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追放者ギルドから追放されました。  作者: 伊阪証


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リアルでたまにこういうことある。

首都役所のギルド管理組織には、一般の窓口から切り離された処分部門があった。通常の依頼違反や報酬争いではなく、国外追放、処刑、官僚や将軍級の犯罪、複数のギルドを巻き込んだ重大案件だけを扱うため、所属条件は能力だけでは決まらない。独身であり、処分対象から家族を脅迫される危険が少なく、私生活を利用した買収や報復へ巻き込まれにくいことまで求められる。彼女は孤児として育ち、引き取った者も継続して世話をした者もいなかったため、本来なら欠落として扱われる経歴が、この部署では採用条件の一部として数えられた。

「脅迫者です、紙の出元から推測は出来るかと。」

「乱暴者で有名なスターニット将軍だからな、恨みは多かろう。しかし妻の方は相当な切れ者らしいからドゥームズデイ・ブックの偽造を申請する為の書類を作っておいてくれ。」

「最近発生した勇者関係のトラブルはどう対処を?」

「それなんだが、分からない。正直、勇者は拘束が上手く通じないからな。勇者を勇者で抑え込まなきゃいけないが、それが成功するとは思えない。超能力者の対処に超能力者を使う気分だ。」

「…私の見立てですが、カイトとかいう勇者、直近で追放処分を起こしているものの病による通院以外は怪我も無く、勇者専用定期調査に関してもかなり協力的で裏表もないという風に調査結果が出ました。これが担当刑事、担当医、担当捜査官等の同意で、後はボス次第です。」

「…分かった、だが、期間が短いせいで同意はすぐには出来ない。」

役所へ入った後も、その事情が同情を招くことはなかった。処理能力が高かったから残り、複数の帳簿を同時に照合しても数字を取り違えず、処分対象者の肩書にも影響されなかったから、若くても政治家や高級官僚の案件を任されていた。処刑命令と国外追放命令を同じ机で扱う部署では、誰かを嫌う必要も、許す必要もない。必要なのは、既に決まった処分を途中で歪めさせず、対象者の権限、資産、資格、移動先を正確に切り離すことだった。

その日、彼女の机へ運ばれたのは、一人の政治家に対する国外追放案件だった。政治家本人の罪状だけなら珍しくなかったが、証拠書類には複数のギルド、商会、冒険者団体を経由した資金移動が含まれており、通常の帳簿より分厚かった。寄付として記録された金額と、政治活動費として申告された金額が一致せず、差額を追うと勇者パーティーの共同資金へ行き着いた。

「次々に情報が露呈する…彼の手引きと考えて諜報許可を申請しておきましょう。」

彼女は政治家の財産目録を閉じ、勇者パーティー側の記録へ移った。依頼報酬、装備購入費、治療費、遠征積立、幹部討伐後に支給された特別報酬が並び、その間から政治家への献金に使われた金が抜かれていた。出金回数は一度ではなく、少額に分けたものもあれば、討伐費用として偽装されたものもある。献金先を隠す工夫はされていたが、総額を消すほど精密ではなかった。

構成員名簿にはカイトの名も残っていた。最初は国外からの諜報活動、違法の指摘による乗っ取り等があった、特に魔族に侵略されているある国はこれに詳しかろう、という判断もあった。その上で、憂いの中で思いを託す。

彼女の指は、その一行だけを飛ばさなかった。所属期間、権限、署名、出金日を順番に照合し、横領が始まった時点では既にパーティーから外されていたことを確認した。共同資金へ触れる権限もなく、政治家との接触記録もなく、献金に使われた案件へ参加した形跡もなかった。疑う余地を消すために調べただけで、彼女がカイトを庇う必要はなかった。

それでも確認が終わった時、胸の奥に残っていた小さな緊張は消えた。

彼女はBraviewでカイトの記録を見ていた。勇者として大きな成果を誇示する内容よりも、宿泊先の危険、依頼条件の曖昧さ、道具の規格、土地ごとの対応差を細かく残す姿勢を好んでいた。誰かに話したことはなく、勤務中に閲覧したこともない。職場では勇者の名を処分対象として読むため、その一人を私的に応援していると知られること自体が面倒だった。

