに部屋全体が広くなっていき、歯磨きしたいな〜と思ったら洗面所が、シャワー浴びようかな〜と思ったらお風呂が部屋の隅に設置され、もう余裕で暮らせる割と広いワンルームになった。新婚か?



秋葉はまだ納得できない、という顔でペットボトルを開け一口ずつ飲みだす。目を閉じて水を飲んでいるだけなのにどうして絵になるの?CMなの?私がすがりついてシワシワになってしまった長袖Tシャツすら撮影用の服のようだ。ほぉ〜と感心していたらジトっとした顔で、見るのやめてと言われた。はは……ついに拒否されちゃいましたか。でも、仲良く楽しい現実のためにはちょっと機嫌を良くしてもらわねば。


 

秋葉さん、ほらよく見て下さいよ。このキッチンのマグカップとか洗面所のコップも一つじゃなくてペアで創られているでしょ?それからここの壁だけど、私ならもっと白系統のが好みだから違うよ。木目調って、もしかしたら秋葉が好きなデザインなんじゃないの?つまり私だけじゃなくて2人の想いで創ってるってことだよ、と説明すると少し表情が明るくなってきて



「確かに……丹海ならあおいさんみたいにもう少しメルヘンカラーにいきそうだし、そうなのかも……」



と、キッチンの壁に手と顔を沿わせて確かめながら言う。だからポーズすごい…………って思っている間に秋葉の顔が途端に真っ赤になり、口元に手を当てはじめて。どうした?と覗いても目を合わせてくれないからもっと近づこうとすると手で拒否られる。えぇ……?



「創生……愛……」



何だかこの世のはじまりみたいな単語を言いはじめたから、二重の意味で「秋葉大丈夫?」と呼びかけると



「愛……がないと創れないんだって。この前まで全然できなかったのに…………できたのは……」



え?私といるからこういうのができるようになったってこと?と聞くと、静かにうん……と言う。へぇ〜……じゃあそういうことだよ、私への愛があるからだよ〜、うん、良かったじゃん!はは〜と肩を叩いてあげたけど顔に両手を当てたままだからこの空気どうにかしてほしい。



いや、愛とかそういうの知らないけど…………って、あれ?でも私も物を生み出せたりしてるんだから…………愛を感じてるってこと??秋葉に??

とりあえず「私もできるようになったよ、ありがと。」って言ったら無言だった。ねぇ〜どうしたらいい?



……この話は置いておいて、そういえばさっき私のことメルヘンとか言ってた気がする。それからあおいさんって誰?って気になるけど、彼女のことを聞く代わりに「秋葉は……私にどういうイメージを持ってるの?」と質問してみた。楽しい毎日を送るには、まずは相互理解だ。そのためにお互い細かなやりとりを積み重ねていこう。



「え……丹海は…………あおじゃなくてピンクのプリンセスで……護身のために剣術ではなく魔法を習得してて……防御も攻撃力も高いからどの状況でもかなり強いし倒れないし……補助役にもなれる。強力。」



なんのはなし?ゲームのはなし?とにかくピンクのお姫様で強いってこと?と聞いたらそうだよ、とお褒め頂き何となく嬉しい。そんな風に思ってたんだ〜ありがとねって言ったら、まだ色々あるけど……って言うけどそれは長そうだから追々聞くことにする。お礼代わりにこちらからも印象を伝えた。

 


……私はね、はじめて教室で秋葉を見た時、自分もドラマの中にいるのかもって思うくらいびっくりしたんだよ。あまりにもきれいで、いつも周りの空気をキラキラさせるから異世界にいる気分だった、それは今も変わらないけどね。でも知り合ってからはすごいオトナで落ち着きのある所がさらにかっこいいな〜って思ってるから、秋葉も姫様だと思うけど侍とか騎士でもあるのかな〜って……

なんだか喋っていくほど何とも言えない気持ちになったから終わりにすると秋葉は「うん、ありがと……」とうつむいて自分の指先を触っていた。



照れてんじゃん〜と肘打ちしたら、てれてない……と否定しつつおもむろにいちごポッキーを取り出し食べだして。あ〜ずるい!と、キッチンにあるすべての棚や収納を全部開けたら私が好きなチョコレートや砂糖菓子の豊富なラインナップ。もちろん秋葉が喜びそうな和菓子類もあった。



