昼休みの屋上で
「それじゃあ、共犯らしい人間が絞り込めたんですか」
「ほんとほんと! いやー、これで心おきなく寄り道が出来ようというものよぉ――アタタッ」
調子に乗ってはしゃぐ幼なじみの頬をひっぱると、ゆかりは軽く手を拭き、紗英へ昨日、鴨川浮音から聞いた子細の続きを話し始めた。恒例になった、ひと気の少ない屋上ベンチでの昼休みの一幕である。
「さっき摩子が軽くふれたけど、鴨川さんが最初に始めたのは、タクシーの運転手さんがよく行く喫茶店や食堂回りだったってわけ」
「ああ、それで竹井さん、お店をハシゴして、って言ってたんですね。でもまたどうしてそんなところを?」
「私も聞いてなるほど、と思ったんだけれどね。あれだけ暴れ回った魔女が煙のようにかき消えるのは必ず誰か協力者がいる。車でも出してうまいこと逃げてるに違いない。でも、あちこちに監視カメラがあるから不審な車両はすぐアタリがつく……」
つづけて、つねられたほっぺをさすりながら摩子がバトンを奪う。
「そうなると、客がいようといまいと、フラフラしていても怪しまれない、なおかつ、休憩で路上駐車をしていてもあまりツッコまれないタクシーでの移動ということになりはしないか、って考えたんだって。たぶん、会社のタクシーじゃなくて個人営業のクルマじゃないか、って」
「それで、鴨川さんは上京区を振り出しに、タクシーの運転手さんのたまり場になってるようなお店を、相棒の佐原さんや、ほかの友達と一緒に尋ね回ったわけ。そうしたら一人、魔女騒動の少し後から姿を見かけなくなった、という一人の個人タクシーの運転手さんが浮上したんですって」
「それがこの似顔絵なんだけどね――」
左頬にご飯粒をつけたまま、摩子がブレザーの胸ポケットへ生徒手帳でくるんでおいた、四つ折りになったA5の紙を取り出した。紗英がそれを開くと、中にはころりとした丸顔の、パグがそのまま人になったような風貌の中年男性が精密な筆致で描かれている。
「これがその、共犯かもしれないって方なんですか?」
紗英が似顔絵から目を離すと、摩子は指でご飯粒を取り、口へ放ってから続きを話し始めた。
「加藤さんって言って、ベテランの個人タクシーの運転手らしいんだけど、ちょうど最初の騒ぎがあった少し後から見かけなくなったんだって。死んだらさすがにニュースくらいにはなるだろうし、ってみんな不思議がってたらしいよ」
「同じ仕事で仲間意識もあるのに、みんな案外、お互いの住んでる場所とかは案外話さなかったりして知らないらしいのよね。いろいろと住んでるらしい場所の話は出たけど、どれもアテにならないみたいで……」
ゆかりの説明に、紗英もなるほど、と相づちを打つ。
「あとは……そうそう、過去にあった魔女出現の日の出来事を、図書館の新聞や、自分で取ってたのを見ていろいろ探してるって言ってたなあ」
「あら、案外アナログなんですね。インターネットのニュースで事足りそうですけど」
紗英が意外そうな表情をみせると、摩子は自分が調べているわけでもないのに、なぜか得意げな顔で、それはねえ、と切り出した。
「今はネットが進歩してかなり早くニュースが出るようになったけどさ。その分誤報やデマとかも出回りやすくて、どれが本当かウソか、すぐにわかりにくいことが多いんだって。だから、急ぎでない限りは、情報が整理されて掲載される新聞なんかが一番手っ取り早い情報源なんだってさ」
「たしかに、新聞も複数とれば比較も効きますからね。なんだか、シャーロックホームズみたいですね、鴨川さんって方」
紗英の指摘に、摩子は言われてみればそんな気もする、といった表情をみせる。
「ホームズってよりは、ちょっとこぎれいな金田一耕助って感じかなあ。和服に帽子かぶってて、髪がちょっとくせっ毛だしさ。頭をバリバリ掻けば完璧かな?」
「ちょっと摩子っ、いくらなんでも失礼よ」
「ごめんごめんっ、でも、なかなか頼もしそうでいいじゃない、からんころんの鴨川さん」
摩子の冗談をたしなめたゆかりも、それだけは否定しなかった。早くも夏の兆しを覗かせる、心地の良い日差しが三人の頭上へ降り注いでいた。




