七条坂のふたり
「あったり前でしょっ。これがやらずにおれるかっての!」
それだけ叫ぶと、摩子は踵を返して七条通りのほうへ歩き出した。本来二人が乗るはずだった京都市バス、清水寺から北大路の方を走る二〇六系統を見送った直後の出来事である。
「いい加減にしなさいよっ、何かあったら怒られるの、摩子だけじゃないんだから……!」
指定の鞄を壊れた振り子のようにぶらぶらさせながら、ややガニ股で歩道を闊歩する幼馴染にゆかりはすっかり困り果ててしまった。知った手前、このまま放っておけば摩子は何をしでかすかわからない――。そうなれば答えは必然的に、
「――わかったわよっ、一緒にいればいいんでしょっ」
と、ゆかりにとっては不本意なものにならざるを得ない。それを耳にした摩子は摩子で、今までの不機嫌な顔はどこかへ去り、
「その答えを待ってたんだぁ、さっすがゆかりぃ、わかってるじゃんね……」
実に憎たらしい表情で、上背のあるゆかりの脇へ軽い肘鉄を差す。
「あたしとゆかりで、七条大橋の魔女をひっとらえちゃおうじゃないのさっ! いざ出陣!」
真っ赤な西日の下る坂道を、意気揚々と進む摩子の後ろ姿にゆかりは一抹の後悔を抱いた。
――摩子にくっついてったの、間違いだったかなぁ……。
まだ革がなじまないローファーで一歩踏み出すと、ゆかりは摩子が転ばないかを気に掛けながら、初夏の夕風が吹く東山七条の坂をゆっくりと下ってゆくのだった。