「うん……これもおいしいけど、みそ汁が飲みたい……けど食材がない。」



聞くと、家の料理は毎回、お母様が食べたい材料を自ら創り出して、秋葉がそれらを使ってお料理しているらしい。



「母は料理そのものは出せない。私の味までは自分の想像力で創れないのかも……って。」



ちょっと誇らしげに胸を張っている。可愛いいかよ。

へ〜、じゃあ何となくお腹すいた気もするけどどうしよっかね〜と緑の冷蔵庫を一応開けると、そこには鍋に収められた味噌とわかめと豆腐と鰹節のパックがあって、首をかしげながらも2人で納得することにした。これは「不思議冷蔵庫だ」と。



じゃあ……と秋葉は扉に手をやり、目を閉じて何かを念じている。それからゆっくり扉を開けると小さな炊飯器が。もう一度開けるとお米が入っていて満足気に私に見せた。

私も真似してフライパンと卵を取り出して、水を少し入れて早速目玉焼きを作りはじめる。この世界に空腹というものがあるかは微妙だけど気持ち的に食べたいなって思うから、その感動を得るために料理をするのだ。



2人でごはんとみそ汁と目玉焼きを完成させて、テーブルは……と思ったら、ワンルームの真ん中に見たことのあるような小さな四角い木のテーブルと椅子が現れていた。あの時の記憶、私も秋葉も忘れていないんだな……と思うと嬉しいし、不思議な気分になる。過去もちゃんとここにあって、そのおかげで今幸せなのだ。新婚か?


 

気づけば家のパジャマ姿だったから、冷蔵庫へ行って服を生成する。なぜか秋葉と同じような長袖Tシャツが出てきてお揃いになった。それはいいけど下着も欲しいのになかなか出てきてくれない。構造が繊細で複雑なものなのか、私の現在の想像力では難しいようだ。



「いいのあるよ。新品だからこれあげる。」



秋葉は、かなり透けている青い色の下着セットを私に持ってきた。えぇ……なにこれ?う〜ん……避けようもなくいやらしい感じはあるけども……質的、デザイン的には悪くない。お母様が創生したというので、さすがすごいなとうなづく。まあ、誰が見るわけでもないからこれで済ますことにしよう。シースルーなんてはじめてだけど。



お風呂場で着替え終わると秋葉は少し気になるような顔をしていたので「サイズ大丈夫だったよ」と言ったら「そうじゃなくて……すごいなって。本当に着てくれるとは思ってなかったから……勝負下着……丹海すごい……」と、赤い顔してごめんって笑いはじめた。

おぉい!あれ冗談だったのかいっ!……くぅ、このポーカーフェイス美人が……非常に分かりにくすぎる。腹いせでTシャツの中をチラ見せしたらすごい勢いで「見せないでっ」って横を向かれた。今度絶対着せてやろう。



とりあえず落ち着いたので2人でごはんを頂くことにする。……ああ、人が作るみそ汁はなんて美味しいんだと本当に分かって、これを毎日でも飲みたいなって秋葉に言ったら困惑しながら耳を赤くして。……効いたな。先程の件をやり返せた。



……あの時みたいにおしゃべりできて楽しい。でもあの頃よりも心の距離は近くなって、何でも言えるような関係になってきている。そしてふと、疑問に思ったことを秋葉に聞いた。なぜ、私を思い出せたのか?ということを。



「家で、丹海の声がした気がして……急に眠くなってきて、眠ったら夢を見てた」



それは私が見ていたような高校の思い出だったらしい。全く同じものを見ていたのかもしれない。



「そうしたらたくさん人がいる所に丹海がいる感じがして……呼んだ。」



そういえば。新しい世界にいるからか何なのか、他の人たちのことを今のこれまで思わなかった。知り合いは、チヨ吉や未佳は、他はどうなっているのだろう?予想できるのは、昔の私と同じく回想の中に浸っているということ。



「たぶんそう……眠ってて起きてない。私たちは起きてるから、夢とは一緒に混ざらない。重なってはいるけど……」 



秋葉は腕組みしながら少し考えている。もしかしたら私と同じことを思っているのかもしれない。それは…… 



「ちょっと、気になる……けどね。みんなのこと」



うんそうだね、と深くうなづいた。どうなっているのか?何をしているのか、見に行けたらいいのにねって言ったらう〜んとさらにどこかを見ながら。かっこいいな。



「丹海とは夢で接触できたのだから、夢の世界にいる他の人たちも……見つけられるはず。」



とおっしゃりなさる。なるほどぉ、夢の世界ね。行けたら楽しいよね♪って覗き込んだら「顔……椅子、近い……」と言われた。え……私たち新婚じゃなかったっけ?違った。


 

