鷲尾ゆかりと竹井摩子と、新聞部と
京都の街の東側、ちょうど三十三間堂と豊国廟の中間あたりに地元の人間から「女坂」と呼ばれる、幅広ながらも勾配のきつい坂道がある。ことの起こりはその名の由来となった坂の上の私立校・七条女子学園の教室に端を発する。
「――まさか摩子、今日も行く気? 三日続けてダメなら、四日目もダメに決まってるでしょうが」
食べ終わった弁当箱を巾着袋へしまいながら、鷲尾ゆかりは向かいに座った幼馴染、竹井摩子を呆れた目で見つめる。心地よい晴れ間が三日ほど続き、開け放たれた窓からは心地の良い青葉の香りが漂って来る。絵にかいたような青空がのびる、初夏の昼下がりのことである。
「ったくぅ、そういうヌルい考えをしてるから世の中がよくなんないんだよぉ」
椅子へガニ股で馬乗りになって、購買部で買った紙パックのイチゴ牛乳をすすりながら、摩子はよくわからないことをゆかりへ垂れる。
「そりゃあ、あたしだって今年の倍率がこんなに凄まじいとは思わなかったけどさぁ。いくらなんでも、あんな方法で選り分けるっていうのは、ちょっと味気がないんじゃないのかい、ゆかりさんやぁ……」
「――一般常識と最近気になったニュースについて答える、っていうの、至極まっとうな試験方法だと思うけど? だいたい、あそこが普通の新聞部と訳が違うの、摩子が一番よくわかってるじゃない」
「そ、そりゃそうだけどさぁ……」
ゆかりの指摘に、先ほどまでの威勢のよさがみるみる褪せてゆく。そもそも、七条女子学園の新聞部は学園直下の組織ではなく、京都市によって運営されている学生記者クラブ加盟のれっきとした「新聞社」なのである。
そうなれば、一般的な部活動のように入りたい、というだけでは済まない。ある程度の知能、または写真や記事執筆などの技術的な面の有無を判定した上で晴れて正式な部員、となるわけだが――。
摩子はものの見事に、すべての試験に不合格となったのである。
「部活動紹介でなんか面白そうなことやってるから、絶ッ対に入ってやろうと思ったのに……」
「もういい加減に諦めなさいよ。おとなしくまた、中学の時みたいに演劇部入ったら? まだ補欠の部員は募集してると思ったけど……」
幼稚園からの付き合いで、中学時代に摩子が演劇部の府大会にまで登り詰めたことのあるのを知っていたゆかりが代案を出したが、
「やだよー、だってあそこの顧問、竹刀片手に演出してくるスパルタ教師だよ? 新聞部なら顧問はいないし……特ダネ追いかけるの、なんかかっこいいじゃん」
「呆れた! そんな理由で入ろうと思ってたわけ?」
「イグザクトリィ、でございますゆかりさん……」
と、一息に中身を吸い上げてから、摩子はぺしゃんこになった紙パックを背後の屑籠へノールックで投げ入れた。それを見ていたほかのクラスメイトが、小さな拍手を送る。
「つーわけで、あたしは今日も鬼のデスクの三宅パイセンのところへ行ってくるから、先に帰っててちょーだい」
「いい加減にしなさいよ、これじゃそのうち摩子のほうが記事にされるわよ。『ストーカー一年生、本紙編集長を狙う』とか見出しつけられて……」
それでもいいの? と念を押すゆかりに、摩子もさすがに考え込んでしまった。が、何を思ったのかいきなり、
「そうかぁ、自分でアピールするからいけないんだ。――ゆかりぃ、悪いんだけど、あたしを売り込むの手伝ってくれないかなぁ」
「――へ?」
思いがけない展開にゆかりはすっかり参ってしまった。どうやら摩子はゆかりを共犯にして乗り込むつもりらしい。
「じょ、冗談でしょ!」
「お願いっ! これでダメなら諦めるから……」
しおらしい顔で両の手を合わせて拝み倒す摩子の顔に、ゆかりは渋々、頼みを引き受けたのだった。