政治家の追放処理は午後までに終わった。役職剥奪、関連資格の停止、国内資産の凍結、国境までの護送経路、入国禁止期間を記載し、証拠書類と処分命令を別々の箱へ収める。政治家は勇者パーティーから流れた金を受け取り、勇者パーティーは共同資金を献金へ回していた。カイトが追放された後に始まった横領でありながら、世間から見れば同じ勇者パーティーの不祥事としてまとめられる可能性が高かった。

「勇者同士の連携を強めるものなせいか、結構セキュリティはガッチガチですね、女神様は何を理由にこの様な執着を…。」

彼女は書類を閉じた後も、カイトの名が記された構成員名簿だけを一度見直した。何も書き加えず、何も抜き取らず、元の順番へ戻した。職員としてできることは、関与していない人間を関与者として残さないことだけだった。

翌朝、別の国外追放命令が机へ置かれた。

彼女は命令書を最初から読み、署名、印章、決裁番号を確認した。偽造ではなく、記入漏れもない。処分自体は正式に成立している。しかし、対象者の国内住所、所属支部、入国日、滞在目的、現在地が全て空欄だった。国外追放では、対象者を国内のどこから国境のどこへ移すかを決めなければならないため、所在欄が空白のままでは護送命令を作成できない。

彼女は国境記録を調べた。該当なし。港湾記録、街道検問、国内ギルドへの一時登録、宿泊税、治療施設、依頼受注、武器持込申請まで確認したが、カイトの名は一度も現れなかった。偽名の可能性も考え、年齢、装備、所属履歴、勇者資格を照合したが、一致する入国者はいなかった。

カイトは、この国へ入ったことがなかった。

彼女は命令書を決裁元へ差し戻し、対象者が国外にいるため退去処分を執行できないことを記載した。書類は修正されずに戻ってきた。決裁番号も処分内容も同じで、命令の継続だけが追加されていた。

処分を決めた者が何を考えているのかは、彼女の職務ではなかった。命令に不備があれば戻すことはできるが、正式な決裁を無効にする権限はない。存在しない入国記録を作ることも、国外にいる人間を国内へ連れてきてから追放することも許されない。

彼女は護送欄を空白のまま残し、処分の実行方法を通知へ切り替えた。拘束も移送も行わず、カイトが既に国外にいる状態を国外追放後の状態として処理し、将来の入国を禁じる。命令の内容は変えず、現実に実行できる部分だけを成立させる方法だった。

現在地欄には国外と記入した。

移送前所在地にも国外と記入した。

移送後所在地にも国外と記入した。

同じ語が三つ並んだ処分書類は、形式上どこにも誤りがなかった。

通知書は国外のギルドを経由してカイトへ送られた。受領記録が戻るまでの間、彼女は政治家の残余資産処理と、勇者パーティーに関係する資格停止を進めた。横領に関与した者、知らずに報酬を受け取った者、途中で離脱した者が同じ名簿に並んでいたため、処分対象を分けるだけでも複数の部署との照合が必要だった。

数日後、カイトの受領書が戻った。

署名はあり、通知を受け取った日付も記されていた。異議申立欄には、入国した事実がないため退去行為を実施できないことだけが簡潔に書かれていた。処分拒否ではなく、実行不能の確認だった。

彼女は受領書を命令書へ綴じた。入国していない者を国外へ追放し、最初から国外にいた者が国外に残ることで処分は完了した。書類上の移動距離は存在せず、護送費も宿泊費も発生せず、役所側の処理だけが完璧に終わっていた。

彼女は完了印を押した後、念のため三つ並んだ国外の文字をもう一度見た。声は出さなかったが、口元を戻すまでに少し時間がかかった。

その国は、カイトを一度も迎え入れないまま、正式に追い出した。

「ついに告知ない上に知らん国から追放されたんだが。」

「外堀が土砂流で埋まってく感じがするねぇ。」


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