あれか……と、秋葉はひらめいて冷蔵庫へ向かった。そしてドラマみたいにかっこよく扉に手を触れて瞳を閉じる。しかし開けると中には何も入っていない。



「夢の世界へ行けるものを出してって念じたけどダメだった。」



あ〜なるほどね。そのあたりの細かい想像なら私ができるかもしれない。手をかざし、扉を開くと…………一枚の羊皮紙と底の丸い小鍋が出てきて感動した。おお、映画で見たやつ。一番上から読むと『半霊になるための魔法薬の作り方』とあり、複数の材料と手順がとても掠れた文字で書かれている。



「丹海すごい。……半霊……これを飲むと夢に行けるのかもしれない。」 



早速ガスコンロも取り出し、キッチンにて現代のポーション作りがはじまる。前世?でさんざん魔女とか呼ばれてたけど、まさか本当にこんなことをやるとは。……ええとなになに、材料を全部入れたら5時間弱火で煮て完成と。……本当なのか?これ?私の妄想なのでは?と思うけど、とにかくやってみるしかない。



手頃に揃えられそうなものからやっていこう。まずはこの2つだ。



・ペパーミントとラベンダー 30グラム

・ワイン 2000ml



また同じように念じるけど、個人的にイメージが難しいのか経験不足なのかワインが出てこない。というかアルコールなんていいのか?……いいのか。まあ、煮込んでしまうから大丈夫ということにしておこう。



秋葉が、自宅のキッチンからお母様の創生したワインボトルを何本も持ってきた。何だか高そうだけど、また創るからと言っているので使ってしまう。鍋に一気に注ぐと嗅いだことのない香りが立ちのぼって。ただの赤ワインなのにもう魔法薬の授業を受けている気になっている。



さて、最後に残っているのはこれだ。



・楽しい気持ちを抽出した液体 3つ



どうやって抽出すればいいのか分からないけど……と秋葉に聞いたら、さあ……勝手に出てくるんじゃない?とのこと。つまりじゃあ、3つの楽しいをやりましょうとなった。


  

2人でソファに座ってどうしようかな〜と考えてたら、まだお菓子食べてなかったねと思い出して、チョコ菓子やあれこれをたくさん持ってきてミニテーブルに全部広げた。そこで秋葉がちょっと悪い顔?をする。目隠しで当ててみない?って言うから、まあ面白そうだとスイーツゲームをすることにした。



私からということで、秋葉が持っていたアイマスクをつけ、黙って待っている。……うん、真っ暗だと心許ない。

もともと暗いのは好きじゃない方だ。就寝時は枕元で少し明かりを点けていたことを昔の事のように思い出す。秋葉の部屋は暗かったから、彼女はライトまっ暗派なのかもしれない、一緒に寝る時、それは困る。……っておいっ、何で私が一緒に寝ることになっている?と勝手に紅潮してたら彼女が「あーん」というので口を開けた。



ん?なんかメロンの味がする……。これはあれでしょ、あの〜片面にビスケットが付いててもう片面が船の絵のチョコのあれ、と言ったらせいか〜い、よくできましたと頭なでなでされた。何かノリノリだけど……こういうの好きなのか?



もう一つあるからと言うからそれも食べると、今度は明らかにポッキーを差し込まれた。こんなの楽勝だよ〜と手でつまもうと思ったら、何か違うものに触れて。しかも私は食べてないのにポリポリ音が聞こえる。口でくわえたまま、思考と共に停止していたらものすごく近い距離に微かな体温のような気配を感じた。それから一番手前でポキッ……と大きめに音が鳴って、私は小さくなった残りを無言で食べ終わる。



目隠しを取ると、魔女か小悪魔みたいにあははと笑う秋葉がいた。このぉ〜人を使って遊ぶんじゃないと怒る。最初からこれがしたかっただけじゃんと言うと、今さっき思いついたんだよとまだ笑っている。こんなの私は楽しくなってない、私も楽しまなきゃいけない。



