哀しき打ち上げ
翌朝の各種報道は、事件の以外な顛末をセンセーショナルに扱っていた。しかし、一日遅れで出た七女通信の特別版は、それを上回る衝撃をもって世間へと受け入れられた。
創業家一族を巻き込んだ数年前の裏口入学事件、そして、「魔女」に化けた大貫秘書を運んでいた元タクシー運転手・加藤が、市内を騒がせていたひき逃げ未遂の真犯人でもあったこと。
そこに加えて、事件を手掛けた浮音や牛村警部ら捜査陣、当事者であるゆかり達への独占取材と写真の数々には大手新聞も舌を巻き、各社は薫の言い値でその写真の数点を提供してもらうこととなったのだった。
「――いやはや、あたしゃあんたらには頭が上がりそうにないわね。まさか足蹴にした都市伝説が、こんな特ダネに化けるだなんて夢にも思わなかったわ」
学園長の電撃逮捕から十日ばかり過ぎ、編集部でのささやかな打ち上げに招かれたゆかり達は、上機嫌にオレンジジュースを飲む薫に、陽気な言葉をかけられた。
「あんなお化け騒ぎと裏口入学が繋がるなんて、フツー思わないもんねえ。――捕えてみればなんということもなし。誰か怪我人でも出れば責任を取って学校を辞めて、海外へドロン、という目論見だったとは……。なるほど、事情が事情なら、世間も悲劇の教育者として放っといてくれるわけだし、これほどうまい方法もないわよねえ」
「今度のことで、常識ほどあてにならないものはない、ってよくわかりました。それが自分の学校のことじゃなかったら、他人事として笑えたんでしょうけど……」
ゆかりがため息交じりにつぶやくと、摩子はどこか疲れ切った表情でこう切り出した。
「あたし、つくづく思いましたよ。先輩みたいなずーっと戦場にいるような、ともすると仲のいい人でも疑わなきゃいけないようなのを長いこと続けるの、向いてないんだなあ、って……」
普段取材合戦に身を投じる面々が宴にはしゃぐ中、摩子と、それを囲むゆかりや紗英の顔色は芳しいものではない。
「――そういえば、まだあの子のこと、何にも連絡がないんだったわね」
デスクへもたれた薫も、普段に比べて柔和な、なだめるような表情で応じる。あの日以来、クラスメイトへ詳細な理由もつたえられぬまま、千鶴絵は長期の休学扱いとなっていた。
「うちの学校、育ちのいい生徒が多くてよかったわね。根掘り葉掘り、調べようとするのはあたしら以外にいないんだもの。でも、遅かれ早かれ、事情は明るみに出るでしょうね。未成年だから、新聞もテレビも何も言ってないけど……」
それきり、編集部の一角から会話が消えうせる。にぎやかな後輩、同輩たちを横目に、薫たちはじっと手元のコップを見つめていた。
「――かくなる上は、こちらが忘れるしかないわね」
「えっ?」
薫のつぶやきに、三人の顔がひょいと持ち上がる。
「向こうだって、あんなことがあっちゃ今更友人でござい、と顔は出しにくいでしょ。青春の一ページにいた一人として、もう過去形にしてしまうのが当人のためかもしれないわ」
「そんな、いくらなんでも――」
薫の冷酷なまでの言いぶりに、ゆかりは立ち上がって抗議しようとした。だが、とっさに出た摩子の右手によって、ゆかりはそのままグイと引き寄せられてしまった。
「いいんだよ、ゆかり。あたしも、あんな風な目に遭わせちゃったの、結構気にしてて……。自然消滅、っていうなら、それもそれでいいのかな、ってうっすら考えてたんだ」
いつになく神妙な、というよりは悲痛な顔の幼馴染に、ゆかりもだんだんと昂ぶりが鎮まるのを覚えた。しかし、
「鷲尾さん、実は私も、同じような意見なんです……」
「ええっ」
続く紗英が同意見だったのには、さすがのゆかりも驚きを隠せなかった。
「飲み込んで受け流すにはちょっと、ここまでの出来事が強烈過ぎたんです。正直、忘れられるなら彼女のことも、きれいに忘れてしまいたい……そう思っている自分がいて、ずっと悩んでたんです。口当たりのいいことを言っているのは承知の上です、でも……」
僅かな間とはいえ、一度は友情の芽生えた相手のことである。受け流すには処世の術が足りないし、受け止めるには心の余裕というものの持ち合わせがなかったのである。他に方法も思い当たらず、ゆかりはただ茫然と、嘆きの色に染まった二人を見ているより他なかった。