さて奴に何をあげようか。アイマスクをして背筋正しく座る姿さえ美しい花のようで、イタズラすることに罪悪感を覚えかけるけどいやいや、鬼にならなければ。まずは無難に、秋葉が好きそうな一口ようかんをフォークで半分に切って彼女の口に入れる。ん、おいしい〜とご機嫌だ。いや、何のお菓子か当てるやつだからと言ったら、こんなの簡単すぎるでしょ〜って返されてむぅとなった。



よし、次だ。並べられたお菓子の中で私はよく考えた。と言っても、何も良い案が思い浮かばないから仕方なくいいや私も真似しちゃおうと、小さめの饅頭の包みを開けて口にくわえる。それを秋葉の……っておいっ、これポッキーゲームじゃなくてカップルがやるドキドキ饅頭口移しじゃん!と寸前に気づいて思いとどまる。



違う違う、そういうのじゃなくて楽しむのが目的だから……と迷っていると、まだ?早くして〜と口をパクパクさせる。ついでに私の身体をくすぐってきたので、ああもういいやともう一つ饅頭を開け、2個同時に手に持ってあーんと近づける。



「……!?」



複数攻撃で唇に予想外の触感があり、思った以上に混乱したようだが正体が分かったのかもぐもぐと食べている。もちろんそれだけでは私が満足しない。すぐに秋葉の耳元に寄って『……おいしい?おまんじゅう、私も食べたいなぁ。』と囁き声を聴かせてみたらびくっと肩をすくめた。いいぞ。



まだまだやり足りないので、今度は反対側の耳に『ねぇ、急に驚かせてごめんね?でもそういう秋葉もかわいいよ。かわいい……かわいい……』と追加攻撃したところ、今まで聞いたことのないような声を発してソファにうずくまった。かわいい。



透けブラの件もあるから本当はもっとやりたかったけどこれぐらいにしておいた。リベンジ返しが怖いからね。



「なんでそんなことするの……」



と目隠しをとった後、両耳を押さえてこっちを恨めしそうに見てくる。いやぁ、良いものが見れましたなぁと満たされた顔でいたら「丹海のえっち。」とのたまわれた。……何がエッツなんだか。目隠しポッキーゲームの方がよっぽど酷いし。



はっそうだ。楽しい会が終わったからそろそろ目的の「抽出したもの」は……と見渡してもなくて、冷蔵庫にあるんじゃない?と秋葉が立ち上がる。一緒についていくと「私が見るんだもん」ってふざけて走りはじめたから腕をつかんだり服を引っ張ったりして阻止した。



まあ、そんな見たいならどうぞ?と譲って、秋葉は3カウントダウンで冷蔵庫を勢いよく開く。小さな小さなガラスの瓶にグリーンの液体が入っている。おおーっと2人で拍手をして、早速魔女鍋の中に入れた。シュワ〜っとキメの細かな煙が舞い上がり、ほんのりメロンのような香りがキッチンを満たして私たちは興奮しないわけがない。


 

「抽出はあと2つ……楽しいこと……」



秋葉は私をじっと見て目を閉じ、何かを強く念じた。すると椅子とテーブルの隣に、すっと白いピアノが現れて、わわっと思わず声が出た。すごいじゃんこれ!と褒めると



「同じのが母の部屋にあるから……これで、丹海と連弾……したい。」



なんて言うけども。……え?私と……?そんな、私ピアノ弾けないよ……?と焦るけど「私も少ししか弾けない」って秋葉も言うから、えぇ……どうするの?と思ったら



「いや、魔法の楽譜を出してもらえば……できるかなと」



だいぶ彼女もメルヘンワールドに浸ってきた。……なるほど、そいつを使えば初心者とか関係なく弾けるのかもしれない。不思議冷蔵庫の扉に一緒に手を当て、楽しい連弾ができる魔法の楽譜を想像する。そしてゆっくり中を確認すると、そこには古くさい本のような楽譜が一冊入っていて、表紙には『N&A』と書いてある。


    

ドキドキしながら2人で中をめくろうとすると急に部屋が暗くなり、楽譜は虹色に輝いて譜面台のところへと飛んでいった。まじで本物の魔法だこれ!

追いかけていくとピアノも発光している。いきなりルームコンサートがはじまるのはいいけど、本当に私たちはうまく弾けるのだろうか?



いよいよ1ページ目をめくる。するとそこには一切の音符も線も、それどころか何も書いておらず。なんだこれ?と思ったら私の左手と秋葉の右手が勝手に鍵盤の上に移動し、私たちは立ったまま連弾をはじめた。



「す、すご……」



比較的スローテンポからつむぎ出されるメロディは、ちょっと飾っているが聴いたことのある有名な曲で……



「これ……チャイコフスキー……花のワルツのジャズ……」



秋葉は自分の右手に静かに興奮していて、私も未知の左手に動かされるまま放心しつつうなづく。ついでに右足が勝手に前に伸び、テンポよくペダルを踏むと完璧に星空のような音色になった。

 


楽譜がシャララと光ると、今度は「楽しい物語を描いてください。」と文字のような指示のようなものが現れた。いやいや、そんなこと言われてもどうすれば……とりあえず今流れている音楽から伝わるイメージを想像していく。



花のワルツって、確か元はクラシックだ。でもそれに対してこれは……あの優雅な原曲に反してかなり崩したような感じはまるで……と思っていたら空白の楽譜に映像が現れる。そこにはいつもの如く公務の舞踏会をすっぽかし、下町の酒場にて身分を隠し音楽に浸る「秋葉姫」が映し出された。



そうそう、こういう感じだよ!と叫ぶと「ちょっとやめてっ」って恥ずかしげに手で映像を消された。すぐに今度は、その薄暗い酒場で同じくプリンセスの正体を隠しながら民衆と歌い踊っている私の姿が出てきて、音符の仕返し合戦が繰り広げられる。



うっとりと、なおかつ着崩されたメインの旋律が終わって、今度は秋葉の右手が軽やかに踊り出す。私はそれに合わせるのか合わせないのか歩くように鍵盤を行ったり来たり散歩する。楽譜に映る秋葉姫は、グラスを上から掴みながら氷をカラカラと揺らし、酒場の中心で盛り上がっている私を熱心に眺めて物憂げだ。まるで……

 


「……こんなのおかしい、おかしいからっ」



なぜか動揺気味な彼女が一生懸命映像を消そうとしてもできなくて。「あらあら秋葉姫さん、恋しちゃってますねぇ〜私に♪」と軽快な左手に動かされながら私は愉快な気持ちになる。……と思ったら、今度はお互いの身体の位置が左右反転して私がいきなり右手に代わり、無駄に飾るような勿体ぶるような旋律を響かせ始めて…… 


 

まさか……と譜面台を見ると、丹海プリンセスは1人寂しそうな秋葉姫のところへ身体を揺らすように近づき手を伸ばして「一緒に踊りませんか?」と憧れの眼差しで誘っている。いやいやいや!ってどんなに左手で隠すように遮っても、画面の2人は手をつないでどんどん見つめ合っていくから早く誰か止めてくれ。



そうこうしているうちに、また私たちの位置が交代して秋葉の右手が美しく和音をあちこち散らし、私の左手もそれに遅れず寄り添っていく。自由気ままに飛んだり跳ねたり、お互いに音を濁らせては透き通らせて。勝手なようで足を踏み合うことのない華麗なダンスみたいな指の動きに思わず見惚れる。



そしてプリンセス達は舞踏会へ戻り、美しく舞い踊った。暗い音色に取り巻かれてもクルクルっと回りキラキラした半音へと解決し、手を取り合ったり離したりして彼女たちしかできない空間を創生して魅せていく。最後に2人は黒鍵と共にふわっと飛び上がり、星の瞬きが見える雲まで辿り着いて音楽は終わった。



『ワァァァァッッ………………!』


 

光り輝く楽譜から観客の拍手と喝采がいつまでも聞こえてくる。無人のコンサート会場で私たちは称え合うように抱き合い、ふざけて誰もいない観客席に手を振り続けた。

白いピアノに照らされた秋葉は本物のスターみたいに輝いていて……いつかのテレビかどこかで見た姿とそっくりそのまま……



「丹海、楽しかった。……本当に有難う。」



ふいに、伝説のアイドルみたいな微笑みに抱き締められて一瞬、空に飛んだ。変な魔法使わないでよ……と思わず言ってしまったら、あははと珍しく明るく笑い



「丹海の方が、かわいいよ。」



と頬を撫でてきた。まったく、こんなことして……もう既に何でも許してしまうような呪文にかかっている……何とかしないと。


 

いつまでも割れんばかりの拍手の中、私はまだ終わっていなかった。鳴りやまない心臓の音楽を、舞い上がったまま降りてこない音符たちをどうにかしようと夜空でもがいていた。






 







つ・づ・く

  


  



  

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